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第62話
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「その通りだ。 現に私は力がないからしがらみに囚われ、君達は力がないからこうして一方的に搾取される結果となった。 弱肉強食の正しさは君達が身を以って証明しているじゃないか」
男の言葉に水堂は言い返せずに表情を歪める。
それを見ながら祐平は喋っている男を観察して何を考えているのか、隙はないかと探るように様子を窺う。 笑実が死んだ動揺と怒りで落ち着いているとは言い難いが、何とか冷静に見れている。
まずは男の意図だ。 わざわざ祐平達をここに連れて来て得意げに喋っている事の理由は魔導書の回収以上の理由はないだろう。 祐平達に戦う気がないと悟って早々に回収に踏み切った。
余計な時間を使いたくない? その可能性は高いがわざわざ得意げに自分の意見を垂れ流しているのは何故だ? 男の視線や挙動から思考を読み取るんだと意気込んだが、ふと男自身が口走った言葉を思い出した。
――小難しく考えすぎていると。
裏を返せばこいつは碌に物を考えていないのではないか?
それは言い過ぎかもしれないが、行動と思考の方向性は単純に考えた方が正解に近いのではないか?
だとするならば喋っている理由は祐平達にマウントを取る為? 時間を置かずに回収した理由もこの儀式とやらが数日単位で長引くのは困るが数時間単位ではどうでもいいと思っているから?
考えれば考える程、それが正しいのではないかと思ってしまう。
力がないと言っている所から、男には敵が居てそれに対抗する為に魔導書を求めた可能性が高い。
魔導書を手に入れないと対抗できない相手が何なのか気にはなるが、今の祐平達には関係のない事だ。
ここまでの考察で目の前にいる黒幕は――いや、黒幕気取りの小物は見えている情報以上の意図はなく、シンプルな目的に従ってこれだけの事件を起こしたのだ。
祐平はそれを心底からくだらないと思う。 何に巻き込まれて力を求めているかは知らないが、何の関係もない祐平や笑実、水堂達を巻き込んで殺し合わせる理由にならない。
巻き込まれた事に関しては恨みしかない。 ほぼ勝ちが確定している状況だからこその余裕なのは分かるが、何とか一矢報いてやりたい。 せめてこいつの語る御大層な儀式は可能であるなら台無しにしてやりたいと思っていた。
「得意げに喋るんだったら答え合わせでもしてくれませんかね? 結局、俺達は何の為に殺し合わされたんですか?」
男は祐平の質問によくぞ聞いてくれたと言わんばかりに表情を輝かせる。
「君は『11/72』を手にし、その能力を使用したのなら知っているのではないか? 魔導書使用に発生する代償を」
「魂とかあやふやな言葉で誤魔化してたけど実際は寿命なんだろ」
何が魂を対価とするだ。 ふざけやがって、寿命支払うならはっきりとそう言え。
詐欺まがいの仕様に怒りが湧き上がる。 使用を躊躇させない為に隠したのは明白で、結果として深く考えない参加者は早々に高位階を使って勝手に死んだ。
「その通り、悪魔は使用者の魂を喰らい力を行使する。 さて、君達は魂とは具体的に何か分かるかね?」
「……魔導書を使うに当たっての解釈であるなら燃料って所ですかね」
「その通りだ。 魂はエネルギーの塊でそれを消費する事で魔導書使用の対価とする。 そう、魂はエネルギーなのだよ」
勿体ぶった口調で話してはいるが、何の捻りもない内容なのでこいつは大物ぶりたいだけの馬鹿なんだなと祐平はぼんやりと思った。
「つまりエネルギーだから他から調達して賄うって訳か」
「君は理解が早くて助かるよ」
「そりゃどうも」
目を逸らしながらさり気なく周囲を確認する。
最初に飛ばされた広場で出入り口はなし。 光源が多い所為か薄暗いが視界は上以外ははっきりと見通せる。 男までの距離は五、六メートル。
一応、警戒はしているのかいつでも魔導書を使えるようにはしているようだ。
水堂達は祐平の後ろ。 位置関係を考えても何かできるのは祐平しかいない。
「さて、君達が生き残りをかけて戦い、現在我々が居るこの大迷宮だがここ自体が巨大な魔法陣のような形状をしていてね。 ここで生き物が死ぬと魂からエネルギーを抽出してストックする事ができる。
いや、ここまでのものを作るのには苦労したよ」
「この悪趣味な場所をあんたが作った事は分かったけど、結局ここは何処なんだ?」
エネルギーをストックする事に関しては予想していたので驚きはなかったが、ここは具体的にどのような場所なのかがよく分からないので尋ねるなら有用な情報が欲しい。
男はあぁと僅かに遠い目をする。
「ここは異界。 我々の居た世界とは位相のずれた場所だ。 この世界のあちこちに存在しているようで探せばいくつか見つかる奇妙な土地だよ。 面白いのは様々なものがあやふやでね。 とある手段を用いるとここのように望んだものを生み出す事ができるんだよ」
「つまりここはあんたの妄想で生みだしたと?」
「妄想とは酷いな。 だが、まぁその通りだ」
「ちなみに出る方法は?」
「私しか知らないとだけ言っておこうか」
つまり答える気はないと言う事だ。 祐平はそろそろこの問答も終わりが見えて来たのでどう仕掛けるかを考え始めた。 攻撃手段としては最も出の早い風の刃だ。
首を刎ねる程の威力はないが、頸動脈を切断できれば殺せるかもしれない。
射程は――恐らくギリギリではあるが足りる。 後はタイミングだ。
チャンスは一度きりで外せば次はない。
「さて、では少し名残惜しいがそろそろお別れの時間だ。 見たまえ」
男が魔導書を掲げて見せると足元が輝き、呼応するように魔導書も光り輝く。
「これは私の目的が成就し、全てのしがらみから解放してくれる大いなる力だ!」
もう機を窺うなんて言っていられない。 水堂が駆け出し、殴りかかる姿勢を取る。
大きな動き、そしてややわざとらしく大きな足音を立てているのは祐平の意図を汲み取って自らを囮とする為だ。 内心で彼に感謝し祐平も駆け出す振りをしながら魔術を発動させる。
魔力と言う体内を巡る不可視の力の流れを操り、彼は腕を振るう。
その動きに合わせる形で風の刃が形成され、標的へと飛ぶ。
狙いは完璧だ。 このまま行けば確実に当たる。
――はずだったのだが――
男は僅かに首を傾けただけで躱す。 気付かれていたと悟り祐平の内心に諦めが満ちる。
そして男の目的が果たされる。
――<第五小鍵 01/72>
男の言葉に水堂は言い返せずに表情を歪める。
それを見ながら祐平は喋っている男を観察して何を考えているのか、隙はないかと探るように様子を窺う。 笑実が死んだ動揺と怒りで落ち着いているとは言い難いが、何とか冷静に見れている。
まずは男の意図だ。 わざわざ祐平達をここに連れて来て得意げに喋っている事の理由は魔導書の回収以上の理由はないだろう。 祐平達に戦う気がないと悟って早々に回収に踏み切った。
余計な時間を使いたくない? その可能性は高いがわざわざ得意げに自分の意見を垂れ流しているのは何故だ? 男の視線や挙動から思考を読み取るんだと意気込んだが、ふと男自身が口走った言葉を思い出した。
――小難しく考えすぎていると。
裏を返せばこいつは碌に物を考えていないのではないか?
それは言い過ぎかもしれないが、行動と思考の方向性は単純に考えた方が正解に近いのではないか?
だとするならば喋っている理由は祐平達にマウントを取る為? 時間を置かずに回収した理由もこの儀式とやらが数日単位で長引くのは困るが数時間単位ではどうでもいいと思っているから?
考えれば考える程、それが正しいのではないかと思ってしまう。
力がないと言っている所から、男には敵が居てそれに対抗する為に魔導書を求めた可能性が高い。
魔導書を手に入れないと対抗できない相手が何なのか気にはなるが、今の祐平達には関係のない事だ。
ここまでの考察で目の前にいる黒幕は――いや、黒幕気取りの小物は見えている情報以上の意図はなく、シンプルな目的に従ってこれだけの事件を起こしたのだ。
祐平はそれを心底からくだらないと思う。 何に巻き込まれて力を求めているかは知らないが、何の関係もない祐平や笑実、水堂達を巻き込んで殺し合わせる理由にならない。
巻き込まれた事に関しては恨みしかない。 ほぼ勝ちが確定している状況だからこその余裕なのは分かるが、何とか一矢報いてやりたい。 せめてこいつの語る御大層な儀式は可能であるなら台無しにしてやりたいと思っていた。
「得意げに喋るんだったら答え合わせでもしてくれませんかね? 結局、俺達は何の為に殺し合わされたんですか?」
男は祐平の質問によくぞ聞いてくれたと言わんばかりに表情を輝かせる。
「君は『11/72』を手にし、その能力を使用したのなら知っているのではないか? 魔導書使用に発生する代償を」
「魂とかあやふやな言葉で誤魔化してたけど実際は寿命なんだろ」
何が魂を対価とするだ。 ふざけやがって、寿命支払うならはっきりとそう言え。
詐欺まがいの仕様に怒りが湧き上がる。 使用を躊躇させない為に隠したのは明白で、結果として深く考えない参加者は早々に高位階を使って勝手に死んだ。
「その通り、悪魔は使用者の魂を喰らい力を行使する。 さて、君達は魂とは具体的に何か分かるかね?」
「……魔導書を使うに当たっての解釈であるなら燃料って所ですかね」
「その通りだ。 魂はエネルギーの塊でそれを消費する事で魔導書使用の対価とする。 そう、魂はエネルギーなのだよ」
勿体ぶった口調で話してはいるが、何の捻りもない内容なのでこいつは大物ぶりたいだけの馬鹿なんだなと祐平はぼんやりと思った。
「つまりエネルギーだから他から調達して賄うって訳か」
「君は理解が早くて助かるよ」
「そりゃどうも」
目を逸らしながらさり気なく周囲を確認する。
最初に飛ばされた広場で出入り口はなし。 光源が多い所為か薄暗いが視界は上以外ははっきりと見通せる。 男までの距離は五、六メートル。
一応、警戒はしているのかいつでも魔導書を使えるようにはしているようだ。
水堂達は祐平の後ろ。 位置関係を考えても何かできるのは祐平しかいない。
「さて、君達が生き残りをかけて戦い、現在我々が居るこの大迷宮だがここ自体が巨大な魔法陣のような形状をしていてね。 ここで生き物が死ぬと魂からエネルギーを抽出してストックする事ができる。
いや、ここまでのものを作るのには苦労したよ」
「この悪趣味な場所をあんたが作った事は分かったけど、結局ここは何処なんだ?」
エネルギーをストックする事に関しては予想していたので驚きはなかったが、ここは具体的にどのような場所なのかがよく分からないので尋ねるなら有用な情報が欲しい。
男はあぁと僅かに遠い目をする。
「ここは異界。 我々の居た世界とは位相のずれた場所だ。 この世界のあちこちに存在しているようで探せばいくつか見つかる奇妙な土地だよ。 面白いのは様々なものがあやふやでね。 とある手段を用いるとここのように望んだものを生み出す事ができるんだよ」
「つまりここはあんたの妄想で生みだしたと?」
「妄想とは酷いな。 だが、まぁその通りだ」
「ちなみに出る方法は?」
「私しか知らないとだけ言っておこうか」
つまり答える気はないと言う事だ。 祐平はそろそろこの問答も終わりが見えて来たのでどう仕掛けるかを考え始めた。 攻撃手段としては最も出の早い風の刃だ。
首を刎ねる程の威力はないが、頸動脈を切断できれば殺せるかもしれない。
射程は――恐らくギリギリではあるが足りる。 後はタイミングだ。
チャンスは一度きりで外せば次はない。
「さて、では少し名残惜しいがそろそろお別れの時間だ。 見たまえ」
男が魔導書を掲げて見せると足元が輝き、呼応するように魔導書も光り輝く。
「これは私の目的が成就し、全てのしがらみから解放してくれる大いなる力だ!」
もう機を窺うなんて言っていられない。 水堂が駆け出し、殴りかかる姿勢を取る。
大きな動き、そしてややわざとらしく大きな足音を立てているのは祐平の意図を汲み取って自らを囮とする為だ。 内心で彼に感謝し祐平も駆け出す振りをしながら魔術を発動させる。
魔力と言う体内を巡る不可視の力の流れを操り、彼は腕を振るう。
その動きに合わせる形で風の刃が形成され、標的へと飛ぶ。
狙いは完璧だ。 このまま行けば確実に当たる。
――はずだったのだが――
男は僅かに首を傾けただけで躱す。 気付かれていたと悟り祐平の内心に諦めが満ちる。
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