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10章 DT、マリッジブルーを味わう

273話 力を得るという事らしいです

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 『マッチョの社交場』を後にしたテツをポプリが追って出てくる。

 ホーラはこの後、ミチルダから指南を受けるので居ても見せて貰えないので退屈になるという理由もあったがテツにも聞きたい事があった為である。

 追いついたポプリがテツの隣にくるとポプリの歩く速度に足を緩めるテツ。

「ねぇ、テツ君。梓って『精霊の揺り籠』でテツ君に力を貸した人の名前と同じだけど……」
「はい、多分、間違いなく同一人物と言っていいか分かりませんが、その梓さんだと思います」

 そう答えてくるテツは難しい顔をするが、ポプリにはイマイチ、テツがそんな顔をするのが分からずに、「どうして、難しい顔をしてるの?」とストレートに問い質した。

 少し躊躇する雰囲気を見せたテツであったが、諦めるように溜息を吐く。

「隠してもホーラ姉さんに聞かれたら分かるでしょう。多分、ホーラ姉さんは気付いてると思いますから」

 何かを思い出すような顔をするテツは遠くを見つめる。

「覚えてますか? 僕達がポプリさんと初めて出会うキッカケになった冒険者ギルドが主催した大会の事を」
「勿論、テツ君にローブなどを弾け飛ばされて、下着姿をユウイチさんだけならともかく観客にまで見られて心に深い傷を負った時ですからぁ?」

 下から覗きこむようにして悪戯っ子の笑みを浮かべるポプリに「あの時は必死だったんです」と平謝りする。

 謝り続けるテツに「もう怒ってないわよ。忘れもしないけどね?」と明るい笑みを見せられ、テツは敵わないと苦笑いを浮かべる。

「その大会がどうしたの?」

 話を本線に戻してくれたポプリを見つめて続きを話し始める。

「大会が始まる前に僕は後先を考えずに調子に乗って、大事な人を失いかけました」
「テファの事?」

 ポプリに聞かれ、頷いて見せるテツ。

 自分の手を見つめるテツはうわ言のように言葉を洩らす。

「あの時の僕はしっかり考えてから行動していれば、起こらなかった出来事でした。だから、考える時間がある時は考えてから行動するように自分を戒めるようにしてきました」

 それでも雄一が傍にいると、ついつい考えずに行動する事があると恥ずかしそうに言うテツをポプリは微笑む。

 ふむ、と頷くポプリがテツに確認するように聞く。

「それが理由で保留にした訳?」
「はい、でも、それは建前の理由になります。ここから先はホーラ姉さんにも気付かれてないと思う話なので、ここだけの話にしておいてください」

 勿論、ティファーニアにも内緒にしておいて欲しいと懇願されて、これはマジだと判断したポプリは頷く。

 深呼吸をするテツは更に難しい、いや、辛そうな表情をする。

「怖かったんです。僕がベルグノートのようになるんじゃないかと頭を過って……」
「ベルグノート? ああ、テファを奪い合った貴族のボンボンだったっけ?」

 辛そうに頷くテツにポプリは、何故、テツがあの馬鹿と同じになる可能性を考えているのか分からずに首を傾げる。

「どうして、馬鹿と一緒になるって思う訳?」
「魔剣を手にしたベルグノートは力ずくで物事を解決しようとしました。その魔剣だけで足りないとなると違う魔法道具まで持ちだして、力こそ全てという思考になってました」

 梓を手に入れてテツがそうなるかもという話だと判断したポプリが小馬鹿にするように「ないない」と手を振る。

「テツ君が力を手にしても、あんな馬鹿と同じ事はしないわよ」
「はい、僕もしないと思います。ですが、大きな力を持つ事で無自覚に傷つける人が生まれるのは間違いない。ポプリさんなら分かるんじゃないですか?」

 そう言われたポプリの目が細まる。

 テツが言うようにポプリには否定できずに「なるほどねぇ」と思わず呟かされた。

 ナイファとパラメキでの戦争後、自分しかいないから女王として玉座に就いた。

 だが、自分に御しきれるか分からない力に恐怖したものであった。いや、今でもその力を持て余す事すらある。

 だから、程々だけ仕事して放棄気味だと言われても否定しきれない。

 正しいと信じて行っても善悪問わずに大小なりに犠牲は生まれる現実にポプリも耐えてきた。

 自分が王位を継がなければパラメキ国が終わると思わなかったら、ポプリは女王に成れたかと問われると首を横に振るだろう。

 つまり、今のテツにはポプリにはあったキッカケがなくて躊躇しているのだろう。キッカケがない為に、その恐怖と向き合う覚悟を決める時間、考える時間を欲したと理解すると嘆息する。

「テツ君も成長してるのね。ずっと突進馬鹿だと思ってたのに」
「あはは、本質は変わってませんよ。考えるのが苦手で放り投げたいと思う気持ちと毎回戦ってますから……」

 弱った笑みを浮かべるテツの背中をバシッと叩くポプリ。

 目を白黒させるテツに言い聞かせるように伝える。

「テツ君が言うような不安は私にもあるし、気持ちも分かる。だけど、大きな力で傷つけてしまう人がいる以上に使う人の心次第でその何倍の人を助けられる可能性を手に入れられる事を忘れないで?」
「それは分かってるつもりなんですが……」

 煮え切らない態度のテツの背中を先程より強く叩く。

「しっかりしなさい。貴方はユウイチさんを超えるお父さんになると言ったのでしょ? ユウイチさんはその恐怖と向き合いながらも前に進んでるのよ」

 ウィンクしながらチャーミングに笑ってみせるポプリやっぱり敵わないと頭を掻くテツは、「はい、精進します」と頷かされる。

「でも考えれる時間がある内は好きなだけ悩みなさい」
「有難うございます。ポプリさん」

 笑顔を浮かべるテツはポプリと頷き合うと家を目指して足を速めた。





 夕方に近い時間に家に着くと食堂の方が騒がしいので2人は顔を見合わせた後、そちらに向かう。

 食堂に入ると入り口横に立ってた人物に気付き、2人は驚きを隠せずに声を出してしまう。

「「ミレーヌ女王っ!?」」
「お帰りなさい。王位はゼクスに譲ってきたからミレーヌちゃん、もしくは、お姉さんでもいいわよ?」

 そこにいたのはナイファ前女王のミレーヌが居り、びっくりして固まるがいち早くポプリは立ち直る。

「予想よりだいぶ来るのが早かったですね」
「うふふ、戴冠式の次の日に出発したもの」
「ミレーヌさん、さすがにゼクス君が可哀想じゃないですか!?」

 テツの突っ込みにも「ゼクスは優秀な子ですから大丈夫」と笑みを浮かべられて終わる。

 聞くとゼクス、臣下一同に激励されて送りだされたらしい。

 近くにいたダンテがテツにこっそりと伝えてくる。

「どうやら、ミラーさんとエイビスさんも一枚噛んでるようで……」

 そう聞かされたテツはポプリに視線を向ける。

 どうやら今の話を聞いていたようで眉間を揉むようにする。

「油断してました。もうすぐしたら私もホーラも家を空けますが、暴走はしないようにお願いしますね?」
「安心してください。誕生祭の頃に私のお腹が大きくなってるかもしれないだけですから?」

 静かな視線の応酬を繰り返す2人であるが、国同士の外交ですらこれの半分も競り合った事すらない2人であった。

 その戦いにタジタジになるテツの裾を引っ張るダンテに気付き、顔を向けると頼み事をされる。

「あっちはテツさんには手に負えませんので、こちらに尽力してくれませんか? ユウイチさんが大変なんです」

 ダンテが言う方向を見つめると雄一がレイアの両足を抱くようにして引きずられていた。

「ねっ、ねっ、ヒースって小僧はポイして、お父さんと一緒にダンガで住もう?」
「アタシ達はペーシア王国に行く事を決めたんだぁ!!」

 ガシガシと雄一を蹴る姿を見つめるテツとダンテ。

「なんとかしてくれませんか?」
「なんともしようがないかな?」

 顔を見合わせて嘆息すると観戦モードで椅子に座るアリア達の下に向かい、観戦する側に廻る事にした2人であった。
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