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2章 DT、先生になる

34話 北川家の朝は、これが日常です

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 北川家の朝は早い。

 雄一は、朝食だけでなく場合によっては、陽が昇る前から昼、夜の仕込みも同時にこなす。
 食べ盛りの欠食児童を抱える主夫の雄一の朝はいつもどんな戦場より、過酷で手が抜けない。

 アリアには好きはあっても嫌いがないようでなによりだが、特にレイア、ミュウ、シホーヌ、そして、見た目からは意外であるが中身はあの駄女神シホーヌと同じのアクアの4名には好き嫌いがあるのでメニューに悩む。

 勿論、避けて作るという方針ではなく、食べれるようにするといった方向性である。

 という訳で、本日のターゲットはアクアらしい。

 アクアの嫌いな物は、とても意外で最初に気付いた時は、それは水の精としてどうなの? と思えるものであった。

 そう、それは魚介類である。

 本人曰く、「同じ、水に関わるモノを食べるのは、心苦しい……」 とほざくので、鱈をすり身にしてチヂミを作って出すと、なんという事でしょう? というナレーションが聞こえそうな程、美味しそうに食べる姿があった。

 ちなみに、ダンガの西に徒歩、半日もかからない距離に海がある。

 それは、鱈だと、食べ終わりかけで教えると、

「主様、酷いっ! 私が、同じ水に関わる、モグモグ、者達を食べたくないと、ゴクン、知ってるはずなのにっ! モグモグ」
「お前、文句言いながらも箸が進んでるぞ?」

 雄一が、そう指摘すると、はっ! と顔を硬直させるが復帰すると食べ始める。

「食べ始めた以上、食べてあげるのが供養です。最初から知っていれば、私は絶対に食べません……ところで、なんで生臭くないんですか?」

 どうやら、生臭さが嫌らしいと知るキッカケを得て、次なる手を考えた鮭を使ったカツにチャレンジする事にする。

 夕飯に告知してから出す。

 そして、みんなの食べる姿を見ても、自分の言葉を貫けるかを雄一は見るつもりだ。

 だが、中身がシホーヌと同じレベルのアクア、きっと期待に応えるであろう。

 そんな未来にほくそ笑む雄一は、鮭の切り身の骨抜きを済ませるとヨーグルトに漬けて暗所で夕方まで保管する。


 夜の仕込みも済ませて、朝食のスープを作り終えて火を落とすと台所の勝手口の扉が開く。

「ただいま、戻りました! ユウイチさん」

 息を切らせたテツが吐く息を白くさせながら嬉しそうにやってきた。

「もう、そんな時間か? ホーラはどうしてる?」
「ユウイチさんに言われた通りに、柔軟で汗を流してます」

 ホーラには、走り込みは程々にするように伝え、テツの半分ほどで抑えているらしい。

 だが、ホーラには特に柔軟とバランスの訓練を多めに取るように伝えていた。

 どんな体勢からでも、投擲、射撃ができるようにという狙いからである。

 テツは、雄一のように筋肉が欲しいと筋トレを希望してきたが、まだ10歳のテツには筋トレは準備運動程度のモノ以外は禁止させている。

 なぜならば、幼い内に筋肉を付けると身長が伸びにくくなってしまう為である。

 なので、テツには、ひたすら走らせていた。

 それに加えて跳躍をするように伝え、テツにもホーラほどではないが、柔軟とバランスの訓練を課していた。

 それを雄一が起きてから少し遅れて、すぐに起きる2人の日課になっていた。

「何も、昨日のオークキングとの激しい戦いの後だ、次の日ぐらい休んだほうがいいんだぞ?」
「いえ、僕もホーラ姉さんも、昨日のオークキングには勝ちこそはしましたが、課題と悔しさが残る結果でした」

 口をへの字にするテツを見て、苦笑する。

 戦いを覚え、お互いコンビのように戦いだし、まだ1カ月が経過していない。

 あれだけやれば少しぐらい天狗になってもいいだろうにと雄一は思う。

 勿論、天狗になったら、その鼻をへし折るつもりだったにせよ、この2人の向上心には頭が下がる思いだ。

「ユウイチさん、今日もお手合わせお願いします!」
「おう、じゃ、行くか」

 雄一は、エプロンを外し、お玉から巴に持ち替え、テツの頭が乱暴に撫でながら家を出るとホーラが先にいるはずの北側の街を出た所、いつもの訓練場所へと準備運動がてらテツと一緒に走り出した。





 それから1時間後、陽が昇り始めるのを雄一は眺めながら声をかける。

「次、終わったら帰って朝食にするぞ」

 息絶え絶えといった有様のテツは、ゼヒゼヒ言いながら、「はいっ!」と答える。

 テツを横目に、離れた所で立てた棒の上に立つホーラの棒を目掛けて、軽く石つぶてを飛ばしてぶつけ、音を鳴らす。

 その音と軽い振動で集中力が切れたらしいホーラが、地面に叩きつけられるように落ちる。
 高さが30cmほどだから怪我などはしないが恨めしそうに雄一を見つめる。

「これぐらいで集中を乱すようでは駄目だぞ? 最後まで気を抜くなよ」

 毎日、こうやって気が抜けた瞬間を狙ったかのように雄一に狙われ続けるホーラ。

 今日も既に4回目の地面との逢瀬であった。

 唇を尖らせたホーラが、ブツブツ言いながら木を立てると飛び乗り、バランスと取り始める。

「ホーラと話してる間に斬りかかって来ても良かったんだぞ?」
「いえ、僕はユウイチさんの正面から斬り合って、認められたいんです!」

 行きますっ! と言って、斬りかかるテツを片目を閉じて笑う雄一は、巴を肩に乗せた状態で姿勢を低くすると突進し、声を張り上げる。

「テツ! お前のそういう所は美点だが、戦う上では欠点だ! そういうセリフを吐きたかったら一太刀でも俺に入れてからにするんだなっ」

 テツの懐に入った雄一は、肩に乗せた状態で刃がある反対側の柄を下から掬うようにしてテツの鳩尾に入れて、息を吐き出させると回し蹴りを入れる。

 テツは、蹴られた衝撃を逃がす事ができずに吹っ飛ばされ、地面を滑るように転がる。

 転がったテツは、気絶して目を廻しているのを確認した雄一は、ホーラに呼び掛ける。

「帰るか?」

 これが、最近の北川家の早朝風景であった。





 家に戻った雄一は、作って置いたスープを温め直し、パンを皿に盛り、各自の小皿にレタスとトマトとポテトサラダを載せると配膳していく。

 朝食の準備を済ませ、寝てる5人を雄一は起こしに行く。

 まずは自分の部屋へ行き、アリアとミュウを起こしにかかる。

 アリアは、揺するとすぐ目を覚ますとても良い子で、いつも通りに目を覚ますと、手を伸ばして、起こせとアピールしてくる。

 それを嬉しそうに雄一は笑顔で抱き抱え地面に下ろす。

 次にミュウを起こそうと揺すると、これもいつも通りに雄一の腕に四肢を使って抱えると抱きついたまま2度寝を始める。

 いつもながらの光景ではあるが、苦笑しながら腕をブラリブラリと揺らすとガゥ? と声を洩らすと目をショボショボさせて目を覚ます。

 目を覚ましたミュウを地面に下ろすとアリアが、ミュウの手を引いて井戸のほうへと顔を洗う為に歩いていくのが日課である。

 そんな2人を微笑ましそうに見送る雄一であったが、問題の3人を起こす為に「ウシッ!」と気合いを入れて自分の部屋を後にした。


 問題の3人、シホーヌ、アクア、レイアが眠る部屋の扉を開ける。

 開けて最初に目に入ってきたのはアクアで、抱き枕を抱え、緩んだ顔をしながら寝言を時折口にする。

「ウフフッ……主様ぁ」

 その中で良く出てくる言葉の『主様』というのが気になってしょうがない雄一がいた。

 アクアの夢の中の雄一は何をしてるのだろうか?

 レイアは、お腹を出して、幸せそうにそのお腹を掻く姿を見つめる雄一は、「レイアは寝てても可愛いな」と補正のかかりまくった意見が飛び出す。

 その隣で、布団をしっかり被ったまま寝た体勢から動いてないのではないかという格好のシホーヌが寝ていた。

 しかも、鼻ちょうちんを膨らませながら……

 雄一は生まれて16年しか生きてないが、本当に鼻ちょうちんが存在るするとは思っていなかった、そう、シホーヌに会うまでは……

 初めて見た時は驚き過ぎて固まってしまったが、見慣れた今となっては冷静に、雄一はちょうちんを突いて割る。

 跳ね起きるシホーヌを横目にアクアの頭を叩く。

 アクアもビクッと起きると、

「主様、叩かないでも、揺すってくれれば起きますよ……」
「アクア、お前が話しかけているのはシホーヌだ」

 アクアは寝惚けた顔を鼻ちょうちんを再び膨らませて2度寝を座ったまま始めるシホーヌに苦情を言っていた。

 溜息を吐いた雄一は2人をベットから蹴落とす。

 さすがにこれには2人もしっかり目を覚まし、揃ってブーブーと、お前らのほうが双子ぽいぞ? と雄一が思うほど息を合わせてくる。

「さっさと顔を洗ってこい。じゃないと朝食抜きにするぞ?」
「それは一大事なのですぅ!」

 シホーヌとアクアは目を合わせると慌てて、部屋から出ていく。

 振り返ってベットを見ると、あれだけ騒いだのに未だに気持ち良さそうに腹を掻いた体勢のまま眠るレイアがいた。

 そっと近づいた雄一が、レイアを有無を言わさず抱き抱え、頬ずりをしながら叫ぶ。

「レイアぁ―――! 朝だぞぉ! グットモーニング! ボンジュール!!」

 目を覚ましたレイアの返礼は、日に日にキレが良くなる右ストレート。

 ウチのお姫様は、今日も反抗期。


 朝食をみんな揃ってから朝食を開始するのが暗黙の了解になりつつある北川家。
 台風一過のような食事風景を経て食べ終わると、雄一とテツが洗い物を始める。

 それが済むと雄一とテツとホーラは、昨日のオーク討伐の報告、冒険者としての仕事をする為に冒険者ギルドへと出かける準備を始める。

 主夫と冒険者を兼業する家長、雄一の朝は本当に忙しい。
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