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11章 DT、見守る愛を貫く

309話 街、国はみんなで守るらしいです

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 白い糸化した精霊に守られたポロネを中心に四大精霊獣であるリューリカ、レン、エリーゼ、アイナが四方に散った。

 北にアイナ、南にリューリカ、東にレン、西にはエリーゼが配置に着いた。

「いい? 日の出と共に一気にポロネを私達の力で覆うわよ。それまで力を練って待機……アイナ、寝るんじゃないわよ?」
「酷い、レンちゃん! 時と場所は弁えてるよ! でも、念の為に5分前に声をかけてね?」

 思念体を中央に飛ばして最後の作戦の擦り合わせをしている中、テヘペロするアイナの態度に額に血管が浮かばせたレンが思念体のアイナの両頬を掴んで引っ張る。

「痛い!? 思念体越しなのに痛いのは何故っ!?」
「お仕置きから逃げたアクアを折檻する為に開発した魔法がこんな時に役に立つとは思ってなかったわ……」
「なんとも世知辛い魔法じゃ」

 引っ張られる頬が痛くて涙目になるアイナと疲れからか眉間を揉むレンに嘆かわしいと溜息を吐くリューリカ。

 レン達の事はどうでもいいとばかりにマイペースなエリーゼがレンに聞いてくる。

「本当に日の出まで待つ? いくら私達で被害を抑えるように結界を張っても被害はそれなりに出る」
「確かにのぅ。わらわ達が結界を張ろうがどうしても余波は出るじゃろう。低級精霊は暴走するじゃろうし、近場のモンスターも理性を失って暴れるじゃろうが……ダーリンたっての願いと言われたら……仕方あるまい?」

 そう言うリューリカがパラメキ国とペーシア王国を繋ぐ街道がある門の方が騒がしくなってるのを見つめる。

 既に余波は出ているようである。

「そう、ユウイチちゃんにお願いされたの、ワ・タ・シ、アイナが、精霊獣として頼まれたのよぉ?」

 頬を引っ張られながら涙目にも関わらず、嬉しげに勝ち誇るアイナ。

 3人は感情が籠らない瞳でアイナを見つめる。

「私ですら、お使い程度しか頼まれた事ないのに……」
「イタタタッ!! 頬も引っ張られてるのに耳まで、そんな事できるのレンちゃん!」

 今までは頬を押さえて引っ張る力に抵抗していたアイナだが、頬だけでなく耳まで引っ張る力に気付き、「頬、痛い。耳、痛い」と交互に手を忙しなく動かす。

「レンよ、この魔法はこんな感じに使うモノかの?」
「上手いわよ、リューリカ」

 2人のやり取りを聞いたアイナは敵が増えた事を悟り、「ナンダッテェ!」と声を上げる。

 そんなアイナの腕に抓む力を感じるとエリーゼが首を傾げて言ってくる。

「二の腕、抓める。堕肉? 駄肉? どっち?」
「いやぁぁ~、そんなのどっちもないよぉ~!!」

 マジ泣きに移行したアイナに満足した3人はアイナを捨て置き、話を続ける。

「ここの人間達に迷惑をかけるのは多少は気が引けるけど我慢して貰いましょう」
「じゃな、元々はここの地下を無計画に掘り過ぎた事により精霊力のバランスが悪くなってポロネの封印が活性化したのが原因だしのぉ」

 そう、前宰相一派が推し進めた鉱山利用が原因でポロネの封印が活性化し、タイミング悪く、魔法陣を破壊して廻っていたホーエンが発見して破壊したという悪循環が生み出した出来事であった。

 全ての者が関わった訳ではないだろうが、その恩恵を味わったり、それを止める側に廻って止められてない以上は大小はあれど責任はある。

 我が身可愛さ、命惜しさでできなかったように、こちらの都合で多少押し進めるのはお互い様だとリューリカは言っていた。

「後のフォローはする。でも全部は保障できない」
「そうね、彼らには彼らの都合があったように私達にもある。頑張って貰う事にしましょう。それに、あの子達が向かってくれてるようですから、なんとかなるでしょう」

 そうレンが言うと残る3人も小競り合いが起こっているパラメキ国に繋がる街道がある場所を見つめた後、4人は各自の仕事をする為に精神集中を開始した。







 モンスターが現れたという報告が冒険者ギルドに持ち込まれて、全冒険者に召集がかかり、城門前に集合していた。

「おいおい、あんなのとやり合えというのかよ……」

 慄く冒険者達の目に映る距離にはゴブリンの姿があった。

 戦えない者からすれば、ゴブリンは脅威であるが戦える冒険者であればゴブリンなど敵ではないはずである。

 だが、1000体はいそうな集団でなければであった。

 全盛期のペーシア王国の冒険者ギルドであれば、冒険者の数が1000人以上はいた。

 だが、ペーシア王国に見切りを付けて去っていった者が多数おり、国に雄一が介入して良くなり始めている事を知った耳聡い者達が戻り始めているが、それでも総数が100人を超えた程であった。

 しかも、戻ってきた冒険者と居残り組の冒険者の質に大きな開きがあり、単純に1人頭、10体倒せばいいという話ではないのという理由から尻込みをする者が現れ始めていた。

「こんなのやってられねぇ……」

 当然というべきか最初に逃げを打とうとしたのは居残り組の冒険者でゆっくりと後ろ歩きしながら引き下がり始める。

 それに気付いた実力のある冒険者が声を上げようとする前に逃げ腰の冒険者の尻を蹴っ飛ばす者が現れる。

 完全に不意打ちで腰に力が入ってなかった冒険者は顔面から地面に落ちてしまう。

 口に土が入ったらしく唾を吐きながら振り返って悪態を吐こうとするがガテン系の男達に囲まれていて逆に委縮して黙り込む。

「おいおい、いざ、という時は戦うと息巻いてたのは、やっぱり嘘だったようだな? おめえみたいな玉無しは好きにどこでもいけ! だが、二度とペーシア王国の土を踏むんじゃねぇ!!」

 ハンマーを肩に担ぐ親方、レイア達と一緒に解体工事に携わったガテン系の男達が尻モチ着く冒険者と逃げようとしてた者を睨みつける。

 親方が自分に着いてきた者達に号令のように声をかける。

「いいか、おめえ等、俺達の街は守って貰うんじゃねぇ! 俺達が守るんだ!」
「「「「おおおおおおっ!!!!!」」」」

 そういうと前線に向かう為に歩き出す親方の背を追うように歩き去っていく者達を見送る逃げようとした冒険者達の目の前を主婦と思われる者達が角材を背負って一緒するのを見て目を見開く。

「な、何してんだ!? 死ぬぞ?」

 思わずと言った感じで声をかけてしまった逃げようとした冒険者を蔑んだ目で見つめる主婦が口を開く。

「アタシにゃねぇ? 可愛い子供が4人いるんだよ。ここを守ってやらないでどうするっていうのさ? アンタ達みたいな根なし草には分からないだろうね?」

 フンッ、と鼻を鳴らす主婦は逃げようとした冒険者など見る価値もないとばかりに無視して前へと進む。

 その背中を見つめる逃げようとした冒険者は、俯きながらフルフルと体を震わせる。

 勢い良くガバッと顔を上げ、立ち上がると叫ぶ。

「ふ、ふざんけんじゃねぇーぞ!! 戦い方を知らない女なんてゴブリン1匹も倒せずに死ぬのが関の山だろうが! 女に馬鹿にされたままいられるかよ!」

 腰にあった武器を抜くと先程の主婦を追い抜いて前線に向かう逃げようとした冒険者を見つめる他にも尻込みしてた冒険者達も「俺も……」と呟きながら武器を抜くと前線に向かった。



 ゴブリン達の集団とぶつかり合った冒険者と住人の混成軍は徐々にではあるが押し始め、ゴブリンの数も半数は倒した。

「よし! 勝てる、勝てるぞ!!」

 誰かが叫んだ言葉に皆が反応して一気に畳みかける。

 ゴブリンの数も50体もいないぐらいになった時、下がるように言われた主婦達が街道の先に認めたくないモノを見つけてしまう。

「あ、あれはなんだい……」
「何を言ってる……」

 主婦達を守る為に残っていた僅かな冒険者がその言葉を聞いて主婦達が見つめる先を見て絶句する。

 最初にいたゴブリンと同じぐらいの数の集団にその倍の数のオークの集団が視認できる距離に現れた。

 それに絶望して手から武器を落としそうになっているのを見た親方が叫ぶ。

「諦めるなっ!! 諦めたら全部終わりだ!!」

 親方の言葉でかろうじて気合いが入り直した者達がヤケッパチ気味に叫ぶと特攻を始める。

 冷静な者がいれば、悪手だというだろうが、戦う気力を失って武器を手放すよりはマシな状況であった。

 それを理解する親方が舌打ちしながらハンマーを振り上げながら特攻する者達を追いかける。

「くそう……ヤケクソでしか戦えないのかよ……せめてレイアちゃん達がいればもう少し戦えたんだろうが……」
「ごめんなさい。レイア達はレイア達の戦いがあるんです」

 後ろから声をかけられた親方が振り返ると白と黒の残像が横を駆け抜けるのを目端に捕える。

 特攻する者達も追い越して、ゴブリンとオークの集団に斬り込む白髪のエルフの少年の姿をやっと視認する。


  込めるは『爆裂』


 そういう声が再び背後から聞こえたと同時に白髪の少年が飛び込んだ辺りから爆発と少年の悲鳴が聞こえる。

 振り返るとエルフの女性が駆る馬の上で立ち、パチンコを打ち放ち、残心をする少女の姿を見つける。

「レイア達じゃなくて申し訳ないさ。ここはレイア達の姉であるアタイ等で勘弁して欲しいさ?」
「ホーラ姉さん!! 僕を殺す気ですか!?」

 土埃で顔が汚れる白髪の少年、テツが相棒のツーハンデッドソードを翳しながら文句を言ってくる。


  炎魔法 『ファイアバード』


 また違う場所から声が響き、小鳥サイズの火の鳥が無数に放たれ、テツが巻き込まれる事など躊躇する様子を見せない容赦ない攻撃と共にテツの絶叫が響き渡る。

 それを脱力して見つめる親方の傍にやってきたホーラは馬から飛び降りる。

 ホーラを見つめる親方が呆れるように話しかけてくる。

「ああ、アンタは確かにレイアちゃん達の姉なんだろうな? 身内の男に対する容赦なさが良く似てるよ……」

 素知らぬ顔をしてそっぽ向くホーラを見つめる親方は、「そういう所も似てるよ」と嘆息を吐いた。

「ポプリさんも!! 2人してドサクサに紛れて僕を始末するつもりですかっ!!」

 テツの叫び声にそちらを見つめるが先程同様、土埃は付いているが怪我らしい怪我のないテツの姿を見て、レイア達が、特にダンテとヒースが打たれ強い理由を垣間見たようだ。

 テツの叫びをサラッと無視したポプリが前線で戦うテツとのやり取りで呆けている冒険者と住人の混成軍に向かって良く通る声で叫ぶ。

「遅くなって申し訳ありません! ペーシア王国軍、只今、到着です!」

 ポプリが乗る馬の後方から騎士団、500名がやってくるのを見て前線で戦う者達の喜びの声が上がる。

 そして、軍の先頭をミレーヌとゼンガー王子が一緒にやってくる。

「皆の者、良く耐えてくれた。後は、軍に任せて下がってくれ!」
「有難いが軍の数の6倍以上いる相手はキツイだろう!?」

 ホッとする者と冷静に軍だけではキツイと判断する者が綺麗に分かれる。

 その意識の高い者を優しげな視線で見つめるミレーヌは微笑む。

「大丈夫ですよ。『救国の英雄』の下にいる『戦神の秘蔵っ子』の名は伊達ではありません。ほら、ごらんなさい」

 ミレーヌが手を差し出す側に目を向けるとホーラ、テツ、ポプリ、そしてディータが戦場を駆ける姿が映る。

 テツとディータが先陣をきって切り開き、後方支援にホーラとポプリの魔法援護が飛ばす姿が目に焼きつけられる。

 まるで草木を切り払うように突き進む2人のエルフ、テツとディータと一撃の威力が凄い武器を操るホーラと多種多様に使い分ける火の魔法使いポプリは凄い勢いで数を減らしていく。

 驚く冒険者達に少女のような笑みを見せるミレーヌが「安心しましたか?」と微笑む。

「はい、すぐに動ける者を総動員して怪我人を運んで後方に一旦下がらせて貰います」

 そう言うとその場から走り去る冒険者を苦笑して見送るミレーヌは、ホーラ達の姿を見て、血が滾ってしまって引き下がって休む気が完全に飛んでしまったらしいと溜息を吐く。

 すぐに気持ちを切り替えるミレーヌはゼンガー王子を見つめる。

「こちらもノンビリしてられません。号令を!」
「はい、全軍、突撃! 『戦神の秘蔵っ子』達ばかりに良い所を全部持っていかれるな!!」

 低く良い声で号令するゼンガー王子に反応する出来たての騎士団は気合いは負けないとばかりに怒号を上げ、モンスターの群れへと飛び込む。



 前線では大きな異変が起きていた。

「テツ、狂える精霊が集まったモノが現れた」
「僕も視認しました。アレは普通の物理攻撃も魔法も効きません。ここはお任せしていいですか?」

 テツの言葉に頷くディータを確認したテツが後方にいるホーラとポプリに声をかける。

「精霊の相手をしてきます。ディータさんの手厚いフォローをお願いします!」
「さっさと行ってくるさ! 一撃で終わらせて死ぬ気で働け」
「テツ君を相手にするんじゃないんだから、細心の注意を払うから大丈夫よ!」

 姉達の温かい言葉にずっこけそうになるテツであったが下唇を噛むだけで耐えると相棒のツーハンデッドソードに青白いオーラを纏わせると狂える精霊の集合体に飛びかかった。



 ダンテ達に残されたリミットまで1時間。
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