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2章 DT、先生になる

68話 ケジメはつけさせる、らしいです

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 ベルグノートが剣を掲げて、火球を生み出す。

 僕を横目で見つめ、壊れた笑い方をする。

「ティファーニアが黒コゲになったら、お前はどんな顔を俺に見せてくれる?」

 そう言ってきたベルグノートの言葉に僕の背筋に冷たいモノが走る。

 慌てて、観客席を見つめると心配そうに見つめるティファーニアさんが見えた。

 初めて、『マッチョの集い亭』で出会った時、僕は彼女、ティファーニアさんに目を奪われた。

 凛とした雰囲気を漂わせるのに、とても華奢で力一杯掴めば、儚い音を立てて折れてしまいそうな人だと……

 あの細い、小さな肩のあの人は、何を背負っているのだろうと思わせる意思の強さを感じさせる目に僕は惹きつけられた。

 僕は、あの目を知っている。

 お母さんが僕を守ろうとして抱き締めてくれた時と同じ目をしていたのだから。

 だから、僕は確信をする。

 彼女、ティファーニアさんは自分以外の何かを守る為に必死に生きている人であると。

 そんな彼女に、いや、あの瞳に惹きつけられた僕は、彼女が逆風に耐えて守るモノと小さな彼女自身を守りたい、せめて、その逆風を弱める為に何かをしたいと思うようになった。

 なのに、僕は自分が生んだ油断から敗北をして彼女の身に危険に晒し、それをユウイチさんに助けてもらうという失態を犯してしまった。

 そして、ユウイチさんと向き合う事で、僕は、守りたいという気持ちの裏にあった自分の気持ちにやっと気付く事ができた。

 僕は、ティファーニアさんが好きだ。

 そう、ただ純粋にそう思える。

 キッカケはなんであれ、僕はあの人の隣を一緒に歩いていきたいと願う。

 ユウイチさんに誓った、家族を守れる男になるという最初に守る人になって欲しいと僕は願い、守ってみせる。

 ベルグノートに向かって跳躍する。

 空中で前転する事で勢いを更につける。

 その回転中にアクアさんが、

「テツ! それだけは駄目です!!」

 と叫んでくる姿が見える。

 心配かけてすいません、ここは何をおいても下がれないところなのです。僕がこんな事をしなくても、傍にいるユウイチさんが守ってくれるのは充分に理解しています。でも、僕はユウイチさんに言いました。

 例え、ユウイチさんであっても、ティファーニアさんの夢を叶える役を譲るのはイヤだと……

 腕を組み、険しい顔をしながらも僕を凝視して見守るユウイチさんに感謝を……

 ユウイチさんのおかげで僕は覚悟を決めれて、後悔をしない選択を選べてます。

 僕は、尊敬する男がする笑みを意識して口の端を上げて叫ぶ。

「ここが、覚悟を決めて……無茶をする時だぁ!!」

 ベルグノートの剣に僕の剣がぶつかった瞬間、眩しい真っ白な光に包まれたと同時に僕は意識を失った。



 北川一家とティファーニア達が、テツを案じて眩しい光に耐えながら名前を叫ぶ。

 光でやられた目が回復した先には、火傷を負ってもがく審判と大火傷を負ったベルグノートの傍に煙を上げるテツの姿があった。

 遠目に見る限り、ベルグノートより軽傷に見えるテツが身じろぎをするのを見た雄一は安堵の溜息を隠さず洩らす。

 雄一とリホウを除く、メンバーは、テツに駆けよる。

 駆けよったシホーヌとアクアが笑顔で雄一に手を振ってくる様子から、命には別状はないようで肩から力を抜く。

 アクアの加護があったといえ、あれだけで済むテツは、自分が思っているより、体も心も強くなっているようだと頬を綻ばせる。

 が、しかし、すぐに引き締めると隣に居るリホウに話しかける。

「リホウ、エイビスに連絡を取って、動け、と伝えろ」
「了解しました」

 リホウは返事をしながら見慣れた2人がいるほうを睨むように見つめて、視線を切ると雄一に目礼すると去っていく。

 雄一は、肩に巴を抱えるとリホウが睨んでいた方向へと歩いていく。

 歩いて向かう先に居る者も雄一が近づいてくる事に気付いているようだが、脂汗を流して立ち竦んでいた。

 雄一が歩く先にいる人達が、雄一を恐れるように道を開けていく。

 決して、怒りを前面に出している訳ではない。

 まして、周りに振り撒いているつもりもないが、雄一も年若い男、感情を完全にはコントロールできる訳ではなかった。
 その漏れだす怒気だけで、辺りの者達は恐怖に震えていた。

 周りの者で、それなのだから、視線の先の2人は、そんなレベルでは済んでいない。

 視線の先にいるポメラニアンとドランは、硬直して雄一を目を見開いて見つめている。

 ポメラニアンなど、怖すぎて、気絶もできずにゼヒゼヒと荒い呼吸をして白目を剥き、かろうじて立っているという有様であった。

 ドランは、自称といえ、世界最強を謳うだけあって、立ってるのがやっとという有様だが、ガタガタ震える体を必死に抑え込もうとしながら失敗しつつも、口の端を上げて雄一を出迎える。

「な、何か、用か?」
「ああ、大会が終わったら、覚悟を決めておけと伝える為にな」

 雄一は、ドランを冷めた目で見下しながら言ってくる。

「それは、俺に挑戦するということか?」
「何を馬鹿な事を言っている? 挑戦するのは弱者のする事だ。王者は、来るのを待ち構えるのみだ」

 そういうとドランを半歩通り過ぎる。

「俺は、お前が進む先にいるから覚悟を決めておけ、と言っている。それぐらい言われなくても悟れ、三下が」

 そう言うと雄一はそのまま通り過ぎて、テツが運ばれていく先を目指して歩き出した。

 雄一が離れた事で緊張から解放されたポメラニアンは、気が抜けた顔をして、そのまま気を失う。

 ドランも、思わずといった感じで膝を着いて荒い息を吐き出す。

「舐めやがって、お前の思い通りになると思うな?」

 脂汗を拭い、雄一の姿が見えない事を確認してから吐き捨てる。

 ドランは、ポメラニアンを介抱しながらポメラニアンが用意している策を実行する為にポメラニアンの屋敷へと連れて帰った。





 医務室に着いた雄一は、軽くノックをすると扉を開ける。

 入った部屋と隅にテツが、みんなに囲まれている姿が見えた。

 反対側では、医療スタッフが総出でベルグノートの治療にあたるといった姿が見えるが自業自得で、どうなろうが知った事ではないと興味を失う。

 うちには、シホーヌとアクアが居る以上、これ以上の存在を用意するのは困難であるといえる医療体制だから、死んでない限り、心配するのは失礼になるレベルである。

 雄一が入ってきたのに気付いた2人は笑顔で出迎える。

「テツは無事で、すぐに目を覚ますと思うのですぅ」

 寝てるテツのお腹を乱暴にバンバンと叩きながらも笑顔のシホーヌを見て、本当に問題はなさそうで笑みを洩らして頷く。

 乱暴に叩くシホーヌの手をレイアが、「テツ兄は怪我人だぞ!」とシホーヌの手を払う。

 シホーヌは、もう怪我は治ってるという主張をするがレイアには相手にされずに、4歳児に泣かされる女神がここにいた。

 アクアは、テツの髪を梳きながら言ってくる。

「いくら私の加護があったとはいえ、この程度で済むとは……テツは強い子ですね」
「当たり前だろ? これでも、コイツは家の長男だからな」

 アクアは柔らかい笑みを雄一に向けて、「そうですね」と呟く。

 テツを心配する面子もシホーヌの言葉や、雄一とアクアのやり取りを見て、大丈夫そうだと理解したのか、ホッとした表情を浮かべる。

 すると、ドアをノックする音がすると妙齢の女性が入ってくる。

 どうやら最初の審判をしていた女性で、辺りを見渡すとテツの姿を発見するとこちらにやってきた。

 雄一達の前に来ると女性は深く頭を下げてくる。

「大変申し訳ありませんでした。冒険者ギルドの不手際で、このような大事になってした事をお詫びのしようもありませんが、せめて、言葉だけでも受け取って頂きたい」
「気にするな、とは言えないが、だいたいの事情は察している。まさか、頭だけ下げに来ただけとは言わないだろう?」

 雄一は、頭を下げる女性に前振りはいい、本題に入れ、と伝える。

「はい、冒険者ギルド側に匿名の情報が入りまして、それが決め手になり、事務長一派の囲い込みが完了の目途が立ちました。その捕り物にギルド長が先頭に立ち指示を飛ばしております」

 女性は、ギルド長も詫びに来たかったが、そういう事情で後でお時間を取って欲しいと言っていた事を雄一達に伝える。

「そして、ポメラニアン一派のドランとその息子のベルグノートの冒険者ギルドの資格剥奪と、指名手配をかける用意が進められてます」
「ほっほう。例えば、今から、ポメラニアン一派をノシて捕まえた場合、それは、犯罪行為にはならなかったりするか?」

 雄一は、獰猛な笑みを浮かべるのを見た女性は、怯む様子を一瞬見せるが、すぐに持ち直して答える。

「はい、死んでなければ、現時点でも罪に問われる事もないですし、報奨金も出ます。先程、確認した限り、既にポメラニアンとドランの両名ともこの会場から姿を消しております」

 女性は、一瞬、溜めを作り、言い難そうに言ってくる。

「こういう事になったので、大会は中止する事になります」
「待ってください。なら、テツ君の頑張りは無駄になるのですか?」

 ティファーニアは噛みつくように、女性に言う。

 女性も苦虫を噛み締めたような顔をしながら言ってくる。

「私もそのようにはしたくはないと個人としては、思っておりますが、その先の話は、今後の後始末とギルド長との話し合いで決まるので今の段階では、最悪の想定をしておいて貰ったほうが良いと思われます」

 そんな……と肩を落とすティファーニアの肩をポンポンと叩きながら女性に答える。

「まあ、連絡役のアンタにガミガミ言う気はない。ただ、連絡役のアンタにしっかり伝えて置いて貰いたい言葉がある」
「……承ります」

 雄一を恐れる気持ちを必死に抑えて向き合う女性を見て、ドランより肝が据わっていると内心、笑みを洩らす。

「中立を謳う冒険者ギルドのやらかしを自分達に甘く温い手口で済ませようとしたら只では済ませる気はない。やり方次第では、こちらから顔を出す事になる、とギルド長に伝えておけ」

 雄一の恐れも知らないような物言いに、飲まれないように踏ん張る女性は負けずに言い返してくる。

「それは、最悪、冒険者ギルドを敵に廻す覚悟があると受け取っても?」
「敵になれるだけの胆力があるといいな、という話だ。敵に廻るならそれなりの歯応えを要求する」

 雄一の敵として見ていない、ただ、蹂躙するという宣言を受けて、後ずさる女性に追い打ちをかける。

「俺の家族にこれだけ、やらかしたんだ。ケジメをつけろ、と簡単な事を言ってるだけだ」

 雄一は、「冒険者ギルドは愚かではなく、今後も良き隣人のような関係を築ける事を信じている」と良い笑顔で伝える。

 女性は思った。この男は敵に絶対に廻してはいけない、と。

 ただ、それをどうやって上層部に信じさせたらいいかと頭を悩ます。

 だが、それは女性の杞憂に終わる結果になる。上層部のほうも同じ結論に至る事になるからである。

「はい、良き関係を築ける事を願い、しっかりと上層部にお伝えする事をお約束します」
「ああ、中立で素晴らしい組織であると俺も祈っている」

 女性は、年下である雄一を目上の者として扱い、丁寧にお辞儀をして退出していった。

 それを見送った雄一は、恐れを知らない発言をしまくりを見ていたティファーニアとホーラが呆けているのを見ないフリをする。

 そして、ニコニコと笑う呑気な2人、シホーヌとアクアに声をかける。

「じゃ、俺は出てくるから、後の事、こいつらを頼む」
「はい、いってらっしゃいませ」
「ユウイチ! バシッと決めてくるのですぅ!」

 雄一は2人の言葉に拳を突き上げて医務室から出て行った。






 ポメラニアンとドランは、ならず者達を500という数を今日の為に用意していた。

 本来は、ドランかベルグノートのどちらかが優勝して、ギルド長一派を駆逐、恭順の意を示すように脅迫する為の武力として使うつもりであった。

 だが、ベルグノートの敗北と民を攻撃するといった暴挙に出た事で、2人に逃げる場を失くす結果になってしまう。

 ならば、戦って勝ちとるしかないと冒険者ギルドに殴り込みをかけようと愚かな事を実行しようとしていた。

 ドランは、その前にとポメラニアンに提案していた事がある。

 雄一側の者に報復をしようという話である。

 会場にいた家族には雄一の目が光っている事もあるが、ドランといえど容易くない相手がいる為、手が出せない。

 ならばとティファーニアが面倒をみる子供達を皆殺しにすればいいと暗い笑みを浮かべる。

 意気揚々とやってくると教会前の瓦礫の上で座ってドラン達が来るのを待っていたカンフー服を着た大柄な少年の姿を見つける。

 それを見た2人は固まる。

 そんな2人にお構いなしに瓦礫から降りてくる少年は、笑みを浮かべながら近寄ってくる。

 少年を見た、ならず者は邪魔をしてくる者らしいとさえ分かればいいとばかりに武器を抜くと襲いかかる。

 だが、少年が持つ青竜刀で埃を払うように薙ぎ払われる。

 人がゴミのように吹っ飛ばされる光景が嘘みたいに思えて、ならず者達は呆けて少年を見つめる。

 現実が追い付いてくると恐慌状態に陥った、ならず者達は、少年に一斉に斬りかかる。

 それに笑みを浮かべて少年に雑草のように刈られていく。

 草刈り作業のような光景が始まって5分も経っていない現状をドランは見渡す。

 死んではいないが、痛みにもがくほど元気もない。
 しこたま痛めつけられたらしく、呻き声もほとんどせず、大半が気絶をしていた。

 青竜刀を肩に担いで、歩いて近寄る少年にドランは叫ぶ。

「お前は、何者なんだっ!」
「俺か? 俺は、可愛い子供達に囲まれたお父さんだぁ!!」

 その声と共に柄で殴られ、壁に叩きつけられて気絶をするドラン。

 最後とばかりにポメラニアンに近寄ると掲げた青竜刀から頭を庇う様子を見せたので、股の間を蹴り上げて悶絶させて気を失わせる。

 少年は、壁に張り付くようにして覗いているリホウを呼ぶ。

「俺は、帰る。後はエイビスと協力して、こいつらの確保は任せるぞ?」
「は、はい、任せてください」

 リホウは少年を見送り、辺りの様子を見渡す。

 死屍累々といった有様であるが、死人は1人として存在しない。全員、生きている。

 この状況を5分とかからず、歩くようにしてやったのである。500名はいただろうと思う。

「うん、やっぱり、ポメラニアンと縁を切って良かった。あの人を絶対に敵に廻さないようにしよう!」

 そういうと、これを監視しているエイビスの手の者に呼び掛けてエイビスに手が足りないと連絡を頼む。

 やる事は一杯だと言わんばかりにリホウは腕まくりをするとならず者達を縛り上げて廻り始めた。
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