魔王がやって来たので

もち雪

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王の命

王のあやまち

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 辺りが、急に騒がしくなる。どうやらアニス王が、ここ王の間の廊下付近まで来ている様だ。

 姿を見せたのアラフォーの髪の長いハチミツ色髪そしてオリエラと同じ緑の瞳の男性が王であり、そして彼に支えるように歩く金髪で黄色に近いブラウンの瞳の女性が王妃なのだろう。

 その後ろに魔法が学校の制服のオリエラが後について歩く。皮肉なもので、腹違いの兄で、ホイルトツェリオ城の第一継承者のあるオリエラの兄は、呪いが彼にも継承される事を恐れた、王妃や家臣の願いによって他国へ留学していて今回も帰る事はゆるされなかった。

 王は、中央のベッドに寝かされ、僕はその隣のベッドに歩み寄る。

「新しくこちらへ転移して来た勇者ハヤトは、お前だな。すまいない、君は世界を救うものなのに我が国の事に命を掛けさせてしまって……」
 アニス王は一目見て体が衰弱し、あとわずかな命であるだろう事が僕にも見てわかるのに、それでも王としての誇りと威光、そして名誉を手放さない。ここまで歩いてくるの事や、今なお上半身を起こし僕に話しかける苦痛をもってしても、彼を屈服させられない程の心の強さを持っているだ。

 そんな彼をここまで痛めつけた呪いに打ち勝つ事は出来るのだろうか。しかし死ななければ今回は勝利、それを信じてやるしかないのだ。

「アニス王、病人は寝ていてください」

 そう声を掛けた女性はが、歩み寄って来る僕より少し年上だろうか? 聖女様は、ベールを被り白い少しゆったりとしたワンピースを着ている。彼女は僕の方を、見ると笑いかけ――。

 「王都のサラネス教会から派遣されました。ルナと申します。本日はよろしくお願いしたいします」

 「ハヤトです。本日は、よろしくお願いします」

 僕が少し力を込めてそう言うと彼女はふふふと可憐に笑う。

「ルナ、体の調子はどうだい?」僕の後ろから声がするので、魔法学校の校長が居た。

「たくさん回復魔法かけていただいたので、もうすっかり元気なりましたわ。それよりも校長先生、勇者様がいらっしゃいますわ」

「あぁ……勇者殿か……すまん。挨拶が遅れたな私が、魔法学校校長のゾイドだ。今日はよろしく頼むよ、そしてくれぐれも死ぬなよ。この呪いは、どうも死ぬと魂をむしばみ消滅までは、行かないがしばらく輪廻転生の輪からも外れてしまうらしい。そうすると蘇生魔法でも生きかえることは出来ない。本当にふざけた呪いを作り出しおって」

 どうもやはりあの時ぬいぬいが言った様に、魔法学校にいた校長は偽物ようだ。圧とか雰囲気が依然と比べ物にならない。

「では、始めるぞっ、それぞれの立ち位置で、説明と同じ位置にいるな。周りを確認しろ」

 僕は王の横に逆向きに寝かされ、右手どうしを並べて置かれ、厚い布で僕の腕と王を巻、その上から紐で縛られる。

「「おります!」」

「では、王族の結界は確実か?」

「「はい!」」

「では、勇者殿決して闇に落ちてはならぬ。この呪いは正義を盾にお前を脅かすだろう。だが、人は誰でも生きていれば、つぐなう機会を与えられる。決して負けぬように……」

「わかりました」

「ふむ、では始めよう」

 そこで歌が始まる、ゆっくり間延びした歌声が、群衆から聞こえる。

「汝は、どこにいる間違ってはいないか?」
 校長は、マナの中心と言える僕の心臓の上に置き、王に話しかける。その間も校長の手から僕のマナを押さえつける力、誰かの思いを感じる。

【間違いではない……】

 アニス王の声がする。彼は、家族を愛していた。誰よりも……。

「本当にそうか? 間違いではないのか?」

【間違いではない……決して私は間違えない。我が一族、おさを殺した者を!】

 アニス王の声、そして彼が殺した、魔族の長の第一の家臣の声、あの時アニス王はここが死地とまで定めて、あの城に乗り込んでいた。彼の過ち、ただ一度の過ちでも長くそこへいれば彼女を愛してしまう確信があった。なので、もう他の者の助けを待つ時間などない。

「お前が命を落としてまで殺したかった男は、この男ではないのか?」

【お前は何を言っている? 私が間違えるはずなど……】 

 その1つの罪が今、私に罰を与える。いつもなら、うち漏らす事のない命、でも……私は迷っていた。彼女をこの辺境の地に残していいのか……。けれど、王妃、私の薔薇、私の愛する人を……傷つける事など到底出来なかった。だからこれは私への罰なのかもしれない……。

【アニス王! アニス王! 何故お前は、そこにいる。憎い! 憎い! 私の仇!】

「受け入れなければ、この罰を……オリエラ、私の娘……あの時、彼女の母、私の愛した人にすべてを話せば私は、娘の為に何か出来たのかもしれない。本当にすまない事をした……」

 これは僕の声。その瞬間右手を通して悪意と魔がましい呪い、痛み、やるせなさ、深い深い悲しみが僕のもとに来た。心臓を掴まれる痛み、そして体中を刺すような苦痛はなんだ!?

 ぐあぁぁ――――!

 僕が僕の物とも思えない苦痛の声を出す間に、腕のロープは切られ、厚い布を取るのを中途半端に、王はベッドごと連れ去られていく。

 なんだよ! 痛いのは仕方ないけれど、若い僕には王の気持ちは重すぎるし! もうかぶる部分多すぎて辛すぎるよ!

       つづく
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