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2章 DT、先生になる

56話 種は撒いたらしいです

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 雄一は、アリアとミュウを定位置の体勢のままティファーニアの下へと向かう。

 レイアもテツとホーラが戦いだしたので、仕方がないとばかりに雄一の後ろを歩いてくる。

 テツがホーラのスリングから放たれるモノを必死に避ける姿から目を離さないレイアは余所見したまま歩く。
 それを見た雄一が、『好機っ!』とアリアと頷き合うとアリアは、雄一の腕から降りる。

 立ち止まるとレイアが歩く射線上で待機する。

 止まって雄一に見つめられている事に気付いてないレイアは、良い笑顔をした雄一が広げる腕の中に飛び込んでしまう。

 飛び込んできたレイアに逃げる間を与えず抱き締める。

「いらっしゃーい! お待ちしておりました、レイア!!」

 余所見していたレイアに己の持てる力をフルに使い、気配を絶っていた雄一は、これでもかとレイアに頬ずりをし体を弄るように撫でまわす。

「離しやがれ、コンチキショウ!」

 嫌がるレイアが雄一の腕の中から必死に逃げようとするが逃がさず、背中、腕、そして、臀部へと手を這わせて、太もも、ふくらはぎの順番に揉むようにするとレイアの目を見つめてニッコリと笑う。

「出会った時より、ちゃんと肉が付いてきたのは見てて分かっていたが、ちゃんと筋肉も付いてきてるようで何よりだ」

 そう言う雄一は、あっさり手を離す。

 そんな雄一にどう反応したらいいか分からないレイアは、とりあえず雄一を睨みつけて、「いきなり、なんだよっ!」と噛みつくように言ってくる。

 噛みつかれるように言われている雄一は、まったく気にした風には見えない顔をしてレイアに微笑みかける。

「レイアは、テツやホーラのように動けるようになりたいんだろ?」
「くっ、誰にも言ってないのに、なんで知ってるんだよ!」

 悔しそうな顔をしてくるレイアに雄一は、初めて困った顔をしてくる。

「普段からそうと分かる顔をいつもしてるし、今も凄く真剣に2人を眺めてる姿を見せつけられてたから分かるに決まってるだろ?」

 再び、驚いた顔をするレイアを呆れた顔で見つめながら爆弾も投下しておく。

「何せ、シホーヌとアクアですら気付いてたぞ?」

 嘘だ、と驚愕な顔をして項垂れるレイアをそっと抱き締めて立ち直るまでのハッピータイムを雄一は楽しむ。

「で、レイアは、テツ達のように本当になりたいか?」
「悪いのかよ……でもアタシには、そんな事できないよな……」

 俯いて拳を握る。

 抱き締めていた腕を下ろし、小さな拳をそっと包むようにして持ちあげる。

「できる! 俺がそう決めた。だから、大丈夫だ」
「アンタができるって決めた? それで、どうやって大丈夫になるんだよ」

 そう言ってくるレイアに首を横に振りながら雄一は笑みを浮かべる。

「俺だろうが、テツだろうが誰もいい、それをキッカケにして、自分を信じてやるんだ。そうしたら神様がレイアにちょっとだけチャンスをくれるさ」

 レイアを見つめてくる雄一の視線を受けて、口をへの字にすると雄一の脛を蹴りつける。

「神様なんかいないっ!」

 そう言うと、プイッと顔を背けるとティファーニアの下へと歩いていく。

 雄一は、蹴られた脛を撫でながら頬を指で掻く。

「やっぱり、俺の言葉はまだレイアに届かないか……」

 レイアの後ろ姿を眺めているとアリアがズボンを引っ張ってくる。

 雄一が気付いたのを確認したアリアが雄一の手を両手で握るのを見て、どうやら慰めようとしてると雄一は気付き、嬉しさと情けなさで泣きそうになる。

 アリアを抱っこして、「有難うな?」と頬ずりをすると肩車しているミュウが、「ミュウも!」と頭をガブっと噛んでくる。

 雄一は、ホロリと涙を流しながらミュウの頭を撫でようと手を持って行くと、「これと違うぅ!」と言われ、甘噛みするようにガブガブと噛まれる。

 仕方がないので降ろして抱っこしようとしたが噛む事で満足したらしく、機嫌の好さそうなガゥが頭の上から聞こえたので、まあ、いいかと割り切る。

 そのまま歩き、レイアに追い付いたのとティファーニアの下に着いたのが同時であった。

 レイアは疲れ過ぎて、まともに動けないティファーニアに目礼するように会釈をすると地べたに座り、テツ達を眺める。

 レイアに会釈を返そうとしたが、動かすのもままならない体を動かす前に視線を切られて情けなそうな顔をする。

「これは、また、こないだよりも酷い有様だな? 稽古つけてやろうか?」

 ニヤける雄一を恨めしく見つめるティファーニアは、唇を尖らせるようにして抗議してくる。

「先生は、こうなるの分かってて言ったんですよね?」

 雄一は、楽しそうに笑みを浮かべる。

 そんな雄一を睨むように見つめるティファーニアは、プンプンと口にしそうな顔をする。

「さすがに稽古は無理なので、あの2人の戦いを説明してくれませんか? 正直、私にはさっぱりなので……」

 雄一は、ホーラにいたぶられるように追い詰められ、逃げ回るテツを眺める。

「ティファーニア、見て理解する事も大事な……」

 首を横に振りながら、ヤレヤレだぜぇ、と言いそうな顔をする雄一に、レイアが声をかける。

「アタシも知りたい」
「ヨシ、キタ! 俺で答えられる事はなんでも答えるぞ! ティファーニアにもついでに聞かせてやるな?」

 呆れた目をするティファーニアの目にも負けず、雄一は胡坐を掻くと左足にアリアを座らせると右足を叩いてレイアを呼ぶ。

 嬉しそうにする雄一をイヤそうに見つめるレイアをアリアがジッと見つめる。

 アリアに見つめられる事で怯むような様子を見せたレイアは、溜息を吐くと渋々といった様子で雄一の右足を椅子替わりにする。

 嬉しそうにニコニコする雄一はレイアを見つめる。

「何から聞きたい?」
「そうだな……さっきからテツ兄がずっと逃げ回ってるけどホーラ姉には勝てないの?」

 首を傾げるレイアが可愛くて、うんうん、と頷きながら答える。

「いや、テツは勝てる力は持ってる。もし、重さで強さを知る方法があるとしたら、テツのほうが、ちょっと重いな」

 雄一が、そう答えるのを聞いたティファーニアとレイアは驚く。

 それは無理もない話であろう。

 現時点でも、ホーラに弄ばれるようにして、擦り傷を量産する姿を目の前で見せられているのだから。

「先生、今の状況を見るだけでもホーラの圧勝に見えるんですが?」
「それは、テツが自分の力を使いこなせない不器用なヤツだからだ。ホーラはテツのように不器用じゃないから俺が撒いた種の一部に気付いて使い方を模索してるからな」
「ホーラ姉は何に気付いてるんだよ?」

 レイアに質問され、どう答えたモノやらと思いつつも、とりあえず伝える事にする。

「俯瞰に徹するということなんだが……レイアには難しくて分かりにくいと思う」

 眉を寄せるレイアを見て、やっぱり分からないよな、と苦笑いを浮かべる隣で恥ずかしそうに手を上げるティファーニアの姿があった。

「先生、私も分かりません……」

 2人の様子に苦笑を浮かべる。

「やって見せて説明したほうがいいな。俯瞰と反対を実践するぞ?」

 雄一は人差し指を立てて、立てたまま、懐に拳を入れてる。3まで数えると指を折り、握り拳にした状態でレイアの眼前に持ってくる。
 そして、ゆっくりと人差し指を開いていくのをレイアは見逃さないとばかりに見つめた。

 それから、すぐにレイアが、「ウヒャァ!」と驚いた声をあげる。

 眼前に持ってきた手の反対の手で脇腹を擽られたためである。

「レイア、俺が擽ろうとしたのが見えたか?」
「目の前の手を見てたから見える訳ないだろ?」

 2人のやり取りを見ていたティファーニアの瞳に理解の色が宿る。

「目の前に意識を向けているから先生の手の動きが見えなかった。つまり、俯瞰に徹するという事は、意識を一点ではなく、全体に広げるということですか?」
「その通りだ。まあ、ホーラもまだ背後までは無理のようだがな」

 はぁ、と理屈は分かるが、そんな事できるんだ、と雄一を眺める。

 レイアは、ほとんど理解できなかったようであるがホーラは凄いという事で納得したようでテツを眺めて指を指す。

「なぁ、時々、テツ兄が空中で移動してるように見えるんだけど、あれは?」
「ああ、あれは生活魔法の風を圧縮して、1回だけ踏める球や板を作って飛び跳ねてるんだよ」
「そんな事できるんですか? 私は、てっきりテツ君は風魔法を使える人なのかと思ってました」

 驚くティファーニアであったが、思い出すように、「風魔法でもテツ君のような事ができると聞いた事ないのですけど」と苦笑してくる。

「テツにも、しっかり種は撒いてある。後、それを実にできるかは……全てはアイツ、テツ次第ってことさ」

 笑みを浮かべる雄一の視線の先で地面に縫い付けられたテツがホーラに泣かされて勝敗が着いていた。

 そして、誇らしげなホーラが雄一にVサインを送って胸を張っている。

 それを眺めた雄一はアリア達を順繰りで見つめて、

「帰るか?」

 雄一の言葉に賛同したみんなを連れて雄一達はマッチョの集い亭へと帰って行った。
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