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10章 DT、マリッジブルーを味わう

268話 海を渡って届いた手紙のようです

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 ダンガの冒険者ギルドの受付カウンター前で死んだ魚の目のようなエルフが5人の少年少女にカードを手渡していく。

 受け取っていく少年少女達は喜色を浮かべた表情でお互いの顔を見つめ合う。

 ヘアバンドを鉢巻のようにしてポニーテールをするレイアはカードを掲げて叫ぶ。

「ついに一人前の冒険者になったぞ!!」
「長かったの、この日を夢に見たの」

 嬉しそうにスゥはレイアに頷いて見せ、姉のアリアは、ムフンと成長著しい胸を張ってドヤ顔をする。

「これで大人の仲間入り」
「でも、やっと5の冒険者になっただけだけどね」

 楽しそうではあるが、調子に乗りそうな雰囲気が漏れるレイア達にしっかり釘を刺すダンテは、未だに初見の人が見れば男と信じて貰えない少女の笑みを浮かべる。

 そんなダンテの頬に黙って拳をあてるレイアと背中を力強く叩くミュウに抗議される。

「嬉しい事に水を差すなよ!」
「がぅ、ミュウ、大人。オッパイも大きい」
「ミュウ、オッパイは関係ないと思うの……」

 ミュウは11歳にして既にアクアと同年代の体つきをして、若干の差ではあるがアクアが負けたと泣いていた程である。

 既にホーラなど敵にもならないミュウであった。

 胸を張るミュウの横で負けじ、とばかりに胸を張るアリア。

 くだらないものを見るような目で見ていたミラーが肩を竦めると言ってくる。

「なるほど、胸が基準となると『ミュウ>アリア>スゥ>レイア>ダンテ』ですか」
「ば、馬鹿野郎! 最近、育ってきてる気がするアタシだぞ? スゥには勝ってるぞ!」
「レイア、嘘は良くないの。レイアに負けるほど落ちぶれてないの!」

 ドサクサに紛れて虚偽報告しようとするレイアを止めるスゥは負けてるのは身長である事を強調する。

 ちなみに身長は、

 ミュウ>レイア>アリア=ダンテ>スゥ である。

 その中で暗い目をしたダンテが静かに手を挙げるとミラーに問う。

「あのぉ、胸の大きさランキングで何故、僕がノミネートされてるのですか? ミラーさんは知ってますよね、僕が男だって?」

 今、受け取ったばかりの冒険者カードに記載されてる性別の♂の所を指差してダンテがカウンターに身を乗り出す。

 ダンテに軽快に笑ってみせるミラーを見て、アリア達は「あっ!」と声を洩らし、お互いの顔を見合わせるのに気付いたダンテが信じられないモノを見た人の顔をする。

「ま、まさか、皆も忘れてたってことないよね?」
「そ、そんな事ないの。私達、小さい頃からの付き合いなの。大丈夫……」

 必死に手をパタパタさせながら返答するスゥであるが徐々に声音が小さくなり、最後には目を逸らす。

 ショックのあまり固まるダンテの肩をポンと叩くミュウ。

「小さい事、気にしない。心、大きく。小さいのはチン○ンだけでいい」
「待てぇぇぇ!!! いつ見たの! ねぇ!!」

 滂沱の涙を流すダンテにミラーが優しく肩を叩く。

「私は大きさで差別しません。男の連帯はオリハルコンより固いですよ」

 そうじゃないんだ、とばかりに涙ながら首を横に振るダンテにトドメが入る。

「くそぉ! 自分の後ろにダンテがいるというのがアタシの心の拠り所だったのに……」

 遂にダンテは力なくその場に崩れ落ちた。



 ダンテが膝を抱えて、体から心が旅に出ている頃、アリア達はミラーから冒険者としての最後の説明を受けていた。

「というのが、冒険者ギルドからの説明になります。まあ、家の方で同じ説明を何度も受けてらっしゃると思いますが齟齬はなかったですか?」
「ん、問題ない」

 アリアが返事し、それに倣うようにレイアとスゥも頷く。

 しかし、反応のない人物、ミュウにみんなの視線が集まる。

「……がぅ!!」

 力強く頷くが、それが返ってアリア達の疑惑を深める。

 疑惑の視線を向けるスゥに太めの眉をキリッとさせて、ぶれない瞳で見つめ返す。

「ミュウ、貴方、分かってないでしょ?」
「分かってる、良い子でいる、悪い子ダメ!」
「あのな、自信ありげに言い切ったら誤魔化せるとか思ってるだろ?」

 ミュウはシホーヌやアクアの嘘がばれる瞬間を数々見てきて、迷いや戸惑いを見せたり、自信なさげになるとダメだと理解する。

 戦いと同じと野生の本能で理解していた。

 目を逸らしたら負けるの理論である。

 ミラーに目を向けるアリアが口を開く。

「ん、後でダンテにちゃんと説明させておく」
「まあ、それでいいでしょう。お馬鹿さんですが悪い子ではないので規約に引っ掛かるような事はしないでしょうしね」

 ミラーは肩を竦めて微笑を浮かべる。

 本当にミラーはミュウ、ダンテに関して、その辺りは信用していた。だが、残るアリア、レイア、スゥは必要とあれば平気で確信的に裏をかこうとするという違う信頼をしていた。

 だからこそ、この5人は余程の事がない限り、お互いがブレーキ役になって悪さしないとミラーは見ていた。

 そんな5人を微笑ましく見ていたミラーが思い出したかのように自分のディスクの引き出しをあさりだす。

「そうそう、貴方達に渡すのは冒険者ギルドカードだけではなかったんですよ。あっ、あった」

 取り出した封書を片手にウィンクしながら振ってみせるミラー。

 首を傾げるアリア達は封書を見つめながら聞いてくる。

「手紙?」
「はい、ザガン冒険者ギルド経由で昨日届いた手紙で貴方達宛てです。差し出し人はヒース君ですよ」

 ヒースの名を聞いた瞬間、ミラーの手から手紙を掻っ攫うレイア。

 心が旅に出ていたダンテもヒースの名を聞いて復帰して「えっ? 今、ヒースって言った?」と言うとアリア達の下に戻ってくる。

 封筒の封を千切って中身を出した衝動に戦うレイアであったが、ミュウからナイフを借りると丁寧に切って開く。

 手紙をおそるおそる開くレイアの後ろに子供達は顔を突き合わせて覗き込む。


『皆さん、お久しぶりです。ヒースです。覚えて頂いているでしょうか? あれから2年経ち、10歳になり5の冒険者になった僕は約束通りダンガを目指すつもりです。この手紙を出した便の3日後の船に乗りますので、到着もそれぐらいになるかと思います』


「おい、ヒースが来るってよ! 約束忘れてなかったな!」
「ん、でも、今まで手紙を寄こさなかったから忘れてるのかと思った」
「きっと自分を鍛える事とお父さんの手伝いで忙しかったんだよ。この手紙の言う通りなら明後日には来るみたいだね」

 嬉しそうにレイアが喜び、アリアが少しビックリした様子で頷き返す。

 ダンテの言葉に慌てて行動しそうになるレイアをスゥが止める。

「まだ2日あるの。それより続きを読むの」
「あ、ああ、そうだな」

 そう言うと一度閉じた手紙を開いて続きを読み始める。


『元々、誕生祭後、すぐに出発しようと思ってたのですが、皆さんと別れる時に『試練の洞窟』をソロ攻略すると豪語していたのに、できてなかったので2か月ほど延長して頑張りましたが、なんとかできたのは鍵のカードを取得まででした』


「男が口にした事しない、格好悪い」
「仕方がないよ。僕達もアレを体験したけど、僕達でもできないよ? むしろ、ソロでカード取得まで出来た事を褒めるところだよ」
「そうなの。私達でヒースと同じ事ができる可能性があるとすれば、レイアとミュウだけなの」

 駄目だしするミュウにスゥとダンテが擁護する。

 別にレイアとミュウの能力が秀でてるという話ではなく、戦い方のスタンスの問題上である。

 スゥにしてみれば固いので時間をかければ戦えるが、それが許されず、ダンテは区切られた空間で戦うとなると立ち回りがきつくソロは現実的ではないだけである。アリアもスゥと似た理由で決定打不足で無理であった。

「理屈の上では可能だとは思うけど、どうやって戦ったか興味あるよね?」
「ん、それは今度会った時に聞けばいい、レイア、続き」

 アリアに急かされたレイアは続きの次の紙を捲る。


『ちょっと情けない結果でありますが、仮免という事で納得して貰おうと思っています。正直言うと皆に会いたくてしょうがなくないんです。この2年でみんなはどう変わったでしょうか? ダンテ、別れる時に男らしくなるって僕と誓ったの覚えてる? 僕も頑張りました。答え合わせするようなドキドキが止まりません。他のみんなは綺麗になったのかな? それとも可愛くなったのでしょうか? 凄く楽しみにしてます。皆と会えるのが待ち遠しいです。それではダンガで……ヒース』


「間違いなく、一番気になってるのはアリアの事なの」

 スゥがアリアを見つめるが軽く首を傾げるがそれだけで特に表情に変化が見えない。相変わらず、雄一以外には興味はないようだ。

 それについてはスゥも同じだが、その事についてアリアとスゥは固く手を結んで協力体制に成らざる得ない事態に陥っているがそれはまた違う機会に。

 手紙を最後まで読み終えたアリア達の内、2人が頭を抱えてその場で蹲ると叫ぶ。

「ああっ! 明後日って間に合わねぇ!!!」

 可愛い、綺麗と言えば綺麗寄りに成長しているレイアであるが、ホーラに近い姐御属性を強く表に出ており、そういう評価が難しい。

 逆にアリアは戦闘などする冒険者に見えない愛らしさが全面に出てきて、最近では良く見ないと双子と気付かれない事が増えてきていた。

「ごめんよ! 僕も頑張ったつもりなんだ! でもぉ……」

 再び、ウルウルと泣くダンテはどう見ても美少女である。

 男らしさ? むしろ女に磨きがかかっていた。

 嘆く2人に嘆息するアリア達は顔を見合わせる。

「何をともあれ、無事、冒険者になった報告とヒースを混ぜた6人でこれから頑張るというのをユウさんに報告する」
「そうしましょう。ユウ様も私達の報告を首を長くして待ってるはずなの。ミュウ、そこで騒いでる2人を引きずってきて欲しいの」

 アリアの言葉に頷くスゥはミュウに壊れてる2人の面倒を頼む。

 ミュウもガゥと快く頷くと2人の襟首を掴んで冒険者ギルドの出口へと歩き始める。

 アリアとスゥがミラーに頭を下げる。

「これからもよろしく」
「色々、ご迷惑をおかけするとは思いますがよろしくお願いしますの」
「はいはい、ですが、私としては少しぐらいヤンチャの方が楽しいので程々が大事ですよ?」

 アリアとスゥにミラーが口の端を上げるイヤラシイ笑みを送る。

 顔を見合わせる2人は、やっぱりこのエルフは駄目だ、と頷き合うとミュウを追いかける為に冒険者ギルドを後にした。





 家に帰り、早速、雄一に報告したアリア達への第一声は、

「ダメ!!!」

 口をへの字にするエプロン姿の雄一が涙目で両手をクロスして叫んでいた。
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