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6章 誘う、森の民が住まう大樹へ

108話 準備と覚悟とやり過ぎ

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 深夜、道具屋で俺達は店の中を引っ繰り返す勢いで必要なモノを手に取っていた。

 閉店して、おそらく店主は寝ていたところを叩き起こして、だ。

 始めは俺達の形相で泥棒と勘違いされてパニックを起こしていたが、事情を説明して納得してからは今度は俺達、冒険者達の対応に追われてパニックになりそうになっていた。

「あんちゃん! モンスターの中には毒やマヒをさせるのがいるから回復薬だけでなく色々用意しておけよ!」
「ありがとう、ダンさん」

 いいってことよ、とウィンクするダンさんに目礼してその手の薬品にも手を出すが傍にいるルナが言ってくる。

「徹、私がいたら回復も異常も大丈夫なの」
「お前が回復のエキスパートなのは分かってるが、お前が傍にいない時どうする? 沢山の人が一斉になった場合は?」

 ルナがいない、ルナ1人でまかない切れない事態を想定していると伝えると漸く買い求める俺の考えが理解できたようだ。

 何より、ルナ自身がそうなったら笑えない。

 俺は回復薬や毒消しなどをカウンターに置いて財布を取り出す。

 置いた薬品を袋詰めしてくれる店主は財布から金を取り出そうとした俺の手を止める。

「今はいい、必ず帰って来て払え」
「えっ!? でも……」

 戸惑う俺に店主は口の端を震わせながら笑う。

 明らかに強がりなのが透けて見える。

「モンスターパニックが起きた村には贔屓にして貰ってたしな……それに」

 それに? と問い返す俺の両肩を強く掴んでくる。

「お前には生きて帰って来て貰わんと困る。毎回、毎回、来る度に値引きさせられて赤字なんだ。絶対に元を取らせて貰わんとな!」

 そう言われた俺は一瞬、目を点にするがすぐに弾けるように笑う。


 そうそう、このおっちゃんにはルナの歯ブラシや色々と来る度に値引きして貰って泣いて貰ってた!


 店主を見つめる俺は更に破顔させて、ニシシッと笑う。

「これからも赤字で泣いて貰う為に意地でも帰ってくるさ?」
「ほざけ、このクソガキが」

 額を突き合わせるようにして笑う店主は俺の背を叩いて「いってこい!」と送り出してくれる。

 送り出されて道具屋を出ると明らかに自分の体より大きな荷物を背負った美紅と合流する。


 全然、重そうな様子が見えないな……鎧だけでも数十キロあるはずなんだが……


 美紅、恐ろしい子、と心で一人芝居をする俺に近寄ってくる美紅が見上げてくる。

「食糧など集めてきました。少し心許なかったのでミランダさんにわけて貰いました」

 左手に持つ小さな包みを持ち上げてみせ、「急ごしらえ、と言ってお弁当を持たせてくれました」と美紅が言ってくる。


 くぅ! ミランダに世話になりっぱなしで頭があがらねぇ!


 あれで見た目からまともな人だったら最高なのに、と肩を竦めて小さな笑みを浮かべる。

 合流してルナと美紅が俺を挟むようにして冒険者ギルドへ向かって歩き始める。

「モンスターパニックですか……厄介な話ですね」
「そうなの! ダンジョンにいるモンスターが一気に出てくるなんて大変なの!」
「トチ狂ったモンスターが暴れ回るか。モンスターパニック、上手い事言ったもんだ」

 顔を顰めて眉間に皺を寄せる俺は思わず舌打ちをしてしまう。

 ルナ達も似たような感想を抱いているようでいつもなら責めるように見てくるが今回は何もしてこない。

 何故なら、あの祝いの席に飛び込んできた冒険者がもたらした情報が悪態の1つでもつかないとやってられない内容だった為である。

 ダンジョンからモンスターが出て暴れる話というのはそう珍しい事でもないらしい。

 しかし、それが纏まった数になるとモンスターパニックと呼ばれるようになる。

 その話を聞いた俺は台風か何かと一緒かよ? と思ったものであった。低気圧が強まって台風と呼称されるように……

 それはともかく、モンスターパニックは一般的に数十、多い時で100ぐらいのモンスターが現れた時に呼ばれる。

 当然、大変で迅速な対応が求められる。

 だが、只でさえ大変なモンスターパニックであるが今回のは規模が違った。

 飛び込んできた冒険者が告げた規模は……1000に届きそうな数を告げた。

 10倍である。

 明らかに異常事態であった。

 そんな数、軍が動いたところで対応出来るか怪しいところである。

 少なくともエルフ軍は動いているそうだが、とても手が足りてる状態ではないらしい。侵攻を防ぐのやっとらしく国境沿いの村に手が回らなく、逃げる事も出来ずに立て籠っているそうだ。

 元々、国境沿いという事で他国を警戒する目的と近くにダンジョンがあるので村の割に守りが厚いらしい。

 それでも突破されるのは時間の問題のようだ。

 考えながら歩いて、冒険者ギルド前に到着すると冒険者達を纏めてくれてるダンさんに手招きされて向かう道すがらに顔色が真っ青なシーナさんが祈るように手を組んて俺を見つめている姿を発見する。

 その姿を見て思い出す。





 尻込みしそうになっていた冒険者達に檄を飛ばして、というより怒らせてやる気にさせた俺が準備のために冒険者ギルドを飛び出そうとした時にシーナさんに聞かされた。

「トールさん! お願いです。助けて下さい」
「えっ?」

 戸惑う俺の両手を包むようにして握るシーナさんが切羽詰まった表情で見つめてくる。

「今、襲われている村は私の故郷なんです!……良い思い出はないので普段は何も思わないのに……いざ、こうなると……」

 悲しそうに目を伏せるシーナさんは辛そうに下唇を噛み締める。

 何やら事情がありそうだと話を聞こうとするが辛そうにするシーナさんの肩を抱く為にきたペイさんに静かに首を横に振られる。

「シーナにも色々あるわ。気になるでしょうけど、今は聞かないであげて」





 そう言われて聞けなくなった俺は事情は分からないが、不安げにこちらを見つめるシーナさんに安心するように力強く頷く。

 俺はそのまま通り過ぎてダンさんの隣にいくと集まっている冒険者達を見渡せる少し高い位置に連れて行かれる。

 俺は冒険者達を見渡すと強い視線で俺を睨むような瞳に見つめられる。

 大きく息を吸った俺は叫ぶ。

「まだビビってるヤツはいねーだろうな!」
「ふっざけんなよ! そんな情けないヤツは今頃、ママのおっぱいでも吸ってる!」
「Aランクになって調子に乗ってるだろう!?」

 俺の声を掻き消すような怒声が響き渡る。


 あれぇ? ちょっと怒らせ過ぎたかも?


 ひっそりと額に汗を滲ます俺は勢いで『玉無し』だとか悪口を言いたい放題に言った。

 余談だが、『玉無し』と言った時、女の冒険者が「ある訳ない」と怒鳴られた時に『この胸なしがぁ!』と叫んだら俺の左右から拳が放たれて板挟みにあってたりする。

 動揺する心情を隠して笑みを浮かべる俺はその怒声を掻き消すように叫ぶ。

「じゃ、出発するぞ! ついてこい!」
「おおおおおおぉぉぉ!!!」

 更に俺の声を掻き消さんとばかりに冒険者達が声を張り上げた。

 そして、俺は冒険者達を連れ、クラウドの南にある国境沿いにある村を目指して歩き始めた。
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