悪魔の頁

kawa.kei

文字の大きさ
上 下
12 / 65

第12話

しおりを挟む
 「さっきから歩いていて思ったんだが、ここって迷路みたいっていうか実際に迷路なんじゃないか?」

 不意に水堂がそう呟くのを聞いて祐平は今まで歩いてぼんやりとだが見えて来たこの場所の構造を思い出す。 確かに認識としてはかなり近いかもしれない。
 
 「迷路だったら出口がありそうなものですけど……」
 「ま、ないだろうな。 あの訳の分からん奴曰く、この魔導書ってのを完成させるのが目的みたいだし、逃がす気はないだろうよ」
 「……ですよねぇ……」

 半ば分かり切った事ではあったが、改めて出られないと理解すると気持ちが落ち込む。
 
 「どうやれば出られると思います?」
 「さぁな。 ただ、最後の一人になったら出されるだろうよ。 俺としてはわざわざこんな状況を用意して何をしたいのかってのがさっぱり分からんのが気持ち悪いな」
 「確かに。 魔導書をわざわざ俺達に配って奪い合わせて何がしたいんですかね?」

 この催しを企画した人物の目的がさっぱり分からない。
 既に完全な魔導書を手中に収めている状態で、分割して祐平達に配る意味が理解できないのだ。
 
 「愉快犯的な感じとか?」
 「あり得ないとは言い切らないが、さっきの話し振りを聞く限り完全に正気に見えたがな」
 
 水堂の意見は祐平も同意できるものだった。 明らかに明確な意図を以って、この状況を作り出している。 つまり、この場所に魔導書と持ち主をばら撒いて何かをさせたいのだ。
 
 「そっすね。 マジで何を考えて――あ、前、三十メートルぐらいに何か居ますね。 見た感じ、悪魔じゃないのでこっちで追い払います」
 
 祐平は『11/72グシオン』の第二位階を用いて巨大な蛇のような怪物から敵意を消去して追い払う。

 「悪いな」
 「いえ、魔導書持ちにはまず効かないみたいなんで、戦う事になったら任せきりになるんで露払いぐらいはやらせてくださいよ」
 「あぁ、いざって時は任せとけ。 ――で、話に戻るんだが、まったく手掛かりがないって訳じゃない」
 
 怪物が去っていく姿を見送りながら祐平は水堂の話に黙って耳を傾ける。 
 正直な話、心当たりが全くなかった上、年上と言う事で祐平はすっかり水堂を頼りにしていた事もあった。 

 「魔導書ってのは寿命を消費して力を出せる。 これは間違いないな?」
 「えぇ、『11/72グシオン』が嘘を言ってなければですが」
 「その辺は疑っても仕方がないだろ。 手元に『28/72ベリト』とかいう嘘つきがいるから微妙に疑わしいのは確かだが、あれだけぶっ飛んだ力を使えるんだ。 寿命を持って行かれるって言われても納得はいく」

 で、だと水堂は話を続ける。

 「仮に魔導書を揃えてウン十の悪魔を使役できる能力を手に入れました。 ――それでどうするよ? 数が揃ってたとしても使う奴の寿命は限りがあるから、無駄じゃないか?」
 「……確かに」

 水堂の指摘はもっともだった。 いくら強力な悪魔が複数いても寿命が限られている人間が扱うには無理がある。 第五位階なんて使ってしまえば早々に使い切ってしまう。
 そう考えると魔導書を揃える事にメリットをあまり感じなくなる。 

 「な? ぶっちゃけ魔導書ってバラしたまま使った方が効率がいいんだよ。 一人で揃えても有効に扱えるとは思えない。 で、それを踏まえると主催者の狙いも見えて来るんじゃないか?」
 「つまり寿命の問題を何とかする為にこの状況を作ったって事ですか?」
 「あぁ、今の所だが、手元にある情報から推測すると一番無理のない理由じゃないか?」
 「そうですね。 問題は具体的な所が分かんないってとこですか……」
 
 祐平がそういうと水堂はそうなんだよなぁと呟いて唸る。

 「……なんか蟲毒みたいに殺し合わせて最後に生き残った奴を倒すと寿命がぐっと増えるとか?」
 「いやぁ、それ無理なくないっすか?」
 「正直、俺もそう思ってる」
 「こんな状況なんで常識よりも漫画とかのセオリーで考えてもいいかも――あ、正面、また化け物ですね。 脇道あるからスルーしましょう」
 
 途中、別の道があったので折れて正面の脅威を回避しつつ二人は会話を続ける。

 「あぁ。 ――それで漫画的なセオリーで考えるならどうだ?」
 「う、うーん。 なんだろ?」
 
 改めて考えてみるがパッと出てこない。 
 それなり以上に漫画は読んでいるはずなのにと祐平は頭を捻る。 
 
 「おいおい、言い出したのはお前だろうが。 そうだな、実は支払った寿命は魔導書にストックされて、主催者はそいつを引き出す方法を知っているとかどうだ?」
 「あぁ、それはあるかもしれませんね。 それだったらここで死んだら魂的なものが残留してエネルギーとしてプールされるとかどうです?」
 「なるほど。 それはあるかもしれないな」

 水堂が調子が出て来たんじゃないかと軽く小突くと祐平は苦笑。
 
 「今の所、考えられる可能性としてはこの迷宮は俺達を殺し合わせて魔導書を使う為の寿命を賄う為ってのが怪しいな」
 「そうですね」
 「……まぁ、分かった所でどうなんだよって話だがなぁ」

 水堂がわざとらしく肩を落とすと祐平は小さく笑う。
 現状の確認もあるが、会話を続ける事で気持ちを上向きにする意味合いが強い。
 黙っていると余計な事を考えてしまい、余計な考えは不安を生む。

 そして不安は行動に悪影響を及ぼす。 意識してやっている事ではないが、水道は無意識にそれを理解しているのか、次々に祐平へと話題を振る。
 祐平もぼんやりとだがそれを察していたので積極的に乗り、話を広げる努力をしていた。

 その後も二人の話は続く。 祐平は学校の話、水堂は就活の苦労話。

 「――学生時代は金欲しいとか思ってたけど、将来の事をあんまり考えなくて済んでた頃が懐かしいぜ」
 「やっぱ就活ってしんどいですか?」
 「マジでしんどいぞ。 学歴で箔付けとけって言われる理由を身に染みて感じてる。 いや、俺って高校出た後、フリーターやってたんだけど親がいい加減に定職に就けってうるさくてな。 それで慣れないスーツ着て色んな企業を履歴書片手に回ってる感じだな。 一応、ハロワにも行ってるんだがなぁ。 こう、先々に備えて蓄えられて食ってけるぐらいの将来性がある職場ってなると難しくてな」
 「それ高望みしすぎじゃないっすか?」
 「耳が痛いな。 いや、でもよぉ、適当に入って辞めたら次で『こいつ根気ねーな』って落とされるのムカつくだろ?」
 「あ、それは何となく分かり――」
 
 不意に祐平が口を閉じる。 雰囲気を察した水堂は声を落とす。

 「化け物か?」

 祐平は小さく首を振る。

 「いえ、人間っぽいですね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

【完結】暁の荒野

Lesewolf
ファンタジー
少女は、実姉のように慕うレイスに戦闘を習い、普通ではない集団で普通ではない生活を送っていた。 いつしか周囲は朱から白銀染まった。 西暦1950年、大戦後の混乱が続く世界。 スイスの旧都市シュタイン・アム・ラインで、フローリストの見習いとして忙しい日々を送っている赤毛の女性マリア。 謎が多くも頼りになる女性、ティニアに感謝しつつ、懸命に生きようとする人々と関わっていく。その様を穏やかだと感じれば感じるほど、かつての少女マリアは普通ではない自問自答を始めてしまうのだ。 Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しております。執筆はNola(エディタツール)です。 Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。 キャラクターイラスト:はちれお様 ===== 別で投稿している「暁の草原」と連動しています。 どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。 面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ! ※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。 ===== この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...