星と運命に導かれし者達~ステータスオープン~

kawa.kei

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第23話 素振り

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 更に翌日。 
 ミュリエルのスキル習得による後始末を終え、三人は村から少し離れた何もない荒野へ。
 
 「ではお二人には『剣術』と『短剣術』を取得して頂きます」
 
 そう言って応供は二人に長短二本の木の棒を渡す。

 「えっと、まさかとは思うけど――」
 「はい、考えている通りだと思います。 お二人にはひたすら素振りをして頂きます」
 「ここで?」
 「はい、フォームなどは気にしなくて結構です。 取り敢えず剣、短剣の素振りを行ってください。 条件が満たせているのかは定期的に俺が確認します」 
 「確認って? 覚えられたのならステータス見れば分かるんじゃないの?」
 「要求ステータスがあるのでミュリエルさんはともかく、朱里さんは条件を満たしても取れませんよ?」
 「……えぇ……な、なら何回振ればいいのかの目安ぐらい教えてよ」
 「目安ですか……。 そうですね。 取り敢えず十万回ぐらい振る感じでお願いします」

 つまりはスキル獲得の前段階でこれだけの事をやらされるようだ。 
 十万回という途方もない数字を想像して朱里は気が遠くなりそうだったが選択肢はないのでやるしかない。 

 「……分かった。 やるよぉ……」
 「ではよろしくお願いします。 俺は村でやる事があるので何かあれば呼びに来てください」

 応供はそう言って去っていった。 


 ぶんぶんとそれっぽい構えで木の棒をふる。
 隣ではミュリエルも同じように黙々と木の棒を振っていた。
 もう何回振ったかよく覚えていない。 取り敢えず千回ぐらいは覚えていたがそこから先が思い出せないステータスのお陰でそれなりに疲れづらくなっているが、限度があった。

 応供は軽い棒を持ってきたようだが、それでも振りすぎて手がずっしりと重く上がらなくなってきた。 ミュリエルはまだまだ元気そうだが、明らかに疲れており、顔には汗が浮かんでいる。
 
 「ねぇ」

 沈黙に耐え切れず朱里はミュリエルに声をかける。

 「はい、何でしょう?」
 「何で応供君はスキルの事を取得って言うんだろう?」

 手に入れるという意味では同じなので特に気にならなかったが、敢えて使っている感じがしたので少しだけ気になったのだ。
 
 「馴染みのある私達からすれば自らの力と認識しているので、気になる言い回しでしょうがオウグ様のお話からステータスは外付けの技能なので習得ではなく取得と表現されているのでは?」
 「あぁ、そっかー。 そうかもね」
 
 応供からすればステータスやスキルは取得物なのだろう。
 だから覚えるのではなく手に入れると表現しているのだ。
 
 「ところで剣術とか覚えたらどんな感じになるの?」
 「――と言いますと?」
 「ほら、なんか凄い動きとかできるようになるのかなって」
 「あぁ、私は魔法系のスキルしか持っていないので何とも言えませんが、何となくどう動けばいいのかが分かるみたいですよ。 実際、私の魔法も似たような感じです。 こんな感じの魔法が使いたい、敵を焼き尽くしたい、少しだけ加減したい。 そんな方向性を決めておくと勝手に頭の中にやり方が浮かんでくるのです」

 朱里には今一つ分かり辛い話ではあったが、もしかしたらアシスト的な物が入るのだろうか?と解釈した。

 「へぇ、そんな感じなんだー。 でもそれだと皆、似たような動きになるんじゃない?」
 「それが不思議な事に各々で異なるんですよ」

 ミュリエルの話では剣術スキルは個々人に合った最適な動きを使い手に齎すので、同じ環境で剣を学んだとしても最終的には全く別物の動きになるようだ。
 話を聞けば聞くほどにステータスという物は不思議だった。 この仕組みは神が作ったとの事だが、こんな物を作って力を与え、何がしたかったのだろうか?

 いくら考えてもさっぱり分からなかった。


 ――怪しい余所者だ。

 オムはあの怪しい三人が村に来た時から疑ってかかっていた。
 だから、彼等が村はずれの廃屋に住み始めたのを知って定期的に様子を見に行っていたのだ。
 怪しい。 怪しすぎる。 

 あの山脈を越えて来たのも怪しいし、あのような美人を二人も連れている点も怪しかった。
 もしかしたらあの二人の娘は騙されているのではないのだろうか? 
 やはり怪しい。 これは自分が二人を助ける場面ではないのだろうか?

 オムはあまり頭がよくなかったのでそんな事を考えながら、村の皆の為に監視に向かったのだが――
 
 「おや、えーっとオムさんで良かったですか?」
 
 そこには女達の姿はなく、男だけがそこに居た。
 一人でこんな所で何をしているのだろうか? 怪しい、怪しすぎる。
 オムは不振の目で男を見つめるが、彼の視線に気づいているのかいないのかじっと見つめて来た。

 その見透かすような目にオムは若干、気圧されながらも睨み返す。

 「お、お前! この村に何しに来た!?」
 「山脈から流れて来ただけですが?」
 「う、嘘を吐くな! 何か魂胆があんだろ!? えぇ? お、俺には分かってんだからな!」

 攻撃的なオムに男はふっと小さく笑う。

 「俺は荒癇 応供と言います。 決して怪しいものではありません。 ただ、落ち着ける場所を探しているだけなんです」
 「し、信じられるか!? 何が目的だ!? こ、この村に盗るもんなんてねぇぞ!? あ!?」

 必死に威嚇するオムに男――応供は笑顔を向ける。 
 
 「では信じて貰う為にあなたのお悩みをいくつか解決するとしましょう。 そうですね、まずは加護がない事にお困りではありませんか?」
 「な!? 何故それを!?」
 
 彼のコンプレックスともいえる部分を瞬時に指摘され、オムは驚きに目を見開く。
 だが、見透かされた事実に怒りが込み上げ――

 「もしよろしければあなたに加護を授ける事が可能ですがいかがでしょう?」

 ――る前に応供の提案によって霧散した。

 「か、加護をくれるだと!? う、嘘を吐くな! お前みたいな奴にそんな真似ができる訳ないだろうが! 俺を騙そうったってそうはいかねぇぞ!」
 「騙すなんてとんでもない。 俺は加護を与え、あなたは受け取る。 それだけの話です。 何処に騙す騙されるが入る余地があるのですか?」

 そう返されオムは言葉に詰まる。 本当にくれるのなら願ってもない話だ。
 だが、信じていいのだろうか? やはりこいつは騙そうとしているのかもしれない。
 
 「そうですね。 ならこうしましょう。 あなたは加護を受け取る代わりに俺が心の底から信奉している女神様を敬ってください。 俺の与える加護も元を辿ればその女神様から賜った物です。 ――そうですね。 これはあなたを信用しているからこそ言う話なのですが、俺はこの村を中心に新たな教えを広めようと思っています。 皆さんに加護を配るのもその一環と捉えて下さい」
 「お、教え?」

 聞き返したオムに対して応供は笑顔をこう答えた。

 「えぇ、名前は星運教ズヴィオーズ。 星と運命の女神様を崇め奉るこの世で最も崇高な教えですよ」
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