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2章 2度目の再会はアローラで

35話 笑ってる場合じゃない

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 格好良く啖呵を切ったのは良いが、ノープランの俺は、情けないのを承知で小声でルナに話しかける。

「本当にアイツに致命傷を与えられるような攻撃はないのか?」
「……あるにはあるけど、当てられる訳がないの。動かない的でもない限り……」

 まったく、ルナちゃんたら、そう言う大事な事は早く言って欲しいモノだよ。

 だから、山に登る前に聞いたのに、女の子は無駄だと思うと無価値みたいにすぐ思い込む。

 逆に男は使いどころが分からない無意味に威力のみの武器や魔法を手に入れると無駄に威張る駄目な存在だが。

 俺はルナの頭をナデナデして言う。

「ヨシヨシ、勝率が少しずつ上がってきたぞ?」
「何を言ってるの、徹? 無理に決まってるの当てられないって言ったはずなの」

 頭を撫でられて恥ずかしいのか顔を赤くするが手を弾こうとしないルナ。

 俺は虚勢と分かりながらも笑みを浮かべる。

「俺達は無理を可能にする戦いをしてるんだぜ? やってみせるさ」

 正面で俺に汚された片眼鏡を吹き終えたサブレがこちらを睨んでくるので睨み返す。

 サブレを鼻で笑うようにして、話しかける。

「ご自慢の眼鏡には傷はなかったかい?」
「ええ、あったら八つ裂きにしても足りない所でしたよ」

 皮肉の応酬をする俺達はお互いに笑みを浮かべる。

 だが、すぐにサブレは失笑に変わる。

「トール君といったかな? 確かに君は人の子でありながら私に一矢報いた。その事は評価しよう。だけど、勘違いしていないかい? 殺す気で君が襲いかかられた、その時が君の最後という事実に?」

 月が弧を描くような笑みを浮かべたサブレは俺を目掛けて突進してくる。

 そのサブレに余裕の笑みを浮かべながら、俺はヒラリと避けてみせる。

「なっ!」
「殺す気が何だって?」

 良く聞こえなかったとアピールするように耳に手を添える俺を血走った目を睨みつけてくる。


 おおぅ、こいつ本気で切れやすいな、はっはは!


 再び、飛びかかってくるのに合わせて、生活魔法の水を通り道に浮かせると見事に顔に直撃したようで、頭部がずぶ濡れのサブレの出来上がり、俺は同じように避けてみせた。

「さっき汚した土埃。まだ落ちてなかったから洗ってやったぞ?」
「トールぅぅ!!!」


 徹とサブレのやり取りを見守っていたルナはどこから介入しようかと悩んでいた。

 最初は頭から参加するつもりだったが、いきなりの徹の挑発に乗ったサブレの行動に虚を突かれて動くのが遅れ、最悪の未来図が展開されると思い、目を逸らすが2人のやり取りが聞こえる。

 再び、前を見ると五体無事の徹の姿がそこにはあった。

 何故? と一瞬思うが、考えられる可能性は1つだ。


 『疑似未来予測』


 これしか、今の徹にサブレに対抗する術があるはずがなかった。

 それと知ると同時に徹には避けて時間を稼ぐ以外の手がない事を知らせる。

 徹は、ルナの一撃を入れるチャンスを作る役、囮役を買って出た。

 なら、相棒としてのルナが取るべき行動は一つだ。

 中途半端に徹に加勢して共倒れする未来を選ばずに、徹がその隙を作る事を信じて、息を顰めて今、放てる最高の威力の準備をするだけ、とルナは、そっと距離を取り始めた。


 さーて、次はどうやってからかってやろうかねぇ。

 どうやら、ルナは俺の意図に気付いてくれたようで身を隠せる所へと移動を開始してくれた。

 怒り心頭のサブレは、今度は溜めもなし襲いかかってくる。

 それを当然のように避ける。

「何故、私の攻撃が当たらない!!」
「それはそうと、濡れた顔拭かなくていいのか? 風邪ひくぜ?」

 敢えて、サブレが頭に来るように話を逸らす俺。

 簡単に挑発に乗るサブレは突進してくるのを当然のように避ける。

 先程から余裕たっぷりに見せているが実の所、余裕など皆無であった。

 一重に疑似未来予測でアイツが突っ込んでくるコースが予測できてる事と、どうやらサブレが戦いの素人で力押ししかできないようで捻りもなく真っ直ぐ突っ込んで来てくれるからいなし続けられている。

 少なくともサブレには気付かれてないようだし、何より、俺に執着して既にルナの存在を忘れたように振る舞っている。


 ルナが女神かどうか知らんが、警戒する必要があると思ってたようなヤツを忘れるコイツは本物だな?


 そんな想いが嘲笑いとして表情に出たようで、更にヒートアップしたサブレが1撃で殺すのを諦めて捕まえる事に執着し出した。

 それを避ける俺。


 あかんがな、それは避ける範囲が広がるから避け続けるのが困難になるって!


 俺は挑発も兼ねて、生活魔法の水を何度も飛ばすが、さすがにそう何度も当たってくれない。

 必死に読み続けて逃げ続けるが、ついに俺の疑似未来予測が捕まる未来を示した。

「うはっははは! ついに捕まえたぞ、地面に叩きつけられて死ねぇぇ!!」

 服の裾を掴まれてた俺は、空に投げ放たれる。

 最高に気持ちいいという笑みを浮かべたサブレ。


 あめーよ! そうすると分かってたら打てる手があるんだ!


 俺はサブレを正面から睨める位置に体勢を整えると屈伸をするように屈むと飛ばされている力に抗うように飛び出す。

 乾いたパリーンという音と共にサブレに向かって飛び出した俺は一言叫んで歯を食い縛る。

「ただいまっ!!」

 額をサブレの鼻っ面に叩きつけて吹っ飛ばす。


 うぉぉぉ!!!

 なんちゅう硬い頭してんだ!

 頭が割れたり、優秀な頭脳が劣化したらどうする!

 『そんな幸せ一時もなかったよ?』

 あれ? 母さんの声に似た幻聴が俺を責め苛ましたような気がするけど気のせい、うん、気のせい。


 鼻からダラダラと血を流すサブレが、鼻を押さえながら吼える。

「何をやった、ト――ル!!」
「なんで、お前にご丁寧に説明してやらないといけないんだよ?」

 俺は涙を滝のように流しながら言ってやる。

 これはアイツの石頭にぶつけた額が痛いから……きっとそう。

 空中であんな事ができたのは、生活魔法の風を利用した足場作ったからである。

 風魔法で空気を弄る事ができると分かった俺は、これを上手く使えば空を飛べるモノを生み出せるのではと試行錯誤したが、短い間なら乗っていられるが、すぐに割れてしまう動かない足場というモノしかできなかった。

 これを連続に生み出せば、空を駆けているような気分は味わえるが、求めていたものとは違うと涙したモノである。

 鼻を押さえていた手を外したサブレは、形振り構わずに両手を使って俺を捕まえようと突進してくる。

 カウンターしたい放題だが、したところでダメージをまともに入れられるとは思えない俺は全力で逃げに廻るが、今度は肩を掴まれた、と思った瞬間、サブレは俺の視界から消える。

 どこにいったとサブレを探すと足元で引っ繰り返っており、何が起こったか分からない顔をしていた。

 サブレの尻の辺りのぬかるみから滑ったような跡があるのを見た俺は噴き出しそうになる。


 うはっ! こいつ俺が無駄打ちした生活魔法の水でできた水溜りに足を取られてやがる!

 いや、笑ってる場合じゃない!


 ここしかチャンスはないと俺は駆けよると、まだショックから立ち直ってないサブレの胸を目掛けて右掌を突き出す。

「クリーナー!!」

 これで決まってくれ、と祈りながら俺は叫んだ。
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