猫のお知らせ屋

もち雪

文字の大きさ
上 下
20 / 37
夏休み

8月の盆踊り

しおりを挟む
 8月に入ると盆踊りって言うものをやるらしい。



 みずほちゃんの夏休みが始まったある日。



 僕は、公園の掲示板で、盆踊りのお知らせを見つけた。



 へぇ――。なんだろう? と思っていたら……。



 8月に入って何日かすると、その公園にいつの間にか何か出来ている。



「みずほちゃん公園に何か出来てるね。あれ何? お祭り?」



 テーブルで、まんがの雑誌を読んでいた。みずほちゃんは、雑誌をめくりながら――。



「えっとね……さっきあったけど…………あった。ここのページ見て」



「たいこを、たたくこばやしくんかっこいい? ひらがなは、なんでそんなに、小さいの? 見えにくいんだけど……!」



「違うよ、そのまわりの絵だよ。ほらこれ提灯をずらぁ~~~~~~~~っとつけてるでしょう、そしてこの櫓やぐらの上で、小林君みたいに太鼓を叩く人がいて。そのまわりをみんな踊るんだよ」



「それ楽しいの?」



「うーん、楽しいかな? そして私達には懐かしい祭りだから……稲穂いなほも一度行った方がいいよ、絶対」



「そっか……。わかった! ありがとう みずほちゃん」



 あずき先輩と舞を踊っても楽しい、だからみんなで踊っても楽しいんだろうな……。でも、うまく踊れるかな?



 ★☆★☆★





 ある日、朝からお仕事だった僕が、うちに帰るとあずき先輩が、机の上の紙を見ていた。



「あずき先輩、何見てるの? 美味しもの?」



「違う、今週の土・日にやる盆踊りのお知らせのプリントを見てたんだ。この日はお前も一緒に出掛けるからな。ちょっと帰るの遅くなると思うから昼寝をしとくといいぞ」



 あずき先輩は、僕に紙を親指と人差し指で持ってぴらぴら見せるけど、漢字だけだと難しくてまだ読めない。



「あずき先輩、盆踊りの練習しないの? 奉納の舞の練習だけして大丈夫?」



「稲穂いなほ……、盆踊りは、1時間やるんだ……。しかも、ずっと同じ踊りじゃなくて、結構たくさんの踊りを踊る……だから……」



「だから……」

 これは、あずき先輩が大切な事を言う流れ……。



「やぐらの上の人の真似をすれば、大丈夫だ」



「えっ? そんな感じでいいの?」



「たぶん……。町内会の会長は、時々、テレビでやってる新曲の踊りも入れて来るから、そんな感じでいいんじゃないか? すご――く、知りたいなら、お母さんに聞けばいいぞ、今年も櫓やぐらに近い輪わで踊るらしいから夕方から、公民館へ習いに行ってるからな」



「へぇ……たくさんの踊りの種類があるんだ……」



「まっ、そうだな、まぁ……おれは探すのが、忙しいから踊らないけどな」



「探すんだ……」



「まぁ。見つかったら稲穂いなほにも紹介してやるから――お前が楽しんで踊ってればいいよ」



「わかった。楽しんで踊ります」



 盆踊りは、いろいろあるのはわかった。僕も踊るけど……実は、こばやしくんみたいに太鼓を叩いて、みずほちゃんやみんなにかっこいいって、言われたいかもしれない……。



 叩けるだろうか……太鼓。



 ☆★☆★☆





 そして土曜日の今日……。



 お母さんが、「今日は盆踊り出来そうね」って、言うのを聞いて盆踊りの事を思い出した。



 昨日、台風だったから本当に忘れてた。 楽しみにしていたのに本当に、凄く忘れてて、びっくりした! のだけど思い出せて良かった。昼寝しとかなきゃ。





 夕方、まだまだ外が明るいうちに、お母さんとみずほちゃんは会場へ行ってしまった。夕方近くなると、僕の甚平のひもは、あずき先輩に教えて貰いながらむすぶ。あずき先輩は、美味しそうな鯉の着物の着崩きくずれがないかお父さんに、見て貰って、『消』のカードを使ってから三人で出発。



 公園では、お面の屋台が出ていている。それとは別に、祭り事務所に行くと、猫のお面のプリントされた紙と輪ゴムが2個貰える。中には手作りのしっぽを付けている人もいる。

 みんな櫓やぐらの上や、踊る人を見ながら踊っている。みんなそんな感じなら、ちょっとくらい間違っても大丈夫そう。なんかちょっと安心した。

 

 でも不思議。お面があるから、誰が誰かわからない。僕が子ども達と普通に話しても、きっと誰かと間違えて普通にお話が出来るかもしれない。僕も踊りの輪の中に入る前に、猫の面をつけてみる。



 そうする事で、僕は猫のお面をつけた猫じゃないただの普通の子ども成分80%アップする。よくわからないけど、当社比ってやつ?



 盆踊りは楽しい、輪になって踊っていると、するがくんを見つけた。するがくんは、踊らずにはじっこで、かき氷食べてた。



「するがくん、こんばんは」

 でも、僕に気付かないみたい。あっ……僕は、彼の肩をちょんちょんとつつく。そうすると、するがくんは振り返る。



「あぁ……。神代さんとこの稲穂いなほくんか、あれ? 一人? 瑞穂みずほは?」



「みずほちゃんなら、お母さんと盆踊り習ってたから、真ん中の方で踊るんだって」



「そっか……瑞穂は、相変わらずだよなぁ……」そう言って、かき氷をゆっくり食べた。



「おおいぃ――駿河するが、先に食べるなよ」

 太郎くんが、たこ焼きを持ってやって来たので、僕はするがくんにバイバイをした。



 僕は、あずき先輩とお父さんの所へ行く。

 ジャングルジムの所で、ふたりとも、もたれかかりながら僕を待ってた。でも、お父さんはすぐに知り合いに会って、挨拶をして忙しそう。



 あずき先輩が僕に近寄って、二つの入れ物を袋から少し出してみせてくれる。



「お前は、お好み焼きとたこ焼きどっちがいい? お好み焼きは、豚玉な」



「ぶたたま……」

(なんだろう……)



「豚と卵じゃないか? たぶん。とにかくどっちか選べ」



「じゃ……豚玉で、おねがいしゃす」



「お願いします なっ」あずき先輩は、腕にかけたビニール袋からパックを取り出して僕にくれた。



 僕達は、3人で、ひいてあるビニールシートの所へ行くと、みんなで仲良く食べた。お好み焼きも、なかなか美味しい。明日もお好み焼きでいいかもしれない? 全部食べて、お茶を飲む。ごちそうさま!



 すると、みずほちゃんがやって来た。



「お父さん、あずき、おじぃちゃんと扇おうぎいた。ほら、あそこ」



 おじぃさんと、僕達と同じ猫のお面を付けた、茶色の髪のお兄さん。おじいさんは、手を振って、お兄さんが頭を下げた。



「扇おうぎは、おじぃちゃんと逝く事を選んだんだね……」みずほちゃんは、懐かしそうにそう言い。



「よく喧嘩をしてたけど、あの二人はなんやかんやで、仲が良かったからな……よく喧嘩をしてたけど」

 あずき先輩は、そう言うと、僕に前に押し出す。



「俺の先輩で、お前の先輩の先輩、ほらちゃんと頭下げて挨拶しておけ」



 あずき先輩が静かにそう言うので、僕は頭をさげた。



 二人はこっちに、笑顔で手を振ってくれた。



「お父さん、手を……」僕の横を見上げるとお父さんは、静かに泣いていた。



 だから僕は、お父さんと静かに手をつないだ。僕の手をみずほちゃん、みずほちゃんの手をあずき先輩。みんなが、誰かの手をつないでいた。その間……。



 そうすると、お母さんもやって来て、静かにお父さんの背中をさすっていた。



 おじぃちゃんとおうぎ先輩は、僕達にまた手を振ると、人込みの中に入って行った。



「もう、お盆も終わりだな」そう、あずき先輩が言う……。



 でも、楽し気な盆踊りの歌はふたたびはじまる。



 僕は、皆の手を引いて、そのまま踊りの輪に進んで行く。



「今度は、みんなで踊ろう!」





 おわり

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リトル・ヒーローズ

もり ひろし
児童書・童話
かわいいヒーローたち

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

子猫マムと雲の都

杉 孝子
児童書・童話
 マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。  マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。

フラワーキャッチャー

東山未怜
児童書・童話
春、中学1年生の恵梨は登校中、車に轢かれそうになったところを転校生・咲也(さくや)に突き飛ばされて助けられる。 実は咲也は花が絶滅した魔法界に花を甦らせるため、人の心に咲く花を集めに人間界にやってきた、「フラワーキャッチャー」だった。 けれど助けられたときに、咲也の力は恵梨に移ってしまった。 これからは恵梨が咲也の代わりに、人の心の花を集めることが使命だと告げられる。   恵梨は魔法のペンダントを預けられ、戸惑いながらもフラワーキャッチャーとしてがんばりはじめる。 お目付け役のハチドリ・ブルーベルと、ケンカしつつも共に行動しながら。 クラスメートの女子・真希は、恵梨の親友だったものの、なぜか小学4年生のあるときから恵梨に冷たくなった。さらには、咲也と親しげな恵梨をライバル視する。 合唱祭のピアノ伴奏に決まった恵梨の友人・奏子(そうこ)は、飼い猫が死んだ悲しみからピアノが弾けなくなってしまって……。 児童向けのドキワクな現代ファンタジーを、お楽しみいただけたら♪

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

処理中です...