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5章 DT、本気みせます!

144話 いい啖呵だったようです

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 ホーラ達はナイファ陣営に到着し、女王と面会していた。

 事情説明を聞かされて、長い時間、女王は黙り込んでいた。

 女王は、ポプリの置かれている状況が微妙な立場である事を知って苦悩する。

「ポプリさん、いえ、ポプリ王女、貴方を正直どう扱えば良いか……とても難しい」

 それを聞いてポプリは神妙そうに目を伏せて女王の判断を黙って待つ。

 女王の言葉を聞いたホーラは、国同士の事は分からないが、これを商売敵の下に向かった者が帰ってきてのを処罰しないと同業者、部下に示しが付かず対応に困っていると変換すると理解に至る。

 この考え方が間違っていないのであれば、雄一がやってくるまでに自分で解決できると考える。

 本来なら雄一を待つのが正しいと理性が訴えるが、いつまでも雄一の背中におんぶされる関係ではいられない。

 一日も早く雄一と対等の目線で語れる関係になりたいと成長を望むホーラの心が叫ぶ。

 そうじゃないといつまでも雄一が自分を1人の女性として見てくれないという強迫観念があるのは否定しきれない。

 だから、言葉にする前に必死に考える。

 成果を急いで盲目になっていないかと……

 何故、女王は事情はともかく裁いた方が話の早いポプリを裁くのを躊躇い、悩むのであろう。

 勿論、雄一の関係者であり、雄一がいないうちに結果を出すのは国のトップとしても雄一と距離ができるのを嫌っているのは間違いない。

 息子、娘の慕い方を目当たりして母親として、余り考えたくはないがどうやら女性としても意識をしてると思われる女王は躊躇っている。

 では、理由がそれだとして、躊躇しているという事は何かを求めている事にはならないだろうか?

 今、この状況を動くに値する理由。

 例えば、このままポプリを裁く方向に進めても雄一に反感を買わない方法とか……いや、これはどう理屈を捏ねようと納得するような男じゃないのは女王とて理解している。

 まして、ポプリの立ち位置だと責任を求めるのも難しく、実質な被害を出していない。

 ならば、求めているのはポプリを放免しても周りで騒がれる声を抑えられるぐらいに留める方策。

 ホーラは必死に考える。

 小細工は色々と浮かんでくるが、簡単に切り返される言葉ばかりが浮かんでくる。

 友達を救う為に、そして、あの背中に追い付く為に……

 そこまで考えた時、ふと思う。

 雄一はどうやってポプリの救うつもりだったのだろうと。

 自分の中にある材料だけではどうにもならないのなら、雄一ならどうするつもりだったのだろうと頭を捻り出す。

 悩む女王に痺れを切らし始めた随行してきた今まで何もしてなかった文官達が騒ぎ始める。

「女王、何を悩まれる。パラメキ国はした事は許される事ではありません。お忘れか? ゴードン達を匿い、今まで奴隷取引をしていたような輩です。長い事、国を離れていたとはいえ、血族を見せしめに処刑したところで誰も文句は言いますまい」
「国民は文句は言わないかもしれない。でも、処刑しなければならないとも言えないでしょう。少なくとも1人、そんな適当な理由では納得しない人がいます。それとも、あの人を納得をさせられ理由を貴方は述べれますか?」

 文官の代表がそう言うのを女王がそう切り返してくると、しどろもどろに益体もない言葉を並べ始める。

「そんなもの、国の決め事に義勇軍の男の顔色を伺ってどうされる」
「ちょっと、よろしいか?」

 文官の今の言葉を聞いたロゼアが手を上げて割り込みを求め、女王を見つめると女王が発言を認めると同時に少し驚いたようなような顔をする女王に周り者達が一瞬、不審そうに見つめるが笑みを浮かべて手を振ってみせて、ロゼアの発言を促す。

「ナイファ国の国の中枢を担う汝らがそういう考えであるなら、我らはエルフはアヤツに付くと宣言させて貰う。おそらく、そう言いだすのは我らだけではないと思うぞ?」
「ええ、我ら軍部もあの方と敵対する考えはありません」

 ロゼアの言葉を受けて、団長も返答する。

 感情的にも文官達が言う言葉に反論したいという思いもあったが、前線に出ていた者達は、雄一の恐ろしさを嫌というほど知っている。敵に回したら滅ぼされるのはこちらだと理解していた。

 そうなる事を理解していた女王は美しい眉を寄せて辛そうな表情を見せる。

 それを見ていたホーラは、このままだと国が割れると唇を噛み締める。

「ちょっと待つさっ!」

 ホーラはまだ考えも纏まらないままに口を気付けば出していた。だが、一度口を挟んだ以上、なんとかして見せると決意を滲ませて一歩前に出る。

「なんだ? 子供がいるだけでも不思議だったが、口を挟むとは無礼な」

 文官がそう囀るが、団長が切り返す。

「今、話の渦中に上がっておられる雄一様の所の少女です。そこにいるエルフの少年とたった2人で魔法兵1000人とその護衛の2000人を翻弄し、半壊させた功労者です」

 それを聞いた文官はホーラを恐れるよう見るがホーラは意にも返さない。

 そうフォローしてくれた団長だったが「今は大事な話をしているので割り込まないで頂けますか?」と頭を下げてくる。

「いいや、こんな大事な、家の者の命が左右する話に傍観なんてしてられないさ! だいたい、生まれがどうとか言ってるけど、家族に捨てられるように生きてきたポプリに何が求められる責任があるさ」

 もう言いながら考えるしかないと腹を括ったホーラは啖呵を切る。

 ホーラの言葉に苛立ちを隠さない文官が激昂する。

「無礼な! 高貴な生まれは常に責任が付いて廻り切り離せるモノではない。今なら功労者という事で目を瞑るからこの場から出て行け」

 その言葉にホーラの深い所にあるモノが切れる音を聞いた気がした。そして、そこから生まれる爆発するような感情を留めてはいけないと心が叫ぶがままに指を突き付ける。

「よく言ったさ、良く耳をかっぽじって聞けっ! アタイはストリートチルドレンさ、何故、捨てられたなんて説明する必要なんてないさ?」

 ホーラがストリートチルドレンと知って、文官達の目が蔑む。

 その目にも気にもしないホーラは続ける。

「なら、アタイはどこぞでアタイを生んだ貴族様とやらが罪を犯したら、責任を取って死刑? それこそ、ふざけるなさっ!」

 文官達はやりにくそうに顔を歪める。

 ロゼアや団長達は、視線のやり場に困るように目を伏せる。

「その高貴とかいう責任には子供を捨てる事は駄目というのは含まれないとでも? まさか、自分は捨てた事がないから関係ないとか思ってるさ?」

 捨てた事があるのかないのかは分からないがホーラの感情の籠った言葉に圧されるように目を反らす。

 ホーラは歩いてポプリの前に出ると激しい感情が成りを潜ませるが、その声から伝わる重さがとても11歳の子が滲ませるとは思えない圧力にその場を支配する。

「知ってる? 捨てた子供が真っ当に生きてると知ると邪魔をしてくるさ。妨害なんて可愛らしい話さ。散々、追い詰めて、追い詰めてから、殺して、と言わせる遊び……そんな輩が高貴? それを見て見ぬふりしてたアンタ達がそれを言うと滑稽さ。アタイ達、ストリートチルドレンはそれをイヤってほど見てきたさ」

 ポプリが、ホーラに何かを言おうとするがホーラに目を細められただけで黙らされる。

 力みもなく自然な歩き方で文官達に近寄るホーラは手近な者から声をかける。

「ねぇ、答えてよ。捨てられた子が背負う責任って何さ?」

 ホーラの目を見る事もできずに大の大人が必死に目を反らす。

 余計な追撃をせずに、隣に「ねぇ?」と問いかけて廻るが、誰も答える事ができない。

 そして、代表で語っていた文官の前に来たホーラが虚ろな視線で問いかける。

「アンタは高貴?」

 文官は拳を握り、口をワナワナとさせるがホーラの瞳に負けてつま先を見つめる。

 ホーラはそれ以上何も言わずに、再び、ポプリの前に戻ったホーラは辺りを見渡すようにする。

「それでも、ポプリを裁くと声高に叫ぶなら、覚悟をするといいさ。例え、ユウが何も言わなくても、アタイを止めようともアタイは自分、いや、ストリートチルドレンの代表として、こんな理不尽と戦ってみせるさ!!」

 ここでホーラは感情を爆発させる。

 文官達を睨みつけて、「死んでもアンタ達の首元に噛みついてやるさ!」と叫ぶと文官達はホーラの気迫に圧されて尻モチを着く。

 憤るホーラの隣にテツがやってくる。

「ホーラ姉さん、僕も同じ考えです。ユウイチさんに止められたら悲しいですけど、僕が見つめてきたあの大きな背中に教えて貰ったモノが叫ぶんです。引いちゃ駄目だって、家族の為に立ち上がり、護らないようなクズにはなるな、と」

 テツも真っ直ぐに前を迷いもなく見つめて笑みを浮かべる。

「僕達が揃えば、やってやれない事はないですよ。そうでしょ? ポプリさん」

 にっこり笑うテツがポプリに手を差し出す。

 虚を突かれたような顔をするポプリがホーラをチラリと見る。

 その視線に肩を竦めて苦笑いするホーラ。

 差し出された手を取るポプリは、ホーラの真似をするように肩を竦める。

「これはテファに報告の必要を感じるわ。テツ君は天然の女たらしの可能性があるって、私は心に決めたユウイチさんというモノがいたからブレないけど、浮気には注意ってね」

 慌てるテツが、「ちょ、ちょっと待ってください。変な事吹き込まないでぇ!」と慌てるのを横目に小さな笑みを浮かべる。

「私も何を綺麗に纏めようとしてたのかしら。自分がいなくて関わり合いもなく、冒険者として歯を食い縛って生きてきたのに、どんな責任を負うと考えてたのか……またユウイチさんに叱られるところだったわ。私は灼熱の魔女、ポプリ。全力で抗ってみせる」

 意思の籠った瞳をしたポプリが前方に見つめる事で場の空気が張り詰める。

 それを見ていた女王が勝敗あり、と判断して口を開くタイミングを計っていると天幕の入り口から声がする。

「お母様、もう良いのではありませんか? もうどこからも文句も出ないでしょう?」

 入ってきたのゼクスであった。

 良く見るとその後ろにはスゥの手を右手で取り、左手にはアリアを抱え、肩の定位置にはミュウをセットした大男が笑顔で現れる。その後ろには見慣れないピンクの団子頭の少女の姿もあった。

「見てたぞ、いい啖呵だった、3人共」

 入ってきた大男、雄一を見つめて3人が目を点にさせる。

 挙動不審になる3人であったが最初に立ち直ったテツが雄一に問いかける。

「えっと、どこから?」
「あっ? ロゼアが「ちょっと、よろしいか?」の辺りか?」
「話が動き出した直後からさっ! なんで出てこなかったさ!!」

 涙目で噛みつくようにやってくるホーラに「まあまあ」と言うと雄一の代わりにアリアがホーラの頭を撫でてみせる。

「ホーラ達も周りの注意が散漫になってるのも問題だぞ? まだ鍛えないといけないところが一杯だ。何せ、女王は俺の存在に気付いてたぞ?」

 3人が慌てて女王を見ると、シレっとした顔をして咳をしてそっぽ向く。

 途中からまったく話さなくなっていたロゼアの隣にいたカシアがホーラを覗き込むように言ってくる。

「女王よりは遅れたけど、僕達も気付いてたよ?」

 ロゼアも目を瞑って頷いてみせる。

 項垂れる3人を横目に雄一は女王に語りかける。

「で、ホーラ達の言葉を受けた女王としての判断は?」
「勿論、処罰はしません。文官達には場合によっては謝罪をさせるつもりもありますが、ポプリさんには強制ではありませんが、後でお願いがあるので快く受けて頂けると嬉しく思います」

 悔しそうにする文官をチラリと見た女王はそう答えると視線が雄一からずれて隣にいるリューリカに捕える。

 同じようにロゼア達も見つめるなか、ホーラが拗ねた顔をして雄一に問いかける。

「それはそうと、その子は誰さ?」

 ホーラの剣呑な視線を受ける雄一は頬に汗を流す。しかも、剣呑な視線を飛ばしてくるのはホーラだけでなくポプリと女王もであった。

 その視線に圧される雄一は、ホーエンよりこえぇ、と声に出さずに口パクするが更に視線が強まり、首を竦める。

「ああ、この子は火の精霊獣だ」

 そう雄一が言うとその場の空気が凍る。

 そして、いち早く解凍されたロゼアとカシアが慌てて平伏した。
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