魔王がやって来たので

もち雪

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ふたたび動き出す世界

狐の嫁入り道中

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 今、机の上には、コーヒーカップが、2つと魔王の湯飲みが1つ並んでいる。

「すまん、コーヒーは後で楽しむとして……やはりお茶を貰えるか?」と言った結果だ。

 そのお茶を少し飲み、ウンウンと頷く魔王。そしてそれを見ながら明日は、魔王用の500ml入りのコーラーのペットボトルを2本買って来ようと考える、僕。

「で、狐の嫁入り行列が始まったわけだが、雨の中、正直眠たいのを我慢しながらみていると」

「まず晴れ着を着た狐の子供が、横を走っているのに気づく」

「その子供は転ぶのだが、そのままクルっと空中を宙返りして青白い月になってそのまま空へ飛んでいくのだ。」

「それを引き車から小雨に、濡れながら顔を出して見ていると……」

「山の高台になっている少しみはらしのいいところに、巫女の妖艶な 白銀しろがねの長い髪の女が、空から落ちて来て衝撃で、地鳴りと土埃が起こしながら地面に落下するのだ!」
 そういう魔王の頬はいつもより血色がよく赤みをおび、子供の様だった。

「でも、普通そこまで詳しく見えるものなのですか?」

「狐のよく使うあれだ、幻術か、もしくは化かされていたのか、どちらかだろう」

「見てみたいものですね」

「貴様は、それ自分とフィーナとの結婚手筈てはずする側になりたいのだろ?」
 ニャリと笑う魔王の顔をみて、彼の真意に気付く。

「なります! 絶対に……規模は小さくなるかもしれませんが、絶対に」

「何を、小さい事を言っておる」
 ふふふんと鼻で笑う魔王に、僕は頭をかくしか今はなかった。

「土煙、土埃は、小さな花火となって消える、そこに狐の耳を付けた男たちが馬に乗り現れる。その中の先頭の男と落ちてきた女が……」

「まぁ……なんだ、そこで手に手を取って、ゴホッゴホッ」
 魔王は、言い及んでいるのか、咳をして誤魔化しているように見える。ここは、あえて言及げんきゅうは、避けよう……。

「まぁ……いろいろあって、祝言の様子」

「白銀狐の赤子を掲げる場面なのあって、最後に、今回の主役の花嫁、花婿の姿が画面に映し出されたところで、本家に着いたわけじゃ」

「傘を差した男が、やって来て初めて、気付いたのだが……他の狐達には水滴1つ付いていなかったのも奴らの能力かもしれん」

「そして本家に入る時、人込みひとごみのもっと後ろの方で少しお腹の大きくなっていた白雪とフィーナの叔父の樹木きづきが仲睦ましく立っていたよ……」
 
 遠い日思いをはせる魔王の声が静かに伸びた。

「我の視線に気づくと、頭を下げて我が家に入るまでその頭は上がらなかった」

「傘をさしていた男は、『本当に仲がよろしい事で、もうこの本家には去年から幸せ続きで本当に喜ばしい事で』と言っておった」

「まぁ――祝言の様子は、体験した方が早いだろうし省く」
 こちらを見る目に何故か圧迫を感じるのは……気のせいだろうか……。

「その空から落ちてきた女性は、こちらの世界の人間なのですよね? 」

「そう言われているが、奇妙な話も聞く。だから、我もそう言ったが詳しくは藪の中だな」

「それから何かとあやつらと関わる事もあったが、だいたい平和だった。フィーナの叔父が、病で亡くなるまでは……」

「我が聞いたのは後の方で、樹月の死が目に見えて白雪に影を落とした時……。本家の家業を手伝っていた白雪を助けると言う名目で、あの男が出入りするようになってからすべては壊れていった」

「白銀狐の血を残す本家側と、商業の未来を歌うあの男とで、本家は2つに割れ。最後には、フィーナの両親は事故で亡くなった、きっとあのふたりの子も暗く、深い、嵐の海の様な渦の中に落ちていくのだろうと思っていた……。事故が、偶然なのか故意なのかは、今もわからぬし、調べる気もない魔界とはそう言うところなのだから……」

「しかし狐の嫁入り道中で見た、あの白銀の髪の巫女姿の女が我の前に現れた時」

「そして『貴方の役目をはたして』そう……あの声が、目が、あの指先が我にそう告げた時、すべてが

「そして今、ここで我はお前に昔話を聞かせている」
 
 僕は静かに魔王の昔話を飲み込む。それは重く、静かに、そこにあった。


   つづく
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