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3章 DT,先生じゃなく、寮父になる

幕間 3人の冒険者と昇竜に飛び乗る商人

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「という訳で、受けるかい?」
 「はい、受けさせて貰います!」

  金髪をオールバックにした軽薄な笑みを浮かべながらも目が笑ってない男に怯まないように腹に力を入れて、3人いる少年の1人、立つような短い赤髪少年、ダンが代表で答える。

 「おやおや、即答かい?」
 「えっと、入団したら、ホーラ達のように訓練にも参加できますよね?」

  スカートを履いていたら、まず間違いなく女の子に間違えられそうなハニーブラウンの髪をボブカットにした少年、トランが伺うように聞いてくる。

  目の前の男は肩を竦める。

 「別に入団しなくても、真摯にお願いしにいけばアニキなら指導してくれたと思うけどね」
 「俺達は、ストリートチルドレンに誰も目を向けずにいたのに、手を差し伸べるあの人の下で少しでも役に立ちたいという思いがある。そう、北川コミュニティという看板を背負いたい」

  雄一ほどではないが大柄で同じように長い金髪を後ろで無造作に縛り、頬に傷がワイルドさを醸し出すその容貌は体格では勝利を収めたが残念ながら雄一の完敗の少年、ラルクが膝に両手を置いて深々と頭を下げてくる。

 「はっはは、君らもアニキにやられた口か」

  自分の事を思い出したのか、珍しく照れた笑いをする男は頬を掻きながら言う。

  3人は力強く頷き、ダンが身を乗り出して言う。

 「是非、俺達にやらせてくださいっ! コミュニティ代表代理、リホウさんっ!」
 「じゃ、よろしく頼むよ。後、その代表代理とか肩書は言うの止めてよね、リホウでいいから」

  リホウは、「肩が凝るんだよ」と本当に肩を揉みながら嫌そうな顔をしてくるのを見て、3人の顔に笑みが浮かぶ。

  そんな3人を見つめたリホウは胸元から雄一から預かった手紙を身を乗り出したままのダンに手渡す。

 「君達への依頼は、その手紙を王都の大商人エイビスに直接手渡し、返事を聞いて帰ってくる事。頑張ってね」
 「はい、行ってきます!」

  受け取ったダンは笑みを全開っ!といった感じにさせ、両手で手紙を受け取ると、後ろの2人に頷いてみせる。そして、頷き返されたダンは、リホウに一礼すると出発する為にこの場を後にした。


  すぐに出発の準備が済み、王都へ向けて馬車で出発する。片道3日の行程である。

  御者をするダンは情けない思いが溢れる顔を正面に向けながら溜息を吐く。それを見ていたトランが話しかける。

 「どうしたの、ダン?」

  小首を傾げるトランは少女のように可愛い、見慣れたこの面子以外にそれをやると高確率で相手をときめかせる魔性の少年である。

 「ん? ああ、何から何まで、あの人にはお見通しだなって情けなくなってな」
 「そこは感謝するところだろう? 俺達が日々のギリギリの金しかないと考えを巡らせて旅の資金と馬車を手配してくれたのだから」

  目を瞑ってバスターソードを抱えるようにして座るラルクがダンに諭すように言ってくる。

  2人の言葉を聞いて、納得がいったトランは掌にポンと打つ。

 「そうだよね、でも普通なら相手の懐事情を考えて、手を打ってくれるなんて有り得ないよ。凄い人だよね、あの人は」

  両手を握り締めて、陶酔するように空を見つめるトランは知らない人が見れば恋する少女である。

 「でもよ、やっぱり情けねぇよ……」
 「そこは、俺達があの人の名前に恥じないような存在になって、役に立てばいい。その出発点となるこの依頼を達成する事だけを今は考えればいい」

  ラルクはそうダンにそう言うと、言われたダンも気持ちの切り替えが済んだようで、「ヨシッ!」と気合いを入れるといつもの彼に戻る。

 「この恩は何倍にも大きくして返せばいいよなっ!」
 「その意気だよ、ダン」

  後ろにいるトランがダンに拍手をして褒める。
  盛り上がる2人を片目だけ開けて見つめるラルクは微笑を浮かべる。

 「さあ、待ってろ、王都。どんなとこか知らないけどっ!」
 「何気に僕達、初めて行く場所だからね」

  苦笑するトランに釣られるようにして2人は笑い声を上げて、馬車は王都を目指した。


  旅は順調に進み、以前は、噂では途中にある森に山賊がいるという話だったが、まったく襲われる気配もなく無事に通り抜けられた。

  王都に3日目に到着するが、ダンとトランは口を開けて王都の街並みを見つめる。ラルクですら、眉を寄せているほど少し驚いているようである。

 「人、多っ!」
 「うわぁ、建物も綺麗だし、大きいメインストリートだよね」

  うんざりするダンと開けてた口を覆うように両手で隠すトランは、そう感想を漏らす。

  いち早く立ち直ったラルクは、頬の傷をなぞるように触れながら話す。

 「ここでボケっとせずに、指示された場所に馬車を預けて、エイビスという商人に会いにいこう」
 「おう、そうだな。俺達は重大な使命を帯びてきてたんだっ!」
 「僕達には使命と言っても過言じゃないけど、他人から見れば手紙の配達だけどね」

  肩肘張って意気込むダンにトランはクスクスと笑いながら茶々を入れる。

  そう言われたダンは、「切ない事言うなよ」と肩を竦めるが、肩に無駄に入った力が抜けている。

  項垂れ気味のダンは馬車を操作して、雄一が利用した馬車預り場所を目指した。


  馬車を預ける為に唯一、簡単な文章なら書けるトランが記帳している隣で、店主にダンが説明する。

 「なぁ、おっちゃん。エイビスっていう大商人のいるところ知らない?」
 「エイビスさんにお前みたいな冒険者が何の用だ?」

  そう聞いてくるダンを訝しい目で見つめる店主を横からラルクが話しかける。

 「俺達が個人的に用があるんじゃない。依頼で手紙の配達を頼まれているだけだ。その依頼人がアンタに聞けば間違いなく知ってるはずだと聞いている」
 「誰が言ってるって?」

  ダンからラルクに目を向け、訝しい雰囲気はそのままに上乗せするように面倒そうな空気を生む店主は、嫌な客がきたとボソボソと呟く。

  そんな店主にダンが切れそうになるのをラルクが止めると、店主を見つめて失笑する。
  それを見た店主の額に血管が浮くがそれを無視してラルクは言葉を紡ぐ。

 「以前、アンタにエイビスに情報をリークされたという人からだ。結構、その事を根に持ってるかもしれないな」
 「だから、誰だと言っているっ!」

  ついに切れた主人を笑みを浮かべたラルクは伝える。

 「ユウイチという人だ。アンタらには『チョンドラ』と言えば通りがいいか?」

  ラルクにそう言われた店主は真っ赤にしてた顔を一気に青くして俯いて震える。

  ダンは、ラルクにウィンクをするとラルクは笑みを浮かべて肩を竦める。

 「そうか、アンタは知らない、もしくは、教えてくれないのか。ユウイチさんには俺達からしっかり伝えておくわ」

  仕方がないと両手を上げて首を振りながら、ダンは振り返り、トランとラルクを見つめて、帰る素振りをする。

  慌てた店主がダンを袖を掴むと嘆願してくる。

 「坊主、いえ、坊っちゃん。エイビスさんの住まいは勿論、知っております。お伝えしますので、どうか、どうか、ご報告は穏便にお願いします」

  ダンの袖から手を離すと土下座する店主にさすがに3人も驚いた。

 「分かりました。ちゃんと教えてくれたと報告しますので、土下座を止めて教えてくれませんか?」

  トランがそう言うと、飛び上がるように立ち上がる店主は、これでもかというほど細かく道を説明してくる。

  教えて貰い、3人は店主に感謝を告げると店を後にする。

 「びっくりするぐらいに、態度が変わったね?」

  苦笑するトランは若干頬を引き攣らせながら言ってくるが、ダンは自分の事を褒められているかのように嬉しげに声を上げて笑う。

 「それはやっぱりユウイチさんだからなっ!」
 「あの人は、王都で何をやらかしたんだ?」

  無意識に頬の傷に指を這わせるラルクは唸るように腕を組むと考え込む。

  3人は、冒険者ギルド前で失神者続出させた悪鬼の話や、鼻歌交じりに500人の荒くれ者を薙ぎ払った事を知らない。

 「何やったか知らないけど、ドラゴンを一発で仕留めるような人だ。何してても不思議じゃない。きっと驚く事はしてるんだろうけどさ」

  ダンの言葉に2人は笑みを浮かべて頷く。

  この3人は雄一がドラゴンを仕留めるのを見て、その傍で真っ当に生きるホーラと自分達を見比べて、いてもたってもいられなくなって3人で冒険者を始めた。

 「さあ、俺達の仕事を全うしてこようぜっ!」

  ダン達は店主に説明された道を辿るようにしてエイビスの商館を目指した。


  説明された場所に辿り着いた3人は建物を眺めて立ち竦む。

 「ここで合ってるのか?」
 「大きい建物だね。ダンガの領主の屋敷より大きいかもしれないね」
 「相手は、大商人だ。そういうモノと飲み込むしかない」

  ラルクの言葉に頷いた2人は、商館の中へと入っていく。中に入るとカウンターに若い少年、と言っても3人よりは年上の少年がいたので声をかける。

 「すいません、エイビスさんに手紙を届ける依頼で伺いました。エイビスさんはおられるでしょうか?」

  慣れない丁寧な言葉を四苦八苦して言うダンを目の前の少年は胡散臭そうに思う気持ちを隠さずに見てくる。

 「エイビスさんに? お前達みたいなみすぼらしい冒険者が用とか有り得ないんだが、まあいい、手紙は俺が預かる」
 「いえ、直接手渡し、返事を貰ってくるのが依頼になりますので、取次ぎをお願いしたいのですが」

  トランがそう言うが、手を振って、ないない、と言わんばかりの顔をする受付の少年は言ってくる。

 「お前らみたいな素性の知れない相手を会わせる訳にはいかない」
 「リホウさんから、エイビスさんなら、ユウイチさんの手紙だと言えば会ってくれると聞いている」

  黙っていたラルクが後ろからそう言うが、少年は、「リホウ? ユウイチ?」と首を傾げてる。

 「リホウってのはどっかで聞いた事あるような気がするが、ユウイチって誰だ? そんなどこの馬の骨と知れない相手にエイビスさんが会う事はない……」

  いつの間に近寄ってたか分からない強面の男が少年の髪を鷲掴みすると持ち上げると地面に叩きつけて、鳩尾をつま先で蹴り上げる。

 「ポロン、俺はいつも口を酸っぱく言ってるな? 重要人物の名前は絶対に覚えろと? 酒場の女の名前を覚える前に覚えろと言ってるのに、よりによって今、一番エイビスさんが気にしてる相手の名前を知らないとはどういうことだ」

  蹴られて、胃の中にあるものを全部吐き出した少年、ポロンは涙を流しながら、途切れ途切れに許しを請うが、再び、同じ場所を蹴り上げられる。

 「この少年達を追い返してたら、お前の首と頭はサヨウナラしてたぞ?」

  血反吐を吐くポロンから視線を外すとダン達に目を向ける。

  3人は本物の人のいきなりの登場に飲まれたように直立していると、強面の男が頭を下げてくる。

 「私の名前は、ガッツと言います。受付のポロンが失礼をしました。すぐに主人に確認を取ってきますので、後ろの席で座ってお待ちください」

  3人はカクカクと頷くと素直に席に着くと借りてきた猫のようにおとなしく座る。

  ガッツが奥に行ってから5分と立たずに戻ってくると、3人の前に来ると同時に3人も慌てて立ち上がると直立して迎える。

 「主人がすぐに会うと仰っております。こちらにどうぞ」

  3人は案内されるがまま、奥の部屋へと向かうとガッツがノックして、「入れ」という言葉と共に扉を開くと3人の入室を促す。

  3人が入ると続いてガッツが入ると窓の傍には、長身痩躯の糸目の男が立っていた。

 「ゆっくりと挨拶をしたいところですが、私も忙しい身。早速ですが手紙を受け取らせて貰ってもいいかな?」
 「えっと、念の為なんですが、貴方がエイビスさん?」

  ダンがつっかえ、つっかえに聞いてくるのをエイビスは笑みを浮かべる。

 「馬鹿そうに見えるのに、意外と押さえるポイントは押さえる子ですね。ちゃんと仕事する子は嫌いではありませんよ。ええ、私がエイビスです。証明書などはありませんがね」

  くっくく、と笑うエイビスに気圧されたダンを横からラルクが肘打ちをして正気に戻す。

 「す、すいません、これがユウイチさんから預かった手紙になります」

  そういうとカバンから油紙で覆った手紙を油紙を剥がして、エイビスに手渡す。

  エイビスは受け取るとペーパーナイフで封筒を切り取る。

  すぐに取り出して、内容を熟読始める。

  それをドキドキした3人が見つめる先で、読み終えたと思われるエイビスが弾けるように笑い出す。

  突然の豹変ぶりに3人が驚いていると、エイビスは目の端に浮かぶ笑い泣きした涙を拭う。

 「面白い、本当に彼は面白い。このエイビス、全力でユウイチ様のバックアップを協力するとお伝えください」
 「は、はい、有難うございます。必ず、伝えますっ!」

  ダンがそう言うと3人は顔を見合わせて、依頼が上手くいったと喜びあう。

  後ろで、ガッツが扉を開けるので、浮ついた足取りの3人は退出していく。

  3人が出ていくのを見送ったエイビスが窓の外を見つめながら、ガッツに話しかける。

 「すぐに幹部を招集しなさい。緊急案件です」
 「しかし、大きな商談に挑んでいる者や、休暇を取っている者もいますが?」

  なんと答えるかは想像付いていたが、ガッツは念押しで聞いてみる。

 「そんな商機を見逃すような愚か者が居れば、斬って捨ててしまいなさい」

  ガッツは静かに礼をすると退出していく。

  エイビスは、先程まで晴天だったのに暗雲が立ちこめる空を見つめる。激しい稲光を見つめ呟く。

 「私は、ギャンブルはしない性質ですが、これを見逃すようであれば、商人として終わってしまいます。私の生涯最初で最後のギャンブルを貴方に全部ベットさせて貰いますよ、私の期待を裏切らないでくださいね?」

  雄一の手紙に指を沿わせ、再び、光る稲光に目を細めて、そこを駆け上がる昇竜の幻視に飛び乗る自分を想像してしまい、照れた笑みを浮かべた。

 「さあ、私は動く時代の上でソロバンを弾くとしましょう……」

  窓ガラスにぶつかる雨音を聞きながら、椅子に座ると考えを巡らせるように目を閉じた。
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