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11章 DT、見守る愛を貫く

296話 やっつけ作業はいけないようです

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 4人の少女達が、パラメキ国とペーシア王国の国境沿いのペーシア王国側の山中で向かい合っていた。

 いや、正確に言うと栗色の髪をウェーブさせる少女を3人の少女が見つめて、というには厳しいキツイ視線を浴びせられていた。

 白衣姿の銀髪の少女はコメカミに血管を浮き上がらせて、咥えてた煙草のようなものを噛みちぎる。

「ひぃ!」

 視線の先の栗色の髪の少女が短い悲鳴を上げる。

 苛立ちを隠さない銀髪の少女が口を開こうとするのを腕を広げて止めるピンク色の髪をお団子頭にした小柄な少女が先に口を開く。

「まあ、待て。レンが苛立つ気持ちは分かるが、建設的に話を進めるのじゃ」
「ごめん、リューリカ。大事な事を言い訳されると反射でね?」

 頭を掻き毟ったレンが白衣のポケットに乱暴に手を突っ込む。

 そんな様子を見て溜息を吐くリューリカが、「アクアを怒るのに慣れてキレやすくなってるのじゃ」と言われて目を逸らし、一切反論ができないレン。

 仲の良い2人のやり取りを無視した緑髪の少女が栗色の髪の少女、エリーゼがアンナに質問する。

「アンナ、何故、封印した場所を覚えてない?」
「エリーゼに言われるとさすがにショックですが、私達が意図的に解かない限り解かれるとは思ってなかったので場所は適当に封印してしまったの……」
「アンタねぇ!! アレを適当に封印するとか何を考えてるの?」

 一度は治まった怒りが再燃したレンが叫ぶが、またもやリューリカに諭される。

 バツ悪そうにするレンを押し退けて前に出るリューリカがアイナを下から見上げて目を細めて告げる。

「アレの封印をするのに、アイナに任せるのが適任だったとはいえ、任せきりにした、わらわ達にも責はある。じゃが、さすがに忘れてどこにあるか分かりません、とダーリンに言って見限られたとしても、わらわ達は関知せんのじゃ」
「そ、それは困る。ユウイチちゃんに嫌われるのはイヤ……」

 泣きそうになっているアイナは空中に浮いて辺りを見渡しながら、「こっちの方だったのは間違いないのですが……」と下唇を噛み締めて耐える。

 アイナを追うようにやってきた3人の視線のプレッシャーに戦いながら、必死に頭を捻っているアイナが顔を輝かして手を叩く。

「思い出した! 海に面した山に封印したんだ。あの子が最後に「海に沈む夕日が見たかった」と言ってたから、せめて、と思ってそこに封印した」
「おお、確かにそんな事を掴まえた時に言っておったのじゃ」

 遠く、肉眼では見えない距離だがアイナは迷わず指差し、同じように見つめる3人も頷く。

「今度は適当な嘘じゃなさそうね? アイナを本気させたい時はユウイチに怒って貰いましょう」
「うわ、うわ、それだけは勘弁してぇ! ユウイチちゃん、何だかんだ言いながら優しいけど、折檻はかなり容赦がないから!」

 だからよ、と鼻を鳴らすレンはアイナを見限るように明後日に顔を向ける。

 レンに泣きつくアイナに呆れつつもリューリカが3人に言ってくる。

「じゃれついてる場合じゃないのじゃ、すぐにどういう状況か見に行くのじゃ」
「その通り、綻びで済んでいれば再封印で片が付く」

 リューリカの言葉に頷くエリーゼはアイナに早く案内しろ、と背を押す。

 アイナは思い出した山へと向かう背中越しに見える3人の剣呑な視線を認めて、記憶違いでした、と言えない空気に耐えながら目的地を目指した。





 アイナの案内で向かった山が肉眼で見える距離に来た時、アイナ達の顔色が曇る。

 飛んでいた速度も少し遅くなりながら、冴えない表情をする4人の少女達は感じてる事を口にできずにいたがエリーゼが口火を切った。

「多分、封印解けてる」
「そうね……認めたくないけどそのようね?」

 エリーゼの言葉に遺憾ながらと言いたげな沈痛な面持ちのレンが眉を寄せて頷きながら答えてくる。

「ここまで来たんじゃ。どっちかはっきりさせてからダーリンに連絡をする」
「ど、どうか私が原因じゃありませんように……!」

 アイナが神に、それとも精霊王なのか分からないが誰かに祈る内容が他力本願なうえ情けないのを聞いたレンに頭を叩かれた。





 向かった先はアイナが封印した場所で間違いはなかったが、4人は難しい顔をしながら目の前のモノを見つめていた。

 封印に使われた魔法陣が書かれた地盤が真っ二つに割れて機能が破壊されていた。

「聞いて? この場は放っておいても地盤が割れるような地層ではない事も調べたし、念の為にちゃんと強化もしておいたわ。本当だから!」

 必死なアイナがそう言ってくる。単純に言い訳をしているように見えるが、その対策はしっかりしてあったので、こんな事が目の前で起こってる事が不思議でしょうがなかったからである。

 壊れた魔法陣を見つめていたリューリカは手で落ち着け、と示す。

「分かっているのじゃ。その名残はちゃんとある」

 2人のやり取りを横目で見るレンはエリーゼに「ユウイチを呼んできて?」と頼でいた。

 コクリと頷いたエリーゼは早速とばかりに飛び出して雄一を迎えに行った。



 それから数時間後、エリーゼは雄一とミレーヌとポプリを連れて帰ってきた。

 リューリカ達の姿を認めた雄一達は近くに寄っていくと前振り抜きで質問をする。

「この異常事態の原因が分かったと聞いたがどういう事だ?」

 エリーゼが来た時にエリーゼに質問したが、要領が得なかったので話が通じそうなリューリカとレンにした。

 困った顔を向け合うリューリカとレンはどこから話したものやらと悩みながら話す。

「ごめんなさい、正直、分からない事だらけよ。唯一、分かってるのが……」

 そう言いながら振り返り、地面が割れて魔法陣の機能が壊れているのを指差して告げる。

「ここに封印されてたモノが、その異常現象を起こしてるのは間違いないのだけど、珍しい事にアイナがしっかり封印してたのに、何故、封印が解けたなど、さっぱり分からない事だらけなのよ」

 その理由が分かれば、どんな目的があるとかが分かり、発生原因を押さえる事もできるし、企みを潰す事もできる、と難しい顔をするレンが推測を口にしようとした時、この場にいないはずの男の声が混じる。

「済まない。その魔法陣を破壊したのは私だ」
「追いかけてきてるのは知ってたが、まさかのキャストだな?」

 推測が外れるだけでなく、予想外の人物登場に固まるレンをよそに、雄一が「どういう事だ、ホーエン?」と質問する。

「ユウイチを見かけたから、アグートが精霊王に会いに行った、と伝えるだけのつもりで来ただけだったのが、こんな展開が待ってるとはな」

 本当に申し訳なさそうにするホーエンは、続けて言ってくる。

「以前、『ホウライ』によって生み出されてた魔法陣を破壊して廻ってる時に、ここに来た事がある。力の種類が違うように感じたが強い力が籠っていたので……」

 しっかり違いを調査せずに破壊したという事のようだ。

 雄一は、聞いている範囲だけでも魔法陣は3ケタはあったのを知っていたが、軽率な行動をしたとは思う。
 だが、あの短い期間で動いたホーエンを責める言葉はなかったが確認したい事があったのでリューリカに話しかける。

「ここに何が封印されてたか、は知らんが、アグートやアクア達は知らなかったのか?」
「本当に申し訳ないが、わらわ達、精霊獣の4人と精霊王しか知らなかった事なんじゃ」

 話を拡散しないようにしたのは、精霊王の判断のようだが、リューリカ達も賛成していたそうだ。

 黙っていたミレーヌが、「よろしいでしょうか?」と入ってくる。

 皆に頷かれたのを確認後、話し始めた。

「ホーエン様の責任の所在などはこの際、後廻しでもどうでも良いと思います。本題の封印されてたモノ、異常現象の収束する術を話し合うべきではないでしょうか?」
「確かに、その通りだな。アイナ、ここに封印されてたのは何だったんだ?」

 この場に居る精霊獣以外の視線を一身に浴びて生唾を飲み込むアイナは気合いを入れて言葉を紡ぐ。

「ここに封印されてたのは初代精霊王の加護を十全に使いこなしたと言われる男と初代精霊王との間に生まれた娘、ポロネを封印していました」

 そして、運命は交差する。
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