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11話 語り継がれる奥義

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 壁に向かって三角座りをしてブツブツと「きっとこれはジッちゃんの呪いが伝染したんだ……」呟く太助。

 そんな太助の頭をナデナデするリンと良く分からないが楽しげに笑って、大丈夫を連呼するティカの3人を眺めて笑うミラーを更に背後で眺めるカリーナは嘆息する。

 ミラーに渡された書類にサインをし終えたカリーナはこの良く分からない面子に興味を覚えていた。

 まだ全容を理解したとは言えないが厄介者のはずの自分を躊躇なく招き入れる太助にティカ、リン、他にも2人ほどいるメンバー。先程のミラーの説明を聞く限り、自分ほどではないだろうがティカ達も厄介者なのは間違いない。

 サインした書類の一文にカリーナは目を走らせる。


『所属する亜人が起こした責任はコミュニティ代表、タスケが全責任を負うものとする。所属する亜人に対して不当な対応をされた時、これもまたコミュニティ代表、タスケが全力で処置にあたる事を記す』


 つまり、亜人であるカリーナ達を信用出来なくとも、太助越しで信用して相手して欲しいという意味である事が分かる。

 落ち込む太助を先程まで意地悪な笑みで見つめていたミラーが優しい微笑みに変えて背中を見つめる姿を見てカリーナは顎に手を添えて呟く。

「私達、亜人はここまでしないと信用と安全が確保出来ないという訳ね……」
「いえ、今はそこまで酷いモノではないですよ」

 考え込んでしまったカリーナにいつのまにか近寄って来ていたミラーが先程の優しい笑みが幻だったのかと思える死んだ魚のような目をして話しかけてきた。

 口を押さえて驚きの声を殺したカリーナから視線をずらして、まだ落ち込み続ける太助の両腕をティカとリンが揺さぶっているのを眺めながら続きを口にする。

「確かにタスケ君がコミュニティを立ち上げた頃はその風潮はありましたが、今はタスケ君のコミュニティのメンバーであれば好意的な人は多いですよ。そうでない亜人でも警戒される程度ですしね」
「それでも警戒はされるのね」

 カリーナの言葉にミラーは苦笑いしながら「トトランタの住人でも見慣れない相手なら警戒ぐらいはされますよ」と首を横に振られ、言われて被害者妄想である事に気付かされて顔を赤面させた。

 熱くする頬を隠すように両手で押さえながら、街を歩き回っている時に知らない顔だという感じで見てくる者はいたが危害を加えようとしたのはモテないナンパ者ぐらいだった。

 横目で見つめてくるミラーが悲しそうに嘆息する。

「昔は君が思うような事は少なからずあった。でも、ゆっくりとではありますがタスケ君が防波堤になって、亜人というだけで恐れなくていいと知れるように歩み寄った」

 衝突も沢山あったとミラーは告げる。

 それでも根気良く向き合い、ゆっくりと理解の輪を広げていった。今はまだダンガだけではあるが意識を変えつつあると言われたカリーナは未だに膝を抱える太助がそこまで凄い人物だったのかと目を白黒させるのを見てミラーはクスっと笑いを洩らす。

「5年、彼は頑張りましたよ。人の時間で考えるなら長い時間ですが、人の意識を変えると考えると短すぎる時間で良くやってます」
「……彼のあの力、雷を操る力で言う事を利かせてるの? それとも光の粒子を使った不思議な力?」

 カリーナの言葉に深い溜息を零すミラーは小さく被り振る。

「貴方の境遇を想像するとそう思うのはしょうがないんでしょうね。しかし、貴方の存在がその考えが間違っていると証明してるのですよ?」
「えっ?」

 驚くカリーナに目を優しく細めるミラーは再び、太助の背を見つめる。

 ミラーに釣られるようにカリーナも太助の背に目を向けるのを待ってたようにミラーが続きを話し始める。

「力で押さえ付けられるのを嫌ったのでしょう? だから、貴方はここにいる。元の世界からトトランタへとやってきた。力で押さえ付けてどうこう出来るなら彼の祖父、ユウイチ様がとっくにしてますよ」
「……」

 沈黙させられたカリーナは羞恥に頬を染める。

 まったくミラーの言葉に反論出来る言葉はなく、まさにその通りだったからである。

 反省する素振りを見せるカリーナを見つめ、好意的な笑みを浮かべるミラー。

「カリーナ、貴方はタスケ君と出会ったのは必然だったのかもしれませんね。変わろう、受け入れようとする者である貴方だから。全てを否定するだけの者には運命の導きは訪れません。何せ、このダンガには2人の……」

 ミラーが話してる最中にドアをノックする音が響き、話を中断したミラーがドアに近づいて顔を覗かせる程度に開く。

「何かありましたか?」
「はい。先程あった騒ぎの一連で被害にあったと訴えてきてる内容で女にやられたという被害報告がありまして……」

 どうやら、やってきたのは冒険者ギルドのミラーと同じ仕事をする受付嬢のようだ。

 その報告にヤレヤレといった様子で腕を組むミラーが振り返りカリーナに目を向ける。

 目を向けられただけで何を言いたいか分かったカリーナは拗ねるように呟く。

「ナンパしてきた奴が私を縛ろうとしたから撃退したぐらいしか心当たりがないわ」
「そういうのはナンパと言いませんよ」

 頭が痛そうにするミラーは受付嬢に顔を向け、「その男はしっかり取り調べをしましょう。叩けば余罪が出るでしょうしね」と告げると受付嬢はミラーの言葉に頷くとドアの前から離れていく。

 仕事に戻った受付嬢を見送ったミラーが未だに落ち込み続ける太助に声をかける。

「落ち込むのはそれぐらいにしておきなさい。早くコミュニティに帰らないと被害を訴える者が冒険者ギルドにやってきて、それに便乗する野次馬で一杯になるでしょう。ここから出辛くなりますよ、DT三代目?」
「それ、止めてくださいよ! どうしてジッちゃん、父さんにも言って俺にもですか? ジッちゃんの血をひく子孫は俺だけじゃないでしょ?」

 半泣きの太助に見つめられたミラーは肩を竦める。

「ユウイチ様の子孫かどうかで言ってませんよ。気質といったモノを色濃く継いでいるという理由もありますが、一番の理由はそれではありません」
「一番という理由は?」

 拗ね気味の太助が立ち上がる姿を口許がやらしく歪ますミラーの瞳がネズミをいたぶるネコのような輝きを秘める。

 ドアから出て行きつつ、背中越しに太助に伝える。

「それは一番、楽しい反応を示して私を笑わしてくれる相手を選んでるに過ぎません。長生きの秘訣は楽しむ事ですからね?」
「ひ、酷い……」

 小刻みに首を横に振る太助に満足したらしいミラーはドアを潜り抜けて後ろ手で静かに閉める。

 見えなくなったミラーの背を見つめるようにドアに目を向ける太助は幼い頃、雄一が「世の為に俺はいつか倒さなければならない相手いる」と膝に乗せられ暖炉の前で遠い目をして言った相手が間違いなくミラーであると確信した。

 怖い事を雄一が言うと太助は幼いながらも思ったが、少しもっと早く行動してくれててもという思いもなくはないが、それ以外ではお世話になってる事もあるので肺にある空気を全部吐き出すような溜息を洩らす事で耐える。

 太助もまた雄一と同じように始末するに始末出来ない理由を突き付けられてる辺りが似た者同士であった。

 まさにミラーの思惑通りに突き進む三代目、太助は本物である。

 戦闘の何倍も疲れを感じる太助はティカとリンに苦笑気味で笑いかけながら手を繋ぐ。

 嬉しそうに手を揺さぶる2人に付き合いつつ、カリーナに目を向ける。

「さあ、行こうか。俺達のコミュニティへ。カリーナがこれから帰るべき家となる場所へ。俺の、そして君の家族となる者達を紹介するよ」
「家族? 一緒に住むだけの相手の事を言うの?」

 キョトンとするカリーナに太助は悲しそうに呟く。

「そうだったね、女神が擁護する側の国の女性には家族という考えは浸透してなかったんだね……」

 戸惑うカリーナに太助は微笑みながら告げる。

「俺と家族になろう、カリーナ。慌てずにゆっくりと時間をかけてね?」

 そう言われたカリーナは言葉の意味を理解した訳ではないが本能的に察するものがあったらしく、硬直すると同時に顔を、顔だけでなく肌が見える鎖骨あたりまでも真っ赤にする。

「あ、アンタ、良く分からないけどトンデモでもない事を言ってない!?」
「えっ!? そうかな……変な事を言ってないと思うんだけど……昔、ジッちゃんがバアちゃんを家に迎え入れる時に言った言葉と同じような事だから変でも何でもないような?」

 本当におかしい事を言ってるという自覚がない太助が首を傾げるのを見てカリーナは半眼で見つめる。

 見つめられた太助が困った顔をするのを見て深い溜息を零す。

「今、はっきりと分かるのはあのエルフ、ミラーさんがアンタをからかうのが楽しがる理由の一端を知った気分よ」
「ちょ、ちょっと待って、そこの内容を是非、教えてくれない!?」

 慌てた太助が詰め寄り、カリーナと鼻が付きそうな距離に詰め寄る。

 太助にすれば理由が分かればミラーにからかわれない対策が打てるので必死だったのだろうが、いきなり詰め寄られたカリーナは防衛本能の訴えに素直に行動する。

「いったぁぁ!!!」

 カリーナは考える前にサッカーボールを蹴るように振り上げた爪先で太助の脛を蹴り飛ばした。

 蹴られた痛みでティカとリンと繋いでいた両手を手放して蹴られた脛を押さえてケンケンをするように飛び跳ねる。

 再び、遊び始めたと勘違いしたティカとリンも真似をしてキャッキャと楽しそうに跳ね始める。

 痛そうにする太助を見て、先程の事はわざとじゃないし、あそこまで過剰反応をしたのはやり過ぎだったと謝ろうとするが……

「フンッ、いい気味よ! それより、さっさと案内するならして!」
「いい気味って……」

 思わず、思ってた事と反対の事をして軽い自己嫌悪と戦うが情けない顔をした太助を見て「もう!」と怒った風に口をへの字にする。
 そして、太助の手を掴もうとするが一瞬、躊躇を見せると方向転換して袖を掴んで出口に引っ張る。

「情けない顔をしない! アンタは私が所属するコミュニティ代表なんでしょ!」
「……そうだね、頑張るよ」

 情けない顔から不意に優しげな微笑みを浮かべた太助に見つめられたカリーナは何度目かの顔を真っ赤にさせられ、凄い勢いで明後日に顔を向けながら太助を強く引っ張って冒険者ギルドを後にした。





 冒険者ギルドを出て、なるべく人目に付かないようにしてドラゴンテイルに戻ってきた太助達は玄関先を掃除をしてたロスワイゼとテルルに出迎えられた。

 太助達の前では、「あらあらまあまあ」と頬に片手を当てながら笑うロスワイゼと太助とその隣に立つカリーナと交互に眺めて「あわわ」と泣きそうになっているテルルに見つめられていた。

 夕日に照らされた太助は遠い目をする。太助の想定では出会った瞬間、「おかえりなさい、あら、隣の子は誰?」ぐらいの流れを想像していたが黙って見つめ合う事態になって途方に暮れていた。

 初めは年長のロスワイゼに打開策を期待して見つめようと思ったが何やら楽しんでいる様子で自分から動こうとする様子がない事に絶望する。

 正直、大役過ぎるかも、とは思うがテルルにお願いとばかりに微笑むとテルルに何やら裏切られたと言わんばかりに瞳に涙を盛り上げて見つめられ、逆に太助が怯まされる。

 駄目元でティカとリンを見つめるとタヌキを連れて庭の方に駆けていき、「タヌキの家を作るのだ!」と楽しげな言葉を残して太助の下を去った。

 しょうがないとばかりに腹に力を入れて気合いを充填した太助が戦場に躍り出る。

「えっと、彼女はカリーナって言うんだ。ちょっと訳ありで……」
「そうなの? カリーナちゃん、タスケちゃんと何があったの?」

 太助の言葉を断ち切ったロスワイゼがカリーナに事情を問うと何やら面白くなさそうにするカリーナが仏頂面で棒読みするように答える。

「俺と家族になろう、と言われて連れてこられました」
「ま、マスター……酷いです……みゅうぅ」
「あらあらまあまあ~」
「ちょ、ちょっとカリーナ! 前段階を端折り過ぎだよ!」

 気絶するように背中から倒れていくテルルを抱き抱えながら、半眼のカリーナと全力で楽しんでいるロスワイゼを交互に見つめる。

 どちらもそれ以上、動く様子を見せない事で覚悟を決めた太助がソッとテルルを地面に寝かせるとカリーナとロスワイゼに向き合う。

 太助は思う。

 昔、初日の出を見に連れて行ってくれた雄一が、震えるが諦めないと呟く父が母を見つめた時に伝えた一子相伝の奥義を使う時が来たと……

 キリリと良い顔をした太助が両膝を付いて、両手も地面に付け、そっと静かに額も地面に付くかどうかのところで止める。

「たのんますんで、話を聞いてくださいっ!!」

 伝家の宝刀、『 Dogeza 』を発動させた太助は勝利を確信するが頭上から降り降りた言葉はそれを裏切る。

「ばっかじゃないの?」
「ええっ!! ぶはっ!」

 カリーナの無慈悲な言葉に驚きの声を上げて頭を上げようとした太助の頭を踏みつける者が現れる。

「こ、この馬鹿孫がっ! 見てる方が恥ずかしくなるさ!! ユウと馬鹿息子だけかと思ってたら……」

 踏み抜く力が強くて太助が地面に顔を埋めるのを見て慌てるカリーナであるが傍にいるロスワイゼがカリーナの肩に手を置いて笑うと踏み抜いている初老の女性に話しかける。

「お久しぶりです、ホーラ様……心配しなくてもいいわよぉ? タスケちゃんのお婆様で……」

 そう言われても驚く事を平気にするホーラにビックリするカリーナにロスワイゼはホーラの背後にいる初老のエルフと太助に似た風貌をする男を紹介する。

「白髪のエルフの方がタスケちゃんの師匠、剣豪、テツ様。その背後で困ったように頬を掻いてらっしゃるのが『救国の英雄』と言われるタスケちゃんのお爺様のユウイチ様よぉ」
「タスケが間に合って本当に良かった。それにしても、私も話でしか聞いてはいませんがユウイチさんと同じ行動をしてるみたいですね? まるでほー……」

 何やら言いかけたテツの顔を打ち抜くような蹴りをホーラが不意打ちで決めると倒れたテツを問答無用に踏みつける。

「アンタもいくつになっても一言多いその性格は治らないさ!」
「ご、ごめんなさい、ホーラ姉さん!」

 咥えている煙草の紫煙を吐き出す煙が怒気に色が付いたように見える。

 怖々とホーラを見つめるカリーナはロスワイゼにこっそりと告げる。

「その剣豪を足蹴にして謝らせるタスケのお婆様は何者なの?」
「うふふ、それは今度ゆっくりね?」

 地面に陥没させられた太助が顔を引き抜いてイヌのように首を振って土を払いながら立ち上がる。

「バアちゃんの二つ名なら『火薬……」
「もう復帰しやがったさ、この馬鹿孫がぁ!」

 元気を有り余らせたホーラの飛び蹴りが太助の顔面にクリーンヒットして、今度は意識を刈り取られて太助は引っ繰り返って気絶した。 
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