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11章 DT、見守る愛を貫く

292話 何年も前から見定められた結果に立ち会うアリア達のようです

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 アリア達がペーシア王国にやってきてから1カ月が経った。

 手分けしながら5の依頼の雑用を受けていた事で、1週間程で4の冒険者に昇格を果たしていた。

 パーティ特権というのがあり、同じ依頼を受ければパーティメンバー全員に貢献度1であるが、その特権の裏ワザで複数同時に受けると依頼数分の貢献度が同じように加算されたので凄い勢いで溜まった訳である。

 4の冒険者になったアリア達が討伐依頼などを受け始めたかといえば、実は今も雑用の5の依頼を受け続けていた。

 そして、今朝も同じように冒険者ギルドにやってきたアリア達は今日も雑用依頼が貼られた掲示板の前でどれから受けようかと考えていた。

 そんなアリア達は背後から声をかけられる。

「おはよう、みんな」

 振り返ったアリア達は笑みを浮かべて各々、挨拶して頭を下げる。

「おはようございます。サラサさん」

 相変わらず、他の面子と比べると硬めだがキッチリと挨拶をするダンテを受付嬢のサラサは見つめ、苦笑する。

「ダンテ君、相変わらず、硬いわね? もう1カ月も毎日のように会ってるんだから、もうちょっと打ち解けてくれてもいいんじゃない?」

 そう言ってくるサラサは「出会った頃の事をまだ根に持ってるのかしら?」と、からかうように言ってくるのをダンテが慌てた様子を見せて被り振る。

 困った様子のダンテを見つめる水色の髪の少女、ポロネが何かを思い出したかのように掌を叩くと唇を尖らせて拗ねた声音で文句を言ってくる。

「そうです、ダンテはイケズです。私が味見させて? とお願いしても駄目っ! と言って『メッ』されました!」
「誤解されるような事を言わないでください、ポロネさん! 食事の準備をせずに調理してる人を廻って味見してるから叱っただけでしょ!?」

 必死に弁明するがポロネに「知りません!」とプイ、とそっぽ向かれて項垂れるダンテ。

 泣きそうになってるダンテをクスクス笑うサラサが他人事だという気持ちを隠さずに言ってくる。

「大変ね、ダンテ君?」
「……誰が火点け役したと思ってるんですか?」

 耐えてた涙腺が決壊するダンテから目を逸らすサラサ。

 そんなダンテの肩に手を置く者が現れて振り返ると遠い目をしたヒースであった。

「ダンテ、ついこないだまで、みんなにそう扱われるダンテが羨ましいと思ってた。でもね? いざ、体験すると本当に大変だよね?」

 実感が伴うヒースの声音から漏れる本気を受け止めてダンテが頷く。

 1カ月も一緒に生活しているとヒースも身内に受け入れられ始め、北川家の男の扱いを受けるようになった。

 当初は嬉しそうにしてたヒースだったが、その嬉しそうな顔は3日として持たずにダンテの本当の意味での同士として友情を深める事になった。

 男の子2人が声もなく泣いている姿に苦笑しかできないサラサは話を変えてくる。

「そうそう、自分で掘り返すようでアレなのだけど、『救国の英雄』様は本当に見えない所で動いてくださってたのね?」

 騎士団の腐敗が進んで、その不満を以前、ぶつけたサラサであったが、それをダンテに論破された。

 論破されたサラサではあったが見た事もない雄一を完全に信じ切る事ができずにアリア達を通して信じる事にしていた。

 呆れるように溜息を吐くサラサは続ける。

「言い逃れできない証拠を突き付けて、ゼンガー王子に反旗を翻した騎士団を一網打尽にして処罰して、できた穴をすぐに埋めるべく騎士を派遣して、従騎士教育をする者も用意するのだもの」
「そうなの、正義を謳って潰した後の事まで考えないと本当の意味で助けた事にならないと、きっとユウ様はそう考えたはずなの」

 スゥは嬉しそうに誇らしげに語る。

 何も言ってないアリアもドヤ顔してスゥに並んで言った感を出すのをスゥとじゃれ合うように喧嘩を始める。

 自分の好きな人が褒められるのは、やはり嬉しくてしょうがないようだ。

 2人の思いをなんとなしに理解が進んでるサラサは少し羨ましげに苦笑いを浮かべる。

「その上、ダンガの商人、職人を中心に移住も始まってる。解体工事がされて更地になった場所でやるらしいわね?」
「ああ、アタシ達が初めて受けた依頼の解体工事場所がその予定地だったとは、アタシ達もビックリしたよ」

 雄一はその辺りも下準備に余念がなかった。

 その行動は更に元々ペーシア王国にいた商人と職人にも波及した。

 ダンガから徐々にやってきてる商人や職人がもたらすクォリティーの高い商品とその値段を見た住人が今まで保守的で足下を見る商売をしてた者達をどう見たかなど説明不要であった。

 雄一が、学校を出た子供達に頼み、見つめた先、

「ユウイチ父さんにそう言われたんだ。沢山売ってやって、どれだけで仕入れて転売してると知られた時に足元を見て商売してたと知った客がどういう対応するか、身を持って教えてやれって」

 とダンガの学校出の少年が語った事が今、形となり、元々いた商人、職人は逃げるように荷物を纏めるとペーシア王国から出て行き始めている。

 その雄一の考えを聞かされて育ったアリア達であったが、それを目の当たりにできる日がこようとは思ってもなかった。

 この辺りもアリア達に体験させるのが雄一の狙いだったのかもしれないと最近、アリア達も思うようになってきた。

 ダンガで知られている雄一の考えをサラサに話すとビックリし過ぎて疲れたとばかりに項垂れる。


「この国の問題が表面化する前、パラメキ国を攻めようとする前から今ある体制に問題あり、と考えてたの? 本当に『救国の英雄』様と呼ぶべき方よね?」
「でも、ユウさんは、自分の事をそんな風にきっと思ってない」

 サラサの言葉に被り振ってくるアリアに困ったように目をパチパチと開いたり閉じたりする。

「じゃ、『救国の英雄』様はご自身の事をどう思われてるの?」

 サラサに質問された北川家で育ったアリア達は笑みを浮かべて顔を見合わせると頷いた後に声を揃えて言う。


「「「「「 主夫! 」」」」」


 アリア達の答えを聞いたサラサは、一瞬、時が止まったかのように固まり、解凍が始まるように目を大きくしていくと、プッ、と噴き出し、しばらく止まらない笑い声を上げた。





 その後、各自、雑用依頼を受けた。

 アリアとスゥは、未だに影響がある疫病に苦しむ人を処置するダンガから来た医者の手伝いの依頼を受けて仮設病院に向かい、レイア、ミュウ、ヒースは建設ラッシュが続く現場へと向かった。

 ダンテはポロネを連れて、教会へと向かっていた。

 ポロネも冒険者の資格を取り、ダンテと行動を共にするようになったというか、アリアとスゥにポロネの面倒を押し付けられたので一緒に行動する為に資格を取ったというのが正しい。

 家に置いておくのは不安と判断したダンテが連れて行動するので、ポロネが邪魔にならない依頼を受けるという結果が、子供を相手にした依頼が中心になり、今日も教会で行われる子供達の勉強会の依頼を受けていた。

 ダンテは教師役でポロネは建前上、まだ勉強を始めるには早い小さな子供の面倒を見る事であった。

 教会に向かう途中の宿屋の前を通ったダンテに宿の主人が声をかけてくる。

「あっ! ダンテ、明日からでいいから、誰か、アリアちゃんかスゥちゃんあたりにウチの依頼受けてくれるように言ってくれないか? カミさんが産気づいて手が足りないんだ!」

 ほとほと困った様子だが、待望の子供らしく嬉しそうな主人が手を合わせて頼んでくる。

 今、建設ラッシュで工事に関わる出稼ぎも増えて、貸家から宿屋までパンパンの状態が続いている。

 その上、以前、ペーシア王国を見限った冒険者達も少しずつ戻り始めていた。

「あ、はい、調整して相談します。できるだけ善処しますんで?」
「助かるよ、産気づいてシンドイだろうに忙しいからと無理して働こうとするんで困ってたんだ」

 流産したら……と眉を寄せる主人に笑顔のポロネが自分に指を指して瞳をキラキラさせる。

「私が行きましょう! 任せてください」
「……えっと、気持ちだけ貰っとくわ。カミさんの気が休まらないだろうしな?」

 宿の主人が本当に困ったように頬を掻く姿を見たポロネはプクゥと頬を膨らませると拗ねる。

 ポロネの噂は拡散されて、正しく認知されていた。

 悪い子じゃない、と、みんなが目を逸らして語るのがポロネであった。





 教会に着いたダンテ達は各自する事の為に分かれて行動を始める。

 ダンテはこの教会に通い始めて1週間ほど経つ。

 色々と教えているが、昨日は算数で今日は医療、と言っても、いざ、という時の応急処置の仕方を教える。

 つまらないと思える授業であるが教会に学びにきてる子供達は少しも嫌そうする素振りはなかった。

 来た日は、ダンテが信者がいない、使えないと言われる水を使う者と馬鹿にする子達が沢山いたが、ダンテの卓越した水魔法と生活魔法の運用方法を見せられた子供達の憧れの対象になるのは早かった。

 中にはダンテに倣って水の信者になろうとする者が現れる程で、ダンガにいるアクアは今頃、泣いているのではないだろうか?

 そして、ダンテが子供達に止血の仕方を教えていると外で遊んでた小さな子供達が入ってくる。

「ダンテせんせぇ!」
「どうかしましたか?」

 説明してた手を止めて、入ってきた子供達に目を向けるダンテに子供達が思い、思いに説明し出す。

 一気に言われて最初は分からなかったので先頭の子にしゃがみ込んで聞いてみると、

「ポロネちゃんが転んで血を出して泣いてる」

 そう言われたダンテは疲れた溜息を吐くと、ダンテの授業を受けていた子供達に振り返って言う。

「まあ、結果論ですが、良い見本を見せる事ができそうです。みんな、庭に行きますので付いて来てください」

 ダンテは子供達を連れて庭に出るとギャン泣きするポロネを見て、沈痛そうに眉間を揉む。

 そんなダンテの背中を叩く年長の少女が憐れみが籠った視線を向けて言ってくる。

「頑張って、ダンテ先生?」
「ありがとう……」

 泣くポロネの膝から流れる血の場所の血止めの仕方をレクチャーしながら、血を拭った後、傷痕が見えないように隠すとポロネがギャン泣きを止めてケロッとした顔になる。

「あっ、痛くない。また遊べます!」

 傷口を隠しただけで治ってる訳ではないので同じはずだが、小さい子特有の絆創膏を貼ったら痛くなくなるという心理現象が起こったようだ。

 立ち上がったポロネが鼻歌を歌いながら小さな子供達の遊びに戻るのを見送ったダンテが子供達に振り返る。

「このように傷口が見えなくなると安心してか痛みが和らぐ事が主に……小さい子に良くあるので覚えておきましょう」

 遠い目をするダンテに学ぶ子供達が励ます。

「頑張ってるよ、ダンテ先生!」

 ダンテは声を殺して涙を流した。
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