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アプリで知り合ったイケおじが×××する話
37 一件落着?
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その日の午前は何度もスマホを見てもうダメかもしれないと落ち込んでいた。
「おい……大丈夫?」
昼休み、教室で弁当を食いながら雑談して話題がひと段落した時だった。最近そう聞かれることが増えた気がする。
大河と光太郎のどっちに聞かれたのか分からなくて一瞬混乱する。
「え~大丈夫ってなにがよ?」
大丈夫じゃないけど笑ってはぐらかす。2人に悩みを打ち明けないと決めたから。
隠し事をしている罪悪感は確かにあるけど、今に始まったことじゃないし、わかってくれるんじゃないかって勝手に期待して落胆するようなめんどくさい真似はもうしない。
俺がオレンジジュースを飲んでる間、2人は両親と同じ顔して俺を見つめてくる。
食欲はないけどジュースは美味い。「ちゃんと栄養摂取してんな~」って感じの甘味と酸味が口に広がる。
「うーん……」
「家でなんかあった?」
「なんもないけど。え、てかなんかあったように見えるの?」
あえてはっきり言うと2人は顔を見合わせ、口籠っている。
変な間の中、教室の隅に陣取ってる女子たちの笑い声が妙に大きく聞こえる。それだけなのになにが面白いんだよってイライラしてくる自分がいた。
光太郎が眉をひそめ何かを言おうとした時だった。
「あっ、ちょ、ちょっと待って!!ごめん!」
ラインの着信音が鳴る。秋雄さんからだ。
ぶわっと汗が吹き出す。
みんなの前で秋雄さんと電話できないからスマホを持ってトイレの個室に駆け込む。
「わわわ。やばい、どうしよ」
胸を飛び出しそうなくらい心臓がバクバク鳴っている。
あわあわ独り言を呟きながら、鍵をかけ、これから何を話すのか想像もつかないまま通話ボタンを押す。
「あ、秋雄さん……?」
『今、どこにいますか?』
普段聞かないような切羽詰まった感じの声だったからヒヤリとする。
「学校だけど……トイレにいる」
誰もいないけど一応小声で喋る。
『ですよね、すみません……』
「……」
『……』
なにも言い出せなくて耳をすましていると、浅いため息が聞こえてくる。
「……秋雄さんは今どこにいるの?」
『ええと、仕事してて』
「運転中?大丈夫?」
『はい、脇に停めてるんで大丈夫です。それで、その、何から話せばいいんですかね、本当にすみませんでした』
「やめて!なんで秋雄さんが謝るの!俺が……キレたから……」
声と手が震える。昨日の失態を思い出すとどうにかなりそうだった。
それを察した秋雄さんが優しく落ち着いた声色で語り出した。
『あの人はただの隣の人で……向こうが自分のことベラベラ喋っててちょっと変なヤツだなぁって思ってました』
「そう、なんだ……」
『誤解されるようなことした俺が悪いんです。もう軽率な態度は取りません。
それで……昨日のことは……こんなこと言ったら失礼だけど嬉しかったです』
「うれ…しい…?」
秋雄さんの言葉が信じられなくて反射的に繰り返す。
『その、つまり嫉妬したってことですよね。結構嬉しかったですよ、あはは』
……確かに嫉妬した。町中で大声で怒鳴り散らして、酷いことをした。秋雄さんはただのヤキモチみたいに言うけど……。
2人の間で何か誤解や勘違いがあるかのような違和感を感じるが、怒っていないと知って安堵する。
『普段近所の床屋に行ってるんですけど、×××行ったら美容師にカットモデルやってみませんかって声かけられたんですよ。
新人がやるから無料だって。タダならいいかと思ったらこんな風になっちゃって』
×××とは秋雄さんの家の近くにある大きなショッピングモールだ。
髪型は気に入ってないような言い方をする。
本当は似合っててかっこいいのに……似合ってないなんて嘘だったのに……。
『なんか髪だけ気合い入って若作りしてんなぁって感じしませんか』
「えっ、そ、そうかな?」
いきなり同意を求められて困る。
「う、うん。そう……かも」
話を進めるため、本当は嫌だけど同意する。
『服を変えたらもうちょっと馴染むかと思って、普段行かない店で全身選んでもらったけど……完全に服に着られてるって感じですよね。ははは』
髪に合わせて服装も変えるって結構行動力あるな、秋雄さん。
ファッションにこだわりがないからできるのかなぁと推測していると話には続きがあった。
『店員に何か用事があるのかって聞かれて、ついデートって言ったんですよ』
「デート……えへへ、いいね、それ」
『それで適当に話合わせてたら、奥様もきっと惚れ直しますよって言われたんですよ。
その時、ゆうくんの顔が思い浮かんで……そうなったらいいなって……』
秋雄さんも二人の間に漂う倦怠期じみた雰囲気を感じていたのだろうか?
新しい自分になろうとしたなんて……。電話越しの秋雄さんの元へ走っていて抱きしめたい衝動に駆られる。愛おしくて、涙が出そうになる。しかし秋雄さんは違った。
『いい歳して外見だけ着飾って……本当に恥ずかしいですよね』
「え……」
『似合ってないって言われて目が覚めました。まだ、俺のことを真剣に考えてくれる人がいたんだって嬉しかったです』
……『まだ』か。秋雄さんの考え方は寂しくて、つらい。やっぱり秋雄さんは孤独な人間なんじゃないのかな。スマホを握る手に力が入る。
『それでいい気分だったのに帰りにスマホ落として電源つかなくなったんですよねぇ~』
俺の心中に反して秋雄さんの声色は明るい。
「だから既読付かなかったんだ……」
『はい。さっきいじってみたら電源入って……みませんでした』
「だから急いで電話して来たんだ」
『はい、そうです。学校なのに……すみません。無視してるって思われてたら嫌だったので……』
「ううん、気にしないで。……壊れてたんでしょ、しょうがないよ」
「しょうがない」って俺が言えた立場じゃない。秋雄さんと話していると自分がどんどん偉くなってしまう。
全くそんなつもりじゃないのに、俺が秋雄さんの過ちを許すような形で話がついてしまった。これじゃ俺が納得できなくて、もう一度「勘違いして、酷いこと言ってごめんなさい」と謝る。
しかし秋雄さんも『悪いのは俺です』と譲らない。このままだとお互いずっと謝り続けてしまう。
…から秋雄さんは俺に許されるって終わり方を望んでるのかな。俺を傷つけず後腐れなく仲直りできるように……。
その優しさを受け止めることにしよう。
「わかった。スマホ、一応修理した方いいんじゃない?」
『はい、せっかくなので新しいのにしようと思ってます』
「うん、そうしなよ。じゃあお仕事がんばってね。気をつけて」
『ありがとうございます。ゆうくんもがんばってくださいね』
月並みな言葉で電話を切る。
「はぁ……終わった……」
壁に背をつけズルズルとしゃがみ込む。
数分の電話がものすごく長く感じた。とにかく解決してよかった。
でも……上手く行きすぎて、怖い。これは考えすぎだろうか?
教室に戻ると大河に「なに、誰から?」と尋ねられたが、笑って誤魔化した。
なにも言いたくない……。
「おい……大丈夫?」
昼休み、教室で弁当を食いながら雑談して話題がひと段落した時だった。最近そう聞かれることが増えた気がする。
大河と光太郎のどっちに聞かれたのか分からなくて一瞬混乱する。
「え~大丈夫ってなにがよ?」
大丈夫じゃないけど笑ってはぐらかす。2人に悩みを打ち明けないと決めたから。
隠し事をしている罪悪感は確かにあるけど、今に始まったことじゃないし、わかってくれるんじゃないかって勝手に期待して落胆するようなめんどくさい真似はもうしない。
俺がオレンジジュースを飲んでる間、2人は両親と同じ顔して俺を見つめてくる。
食欲はないけどジュースは美味い。「ちゃんと栄養摂取してんな~」って感じの甘味と酸味が口に広がる。
「うーん……」
「家でなんかあった?」
「なんもないけど。え、てかなんかあったように見えるの?」
あえてはっきり言うと2人は顔を見合わせ、口籠っている。
変な間の中、教室の隅に陣取ってる女子たちの笑い声が妙に大きく聞こえる。それだけなのになにが面白いんだよってイライラしてくる自分がいた。
光太郎が眉をひそめ何かを言おうとした時だった。
「あっ、ちょ、ちょっと待って!!ごめん!」
ラインの着信音が鳴る。秋雄さんからだ。
ぶわっと汗が吹き出す。
みんなの前で秋雄さんと電話できないからスマホを持ってトイレの個室に駆け込む。
「わわわ。やばい、どうしよ」
胸を飛び出しそうなくらい心臓がバクバク鳴っている。
あわあわ独り言を呟きながら、鍵をかけ、これから何を話すのか想像もつかないまま通話ボタンを押す。
「あ、秋雄さん……?」
『今、どこにいますか?』
普段聞かないような切羽詰まった感じの声だったからヒヤリとする。
「学校だけど……トイレにいる」
誰もいないけど一応小声で喋る。
『ですよね、すみません……』
「……」
『……』
なにも言い出せなくて耳をすましていると、浅いため息が聞こえてくる。
「……秋雄さんは今どこにいるの?」
『ええと、仕事してて』
「運転中?大丈夫?」
『はい、脇に停めてるんで大丈夫です。それで、その、何から話せばいいんですかね、本当にすみませんでした』
「やめて!なんで秋雄さんが謝るの!俺が……キレたから……」
声と手が震える。昨日の失態を思い出すとどうにかなりそうだった。
それを察した秋雄さんが優しく落ち着いた声色で語り出した。
『あの人はただの隣の人で……向こうが自分のことベラベラ喋っててちょっと変なヤツだなぁって思ってました』
「そう、なんだ……」
『誤解されるようなことした俺が悪いんです。もう軽率な態度は取りません。
それで……昨日のことは……こんなこと言ったら失礼だけど嬉しかったです』
「うれ…しい…?」
秋雄さんの言葉が信じられなくて反射的に繰り返す。
『その、つまり嫉妬したってことですよね。結構嬉しかったですよ、あはは』
……確かに嫉妬した。町中で大声で怒鳴り散らして、酷いことをした。秋雄さんはただのヤキモチみたいに言うけど……。
2人の間で何か誤解や勘違いがあるかのような違和感を感じるが、怒っていないと知って安堵する。
『普段近所の床屋に行ってるんですけど、×××行ったら美容師にカットモデルやってみませんかって声かけられたんですよ。
新人がやるから無料だって。タダならいいかと思ったらこんな風になっちゃって』
×××とは秋雄さんの家の近くにある大きなショッピングモールだ。
髪型は気に入ってないような言い方をする。
本当は似合っててかっこいいのに……似合ってないなんて嘘だったのに……。
『なんか髪だけ気合い入って若作りしてんなぁって感じしませんか』
「えっ、そ、そうかな?」
いきなり同意を求められて困る。
「う、うん。そう……かも」
話を進めるため、本当は嫌だけど同意する。
『服を変えたらもうちょっと馴染むかと思って、普段行かない店で全身選んでもらったけど……完全に服に着られてるって感じですよね。ははは』
髪に合わせて服装も変えるって結構行動力あるな、秋雄さん。
ファッションにこだわりがないからできるのかなぁと推測していると話には続きがあった。
『店員に何か用事があるのかって聞かれて、ついデートって言ったんですよ』
「デート……えへへ、いいね、それ」
『それで適当に話合わせてたら、奥様もきっと惚れ直しますよって言われたんですよ。
その時、ゆうくんの顔が思い浮かんで……そうなったらいいなって……』
秋雄さんも二人の間に漂う倦怠期じみた雰囲気を感じていたのだろうか?
新しい自分になろうとしたなんて……。電話越しの秋雄さんの元へ走っていて抱きしめたい衝動に駆られる。愛おしくて、涙が出そうになる。しかし秋雄さんは違った。
『いい歳して外見だけ着飾って……本当に恥ずかしいですよね』
「え……」
『似合ってないって言われて目が覚めました。まだ、俺のことを真剣に考えてくれる人がいたんだって嬉しかったです』
……『まだ』か。秋雄さんの考え方は寂しくて、つらい。やっぱり秋雄さんは孤独な人間なんじゃないのかな。スマホを握る手に力が入る。
『それでいい気分だったのに帰りにスマホ落として電源つかなくなったんですよねぇ~』
俺の心中に反して秋雄さんの声色は明るい。
「だから既読付かなかったんだ……」
『はい。さっきいじってみたら電源入って……みませんでした』
「だから急いで電話して来たんだ」
『はい、そうです。学校なのに……すみません。無視してるって思われてたら嫌だったので……』
「ううん、気にしないで。……壊れてたんでしょ、しょうがないよ」
「しょうがない」って俺が言えた立場じゃない。秋雄さんと話していると自分がどんどん偉くなってしまう。
全くそんなつもりじゃないのに、俺が秋雄さんの過ちを許すような形で話がついてしまった。これじゃ俺が納得できなくて、もう一度「勘違いして、酷いこと言ってごめんなさい」と謝る。
しかし秋雄さんも『悪いのは俺です』と譲らない。このままだとお互いずっと謝り続けてしまう。
…から秋雄さんは俺に許されるって終わり方を望んでるのかな。俺を傷つけず後腐れなく仲直りできるように……。
その優しさを受け止めることにしよう。
「わかった。スマホ、一応修理した方いいんじゃない?」
『はい、せっかくなので新しいのにしようと思ってます』
「うん、そうしなよ。じゃあお仕事がんばってね。気をつけて」
『ありがとうございます。ゆうくんもがんばってくださいね』
月並みな言葉で電話を切る。
「はぁ……終わった……」
壁に背をつけズルズルとしゃがみ込む。
数分の電話がものすごく長く感じた。とにかく解決してよかった。
でも……上手く行きすぎて、怖い。これは考えすぎだろうか?
教室に戻ると大河に「なに、誰から?」と尋ねられたが、笑って誤魔化した。
なにも言いたくない……。
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