魔王がやって来たので

もち雪

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前日譚 

ある青年の思い出 伍

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 魔界の天候は、それぞれの土地によってさまざまに違う。

 白銀家しろがねけのある、この土地では月に近いためと言う理由で、春夏秋冬の季節があり人々はそれを楽しむ事が出来た。梅雨ももう終わりかけのその日、朝から雨は横なぐりの状態で続いている。
 
 そんな天気の中で、フィーナの両親は町の会合に出掛けていたが、夜中になっても二人は帰って来ることはなかった。そんな中でもフィーナは、決して取り乱す事はしなかったが、逆にそんなフィーナの事を思い本家に勤めていた者の何人かは……そのまま、その日は本家に泊る。私も、そして両親に泊まる事を止められた向日葵も、無理を言ってその日は泊っていた。




 時間は丑三つ時を過ぎた頃、隣の大広間かから聞こえてきた彼女の声に気付いて、私は目を覚ました。
 
「幸子、お父様とお母様は大丈夫なのですか?」

「残念だが……桂月けいげつ桔梗ききょうも朝まで生きていられないだろう……」

「そしてあの場所はとても危険な場所で、今のお前を連れていく事もできない」

「では、幸子だけでも、父のもとに戻ってもいいのですよ?」

「それも出来ない願いだ……あの子の最後の願いは、『自分の死が確定したその瞬間からあの子お前を守って欲しい』だった、あの子の願いをないがしろには出来ない」

「さぁー私が月から落ちてきた時からの、いにしえの約束をしましょうさぁ……貴方も入って来て」

 彼女がそう言うと、私の目の前の大広間の障子が開いた。


 巫女姿の儚い感じのする女性。つややかな白銀色の髪が、腰まである狐ではない女性それが、『幸子』だった。
 月から落ちてきた彼女は、代々の当主をこよなく愛し、彼らに力を与える。白銀の家の誰もが知っているが、誰でもが姿を知ることは出来ない存在……。

「さぁ……ふたりに桔梗の花をあげるわ」

 フィーナは黙って受け取り、私は「でも……」(花は一人にしか譲渡出来ないのでは……)と言う前に、「いいのよ!いくら私が貴方たちを愛しても、貴方たちは勝手に私よりかけがえのない者をみつけるのだから、この際かわいそうな私は何人に花をあげてもいいと思うわ」と言い切り私に桔梗の花を手渡した。

 伝説の彼女はとても押しの強い人らしい……。信じられない思いで、フィーナはを見るとフィーナは静かに泣いていた。信じられないものを見た、ぼくの目からも一筋の涙がこぼれた。
 
「可哀そうにふたりともこんなにまだ幼いのに大人達が望む様に、大人のふりをして生きてきたのね……でも、大丈夫」
 
「今日は私の魔法のせいで二人とも泣いているのよ。だから……せめて今日位……貴方達が泣くのを、貴方達は許してあげてね……」

 幸子様の魔法かそれとも、梅雨の最後の大雨と雷が、僕たちを隠してくれたのかはわらない……。

 僕たち二人は朝、大人たちが起きてくるまで、幸子様の腕の中で泣いていたのであった。

 つづく
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