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7章 DT包囲網!?

193話 ペーシア王国の王様は……のようです

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 パラメキ国の東に位置するペーシア王国の城の王の間は重苦しい空気に包まれていた。

 色々、手を尽くして奇襲という形でパラメキ国に攻め入ろうとしていたが、気付けば、攻め入る予定のパラメキ国だけでなく、ナイファ国も知るところになっていた。

 それだけでも頭が痛い状態であったのに、隣国のシキル共和国にまで知られていた。

 まさに重鎮達のザルっぷりが露呈した形であった。

 今までは、鉱物資源、海鮮物に恵まれていたので輸出国として、国の舵取りにシビアさが求められてこなかったが問題として、ここで表れていた。


 そんななか、国王、ジンガ―は頭を抱えていた。

 政治的に使い道が結婚ぐらいしか価値がなかったとはいえ、可愛い娘を嫁に出す事でナイファ国は勿論、パラメキ国の目を逸らす目的だったが、結果はこの有様であった。

 国の重鎮達にとってはハミュは捨て駒ぐらいの価値しかなかったが、このジンガ―、実はかなりの自分の娘には甘い父親であった。なので、嫁に出す決断を迫られた時は、声を大にして反対したかった。

 だが、『ホウライの予言』をチラつかされてしまうと、沈黙させられ、国王としての決断をさせられていた。

 しかし、それが全てが無駄という結果になってしまった事を受けて、主だった者を集めて会議が行われていた。

「で、宰相、キシリよ。お前達が自信ありげに語った策が頓挫したようだが、どう落とし前を着けるつもりだ?」

 もうちょっとで、「俺の可愛いハミュを生贄にしてまで行った策を失敗してよくここに顔を出せたなっ!」と怒鳴りそうになったが飲み込む事に成功したジンガ―。

 宰相達も、いかつい顔をしたジンガ―がそんな事を考えてると露知らず、息を飲む。

 このいかつい顔をゼクスが見れば、父親に似なくて良かったと胸を撫で下ろしたであろう。

「さ、策というのは必ず成功するものではありませぬ。何事も失敗する事を前提に次の策を考えておくのが我らの仕事。ナイファ国といえど、すぐには動けはしません。電撃作戦で……」

 ジンガ―のかけられたプレッシャーだけで顔色が悪くするキシリ。

 とてもじゃないが宰相の器ではない。穏やかな国柄で平和だったので能力より家柄、財力で役職に着いても困らなかった事がここにきて弊害が生じていた。

 ジンガ―に必死に説明をしようと、あたふたするキシリの言葉を遮るように兵が飛び込んでくる。

「会議中失礼します。火急の報せでございます」
「馬鹿モン! 今は大事な会議中だ、後にしろ!」

 ジンガ―に追い詰められてたキシリはどこかホッとした顔をしながら、飛び込んできた兵を怒鳴る。

 兵とて、今の状況は分かってるはず、しかも、扉を守護してた者が通すという事態でこの会議に関わる事だと判断したジンガ―は、

「よい、報告せよ」
「こ、国王……」

 ジンガ―にそう言われて立場を失くしたキシリは情けない顔をして歯を食い縛る。

「はっ、使節として潜り込んでる諜報部隊からの連絡です。ナイファ国、エルフの両軍がパラメキ国へと進軍を開始。パラメキ国北東部で軍事訓練という名目とのこと」

 パラメキ国北東部、その場所はペーシア王国とシキル共和国に睨みを効かせられる場所。

 つまり、攻め入るという事は、パラメキ国、ナイファ国、エルフの3つの軍を相手にするという事を意味していた。

 シキル共和国の動きを見てる限り、向こうはこちらを警戒して軍を動かす用意をしてたと思われる事から、手を組む話には持っていけそうにない。

 平和ボケしたペーシア王国では、パラメキ国の1国だけを正面から挑むだけでも難しい戦いを強いられると判断していた。
 ハミュを嫁に出す事でそちらに目をがいってる間に背後から奇襲のという流れだったのだが……

「キシリよ」

 名前を呼ばれただけでビクつくキシリは、青い顔に脂汗を滲ませてジンガ―に顔を向ける。

「電撃作戦の策も潰されたようだが、勿論、次善策を用意しておるのだろうな?」

 ジンガ―に見つめられたキシリは上ずりながら、必死に言い訳を並べ始める。

 ついに我慢の限界がきたジンガ―が吼える。

「あるかないか、はっきり言え!!」

 その声に腰砕けになったキシリはペタリと座って沈黙をした。

 キシリの態度に鼻を鳴らしたジンガ―は他の者達に指示を出す。

「パラメキ国、ナイファ国の両国に使者を出せ。書面の内容は和平会議の申し込みだ。もう見栄を張ってもいい事などない。謝罪の意思がはっきり伝わる文面で用意しろ。出来次第、俺の所に持ってこい」

 どう考えても戦っても滅ぶしかない。座しても滅ぶしかないのであれば、今あるものを全て差し出しても国民だけでもなんとか受け入れてくれるように頼み込むしかない。

 その結果、王族の地位を捨てる事になってもいい、そうジンガ―は考えていた。

 だいたい、キシリ一派は、パラメキ国もナイファ国も、どちらでも1国ずつであれば勝てると思っていたようだが、正直、どうだろうとはジンガ―は思っていた。

 ジンガ―自身も戦争を体験した事がない。もっと言えば国内の小さい小競り合いすら体験してこなかったので強く言える根拠がなかった。

 キシリの言い分で唯一頷けたのは奇襲さえ成功すれば、パラメキ国は落とせただろうという1点のみだ。

 だが、やはり最初から頼み込む形でペーシア王国を解体する覚悟でいくべきであった。

 しかし、それだと地位を守れない者達、特にキシリ一派が一番反対して今があった。

 4年前の2国であれば、横の繋がりを利用し合う事でそれなりの地位を約束して貰えただろうが、あの戦争後、実力主義が用いられており、我が国の重鎮のほとんどは弾かれる未来が待っているだろう。

 もうそんな心配をしてる場合ではなくなった。

 他の重鎮達からも苦情が上がる事はない。選択肢がないのだから。


 王の間から全ての者達が出て行ったのを見送ったジンガ―は口許を緩める。

「ハミュ、もうすぐ迎えにいくからね? まだお嫁に行くには早過ぎる!」

 トトランタの一般論でも早いとも言えないし、王族なら一ケタの年で婚約もあり得る。

 色々の建前を取り外せば、この男、只の親馬鹿であった。







 キシリ宰相の執務室では、キシリ一派と商人、ゴードンと繋がりがあった商人がエイビスの追手を振り切って、ペーシア王国入りを果たして逃れた者達が集まっていた。

「キシリ殿、お話が違います! これでは、エイビスの目を掻い潜って根回ししたのが水の泡でございます!」

 商人は、キシリの指示で過去の繋がりで金さえ積めば耳を傾ける商人を中心に多額の身銭を切って、エイビスにばれないようにゆっくりと根回しをしていた。

 パラメキ国を奪った暁には、国のお抱えの商人にするという約束を取り付けていた。

 商人は知らない。

 その根回しが原因でエイビスに今回の事を気付かれる要因になっている事を、とてもじゃないがキシリを責めれる立場ではなかった。

 商人に反応を示さないキシリは親指の爪を噛みながら、貧乏ゆすりをする。

 キシリを取り巻く者達も不安そうに見つめながら、周りに居る者と目を交わし合う。
 つまり、沈みゆく船から逃げる、という考えを巡らせ始めていた。

 それに気付いたキシリが金切り声をあげる。

「もう今更引き下がろうが、一蓮托生だ。俺達は処分される!」

 目を血走らせながら荒い息を吐くキシリは、何かを思い付いたようで身を乗り出す。

「確か、ナイファ国、パラメキ国の両国が大事にしてる場所があると報告があったな。ストリートチルドレンに教育を施す場所だったか? そこを押さえられたら……」

 キシリの言葉を聞いた商人が慌てふためく。

「キシリ殿! それだけはやっては駄目です。噂は知っておられるでしょう? あそこには国を相手にするより恐ろしい男がいる場所……」
「ええい、そんな噂話を真に受けているのか! もうこの手しかないのだ!」

 荒い息を吐くキシリは取り巻きに使節団に指示を出すように命令する。

 取り巻きは慌てて対応し、商人は大陸からの逃亡を視野に城を出る。

 この場で正しく危険を把握したのは商人のみで、キシリはもっとも取ってはいけない手段を選んでしまったであった。
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