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第9話 邪神について

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 「それこそが星運教。 星と運命を司る女神様の素晴らしさを世に広める団体です」
 「待って、星運教?」

 荒癇の話はまだまだ続きそうだったので遮ろうとタイミングを窺っていたのだが、ふと気になるワードが聞こえたので思わず遮る。

 「はい、もしかしてご存じでしたか?」 
 「ニュースかなにかで見たような気がする。 ちょっと前からちらほら名前を聞く新興宗教団体でしょ?」
 
 評判に関しては朱里には何とも言えなかった。
 取り上げているメディアによって賛否が大きく分かれる集団だったからだ。
 特に犯罪行為を行っているといった話は聞かなかったが、その求心力は異様と評する専門家が多く、単純に上手くやっていると判断する者も居れば裏で何かやっているのではないかと疑う者も数多くいた。

 その手の団体に興味を持っていなかった朱里としては「胡散臭い」以上の感想は出ない。
 
 「そうですね。 それなりの規模になっていたと思います」 
 「あなた、あそこの関係者なの?」
 「そうですよ。 俺が作りました」
 「……作った? 確かあの団体ってできたの五年とか六年とか前だった気がするけど……」
 「当時、小学生でした」
 「小学生で宗教を興したの?」
 「はい、手続きなどが面倒だったので書類上は別の人間が責任者となっていますが、人を集めたのは俺です」

 言っている意味がよく分からなかった。 
 小学生で新興宗教の教祖? こいつは一体何なんだろうか? 
 あまりの衝撃に思考が止まりそうになったが、そんな事よりも聞くべき事があった。

 「色々と気になるけどその前に君の戦闘力について教えてくれない? 炎を出したり、電撃を出したりとしていたけどあれもスキルによるものなの?」
 「あぁ、アレですか。 所謂、超能力ですね。 ステータス上では俺のスキルの一部って事になってると思いますが、元々使えました」
 「そ、そうなんだ」

 さっきの立ち回りを見れば戦い慣れているのは明らかだ。 
 応供はあの力を日本に居た頃から持っていたのは疑いようがない。
 
 「それでも信じられません。 転移者を触媒にしたアポストルを単独で撃破するなんて……」

 ミュリエルはさっきの戦闘を思い出したのか身を震わせる。
 
 「あぁ、そういえばアポストルとやらについて聞いていませんでしたね。 恐らくは加護とやらを通して操られている者を指すのでしょう。 ――合っていますか?」
 「はい、アポストルは神々が我々の世界に干渉する為の数少ない窓口です。 加護が強ければ強いほどにその力は大きく、上位のアポストルは文字通り天を裂き、地を割るとまで言われています」
 「なるほど。 では、さっきのアポストルはあなたから見てどの程度の物でしたか?」
 「……元々、召喚された異世界人は高いレベルの加護と成長率を付与されます。 レベルが低かった事もあったので恐らくは平均よりも下程度の力かと」

 それを聞いて応供はふーむと悩む素振りを見せる。

 「困ったな。 あれで下位だと上位になると今の俺では少し厳しいかもしれません」
 「戦闘能力に関しては器の能力に左右されるのでステータスが高ければ高いほど、アポストルも力を発揮する事が出来ます」
 「弱点などの対処法は?」 
 「神々の力は非常に強力です。 その為、器がどれだけ頑丈であっても長時間の維持は出来ません」
 「あぁ、放っておけば死ぬのですね」
 「はい、アポストル化の解除は神の判断で行われるので、自分で解除する事は出来ません。 ですが、神との交信に成功すれば多少は操れると聞いたことがあります」
 
 ステータス、加護、アポストル。
 半日も経たない内に怒涛の情報に朱里は頭がおかしくなりそうだった。
 常識を投げ捨てなければ生き残れないのは応供の戦闘を一目見た瞬間に理解したが、話に付いていける気がしない。 
 
 「それと最後にもう一点、聞いておきたい事があります。 国王も口にしていましたが『邪神』とは何ですか?」 
 「……邪神は五大神ではない神の事を指します。 この世界の秩序を創造されたのは五大神ですが、神と呼ばれる存在は多く、神官の話によれば五大神を打倒する事で自身がその座に収まろうとしているとの事です」
 「何故、邪『神』と表現するのですか? 口振りから魔物の類と認識した方が自然に感じますが?」
 「格は落ちますが神と同じ力を持っているからです。 加護を与え、全てではありませんがアポストルを生み出す事も可能な存在もいるようなので……」
 「五大神の管理下にない邪神のテリトリーに向かう狙いはその邪神から加護を授かる事ですか?」
 「…………はい。 どんな加護でもないよりはマシなので……」

 ミュリエルは「決して騙そうとした訳ではありませんと付け足した」
 
 「いえ、怒ってはいませんよ。 どちらにせよこの世界の事に詳しい人間が必要なので、ミュリエル王女――ミュリエルさんの判断を信じましょう。 一先ず話はこれぐらいにして今日の所は――」
 「お待ちください。 最後に一つだけ、言っておかなければならない事があります」
 「何でしょう?」
 「あなたは力神プーバー様を敵に回しました。 恐らく今後、オートゥイユは神敵として追手を差し向けるでしょう」
 「でしょうね。 あのアポストルとやらからはかなり明確な敵意を感じました」
 「神々は加護を与えた存在の位置を特定し、自由にアポストルとして操る事が出来ます。 つまり――」

 ミュリエルはちらりと朱里を一瞥。 それを見て朱里の脳裏に理解が広がる。
 
 「そういう事でしたら大丈夫です。 私、力神の加護を持っていないので」
 「持っていない? どういうことですか?」
 「ステータスを見たら星運神の加護になっているので力神のアポストルっていうのにされる事はないかと思います」
 「……ステータスの鑑定に抵抗を示していたのはそのせいですか」
 「はは、バレていましたか」
 
 ミュリエルは小さく息を吐く。

 「そういう事でしたら私から申し上げる事はありません。 遮って申し訳ありませんでした」
 「ご納得頂けて何よりです。 一先ずですが食事と着替えを調達してきます。 ミュリエルさん、お金、もしくは替えられる物を持っていませんか?」
 
 着替えの話になって朱里はようやく自分の姿に気が付いた。 寝てた所を連れてこられたので、寝間着代わりに使っているジャージに足には靴下しかない。 加えて髪もぼさぼさだ。
 あまりの酷さに内心で頭を抱える。

 その間にミュリエルは何もない空間に手を突っ込むと袋を取り出した。
 受け取った応供が袋を開くと様々な硬貨が顔を覗かせる。 
 
 「これをあなたに預けます。 支払いはなるべく銅貨か銀貨を用いて下さい。 下手に金貨を用いると妙な輩に目を付けられます」
 「了解しました。 服は地味そうなのを適当に選ぶので気に入らなくても我慢してくださいね」

 応供はなるべく早く戻りますと言って踵を返した。
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