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最終章 DTには『さようなら』は似合わない

318話 不可避の戦いらしいです

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「テツゥ!!」
「テツ君!?」

 セシルに斬られてドラゴンから落下するテツに同時に気付いたホーラとポプリは駆け寄ろうとするが殺気と共に語りかけられて動きを止める。

「あらぁ~駄目よ? 貴方達の相手はワ・タ・シ」

 その声は意外にも近い所から聞こえ、背筋に冷たいモノを感じた2人は咄嗟に反対側に飛んで転がる。
 それと同時に先程までホーラ達がいた場所に火柱が立ち昇り、ホーラ達を追いかけたモンスターが灰となってしまう。

「声をかけなければ良かったわぁ。そうしたら、今ので終わったのにね? クスクス」

 声の主は、先程ホーラ達がいた場所から数歩の距離で立っていた。妖艶な笑みを浮かべる女性でスリットが入ったドレスを着こなし、豊満な胸の谷間を惜しげもなく見せつける。

 長い髪で片目を覆われており、出ている左目はホーラ達を獲物として見つめていると2人は直感する。

 一瞬、テツに気を取られた2人であったが、まさか、この距離まで詰め寄られるまで気付けなかった事がショックを隠せない。

「今のはアンタの仕業さ!?」
「ホーラ、違う。アイツじゃない。もう1人いる」

 ホーラにそう言うポプリは目の前の女から感じる潜在的な魔力を肌で理解して、今の強力な魔法を放った相手ではないと理解する。

「そう、今のは我がやった」

 真後ろから声をかけられた2人は左右に飛び退く。

 ホーラ達の真後ろには、雄一に匹敵する巨漢が立っており、警戒してたはずの2人が声をかけられるまで気付けなかった。

 2人は女の方には勝てる要素は感じるが、背後に立たれた巨漢には正直、勝ち目を感じられなかった。

 ホーラの目端にテツが生活魔法の風で作った足場でかろうじて着地をするが、一緒に降りてきたセシルにゆっくりと詰め寄られている姿を捉える。

 身動きが取れなくなっているホーラ達に女は語りかける。

「初めまして、そして、さようならでいいのかしら? 私はカミーラ、モンスター使いよ。この場のモンスターを操ってるのは私よ」

 そう言われて、単体としての女の強さがホーラ達より劣る理由を理解するが余裕を見せる姿から隠し玉を持っていると感じ、ホーラは苦虫を噛み締めるように顔を歪める。

 そして、腕を組む巨漢が睥睨しながら語る。

「我、最強の炎使い、トーガ」
「最強の炎使いは言い過ぎですよ……せめて、ホーエンさんに勝ってから名乗る事をお勧めしますわ」

 悔しいが火の魔法使いとしての実力はポプリでは届かない事に気付いているので負け惜しみを口にする。

 正直な話、隠し玉を持ってると思われるカミーラだけであれば勝ち目がなくはないが、巨漢のトーガまで加わると勝ち目がまったく見えない2人は追い詰められた。

 そんな時、ホーラ、ポプリは弾かれるようにダンガの方を見つめる。

 ホーラ達だけでなく、カミーラ、トーガだけでなく、離れた位置にいるテツとセシルもそちらに意識を持っていかれる。

 見つめる先にはホーラ達にとって絶対の安心の象徴、イエローライトグリーンのオーラが立ち昇るのが遠目に見える。

 だが、一瞬で消えるとホーラの背後、テツがいる方向から声がする。

「おい、お前、『ホウライ』はどこだ?」

 慌てて振り返るとセシルの前にイエローライトグリーンのオーラを纏う雄一が立っていた。

 目の前に立つ雄一の凄まじい存在感を全開で感じて、恐慌状態に陥ったセシルが絶叫する。

「あああああぁぁぁぁ!!!!!」

 両手に持つ剣を振り上げる時間も貰えずに雄一に蹴り飛ばされ、ホーラの目を持ってしても見えない距離まで吹っ飛ばされたセシル。

 胸に大きな傷を受けるテツを一瞥した雄一は手を翳して魔法を行使すると胸の傷が塞がる。

「応急処置だ。血も足りてないし、下手に動けば、また傷口が開く。ホーラ達と一緒に下がれ」
「で、ですが……分かりました……」

 反論しようとしたテツであったが、雄一に目を細められ、冷や水をかけられたように血の気が下がると冷静になった頭が邪魔になると納得する。

 テツがツーハンデッドソートの柄を大事そうに抱えながらホーラ達の方へと歩き始め、トーガとカミーラが一瞬、テツに視線を奪われた瞬間、雄一の姿を見失う。

 辺りを慌てて見渡すトーガの前に自分と同じぐらいの巨漢を捉える。

「お前等を蹴散らせば、『ホウライ』は出てくるか?」

 再び、突然のように現れた雄一に息を飲むトーガであったが全力の魔力を込めた火柱を雄一の足下から放つ。

 火柱に包まれる雄一だが、ゆっくりと左手を伸ばしてトーガの頭を鷲掴みにする。

「家のかまどの火種にも使えん。出直せ!」

 振り被った右拳をトーガの鳩尾に入れると悲鳴も上げられずにトーガもセシルのように姿が確認できない距離に飛ばされる。

 セシルに続き、仲間のトーガまで瞬殺されたカミーラは狂乱したように自分の頬を爪で引っ掻き傷を作る。

 それと同時にカミーラの前に九つの頭を持つドラゴンが現れる。

 だが、雄一の手元に現れた巴を握り締めたと同時に一閃されると九つの首が一刀両断されて大きな巨体が倒れる。

 先程まで狂乱したように叫び、顔を引っ掻いていたカミーラは茫然と倒れたドラゴンを見つめる。

「う、嘘でしょ。子供とはいえ、あれはヒュドラーよ!?」

 そう呟くカミーラが我に返り、正面を向くと雄一が立っており、見下ろしていた。

「ひぃぃ!!!」
「お前も頭と首のお別れをするか?」

 雄一の殺気が籠った目と声に当てられたカミーラは全身の毛穴から汗が吹き出し、全身を震わせて立ってられなくなったようで女の子座りをする。

 女の子座りをしたと同時に股間の辺りから湯気が上がると嗚咽を漏らして地面に顔を伏せるのを見た雄一はホーラ達に声をかける。

「お前等もテツを連れて下がれ」
「――ッ! 分かったさ……」
「お役に立てず、申し訳ありません……」

 ホーラ達がテツを連れて下がるのを見送った雄一はホーラ達が城門に着くのを確認した後、空を見つめて呟く。

「もういいだろう? こいつ等如きで俺をどうこうできると思ってた訳ではないだろう?」

 雄一が見つめる先に痩せ気味の体躯にゆったりとしたローブのようなモノを纏った魔法使いのような男が空中に姿を現す。

「確かにな。擦り傷ぐらいは付けてくれる事を期待したが残念だ」
「笑えない冗談だ」

 そう雄一に言われて目を細める『ホウライ』。

 静かに睨み合う2人の口火を切ったのは雄一であった。

「止まる事はできんか? アリアとレイアの実父、ムゥ?」
「ほう……気付いていたか。ならば、その先の私の目的も知っていよう?」

 『ホウライ』、いや、ムゥの体から真っ黒なオーラが立ち昇る。

 雄一は何も答えない。ただ、苦々しく眉を寄せるだけであった。

「答えは否だ! 絶対的に否だ! その目的が、その願いが私の全てだ!!」

 ムゥのオーラと雄一のオーラがぶつかり合い、大地が恐怖するように震え出した。

 避けては通れない2人の父親、実父と養父の戦いが始まる。
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