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第55話
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迷宮の一角。
そこでは二人の人物が複数の悪魔を使役して殺し合っていた。
片方は中年に差し掛かった男性。 年齢こそ重ねているが、普段から体を動かしているお陰か体は引き締まっている。
対するは同年代か少し下ぐらいの女。 その視線は鋭く、目の前の人物への冷徹な殺意で満たされていた。
両者とも六体の悪魔を使役し、内五体を第二位階で召喚。 残りの一体を第三位階を用いて自身の強化に使用していた。
彼等はどちらもここから出る為の手段として他を皆殺しにする事を選択し、それを実行して来た者達だ。
運もあったがこれまで三人の人間を殺害し、魔導書を奪って己のものとした。
三勝もすれば彼等から殺人に対する忌避感を完全に消し去り、自己の強さを認識させ、行動に積極性を持たせるには充分。 後は見かけた相手を片端から殺して魔導書を奪うだけだ。
両者ともゲームに拘泥するような年齢ではなかったが敵を倒し、魔導書という力を得ていく過程はちょっとした快感を与える。 倒した数だけ自分は強くなったと分かり易く確認できるのは彼等のモチベーションを高い位置で安定させていた。
奇しくも同数の魔導書を持った相手であり、同格を相手にするのは初めてだったが今まで勝利を重ねて来た自分が負ける事などあり得ない。 さっさと負けて自分の養分になれ。
両者はまったく同じ事を考えて殺し合う。 召喚された悪魔達が爪や牙をぶつけ、異能を放つ。
様々なものが飛び交う戦場だったが――不意に両者とも攻撃の手を止める。
片方は悪魔の能力で、もう片方は本能とも言える直感で危険を察知したのだ。
一瞬遅れて遠くでパンと渇いた音が響き、闇の奥で何かが火花を散らす。
女は霞むような速さで腕を振るうと硬質な音を立てて何かが叩き落された。
次いでもう一度同じ音――銃声が響く。 今度は男へと銃弾が向かうが、飛んでくる事が分かっている以上はどうとでもなる。 第三位階以上を用いている者達は身体能力は人間のそれを遥かに凌駕しており、銃弾程度で仕留める事は難しい。
先程の女と同様に叩き落す。 両者は勝負に水を差されたと思ってはいたが、纏めて始末すれば手間が省けると考え、この三竦みの状態でどう動くべきかを考える。
言葉は要らない。 もう、殺す事は決めているのだ。 下手に会話をして情が湧くような行動は取るべきではない。
だから彼等は言葉を交わす事なく、無言で、無慈悲に敵を殺すのだ。
これは殺し合いである前に自らの命を勝ち取る為の戦いだ。 神聖なものとまでは捉えていないが、必要な行いではある。 似通った考えの二人は行動も近い。
周囲に控えている悪魔達を安全な場所にいる者へと嗾け、闇へと走り出す。
一人だけ一方的に攻撃できる状況は面白くない。 まずは引きずり出す所からだ。
そんな所にいないでお前も姿を見せて戦いに参加しろ。 そんな思いを抱きながらまだ見ぬ敵の姿を視認しようと両者は駆ける――が、女が先に足を止め、男も僅かに遅れて立ち止まる。
――理由は闇の向こうで異変が起こっていたからだ。
嗾けた悪魔が全て返り討ちにされた。
魔導書から悪魔との繋がりが消えた事が伝わる。 第二位階とは言え、二人合わせて十体の悪魔が瞬く間にやられたのは異常事態だ。 見極める意味でも迂闊に踏み込むのは危険と判断したのだが、それは少しばかり遅かった。
闇の奥から無数の気配。 最初に反応したのは女だ。
彼女の悪魔は『17/72』。 そう広い範囲ではないが未来を知る事ができる。
それにより数瞬後に何が起こるのかを正確に理解した彼女は踵を返して逃げ出そうとした。
しかし、進路を塞ぐように闇の向こうから無数の悪魔が次々に現れる。
ここにきて二人は気が付いたのだ。 自分達は包囲されていると。
銃はそれに気付かせない為の囮。 あの攻撃は逃げ道を潰す為の一手であって、防がせる事が目的だったのだ。
闇の向こうにいる襲撃者――笑実は無言で銃を構えたまま目を細める。
現在、彼女が保有している魔導書は三十二冊。 銃と視界確保の為に二体は手元に置いているが、残りの三十体は第二位階で召喚し、標的を取り囲んでいた。
逃がすつもりはない。 仮に逃げ出そうと無防備な背中を晒せばその背を狙撃するつもりだ。
彼女は殺せと命令を下すと悪魔の群れは一斉に彼等に襲いかかる。
第四以上の高位階を使わせる暇は与えない。 数に物を言わせ、畳みかけて圧殺するのだ。
二人はここまで戦い抜いた事からも実力者である事は間違いなかった。
しかし、質は物量と言う分かり易い差の前に容易く覆され――彼等の悲鳴は悪魔の群れに呑まれて消え、やがて静かになった。
徹底的に叩き潰された二人の体はもはや原形を留めておらず、元が何だったのかの判別が難しい程の肉片と化しており、生死を論ずる事すら馬鹿らしい有様だ。
笑実は無言で悪魔が持ってきた魔導書を受け取ると自身の物へと統合。
――これで四十四冊。
もう半分は越えた。 ここから先は笑実と同様に戦って生き残ってきた強敵ばかりとなるだろう。
まともに戦えば負ける可能性も充分にあり得るので、奇襲や数に物を言わせて押し潰す戦法が最も合理的だ。 これだけの数を揃えている以上、勝ちはほぼ見えていると言って良いが、油断をすれば足元をすくわれる。 慎重にそして合理的に効率よく、進めてこの場所から外へと出るのだ。
参加者を残らず平らげれば待っているのはあの主催者の男。
そいつを始末すればこの訳も分からない催しも終わり、笑実は日常へと回帰できる。
いや、正確には選択肢の幅が大きく広がった新しい自分がだ。
今まで非効率、非合理な自分の全てを正し、効率的、合理的に生きるのだ。
そして人としての幸福を追求し、最上の人生を送る。
捕らぬ狸の皮算用という言葉があるが、ゴールが見えてくるとその先の事を考えてしまう。
自戒せねばとは思っているが、今の彼女にとって最も大きな目的は幸せを追求する事のみ。
質の良い生活、質の良い環境、質の良い物品。
その全てを手に入れた自分をの姿を想像しようとして――思わず首を傾げる。
何故か上手く思い浮かばなかった。
幸せなら輝く自分とそれを取り巻く環境が想像できるはずだが、まったく浮かばずに真っ暗な闇だけが広がっている。 何故だろうか?
彼女にはさっぱり理解できなかった。
そこでは二人の人物が複数の悪魔を使役して殺し合っていた。
片方は中年に差し掛かった男性。 年齢こそ重ねているが、普段から体を動かしているお陰か体は引き締まっている。
対するは同年代か少し下ぐらいの女。 その視線は鋭く、目の前の人物への冷徹な殺意で満たされていた。
両者とも六体の悪魔を使役し、内五体を第二位階で召喚。 残りの一体を第三位階を用いて自身の強化に使用していた。
彼等はどちらもここから出る為の手段として他を皆殺しにする事を選択し、それを実行して来た者達だ。
運もあったがこれまで三人の人間を殺害し、魔導書を奪って己のものとした。
三勝もすれば彼等から殺人に対する忌避感を完全に消し去り、自己の強さを認識させ、行動に積極性を持たせるには充分。 後は見かけた相手を片端から殺して魔導書を奪うだけだ。
両者ともゲームに拘泥するような年齢ではなかったが敵を倒し、魔導書という力を得ていく過程はちょっとした快感を与える。 倒した数だけ自分は強くなったと分かり易く確認できるのは彼等のモチベーションを高い位置で安定させていた。
奇しくも同数の魔導書を持った相手であり、同格を相手にするのは初めてだったが今まで勝利を重ねて来た自分が負ける事などあり得ない。 さっさと負けて自分の養分になれ。
両者はまったく同じ事を考えて殺し合う。 召喚された悪魔達が爪や牙をぶつけ、異能を放つ。
様々なものが飛び交う戦場だったが――不意に両者とも攻撃の手を止める。
片方は悪魔の能力で、もう片方は本能とも言える直感で危険を察知したのだ。
一瞬遅れて遠くでパンと渇いた音が響き、闇の奥で何かが火花を散らす。
女は霞むような速さで腕を振るうと硬質な音を立てて何かが叩き落された。
次いでもう一度同じ音――銃声が響く。 今度は男へと銃弾が向かうが、飛んでくる事が分かっている以上はどうとでもなる。 第三位階以上を用いている者達は身体能力は人間のそれを遥かに凌駕しており、銃弾程度で仕留める事は難しい。
先程の女と同様に叩き落す。 両者は勝負に水を差されたと思ってはいたが、纏めて始末すれば手間が省けると考え、この三竦みの状態でどう動くべきかを考える。
言葉は要らない。 もう、殺す事は決めているのだ。 下手に会話をして情が湧くような行動は取るべきではない。
だから彼等は言葉を交わす事なく、無言で、無慈悲に敵を殺すのだ。
これは殺し合いである前に自らの命を勝ち取る為の戦いだ。 神聖なものとまでは捉えていないが、必要な行いではある。 似通った考えの二人は行動も近い。
周囲に控えている悪魔達を安全な場所にいる者へと嗾け、闇へと走り出す。
一人だけ一方的に攻撃できる状況は面白くない。 まずは引きずり出す所からだ。
そんな所にいないでお前も姿を見せて戦いに参加しろ。 そんな思いを抱きながらまだ見ぬ敵の姿を視認しようと両者は駆ける――が、女が先に足を止め、男も僅かに遅れて立ち止まる。
――理由は闇の向こうで異変が起こっていたからだ。
嗾けた悪魔が全て返り討ちにされた。
魔導書から悪魔との繋がりが消えた事が伝わる。 第二位階とは言え、二人合わせて十体の悪魔が瞬く間にやられたのは異常事態だ。 見極める意味でも迂闊に踏み込むのは危険と判断したのだが、それは少しばかり遅かった。
闇の奥から無数の気配。 最初に反応したのは女だ。
彼女の悪魔は『17/72』。 そう広い範囲ではないが未来を知る事ができる。
それにより数瞬後に何が起こるのかを正確に理解した彼女は踵を返して逃げ出そうとした。
しかし、進路を塞ぐように闇の向こうから無数の悪魔が次々に現れる。
ここにきて二人は気が付いたのだ。 自分達は包囲されていると。
銃はそれに気付かせない為の囮。 あの攻撃は逃げ道を潰す為の一手であって、防がせる事が目的だったのだ。
闇の向こうにいる襲撃者――笑実は無言で銃を構えたまま目を細める。
現在、彼女が保有している魔導書は三十二冊。 銃と視界確保の為に二体は手元に置いているが、残りの三十体は第二位階で召喚し、標的を取り囲んでいた。
逃がすつもりはない。 仮に逃げ出そうと無防備な背中を晒せばその背を狙撃するつもりだ。
彼女は殺せと命令を下すと悪魔の群れは一斉に彼等に襲いかかる。
第四以上の高位階を使わせる暇は与えない。 数に物を言わせ、畳みかけて圧殺するのだ。
二人はここまで戦い抜いた事からも実力者である事は間違いなかった。
しかし、質は物量と言う分かり易い差の前に容易く覆され――彼等の悲鳴は悪魔の群れに呑まれて消え、やがて静かになった。
徹底的に叩き潰された二人の体はもはや原形を留めておらず、元が何だったのかの判別が難しい程の肉片と化しており、生死を論ずる事すら馬鹿らしい有様だ。
笑実は無言で悪魔が持ってきた魔導書を受け取ると自身の物へと統合。
――これで四十四冊。
もう半分は越えた。 ここから先は笑実と同様に戦って生き残ってきた強敵ばかりとなるだろう。
まともに戦えば負ける可能性も充分にあり得るので、奇襲や数に物を言わせて押し潰す戦法が最も合理的だ。 これだけの数を揃えている以上、勝ちはほぼ見えていると言って良いが、油断をすれば足元をすくわれる。 慎重にそして合理的に効率よく、進めてこの場所から外へと出るのだ。
参加者を残らず平らげれば待っているのはあの主催者の男。
そいつを始末すればこの訳も分からない催しも終わり、笑実は日常へと回帰できる。
いや、正確には選択肢の幅が大きく広がった新しい自分がだ。
今まで非効率、非合理な自分の全てを正し、効率的、合理的に生きるのだ。
そして人としての幸福を追求し、最上の人生を送る。
捕らぬ狸の皮算用という言葉があるが、ゴールが見えてくるとその先の事を考えてしまう。
自戒せねばとは思っているが、今の彼女にとって最も大きな目的は幸せを追求する事のみ。
質の良い生活、質の良い環境、質の良い物品。
その全てを手に入れた自分をの姿を想像しようとして――思わず首を傾げる。
何故か上手く思い浮かばなかった。
幸せなら輝く自分とそれを取り巻く環境が想像できるはずだが、まったく浮かばずに真っ暗な闇だけが広がっている。 何故だろうか?
彼女にはさっぱり理解できなかった。
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