上 下
379 / 390

第379話

しおりを挟む
 ――舐められたものだ。

 Bランクプレイヤー『紫陽花あじさい』は目の前のソルジャータイプに機体を睨む。
 彼女の使用するフレームはエンジェルタイプの上位機種であるアークエンジェルタイプ。 
 性能差は明らかだが、それ以上に気になるのは相手のランクだ。 

 プレイヤー名『シニフィエ』。 ランクはI。
 つまり最低ランクだ。 『星座盤』が所属人数の少ない弱小である事は六対六という半端な数での対戦になっている点からも明らかなのだが、まさか最低ランクの初心者を出してくるとは思わなかった。

 それでも最低限の装備だけは整えてきたのか、Ⅱ型にアップグレードされている。
 背には高出力のブースターで、特徴としては可動域が広く、真横への加速など極端な挙動が可能な代物だ。
  
 手には大型のガントレット。
 恐らくは推進装置を内蔵した物で殴る際に拳を加速させる代物だったはずだ。

 足にも何か仕込んでいるのか膝から下の形状に違和感がある。 
 エネルギーブレードか何かを仕込んでいる可能性が高い。
 腰にも収納用の小さなボックスが見えるので何かしらの武器を仕込んでいると見て間違いない。

 結論。 接近戦特化の機体。 
 紫陽花はそれを見て再度舐められたものだと思う。 機動性に大きな開きがあるアークエンジェルタイプとの空中戦に機動力で大きく劣るソルジャータイプをぶつけるなど愚かとしか言いようがない。

 まさかとは思うが足止め狙いの捨て駒なのだろうか? だとしたら納得は行くが、Iランク程度に足止めできると判断されると思いそれはそれで不快だった。
 それを払拭する為にもさっさと片付けてタヂカラオを助けに行く事だ。

 ちらりと上をに視線をやるとタヂカラオの機体――『トガクシ』がリング状のエネルギー弾を連射しており、キマイラ+が凄まじい挙動で回避し続けている姿が見える。
 それだけではなく見事な縦旋回で背後へ回り込み、反撃まで行っていた。

 ――本当にEランクか?

 明らかにランクに不釣り合いな動きで、Bランクでも充分に通用しそうだった。
 そんな事を考えていると戦場のあちこちで銃撃や爆発音。
 他も戦闘を始めたようだが、恐らく一番早く片付けるのは自分だろう。
 
 確信を抱きながら射程に捉えたと同時にエネルギーライフルを発射。
 エネルギー弾が吸い込まれるように敵機に向かうが、敵機は機体を捻って回避。
 
 ――?

 Iランクにもかかわらず回避の挙動に随分と余裕が見える。
 警戒心が持ち上がり、雑に処理するのは良くないかもしれないと判断。
 エネルギーウイングの出力を上げて急加速。 即座に距離を潰し、相手の拳が届かない距離まで接近したと同時に再度エネルギーライフルを撃つ。 敵機は接近と同時にブースターを噴かして急上昇。

 上に逃げたと同時に敵機の背後に回り込む。 そもそも機動性に大きな開きがあるのだ。
 追いかけっこで負ける訳がない。 それでも最低限の警戒は行う紫陽花は拳の届く間合いには入らずに接近。 エネルギーライフルを発射。 また直前に噴かして躱す。
 
 流石にここまで躱されるとまぐれではない。 何故だと考えると、相手の動き出しを見れば疑問は氷解する。 驚くべき事に相手は自分が引き金を引くタイミングを見て躱しているのだ。
 
 ――なるほど。

 Iランクと侮るべきではなかったと敵の評価を上方修正。
 単発の火器では当たらないのなら連射武器で躱せない攻撃をすればいい。
 接近は容易いので接近して喰らわせれば充分に仕留められる。 敵機は更に上昇。
 
 妙に上昇するなと思いながら、ライフルを撃ちながら追撃。
 ソルジャータイプは仕様上、大気圏を突破できないので限界高度が存在する。
 その為、高度を必要以上に上げるのはあまり褒められた手段ではない。 

 ――狙いは何だ? 
 
 敵機は途中で方向転換。 雲に入るつもりのようだ。
 小賢しい。 仕掛けるのは雲に入る前だ。 そのタイミングで急加速してサイドアームの短機関銃で推進装置を破壊する。 そうなれば勝手に落ちて終わりだ。

 エネルギーウイングを噴かして急加速。 
 前か後ろかで迷ったが、敵機は明らかに背後からの攻撃を警戒しているのでギリギリまで接近して急旋回で前に回り込む。 意表をついてそれで終わりだ。

 接近、背後に付き、敵機が反応したと同時に再度エネルギーウイングを噴かして急旋回。 
 敵機を中心に半円を描く軌道で前に回り込む。 敵機は背を向けた状態。
 完全に読み切った。 短機関銃を構え――敵機のブースターが片方180°回転。

 連射。 同時に敵機が横に回転して上下が入れ替わった。 
 それにより胴体が下に行き、銃弾が狙ったブースターに当たらない。 
 だが、足が上に来たのでそこはどうにもならなかった。 無数の銃弾が足に命中し、次々と食い込むが破壊には至らない。 

 ――妙に硬いな。

 装甲を盛っていたようだが、ダメージは――
 
 『やーっと二回使ってくれた』

 不意に何かが飛んでくる。 高速で回転している何か。
 フォーカスすると特徴的な形状をした刃――恐らくは手裏剣だ。
 悪あがきを。 紫陽花はそれを頭部を傾ける事で躱す。

 『いやぁ、良い位置ですね』
 「何を――」

 頭部の真横に来たと同時に手裏剣が爆発。 
 大したサイズではないので頭部を破壊する事は不可能だ。 そう判断しての事だったのだが、手裏剣は破片の代わりに閃光を撒き散らした。 ほんの一瞬の事なので、大した被害ではない。

 そう、ほんのコンマ数秒視界がなくなるだけだ。 
 猛烈に嫌な予感がした紫陽花はエネルギーウイングを噴かして離脱しようとしたが、思った以上のスピードが出ない。 当然だった。

 追撃と回り込む際に二回ほど連続で噴かしたのだ。 
 三回目はジェネレーターに負担がかかるのでセーフティによって制限がかかる。
 それでも離脱する分には充分な推進力は出るが、ガクリと機体が何かに引っ張られて止まった。

 視界が戻ると機体にワイヤーのような物が巻き付いている。 
 何だこれはと敵機の装備構成を考え、腰にあったボックスを思い出した。 
 あれか。 アンカーの射出装置。 狙いは拘束――彼女の思考は一回転する視界に遮られる。

 天地が逆転したのだ。 混乱したが状況の把握には一秒もかからない。
 敵機がこちらの足を掴んで再度一回転したのだ。 どうやら射出したアンカーワイヤーで紫陽花の機体と自機を巻き付けて固定したらしい。 次にエネルギーウイングにエラー。

 密着と同時にエネルギーウイングを踏み折られた。 
 これら全てが一瞬の出来事なので状況に思考が追い付かない。
 
 ――何だ? 何が起こっている?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺は異端児生活を楽しめているのか(日常からの脱出)

SF
学園ラブコメ?異端児の物語です。書くの初めてですが頑張って書いていきます。SFとラブコメが混ざった感じの小説になっております。 主人公☆は人の気持ちが分かり、青春出来ない体質になってしまった、 それを治すために色々な人が関わって異能に目覚めたり青春を出来るのか?が醍醐味な小説です。

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

Infinite possibility online~ノット暗殺職だけど、気にせず依頼で暗殺中!

Ryo
SF
暗殺一家の長女の黒椏冥(くろあめい)は、ある日、黒椏家の大黒柱の父に、自分で仕事を探し出してこそ一流だと一人暮らしを強要される。 どうやって暗殺の依頼を受けたらいいのかと悩んでいたが、そんな中とあるゲームを見つける。 そのゲームは何もかもが自由自在に遊ぶことが出来るゲームだった。 例えば暗殺業なんかもできるほどに・・・ これはとあるゲームを見つけた黒椏家最強の暗殺者がそのゲーム内で、現実で鍛え上げた暗殺技術を振るいまくる物語である。 ※更新は不定期です。あらかじめご容赦ください

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

処理中です...