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10章 DT、マリッジブルーを味わう

幕間 生命の悲鳴

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 パラメキ城の一室の研究室では白衣をきた研究者と別に赤いドレスを着た赤い髪の少女と剃髪の修行僧の男前が場にそぐわなくて浮いていた。

 だが、周りの研究者達はその2人に頭を垂れ、その中の責任者らしき頭の髪が薄くなった男が困ってるのか、髪が薄くなったのが切ないのか分からない頭の触り方をしながら2人に話しかけてくる。

「改めて、ご報告させて頂きます、ポプリ女王。ペーシア王国側に多く発見されているカビのようなものですが、やはりカビなどではなく別物のようです。だったら何かという話になるのですが、さっぱり分かりません。分かっている事は現象として3つだけです」
「続けて」

 ポプリに先を促された研究長は目の前のカビを手に取り持ち上げる。

 近くに寄せられたせいか剃髪の男、ホーエンは眉を寄せる。

「まず1つ目が、持つだけ、といった普通のアクションであれば物理法則に乗っ取った物体ですが、これを……」

 カビのようなモノを机の上に置いて、傍にあったナイフで斬ろうとすると透過したかのように抵抗もなく通り過ぎて机にナイフが刺さる。

「これが2つ目で、攻撃的行動にあたる動きには一切干渉しない。これ以外にもお湯や火などを当てても同じ結果を確認してます」

 ナイフをカビにナイフの腹で立てかけるようにすると立てかけられるのを見せて、研究長が肩を竦める。

「3つ目が最大の特徴です。魔法に過剰反応を示して……」

 辺りを見渡す研究長に釣られるようにしてポプリとホーエンもその視線の先を追う。

 研究室を覆うように張り巡らされた白いカビというより蜘蛛の巣といった有様であった。

 嘆息したポプリが目を瞑り、後悔の色が濃い声音で呟く。

「ごめんなさいね、結果を急いで止めるのを聞かずに強行しちゃって」
「いえ、結果論ですが、魔力の大きさに比例して反応が大きくなり、魔法ではどうにもならないという事が分かりましたので」

 珍しく殊勝な態度のポプリに研究長は研究者らしい慰め方をする。

 ポプリは自分の頬を挟むように叩いて気合いを入れ直すと隣にいるホーエンに話しかける。

「ホーエン様はこれをどう見ますか?」
「少なくとも見た事がない現象だが、感じるモノが正しいと仮定すると……」

 ホーエンは2人に下がって自分の後ろに隠れるように伝えると2人が後ろに来たのを確認後、ホーエンの手刀に白いモノで覆われる。

 その手刀でカビを切り払うとカビ状のモノが霧散するように消え、付いていた土も落ちる。

 驚く、ポプリと研究長。

 研究長は落ちた土を拾い、何かを確認しており、ポプリはホーエンに詰め寄り、説明して欲しいと目で訴えながら「説明して頂けますか?」と穏当に話しかける。

「このカビに見えてるのはこの土に含まれた精霊力。つまり、モノの命だ。おい、研究者、その土は死んでいるだろう?」
「仰る通りです。畑の土なので死んでる訳がないのですが……私は魔法学専門の畑違いなので間違っているかもしれませんがね?」

 畑の土なのに畑違い、と繰り返して広いデコを叩いて1人喜ぶ研究長。

 眉間を揉むようにするポプリがホーエンに詫びる。

「この者は優秀なのですが、ネジが抜けてるタイプでして……」
「そんな事はどうでもいい。このカビのように見えているのは土から精霊力が引き剥がされそうになってる事に抵抗してるから見えるモノのようだ」

 今のホーエンの説明と先程、実演されたモノを照らし合わせた結果を想像したポプリと研究長は真顔になる。

「つまり土が死んで作物が育たないようになる!?」
「土だけじゃない。最初に反応したのが土というだけで、他の属性を危ないと覚悟した方がいい」

 ホーエンの考えを聞かされたポプリと研究長は驚きで固まるが、研究長はすぐに立ち直ると周りに居る者達に各属性のチェックを始めるように指示を出す。

 ポプリよりハートが強い人物かと思えば、新しい何かを知る機会と思っているようでワクワクしてるのが見て取れた。

 研究者の思考回路が分からないホーエンは首を横に振り、嘆息するとポプリを見つめる。

「カビの事をアグートに話したが、ピンときてる様子はなかった事から、おそらく知らないだろう。アグートに精霊王に会うように指示を出しておく」

 そう言うと出て行こうとするホーエンを止めるポプリ。

「現状、私達は何をするべきでしょうか?」
「まずはこの情報が漏れないようにする事と精霊王以外で知ってる可能性があるのは、四大精霊獣だろうな、連絡が取れるようなら話を聞いて損はないかもしれん」

 そう言うと出て行くホーエンを見送るとポプリは短く大きな声を出す。

「ロット!」
「はっ、こちらに!」

 ホーエンによって開け放たれたドアからロットが現れる。

「エリーゼは来ましたか?」
「普段であれば今日来ますがまだ来ておりません」

 ロットの報告に頷くとポプリは指示を出す。

「来るか分からないエリーゼを待つのは危険な事態なので二度手間になるやもしれませんが、早馬をダンガに出す準備を」

 ポプリの指示を聞いたロットが立ち上がろうとするのを止めるように指示を追加する。

「手配後、別行動中のホーラがパラメキ国を通過する頃です。捕まえられたら今の話を伝えて頂戴。聞いてたでしょ?」

 ポプリにそう言われたロットは苦笑いを浮かべるとペコリと頭を下げて退出する。

 腕を組みながら、先程、ホーエンが切り払った土を見つめる。

 命である精霊力が引き剥がされると言っていたが、これは他人事ではなく人にも適用される現象ではないと恐怖を覚える。

 その危惧が形になる前に動かないと、と思うポプリはエリーゼが来た時の為に手紙を書く為に執務室へと向かった。





 ポプリとホーエンがそのような事をしてた頃、ダンガにいた四大精霊獣の面子も異変をキャッチしていた。

「この感覚、まずいわね」
「これは久しいが、懐かしいとは思いたくないのじゃ」

 リューリカとレンが難しい顔をして見つめ合う。

 エリーゼは窓から外を見つめて呟く。

「大気が、水、火が揺らめき、大地が悲鳴を上げてる」
「こ、これって私が適当に力を注いでたせい?」

 エリーゼの言葉を受けて、さすがに笑えない状態だと判断したアイナが申し訳なさそうに3人を見つめる。

 顔を見合わせるリューリカとレンは同時に嘆息するとレンが先に口を開く。

「その可能性は否定できないわ。とりあえず、現地に行きましょう。何が理由であれ、放置できないわ。でも……」
「ダーリンじゃな? 今はどこかに出ておるようで連絡が取れん。アクアに伝言を頼むのと手紙を書いて置いて行くのじゃ」
「多分、必要ない。ユウイチならきっと自分で気付く」

 それでも一応とレンは置き手紙を書き始め、リューリカは外で子供達と遊ぶアクアに伝言を伝えに行く。

 見送ったアイナは自分の頬を強く叩くと眠そうな目が少しマシになる。

「今回は私も頑張るよ! おぉ!!」
「お~」

 拳を突き上げて気合いを入れるアイナの真似をするように気の抜けた声で同じように拳を突き上げるエリーゼ。

 リューリカが帰ってくると置き手紙を雄一の机の上に置いた4人は窓から飛び出してペーシア王国へと向かった。
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