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3章 砂漠の国の救世主物語

55話 時代は繰り返す。だから、私は今日もオヤツを食べるのですぅ

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 騒然とする王宮内に侵入を果たしたホーラとテツは庭の植木の影に隠れて見ていた。

 調理場がある辺りから煙が上がっているのを見たホーラが嘆息する。

「これはミュウが何かやらかしたさ。後でしっかり仕置きをしないとね」
「しかし、ホーラ姉さんも期待した事でもあるんですから仕置きまではやり過ぎでは?」

 あっさりと正解を見抜くホーラに苦笑いを浮かべるテツもホーラの言うようにキッカケはミュウだろうと気付いていた。
 ミュウの食い意地はいくつになっても収まる様子がなく、ストッパーの雄一やディータがいなければ事前にマークしてないと防ぐのは基本無理である。

 上がる煙を見る限り、火薬によるものだと分かる2人はミュウは何をやらかしたのやらと首を捻るが、まさか肉を食べてるミュウに驚いたメイドが飛び出した先で弾薬を運んでた兵士とぶつかり、落とした弾薬と松明によって爆発したとはさすがに分からない。

「とりあえず目先の事から片付けていくさ」
「まずは頭を押さえる。王、デングラの父、グラ―ス国王でしたか?」

 植木から飛び出して壁を駆け上がる2人であったがホーラが難しい顔をする。

 多少の迷いを滲ませるホーラが駆け上がった窓から入り、物影に身を隠すと答える。

「そう、と答えたいところではあるけど……どうもね」
「『あの方』ですか? 確かに気になりますがその人物の情報がまったくない状態じゃ目標として押さえられません」

 テツの言う通りで見えない幽霊を掴まえるような話である事はホーラも良く分かっていた。

 しかし、買い物をする過程で聞こえてきたのは『あの方』を褒め称える国民の声ばかりでグラ―ス王について口にする者は皆無と言って差し支えがなかった。
 『あの方』とやらが言った内容を疑う様子を見せない事に危うさをホーラは感じていた。

「思考停止させるだけの信頼を寄せる相手なのか、それとも……」
「ホーラ姉さん、考えて答えが出る事ではありません。アリア達の事も心配ですし、中心人物であれば国王の傍にいる可能性は高い。王の間にいる者を全員捕縛するつもりでいきましょう」

 ダンガを出て以降、理屈を取っ払ったようには感じるが考えて話すテツの言葉に反論がし辛くなってきてるな、と少し悔しい気持ちにさせられるホーラは肩を竦める。

「確かにね。アリア達の事もあるから、王の間で派手に暴れて注意を拡散させるのも良さそうさ」
「意図は分かりますが……壊した後の事を考えると」

 引き攣るテツはホーラの狙いを理解し、効果的だとは分かるが他に手があるのでは? と告げようとするがホーラは最近、賢しくなった弟テツが困るのを歓迎するように「知らん、知らん」と告げる。

「アタイ達はゼグラシア王国の王子、デングラの指示でやったさ。分かるね、テツ?」
「いつの間に承諾受けてた……ああ、証明出来ない内に押し切るつもりですね」

 頭を抱えるテツの脳裏ではアリア達にスケベな事をして逃げる幸せそうな表情のデングラの顔が浮かぶ。

「まあ、多少キツイかもしれませんが、お灸も必要かもしれませんね」

 優しいテツではあるが、可愛い妹達に悪戯したデングラには多少のお仕置きがあって然るべきだと判断したようだ。

 テツの内心に気付いている様子のホーラはテツをやり込めた事に満足した様子を見せると顎でしゃくる。

「じゃ、王の間を押さえるさ。時間をかけて良い事は何もないからね」

 ホーラの言葉に頷くテツを連れて、事前にデングラに聞いていた王宮の間取りを思い浮かべて王の間を目指して動き始めた。





 王の間に到着したホーラとテツは扉の前で気配で中を探るようにして1人だけいると判断すると頷き合い、ゆっくりと扉を開いていき滑り込むように中に入る。

 中に入ると明かりが消されており、真っ暗であったが僅かに入る月明かりが玉座で座る者がいることを知らせていた。

 影のような姿でしか見えないが入った瞬間、2人の本能が危険信号を発してホーラは魔法銃を構え、テツは梓をいつでも抜けるように手を添える。

 迂闊にも既に相手のテリトリーに入ってしまった事に舌打ちしたいホーラであったが、このまま背を向けるのは危険と判断して近くにいるテツにアイコンタクトをすると摺り足をするように近づく。

 倣うように同じ行動をするテツも近づき始めると玉座に座る者が声を発する。

「久しぶりだな、1年ぶりぐらいか? ホーラ、テツ」

 響いた声に2人の背筋が伸び、思わず身震いをする。

 そんな2人を鼻で笑うような声と共に指を鳴らすと暗かった部屋に明かりが一斉に点く。

 目くらましを食らったように2人が目を細めて明かりに慣れようとする。

 慣れ始めた目で正面を見つめると玉座に座る大男を見つめる2人は目を見開く。

 長い黒髪を乱暴に縛る黒いカンフー服を纏うその姿は1年前に姿を消した大男、雄一がそこにいた。

「ゆ……ユウ」

 放心するように構えていた魔法銃を肩から力が抜けたようにダランと降ろしてしまうホーラと違和感を拭えないとばかりに額に嫌な汗を掻くテツ。

 戸惑う2人に口の端を上げる笑みを浮かべる雄一が肘かけにかける手に頬を当てながら言ってくる。

「丁度いい時に来た。無能ばかりで使えないのばかりで困ってたんでな、手を貸してくれ」
「手を……貸すとは?」

 額から頬に流れる嫌な汗を拭いたいが視界を防ぐ事を嫌ったテツはそのままにして雄一に返事を返す。

 テツの言葉に嘆息する雄一は面倒臭そうに言う。

「決まっているだろ? 国のゴタゴタを解決する為に、まずは王女、リアナの人身御供を成功させる」
「どうして自分でされないのですか?」

 テツの言葉にヤレヤレと言いたげに肩を竦める。

「俺が何でもしたら意味はないだろう? 人身御供で弱体化するモンスターを自分達で討伐してこそ今後の国としての意味がある」
「……一理はありますね」

 そうだろう? と言う雄一を見つめるテツの瞳が鋭さが増し始める。

「ご存じでしょうか? この国の王子、デングラとアリア達は友達になりました。デングラの妹、リアナでしたか? 人身御供で亡くなったと分かれば、アリア達はきっと悲しみ、涙しますよ?」
「仕方がないな、人々を救う為に必要な事だ。アリア達も世間では大人と扱われる年齢。涙を飲んで貰うしかないな」

 その言葉と共にゆっくりとテツの周りに風が渦巻き始め、テツは梓を自然体から抜き放つと雄一に向ける。

 鋭さが増すテツを目を細めて静かに見つめる雄一にテツが再び、質問する。

「最後の質問だ……巴さんはどこにいる!」
「はあ、お前の眼は節穴か?」

 嘲笑うようにする雄一が玉座に立てかけていた青竜刀を持ち上げてみせる。

 その造形は見慣れた青竜刀『巴』であったがテツの雄一を見つめる視線に変化は生まれない。

 変化が生まれたのはテツか構える梓から実体化して現れた梓であった。

「馬鹿にしないで欲しいですよ。そんな鉄の塊が巴のはずがないのですよ。神剣であるウチが見間違えるとでも思ったんですかねぇ?」

 いつもの巫女姿の梓が雄一を指差して瞳を絞って睨みつける。

 同じように見つめるテツが告げる。

「まだユウイチさんだと演技を続けるのか?」
「くっくく」

 テツの言葉に肩を震わせて笑い始める雄一にテツは飛びかかる。

 飛びかかったテツに青竜刀で受け止めようとするが受け止めきれなかったのか玉座を破壊しながら後方に押される。

 確信したとばかりにテツが吼える。

「確かにユウイチさんであれば無駄に国に干渉しようとしないだろう。しかし、国の為に罪のない人の命を犠牲にする方法を良ししない。そんな方法を使うぐらいなら国の面子を潰しても自分でやる。まして、その相手がアリア達と繋がりがあると知れば一考しようとする」

 雄一に剣を突き付けるテツは怒りを露わにして言う。

「以前、ホーラ姉さんから聞きました。ユウイチさんはホーラ姉さんに言った事、儲けも乏しいゴブリン駆除を受けた理由がまだ見ぬアリア達の友達になる者達がいるかもしれない、と言ったユウイチさんが言う訳ないでしょう!」

 その言葉に俯き、固まっていたホーラの肩が跳ねる。

 鞘に梓を戻し、構えを取るテツが苛立ちを隠さずに告げる。

「何より、俺の攻撃を受け止めきれないお前が本物のはずがないだろう!」

 舌打ちする雄一に先程より速度を上げたテツが特攻しようとするとテツの足下に投げナイフが数本、突きささる。

 それをたたら踏むようにして避けるテツが投げられた方向にいる人物、ホーラに信じられないとばかりに声をかける。

「ま、まさかホーラ姉さん、この偽者を……」
「て、テツ……アンタは誰に剣を向けてるさ……アタイ等を育て、生きる指針を与えたユウ……ユウが生きてアタイ等の目の前に現れてくれたのに!」

 震える手で魔法銃を上げるとその照準をテツに向ける。

 テツは悔しげに下唇を噛み締める。

 ホーラが情緒不安定になっている事はしばらく前から気付いていたが、時間という薬で癒されるのが良い、と判断して不必要に触れないようにしてきた。

 だが、テツもこんな形で雄一の偽者と遭遇すると思ってなかった。

 こんな事ならホーラを傷つける覚悟で現実に目を向けるように仕向けるべきだったかと後悔が滲む。

「ホーラ姉さん! ユウイチさんが居なくなった事にショックを受けてた事は分かります。でも、目を曇らせないで、こんなのがユウイチさんの訳がないでしょ!」
「違う! ユウは今、生きてアタイ達の前にいる!」

 頑なになるホーラにどうしたらと苦悩するテツを嘲笑うように口の端を上げる雄一がホーラに告げる。

「聞き分けの悪い弟の躾は任せた。俺はしないといけない事があるからな」

 そう言うと窓から外に飛び出す雄一。

「待て!」
「行かせないさ!」

 同じように飛び出そうとするテツに投げナイフで牽制するホーラ。

 ホーラをなんとかしないと雄一を追えない事に歯軋りするテツが悔しそうに拳を握る。

「どうしたら……」

 そう呟いた瞬間、ホーラとテツを遮るように炎の壁が立ち上がる。

「行きなさい。馬鹿ホーラは私が何とかしますから」
「えっ!? ポプリさん!?」

 驚く視線の先、ホーラの背後から突然現れたテツのもう一人の姉と言えるパラメキ国、女王ポプリが指揮棒のような杖を構えて笑いかける。

 戸惑うテツに『早く行け!』と言わんばかりに目を細められたテツは首を竦めると周り右して雄一が飛び出した窓に駆ける。

「ちっ! 行かせないさ……」
「いいの? テツ君に意識を割いて私に無防備な背を見せ続けて?」

 うふふ、と上品に笑うポプリに言われて苦虫を噛み締めた表情を浮かべるホーラがテツを諦めてポプリと対峙する。

 そんなホーラを優しげに見つめるポプリが指揮棒ように杖を振り、地面に向けるとポプリの横に炎で作られた3mはあろうかという犬が生まれる。

 炎犬を優しく撫でるポプリはホーラに流し目を送る。

「8年前を思い出すわね。構図はまったくの逆になってるけど?」
「今回もアタイが勝つさ」

 苛立ちを隠さないホーラの言葉に口許を隠して笑うポプリは杖を突き付ける。

「どうかしら? ただ、まったく同じ結果にはならないという所だけは同意するわ?」

 余裕のあるポプリに舌打ちするホーラは魔法銃を仕舞うと両手に持てるだけの投げナイフを持ってポプリを睨みつけ、隙を伺い始めた。
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