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2章 DT、先生になる
39話 テツの発現が確認されたようです。
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ホーラは、体重がないのかと思わせるように枝を揺らさず、木々を渡り歩き、辺りを警戒しながら進む。
下では、テツが中腰の状態でいつもの緩んだ表情ではなく、引き締まった表情をさせ、ホーラを見失わないようにしつつも辺りの地形の把握と気配を探りながら歩いていた。
しばらく進むとホーラが掌をこちらに向けて腕を横に広げるのを見たテツは、更に姿勢を低くしつつ、背中のツーハンデッドソードに手を添える。
ホーラに注目しつつ、足を止めて気配を感じようと意識をすると進行方向に何かがあるようだと気付く。
木の上にいるホーラが指をチョイチョイと来いと知らせてくる。
ゆっくりと姿勢を低くしたまま、近寄りホーラがいる木の下に到着すると木の幹に体を隠すようにしてホーラが見つめる方向へと視線をやる。
視線の先10m先には、お粗末な柵で作った砦ようなものがあり、その入り口には眠そうに欠伸をする少年が2人立っていた。
テツを見下ろすホーラは、小声で話しかけてくる。
「アタイが見張りをなんとかするさ。そして、アタイが移動を始めて100数えたら目の前の入り口からテツは攻める。いける?」
「中にはどれくらいいますか?」
20人弱と答えるホーラに笑みを見せるテツは、
「任せてください。ユウイチさんがやりそうな堂々とした歩みで注目を惹きつけてみせます!」
「いや、あそこまで他人から見たら無謀に見えるような事を敢えてやる必要はないさ?」
ホーラが求める事を理解はしているようだが、憧れる雄一を模倣したくてしょうがない馬鹿な弟を諫める。
だが、多分、無理だろうな、と諦めが籠る視線を向けてフォローをする事になりそうだと、深い溜息を吐く。
「分かってるとは思うけど……無謀と勇気を履き違えたりするんじゃないさ? 危険を引き寄せる行動をするんだから気を引き締めていくさ」
鼻息を荒くする馬鹿な弟を睨みながら言うが、目をキラキラさせて頷いてくるテツに諦観しか感じさせてくれない。
「はい、無謀と勇気を履き違えません。ですがっ、取り返しの付く……」
「取り返しの付く無茶は買ってでもやれ、とユウに言われてるって言いたいんでしょ?」
ホーラは、うんざりした顔をしながらテツのセリフを奪い、先に言ってやるがテツは、ニコニコと顔を綻ばせて頬に渦巻きの幻視が見えるような顔をしてホーラを見つめる。
「そのフォローをアタイがするって分かってる?」
勘弁して、と泣きが入りそうな表情を向けるが、テツは後頭部に手を当てて、えへへっ、笑い誤魔化してくる。
分かっていた事といえど、変えられない未来にホーラは涙を浮かべる。
「どうして、家の男共は、こうも手のかかるのばっかりなんだろう」
「家の男共って、僕とユウイチさんしかいないんですが……?」
ホーラは白けた目を向けて、呪言を唱えるように言葉を洩らす。
「そうさね、心労が10人分ぐらい感じさせられるから、ついつい2人しかいないってのを忘れてしまうさ?」
鈍いテツですら、風向きが不味いと感じたようでテツの相棒を抜いて構える。
「ホーラ姉さん、ここで喋ってばかりいたら先制を打てなくなります。すぐに行動を始めましょう」
「誤魔化すのも下手なところまで似る必要はないと思うさ……」
溜息を吐きながら、ベストから投げナイフを取り出すと始めるとテツに伝える。
「強化するのは飛距離、付加するのは、加速」
軽く放るようにして投げるホーラであったが、戦闘機のミサイルのように一定の滞空時間を生むと弾け飛ぶように見張りに向けて飛んでいく。
飛んでいったナイフは狙い通りに、見張りの少年達の首元に吸い込まれるように刺さり、悲鳴も上げられずに血を吐き出しながらその場で倒れる。
ホーラは投げた直後、結果を見る前に違う枝に飛び移り、砦の入り口の反対側を目指して枝を飛び移り去っていく。
それを見送ったテツは辺りを警戒しながら、胸の内でカウントダウンを開始した。
▼
予定通り、100を数える前に砦の裏側に到着したホーラは中の様子を眺める。
昼間であるというのに、大半の者は酒を飲み、管を巻いているようである。
入口に近い者は、近接武器を携えているようだが、奥の者は弓やボウガンを扱う者のようだ。
一応、砦に攻めてくる者に対応する気でそういう配置にしているようだ。
「いくら、その辺りを考えた配置をしておいても、昼間から酒を飲んでいて機能するのはどの程度なんだろうね?」
肩を竦めるホーラは、カウントダウンしていた数字が0になるのを確認すると入口に視線をやる。
視線の先には、馬鹿な弟が馬鹿をやりながら歩いてくる姿を見つめて頭を抱えた。
視線の先のテツは、長楊枝のようなモノを口の端に咥え、相棒のツーハンデッドソードを肩に背負い、後ろに体を反らして山賊達? を睥睨してるつもりで目を細めながら堂々と入り口から入ってくる。
「愚弟っ……ユウは、そんな珍妙な格好して行動した事ないさ……」
雄一は、巴を抱えながら力みのない歩き方で、戦場を闊歩するような事はするが、長楊枝を咥えたり、あんな胸を反らして歩きながら睨みつけて歩かない。
これは、全て、テツの憧れフィルターが見せている誤情報がミックスされ、更に自分の中で格好いいという、そろそろ芽生える思春期特有の病気の発現の表れが顔を覗かせた結果である。
天然系の愚弟は、遠目で顔の判別は付かないが、きっと、鼻を少し大きくさせ、ワクテカしている姿が容易に想像できた。
今度、どんなものを持ち歩いているか一回抜き打ちで調べた方が良さそうだとホーラは思う。
そんなテツの登場に、呆れか、驚きか分からないが放心するように見つめていた山賊達が騒ぎ、笑いだす。
「ぎゃはははっ、頭がおかしい奴が1人で乗り込んで来たぞ! 誰か、歓待してやれよ?」
酒に酔っ払った山賊がテツの近くにいる者に笑いながら伝えると、声をかけられた者は、ナイフを抜いてテツに近づき、イヤラシイ笑みを浮かべながらやってくる。
「おめぇ、馬鹿だろう? 1人で来るのも信じられないほど馬鹿だが、何それ? その長楊枝と虚勢を張って歩くような頭が弱そうな行動は?」
その山賊の言葉にテツは俯き、プルプル震える姿を遠くから見ていたホーラは嘆息する。
そして、呟く。
「あの馬鹿、切れたさ」
ホーラのその言葉がトリガーになったかのように咥えていた長楊枝を噛み折り、涙目の顔を前にいる山賊に叩きつけるように見つめる。
肩に背負っていたツーハンデッドソードを力任せに横一線といった感じにナイフを目掛けて振り抜く。
振り抜いたテツの剣がナイフに直撃する衝撃で山賊をふっ飛ばし、ナイフは砕ける。
小柄なテツがやらかした事に馬鹿笑いをしていた山賊に冷水を被せる。
静まりかえる場でテツは高らかに叫ぶ。
「僕が憧れる人の真似が下手な事を馬鹿にする事は許せても! その人の行動を馬鹿にするのは絶対に許せないっ!!!」
その叫びが届いたホーラは、半眼の視線をやりながら、「それはない」と手を横に振り、
「ユウはそんな行動してないし、むしろ、ユウを馬鹿にしてるのは馬鹿テツだから」
困った弟の病気をどうしたらいいかと本気に悩み始めるホーラ。
呆れるホーラと違い、目の前の存在が愉快な存在じゃないと気付いた山賊達は酔いが醒めたようで舌打ちをすると武器を構えると慌てて陣形を整えてテツに向き合う。
「あの白髪エルフは只の馬鹿じゃねぇ! 気合い入れろよ、野郎ども!!」
前衛の後ろから矢をテツに向かって打ち放ち始める。
怒りに染まるテツであるが冷静に飛んでくる矢を見つめ、自分に届きそうな矢をツーハンデッドソードで直接薙ぎ払ったり、剣圧で起こる風圧で弾き返しながら、ゆっくりと目を細めながら歩き出す。
その悠然とした歩みに山賊達は慄いたように一歩後ろに下がる。
「ふっふふ、そう取り繕ってないアンタのほうがユウの行動ぽいさ。テツ、アンタは本当にユウに憧れてるんだねぇ」
残念なところを真似たという意味であれば、さっきのも、あの3人を相手にする雄一と思えば、似てたかもしれないと失笑しながらパチンコに球を装填して狙いを付ける。
闊歩する王者のような歩き方をするテツに二の足を踏む山賊達は息をするのを忘れたかのように見つめる。
後方の者達の呻き声と倒れる音がし、振り返る先でどこから飛んできてるか分からないが鉄球で昏倒する後衛の姿に目を剥き、浮足立ち具合が増す。
テツは、ホーラが放った攻撃によるものだと理解すると、自分を意識外にした馬鹿共を殲滅する為にサリナの青春の忘れ物シリーズのツーハンデッドソードを下段に構えたまま低姿勢で飛び出す。
飛び出したテツに気付いた山賊達は、気付いた時点では既に遅く、テツは振り抜く為に剣を放つ動作に入った状態で目の前にいた。
目の前にいた3人を同時に薙ぎ払う。
慌てて、前方のテツに意識を向けると今度は背後のスナイパーのホーラによるパチンコ攻撃に晒され、どっち付かずの対応に追われる山賊に勿論、勝ち目はなく、少しづつ狩られていった。
▼
ホーラとテツに砦を攻められた山賊達は10分とかからずに壊滅状態にさせられた。
山賊も5人まで数を減らすと武器を捨てて降伏してきたのでテツは、山賊達をその場にあった縄を使って縛っていく。
姿を現せたホーラとテツを両方見つめる山賊は、
「こんなガキ2人に俺達は全滅させられたのかっ!」
歯軋りする山賊を見つめる。
「見た目からアンタが親玉だろうけど、そんな安っぽいプライドを感じる暇があるなら真っ当に生きる事を考えるんだったね」
完敗した山賊の親玉は、悔しそうに顔を歪めるだけで文句はそれ以上言い返してこないぐらいには覚悟が決まっている山賊だったようである。
すると、後方から拍手をする音にビクッとするホーラとテツが弾けるように振り返ると肩にピンクの髪の少女と両手に顔がそっくりで髪の長さだけ違う少女を抱き抱えながら拍手をしてくる大男の存在にあんぐりと口を開けて見つめる。
「まあまあ、かな? 次に期待するという事で今回は及第点として認めないとレイアに怒られるから今回は許してやるよ。次はもっと力任せにせず、的確にな? ホーラ、少し狙いが雑になってるぞ? 癖になったら大変だから意識するようにな?」
辛口トークをする雄一の頬を殴りつけるレイアに涙目にさせられる雄一は、ホーラ達の所に行きたくて降ろせと煩いレイアを仕方がないとばかりに降ろす。
駆けより2人の下に向かったレイアは、憧れの視線を向けて、「凄い、凄い」と連呼する。
「ユウ、いつから見てたさ?」
「ん? ホーラがテツに100数えたらって言ってた辺りだったか?」
そう言うと雄一はアリアとミュウに視線をやると2人に頷かれる。
ホーラとテツは、顔を見合わせ、乾いた笑いを浮かべる。
「ほとんど、最初から見られてたさ……」
「かなり警戒してるつもりだったのに、ユウイチさんだけならともかく、3人を連れているのに気付けなかったなんて……」
自信を失うような思いもするが、追う背中の大きさに嬉しさを感じる2人がそこにいた。
「まあ、お前達もまだまだってことだ。これからもビシビシ鍛えてやるからな?」
「ハイッ! これからもお願いしますっ!」
テツと共に頷くホーラは、縛った山賊を見つめて雄一に問いかける。
「それはともかく、こいつらはどうするさ?」
「そうだな……そのまま、転がしておけ」
「いいんですか? どこかに突き出さなくても?」
雄一は面倒そうに手を振って言ってくる。
「このまま、転がしておいて生き残れば、こいつらは運があったでいいだろう。だがな?」
雄一は、山賊の親玉の目を覗き込むようにして語りかける。
「無事生き残れて、また同じ事していたら今度は俺がお前達を死んだ事も気付けないまま首を刎ねてやる。覚えておけ」
雄一の威圧を至近距離で浴びた山賊の親玉は、口から泡を吐き、失禁する。
いつもの雄一のダレた顔に戻して、みんなを見つめる。
「さあ、帰ろうか。あの馬鹿2人にしてるのも色々と……心配だしな? それとな、テツ?」
「はい、なんですか? ユウイチさん?」
近寄ってくるテツの顔に近づけてボソボソと語りかける。
「まああれだ? 俺も長楊枝はないと思うぞ?」
雄一にそれを言われたテツは、顔を真っ赤にさせると奇声を発しながら木々の切れ目から見える馬車に目掛けて走っていく。
そのテツにびっくりしたレイアが、「テツ兄っ!?」と慌てて言葉にすると追いかけていく姿を見つめる。
近寄ってきたホーラが雄一に頷きながら言ってくる。
「アタイもアレはないと思うさ?」
雄一とホーラはお互いイヤラシイ笑みを浮かべると笑い合う。
それに釣られるように、ガゥガゥと遠吠えを上げるような声を出すミュウに更に笑わされて笑みが収まらないまま2人はテツ達が待つ馬車へと歩き出した。
下では、テツが中腰の状態でいつもの緩んだ表情ではなく、引き締まった表情をさせ、ホーラを見失わないようにしつつも辺りの地形の把握と気配を探りながら歩いていた。
しばらく進むとホーラが掌をこちらに向けて腕を横に広げるのを見たテツは、更に姿勢を低くしつつ、背中のツーハンデッドソードに手を添える。
ホーラに注目しつつ、足を止めて気配を感じようと意識をすると進行方向に何かがあるようだと気付く。
木の上にいるホーラが指をチョイチョイと来いと知らせてくる。
ゆっくりと姿勢を低くしたまま、近寄りホーラがいる木の下に到着すると木の幹に体を隠すようにしてホーラが見つめる方向へと視線をやる。
視線の先10m先には、お粗末な柵で作った砦ようなものがあり、その入り口には眠そうに欠伸をする少年が2人立っていた。
テツを見下ろすホーラは、小声で話しかけてくる。
「アタイが見張りをなんとかするさ。そして、アタイが移動を始めて100数えたら目の前の入り口からテツは攻める。いける?」
「中にはどれくらいいますか?」
20人弱と答えるホーラに笑みを見せるテツは、
「任せてください。ユウイチさんがやりそうな堂々とした歩みで注目を惹きつけてみせます!」
「いや、あそこまで他人から見たら無謀に見えるような事を敢えてやる必要はないさ?」
ホーラが求める事を理解はしているようだが、憧れる雄一を模倣したくてしょうがない馬鹿な弟を諫める。
だが、多分、無理だろうな、と諦めが籠る視線を向けてフォローをする事になりそうだと、深い溜息を吐く。
「分かってるとは思うけど……無謀と勇気を履き違えたりするんじゃないさ? 危険を引き寄せる行動をするんだから気を引き締めていくさ」
鼻息を荒くする馬鹿な弟を睨みながら言うが、目をキラキラさせて頷いてくるテツに諦観しか感じさせてくれない。
「はい、無謀と勇気を履き違えません。ですがっ、取り返しの付く……」
「取り返しの付く無茶は買ってでもやれ、とユウに言われてるって言いたいんでしょ?」
ホーラは、うんざりした顔をしながらテツのセリフを奪い、先に言ってやるがテツは、ニコニコと顔を綻ばせて頬に渦巻きの幻視が見えるような顔をしてホーラを見つめる。
「そのフォローをアタイがするって分かってる?」
勘弁して、と泣きが入りそうな表情を向けるが、テツは後頭部に手を当てて、えへへっ、笑い誤魔化してくる。
分かっていた事といえど、変えられない未来にホーラは涙を浮かべる。
「どうして、家の男共は、こうも手のかかるのばっかりなんだろう」
「家の男共って、僕とユウイチさんしかいないんですが……?」
ホーラは白けた目を向けて、呪言を唱えるように言葉を洩らす。
「そうさね、心労が10人分ぐらい感じさせられるから、ついつい2人しかいないってのを忘れてしまうさ?」
鈍いテツですら、風向きが不味いと感じたようでテツの相棒を抜いて構える。
「ホーラ姉さん、ここで喋ってばかりいたら先制を打てなくなります。すぐに行動を始めましょう」
「誤魔化すのも下手なところまで似る必要はないと思うさ……」
溜息を吐きながら、ベストから投げナイフを取り出すと始めるとテツに伝える。
「強化するのは飛距離、付加するのは、加速」
軽く放るようにして投げるホーラであったが、戦闘機のミサイルのように一定の滞空時間を生むと弾け飛ぶように見張りに向けて飛んでいく。
飛んでいったナイフは狙い通りに、見張りの少年達の首元に吸い込まれるように刺さり、悲鳴も上げられずに血を吐き出しながらその場で倒れる。
ホーラは投げた直後、結果を見る前に違う枝に飛び移り、砦の入り口の反対側を目指して枝を飛び移り去っていく。
それを見送ったテツは辺りを警戒しながら、胸の内でカウントダウンを開始した。
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予定通り、100を数える前に砦の裏側に到着したホーラは中の様子を眺める。
昼間であるというのに、大半の者は酒を飲み、管を巻いているようである。
入口に近い者は、近接武器を携えているようだが、奥の者は弓やボウガンを扱う者のようだ。
一応、砦に攻めてくる者に対応する気でそういう配置にしているようだ。
「いくら、その辺りを考えた配置をしておいても、昼間から酒を飲んでいて機能するのはどの程度なんだろうね?」
肩を竦めるホーラは、カウントダウンしていた数字が0になるのを確認すると入口に視線をやる。
視線の先には、馬鹿な弟が馬鹿をやりながら歩いてくる姿を見つめて頭を抱えた。
視線の先のテツは、長楊枝のようなモノを口の端に咥え、相棒のツーハンデッドソードを肩に背負い、後ろに体を反らして山賊達? を睥睨してるつもりで目を細めながら堂々と入り口から入ってくる。
「愚弟っ……ユウは、そんな珍妙な格好して行動した事ないさ……」
雄一は、巴を抱えながら力みのない歩き方で、戦場を闊歩するような事はするが、長楊枝を咥えたり、あんな胸を反らして歩きながら睨みつけて歩かない。
これは、全て、テツの憧れフィルターが見せている誤情報がミックスされ、更に自分の中で格好いいという、そろそろ芽生える思春期特有の病気の発現の表れが顔を覗かせた結果である。
天然系の愚弟は、遠目で顔の判別は付かないが、きっと、鼻を少し大きくさせ、ワクテカしている姿が容易に想像できた。
今度、どんなものを持ち歩いているか一回抜き打ちで調べた方が良さそうだとホーラは思う。
そんなテツの登場に、呆れか、驚きか分からないが放心するように見つめていた山賊達が騒ぎ、笑いだす。
「ぎゃはははっ、頭がおかしい奴が1人で乗り込んで来たぞ! 誰か、歓待してやれよ?」
酒に酔っ払った山賊がテツの近くにいる者に笑いながら伝えると、声をかけられた者は、ナイフを抜いてテツに近づき、イヤラシイ笑みを浮かべながらやってくる。
「おめぇ、馬鹿だろう? 1人で来るのも信じられないほど馬鹿だが、何それ? その長楊枝と虚勢を張って歩くような頭が弱そうな行動は?」
その山賊の言葉にテツは俯き、プルプル震える姿を遠くから見ていたホーラは嘆息する。
そして、呟く。
「あの馬鹿、切れたさ」
ホーラのその言葉がトリガーになったかのように咥えていた長楊枝を噛み折り、涙目の顔を前にいる山賊に叩きつけるように見つめる。
肩に背負っていたツーハンデッドソードを力任せに横一線といった感じにナイフを目掛けて振り抜く。
振り抜いたテツの剣がナイフに直撃する衝撃で山賊をふっ飛ばし、ナイフは砕ける。
小柄なテツがやらかした事に馬鹿笑いをしていた山賊に冷水を被せる。
静まりかえる場でテツは高らかに叫ぶ。
「僕が憧れる人の真似が下手な事を馬鹿にする事は許せても! その人の行動を馬鹿にするのは絶対に許せないっ!!!」
その叫びが届いたホーラは、半眼の視線をやりながら、「それはない」と手を横に振り、
「ユウはそんな行動してないし、むしろ、ユウを馬鹿にしてるのは馬鹿テツだから」
困った弟の病気をどうしたらいいかと本気に悩み始めるホーラ。
呆れるホーラと違い、目の前の存在が愉快な存在じゃないと気付いた山賊達は酔いが醒めたようで舌打ちをすると武器を構えると慌てて陣形を整えてテツに向き合う。
「あの白髪エルフは只の馬鹿じゃねぇ! 気合い入れろよ、野郎ども!!」
前衛の後ろから矢をテツに向かって打ち放ち始める。
怒りに染まるテツであるが冷静に飛んでくる矢を見つめ、自分に届きそうな矢をツーハンデッドソードで直接薙ぎ払ったり、剣圧で起こる風圧で弾き返しながら、ゆっくりと目を細めながら歩き出す。
その悠然とした歩みに山賊達は慄いたように一歩後ろに下がる。
「ふっふふ、そう取り繕ってないアンタのほうがユウの行動ぽいさ。テツ、アンタは本当にユウに憧れてるんだねぇ」
残念なところを真似たという意味であれば、さっきのも、あの3人を相手にする雄一と思えば、似てたかもしれないと失笑しながらパチンコに球を装填して狙いを付ける。
闊歩する王者のような歩き方をするテツに二の足を踏む山賊達は息をするのを忘れたかのように見つめる。
後方の者達の呻き声と倒れる音がし、振り返る先でどこから飛んできてるか分からないが鉄球で昏倒する後衛の姿に目を剥き、浮足立ち具合が増す。
テツは、ホーラが放った攻撃によるものだと理解すると、自分を意識外にした馬鹿共を殲滅する為にサリナの青春の忘れ物シリーズのツーハンデッドソードを下段に構えたまま低姿勢で飛び出す。
飛び出したテツに気付いた山賊達は、気付いた時点では既に遅く、テツは振り抜く為に剣を放つ動作に入った状態で目の前にいた。
目の前にいた3人を同時に薙ぎ払う。
慌てて、前方のテツに意識を向けると今度は背後のスナイパーのホーラによるパチンコ攻撃に晒され、どっち付かずの対応に追われる山賊に勿論、勝ち目はなく、少しづつ狩られていった。
▼
ホーラとテツに砦を攻められた山賊達は10分とかからずに壊滅状態にさせられた。
山賊も5人まで数を減らすと武器を捨てて降伏してきたのでテツは、山賊達をその場にあった縄を使って縛っていく。
姿を現せたホーラとテツを両方見つめる山賊は、
「こんなガキ2人に俺達は全滅させられたのかっ!」
歯軋りする山賊を見つめる。
「見た目からアンタが親玉だろうけど、そんな安っぽいプライドを感じる暇があるなら真っ当に生きる事を考えるんだったね」
完敗した山賊の親玉は、悔しそうに顔を歪めるだけで文句はそれ以上言い返してこないぐらいには覚悟が決まっている山賊だったようである。
すると、後方から拍手をする音にビクッとするホーラとテツが弾けるように振り返ると肩にピンクの髪の少女と両手に顔がそっくりで髪の長さだけ違う少女を抱き抱えながら拍手をしてくる大男の存在にあんぐりと口を開けて見つめる。
「まあまあ、かな? 次に期待するという事で今回は及第点として認めないとレイアに怒られるから今回は許してやるよ。次はもっと力任せにせず、的確にな? ホーラ、少し狙いが雑になってるぞ? 癖になったら大変だから意識するようにな?」
辛口トークをする雄一の頬を殴りつけるレイアに涙目にさせられる雄一は、ホーラ達の所に行きたくて降ろせと煩いレイアを仕方がないとばかりに降ろす。
駆けより2人の下に向かったレイアは、憧れの視線を向けて、「凄い、凄い」と連呼する。
「ユウ、いつから見てたさ?」
「ん? ホーラがテツに100数えたらって言ってた辺りだったか?」
そう言うと雄一はアリアとミュウに視線をやると2人に頷かれる。
ホーラとテツは、顔を見合わせ、乾いた笑いを浮かべる。
「ほとんど、最初から見られてたさ……」
「かなり警戒してるつもりだったのに、ユウイチさんだけならともかく、3人を連れているのに気付けなかったなんて……」
自信を失うような思いもするが、追う背中の大きさに嬉しさを感じる2人がそこにいた。
「まあ、お前達もまだまだってことだ。これからもビシビシ鍛えてやるからな?」
「ハイッ! これからもお願いしますっ!」
テツと共に頷くホーラは、縛った山賊を見つめて雄一に問いかける。
「それはともかく、こいつらはどうするさ?」
「そうだな……そのまま、転がしておけ」
「いいんですか? どこかに突き出さなくても?」
雄一は面倒そうに手を振って言ってくる。
「このまま、転がしておいて生き残れば、こいつらは運があったでいいだろう。だがな?」
雄一は、山賊の親玉の目を覗き込むようにして語りかける。
「無事生き残れて、また同じ事していたら今度は俺がお前達を死んだ事も気付けないまま首を刎ねてやる。覚えておけ」
雄一の威圧を至近距離で浴びた山賊の親玉は、口から泡を吐き、失禁する。
いつもの雄一のダレた顔に戻して、みんなを見つめる。
「さあ、帰ろうか。あの馬鹿2人にしてるのも色々と……心配だしな? それとな、テツ?」
「はい、なんですか? ユウイチさん?」
近寄ってくるテツの顔に近づけてボソボソと語りかける。
「まああれだ? 俺も長楊枝はないと思うぞ?」
雄一にそれを言われたテツは、顔を真っ赤にさせると奇声を発しながら木々の切れ目から見える馬車に目掛けて走っていく。
そのテツにびっくりしたレイアが、「テツ兄っ!?」と慌てて言葉にすると追いかけていく姿を見つめる。
近寄ってきたホーラが雄一に頷きながら言ってくる。
「アタイもアレはないと思うさ?」
雄一とホーラはお互いイヤラシイ笑みを浮かべると笑い合う。
それに釣られるように、ガゥガゥと遠吠えを上げるような声を出すミュウに更に笑わされて笑みが収まらないまま2人はテツ達が待つ馬車へと歩き出した。
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異世界ラブ冒険ファンタジー!
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
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不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
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