上 下
383 / 411

第383話

しおりを挟む
 そんな事だろうと思った。
 ヨシナリは撃ち落とされたリングを視界の端に捉えつつも目の前のタヂカラオに意識を向ける。
 武装と推進装置を兼ねている上、ジェネレーターまで内蔵しているのだ。

 これで自立飛行できない方が不自然だった。 恐らくは最後の最後で使って来るはずだ。
 普通にやればまず喰らう。 躱すだけならどうにでもなるが、勝つとなると文字通りの死線を潜る必要があった。 敵の攻撃をそのままスルーして蹴り抜くのは中々に勇気の要る事ではあるが、それ以上にヨシナリは信じていたのだ。 グロウモスの腕を。

 ちょうど敵機を仕留めた所だったのも運が良かった。 
 ヨシナリの状況をいち早く察知して援護に入ってくれたのは感謝しかない。
 連携訓練の際、彼女には上を意識するようにそれとなくアドバイスした甲斐があったと内心でほっと胸を撫で下ろす。 リングを失い、両腕を使ったタヂカラオの選択肢は蹴りしかない。

 ホロスコープとタヂカラオの足が交差。 接触と同時に足に仕込んだクレイモアを起爆する。
 爆発が発生。 僅かに遅れてエラーメッセージがポップアップ。
 足の推力偏向ノズルにダメージ。 レガースのお陰で足自体は残ったが、どうやら衝撃を殺しきれなかったようだ。
 
 だが、タヂカラオの方も無傷では済まず、足が完全に破壊されていた。
 
 『クッ、足が――』

 爆発の影響で機体が離れ、それに合わせてタヂカラオが両腕を向ける。
 四つになったリングにエネルギー充填されるが、下からの狙撃によって回避。
 グロウモスだ。 僅かに遅れて、無数の銃弾が飛んでくる。

 今度はマルメルだ。 タヂカラオに集中していたお陰で地上をよく見ていなかったのだが、気が付いたら下の敵機が残り一機――だったが、見ている間に最後の一機の反応が消えた。
 こちらはホーコート以外は健在。 正直、五分ぐらいの勝負になると思ったが、想像以上にマルメル達が頑張ってくれたようだ。 仲間の頼もしさに嬉しさを感じ、そろそろ勝負を決めに行こうと機体を加速させる。 

 『ここまで追い込まれるとは思わなかったよ。 だが、そう簡単に勝てるとは思わない事だね!』

 タヂカラオはまだ勝負を捨てていないのか片足と両腕のリングの全てを推進に利用。
 それにより急加速。 グロウモスの狙撃を次々に回避し、マルメルの銃撃は掠りもしない。
 速い。 リングを五つも失って機動性はかなり落ちているが、それでも純粋な技量で回避するのは流石はAランクという所だろう。 

 だが、比較対象である同格のベリアルやユウヤに比べると総合力では数段劣る。
 確かに個々の技術を切り取ればタヂカラオはヨシナリよりは上だろう。
 射撃、機動、判断力と隙がなく高いレベルで纏まってはいるが、彼の挙動には欠点が一つあった。

 エネルギーリングの射撃傾向を見るとそれが顕著で、ばら撒くように飛ばし、切れ目をあまり作らない――所謂、制圧射撃を行いたがる。 後はやたらと上を取りたがる点も気になった。
 恐らくだが、相手を力で捻じ伏せたいという無意識から来るものだろう。 本人は上手く隠してはいるが、言動の端々から感じる傲慢さからも明らかだった。 

 ヨシナリはアトルムとクルックスを引っ込めてアシンメトリーに切り替え、実弾で連射。
 タヂカラオは加速して回避。 

 ――このタイミングで加速?

 何故だと重力変動を確認すると片手と片足を中心に変化している点から片手を攻撃ではなく推進に回したのだろう。 だが、片腕はリングを一つ失っているので最初の頃に比べると目に見えて遅い。
 エネルギーリングを連射しながら接近。 両腕でも捉えきれなかったのに片腕ではもう当てられないと判断して接近戦での勝負に切り替えたようだ。 

 性格上、もっと早く諦める物かとも思ったが、随分と喰らいついてくる。
 思った以上に必死な印象を感じるが、何かあるのだろうか? 
 『思金神』の事情に関しては不明だが、そんな事情を汲んでやる必要もない。

 ヨシナリは変形して急降下。 
 この状態でも旋回性能では相手の方が遥かに上だが、直線加速ならホロスコープに分がある。
 そう簡単に追いつけない。 そのまま地上まで降下。

 タヂカラオは追うか下がるかで迷ったが、逃げ場がないと判断して追撃。
 もう狙いは看破しているだろうが、どうにもならないと言う事もまた察していた。
 何故なら地上の味方機が全滅している以上、残った『星座盤』のメンバーを全員相手にしなければならないのだ。 距離をとってもグロウモスが居るので一方的に撃たれる。

 隙を窺うにしてもヨシナリが炙り出しに来るだろう。 
 つまり、彼の取れる手として残されているのは速やかな各個撃破。 
 だからこそ追撃を行ったのだが、僅かに迷ったその一瞬が命取りだった。

 グロウモスの狙撃を回避し、マルメルの銃撃をビルを盾にやり過ごす。
 
 ――が、そこまでだった。

 回避している間にヨシナリがアシンメトリーによる狙撃。 
 高出力のエネルギー弾がタヂカラオを狙って飛ぶが、彼は蹴りで弾き飛ばす。
 何だとセンサーで確認すると重力変動を利用してエネルギー弾の軌道を捻じ曲げたらしい。

 こんな使い方があったのかと感心したが、もう詰みが見えた。
 背後から襲い掛かったシニフィエをエネルギーランスによる横薙ぎの一撃で仕留めようとしたが、彼女はぬるりとした動きで躱して懐に入る。 

 ――うわ、なんだあの動き。

 紙一重で躱し――いや、アレは見切っているのか?
 そのまま背のブースターを噴かして懐へ入り、蹴りを繰り出す。
 タヂカラオは仰け反って回避するが、通り過ぎた足が即座に戻って頭部に引っかかる。

 上手い。 仰け反って回避した後、反撃に移る為に頭部の位置を戻すのを狙ったのか。
 引っ掛けた後、体全体でしがみつくように腕をホールド。 ブースターで機体を強引に浮かして組み付いた。 

 「片腕もーらい」

 バキリと音がして腕が圧し折れた。 確か腕挫十字固だったか、ふわわも使っていた関節技だ。
 組み付いて即座に捻り上げた結果、タヂカラオの肩が即座に破壊され、腕が引っこ抜かれた。
 そして引っこ抜く際にブースターを噴かすのでそのまま離脱にも繋がっている。 何度か見たが恐ろしい技だ。 

 「Iランクが!」

 感情的になったタヂカラオが残った腕でエネルギーリングを撃ち込もうとするが、それが最期だった。 ヨシナリの放ったエネルギー弾が胴体を捉え、その直後にいつの間にか近くに来ていたふわわの一閃により、機体がバラバラになった後、爆発。 試合終了となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

私の召喚獣が、どう考えてもファンタジーじゃないんですけど? 〜もふもふ? いいえ……カッチカチです!〜

空クジラ
SF
 愛犬の死をキッカケに、最新VRMMOをはじめた女子高生 犬飼 鈴 (いぬかい すず)は、ゲーム内でも最弱お荷物と名高い不遇職『召喚士』を選んでしまった。  右も左も分からぬまま、始まるチュートリアル……だが戦いの最中、召喚スキルを使った鈴に奇跡が起こる。  ご主人様のピンチに、死んだはずの愛犬コタロウが召喚されたのだ! 「この声? まさかコタロウ! ……なの?」 「ワン」  召喚された愛犬は、明らかにファンタジーをぶっちぎる姿に変わり果てていた。  これはどこからどう見ても犬ではないが、ご主人様を守るために転生した犬(?)と、お荷物職業とバカにされながらも、いつの間にか世界を救っていた主人公との、愛と笑いとツッコミの……ほのぼの物語である。  注意:この物語にモフモフ要素はありません。カッチカチ要素満載です! 口に物を入れながらお読みにならないよう、ご注意ください。  この小説は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています。

処理中です...