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第25話
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男はキイキイと椅子を揺らしながら目の前で減って行く光点を眺めていた。
参加者の数はそろそろ半分を切り、舞台はそろそろ中盤戦に差し掛かろうとしている。
団結する者、単独で優勝を狙う者、得た異能で魔導書をかき集める者と様々だが、立ち位置に関しては明確に定まりつつあった。
同時に中空に浮かんでいる大迷宮のマップが脈打つように輝きを増す。
裏で進んでいる儀式も問題なく進んでいる。
男は自らの魔導書を撫でながら事の推移を見守っていた。
――これは我が人生に絡みついた鎖を振り解く為の儀式だ。
男の目的はあくまで自由になる事であって悪魔の力はその手段にしか過ぎない。
魔導書の力は非常に強力だ。 組織に属する上位のサイキッカーであっても、第五位階によって現れた悪魔の相手は厳しいだろう。 それだけ悪魔という理の外に位置する存在の力は凄まじい。
超能力は凄まじいが物理現象の域からは出られない以上、その枠の外にいる存在には無力だ。
だが、人知を超越する力を振るう代償は大きい。 自由を得る為の力なのに使用に寿命を要求されるのは男にとっても悩ましい問題だった。 使えば使う程に自分の時間そのものが消え失せるのだ。
こんな理不尽があって良いのだろうか? 良い訳がない。
だから男はその問題を解決する為の方策も練っていた。
それこそがこの悪趣味とも言える催しだ。 最初にこの世界――彼は異界と名付けたそこは何もない空間だった。 いや、正確には奇妙な生物とも呼べない何かが滲み出るように湧いて来る危険地帯だ。
生物もそうだが、空間自体が非常に不安定な奇妙な場所で、男の仮説ではあるがこの世界はあやふやな状態なのではないだろうか? 方向性のない世界の雛型、形が存在しない場所。
そこに思い至った男は使えると確信した。 方向性が定まっていないのなら与えてやればいい。
魔導書を実用レベルまで持っていけていた男は悪魔の力を用い、この世界を己の都合の良いように作り替えた。 そうして出来上がったのがこの大迷宮だ。
同時に不定形の怪物達も明確な形を持って出現するようになった。 これは男の意図したものではないが、この世界が定まった事で形を得たのだろうと判断している。
都合が良いからと利用してはいるが、非常に興味深い場所だった。
世界に生じた亀裂――この場合は穴と表現した方がいいそれは簡単に観測できるものではないが、無自覚に踏み込んで迷い込む可能性は低いがゼロではない。
昨今、巷でよく話題になる神隠しの原因はこういった異界が各地に存在し、そこへ人が落ちていく事で起こっているのではないかとも思ってしまう。
この国の歴史に根深く刻まれているので、最近発生したものではなく、この世界の成り立ち自体にも関わっているのではないか? そんなスケールの大きな事を想像すると少しだけ頬が緩む。
この一件が片付き、自由を手に入れれば世界の謎を追いかけるのもいい。
折角知る機会を得たのだ。 どこまで追いかけられるのかを確かめるのも面白い。
目を閉じれば全ての枷を振り払い、自由にこの世界を走る自分の姿がはっきりと思い浮かぶ。
それを現実にする為ならば男はどんな事でもするだろう。
悪魔の力は万能だ。 七十二体全ての力を使いこなせれば神にもなれる力を秘めている。
さて、ここで疑問が湧き上がった。 悪魔を使役するに当たって求められるのは寿命だ。
――具体的に寿命とは何なのか?
人は生まれた瞬間に死ぬまでの制限時間が定まっており、その残り時間を消費する事で賄っている?
有り得ない話ではないが考え難い。 何故なら、人は切っ掛けさえあれば容易く死ぬからだ。
現にこの大迷宮内で死んだ者達はここに来なければ間違いなく今でも生きているだろう。
なら寿命が決まっているという説には疑問が残る。
運命的なものでここで死ぬ事を込みでの時間とも取れなくもないが、いくら何でも無理があった。
実際、ここで死んだ者の数名がそれを証明して見せたからだ。
魔導書の過剰使用による寿命の枯渇による死亡。
それを踏まえると寿命は人間に内包されたエネルギーで、それを消費する事で魔導書の動力としている。
そう、エネルギーなのだ。
なら他所で賄えば支払わずに済む。 伊達や酔狂でこのような大迷宮を作った訳ではない。
この場所自体に儀式の祭壇としての機能を持たせている。
全てが終われば最後に残った一人が全ての栄光をつかみ取る事となるだろう。
――それは間違いなく自分であるが。
男はそうほくそ笑み、その時を待ち続ける。 目の前で死んでいく憐れな被害者達を見つめながら。
――ここにも居ない。
笑実は下着姿で体のあちこちに飛び散った血をふき取っていた。
『44/72』の能力で恐怖心と倫理観を失った彼女は実に手際よく、合理的にこの迷宮内を進んでいた。 同時に運も良いようで怪物とあまり遭遇する事も少なく、戦闘の回数も最小限にとどめている。 そしてつい先ほど別の魔導書を持った男と遭遇したので、体を使って誘惑し、隙を見せたと同時に殺害したところだった。
取りあえず制服を着た少女が脱ぐのは男の理性には中々効果があるようで、脱いで見せるとあっさりと隙を見せる。 脱ぐのは返り血で汚れるような事態を避ける意味でも合理的だった。
彼女の目的ははぐれた幼馴染を探し、合流する事にある。 比較的、スムーズに目的を達成する為にも余計な戦闘は避けつつ、敵になりそうな相手を排除していく。
同性であるならもっと別の手を打つ必要があるが、遭遇したのが異性だったという点でも都合が良かった。 不安な表情を作って接近し、雰囲気を演出して脱ぐ。
後は抱き着く振りをして刺し殺せばいい。 今の所は失敗していないので、このやり方でなんの問題もないだろう。 だが、こんな事をしている事を祐平に知られると合流に支障が出るので、痕跡を残すような真似は可能な限り避けたかった。
既に死んでいる可能性もあるが、笑実としてはできれば生きていて欲しい。
仮に死んでいた場合は他を皆殺しにしてここから出るしかやる事がなくなってしまう。
合理の怪物と化した彼女だったが、全てを失う前に抱いていた大切な物だけは未だ手放していなかった。
だからこそ、彼女は幼馴染の名前を呟きながら迷宮を進む。
再会できる事を信じて。
参加者の数はそろそろ半分を切り、舞台はそろそろ中盤戦に差し掛かろうとしている。
団結する者、単独で優勝を狙う者、得た異能で魔導書をかき集める者と様々だが、立ち位置に関しては明確に定まりつつあった。
同時に中空に浮かんでいる大迷宮のマップが脈打つように輝きを増す。
裏で進んでいる儀式も問題なく進んでいる。
男は自らの魔導書を撫でながら事の推移を見守っていた。
――これは我が人生に絡みついた鎖を振り解く為の儀式だ。
男の目的はあくまで自由になる事であって悪魔の力はその手段にしか過ぎない。
魔導書の力は非常に強力だ。 組織に属する上位のサイキッカーであっても、第五位階によって現れた悪魔の相手は厳しいだろう。 それだけ悪魔という理の外に位置する存在の力は凄まじい。
超能力は凄まじいが物理現象の域からは出られない以上、その枠の外にいる存在には無力だ。
だが、人知を超越する力を振るう代償は大きい。 自由を得る為の力なのに使用に寿命を要求されるのは男にとっても悩ましい問題だった。 使えば使う程に自分の時間そのものが消え失せるのだ。
こんな理不尽があって良いのだろうか? 良い訳がない。
だから男はその問題を解決する為の方策も練っていた。
それこそがこの悪趣味とも言える催しだ。 最初にこの世界――彼は異界と名付けたそこは何もない空間だった。 いや、正確には奇妙な生物とも呼べない何かが滲み出るように湧いて来る危険地帯だ。
生物もそうだが、空間自体が非常に不安定な奇妙な場所で、男の仮説ではあるがこの世界はあやふやな状態なのではないだろうか? 方向性のない世界の雛型、形が存在しない場所。
そこに思い至った男は使えると確信した。 方向性が定まっていないのなら与えてやればいい。
魔導書を実用レベルまで持っていけていた男は悪魔の力を用い、この世界を己の都合の良いように作り替えた。 そうして出来上がったのがこの大迷宮だ。
同時に不定形の怪物達も明確な形を持って出現するようになった。 これは男の意図したものではないが、この世界が定まった事で形を得たのだろうと判断している。
都合が良いからと利用してはいるが、非常に興味深い場所だった。
世界に生じた亀裂――この場合は穴と表現した方がいいそれは簡単に観測できるものではないが、無自覚に踏み込んで迷い込む可能性は低いがゼロではない。
昨今、巷でよく話題になる神隠しの原因はこういった異界が各地に存在し、そこへ人が落ちていく事で起こっているのではないかとも思ってしまう。
この国の歴史に根深く刻まれているので、最近発生したものではなく、この世界の成り立ち自体にも関わっているのではないか? そんなスケールの大きな事を想像すると少しだけ頬が緩む。
この一件が片付き、自由を手に入れれば世界の謎を追いかけるのもいい。
折角知る機会を得たのだ。 どこまで追いかけられるのかを確かめるのも面白い。
目を閉じれば全ての枷を振り払い、自由にこの世界を走る自分の姿がはっきりと思い浮かぶ。
それを現実にする為ならば男はどんな事でもするだろう。
悪魔の力は万能だ。 七十二体全ての力を使いこなせれば神にもなれる力を秘めている。
さて、ここで疑問が湧き上がった。 悪魔を使役するに当たって求められるのは寿命だ。
――具体的に寿命とは何なのか?
人は生まれた瞬間に死ぬまでの制限時間が定まっており、その残り時間を消費する事で賄っている?
有り得ない話ではないが考え難い。 何故なら、人は切っ掛けさえあれば容易く死ぬからだ。
現にこの大迷宮内で死んだ者達はここに来なければ間違いなく今でも生きているだろう。
なら寿命が決まっているという説には疑問が残る。
運命的なものでここで死ぬ事を込みでの時間とも取れなくもないが、いくら何でも無理があった。
実際、ここで死んだ者の数名がそれを証明して見せたからだ。
魔導書の過剰使用による寿命の枯渇による死亡。
それを踏まえると寿命は人間に内包されたエネルギーで、それを消費する事で魔導書の動力としている。
そう、エネルギーなのだ。
なら他所で賄えば支払わずに済む。 伊達や酔狂でこのような大迷宮を作った訳ではない。
この場所自体に儀式の祭壇としての機能を持たせている。
全てが終われば最後に残った一人が全ての栄光をつかみ取る事となるだろう。
――それは間違いなく自分であるが。
男はそうほくそ笑み、その時を待ち続ける。 目の前で死んでいく憐れな被害者達を見つめながら。
――ここにも居ない。
笑実は下着姿で体のあちこちに飛び散った血をふき取っていた。
『44/72』の能力で恐怖心と倫理観を失った彼女は実に手際よく、合理的にこの迷宮内を進んでいた。 同時に運も良いようで怪物とあまり遭遇する事も少なく、戦闘の回数も最小限にとどめている。 そしてつい先ほど別の魔導書を持った男と遭遇したので、体を使って誘惑し、隙を見せたと同時に殺害したところだった。
取りあえず制服を着た少女が脱ぐのは男の理性には中々効果があるようで、脱いで見せるとあっさりと隙を見せる。 脱ぐのは返り血で汚れるような事態を避ける意味でも合理的だった。
彼女の目的ははぐれた幼馴染を探し、合流する事にある。 比較的、スムーズに目的を達成する為にも余計な戦闘は避けつつ、敵になりそうな相手を排除していく。
同性であるならもっと別の手を打つ必要があるが、遭遇したのが異性だったという点でも都合が良かった。 不安な表情を作って接近し、雰囲気を演出して脱ぐ。
後は抱き着く振りをして刺し殺せばいい。 今の所は失敗していないので、このやり方でなんの問題もないだろう。 だが、こんな事をしている事を祐平に知られると合流に支障が出るので、痕跡を残すような真似は可能な限り避けたかった。
既に死んでいる可能性もあるが、笑実としてはできれば生きていて欲しい。
仮に死んでいた場合は他を皆殺しにしてここから出るしかやる事がなくなってしまう。
合理の怪物と化した彼女だったが、全てを失う前に抱いていた大切な物だけは未だ手放していなかった。
だからこそ、彼女は幼馴染の名前を呟きながら迷宮を進む。
再会できる事を信じて。
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