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第376話

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 瞬く間に時間は過ぎ、二日後。
 ヨシナリはメンバーを引き連れて、思金神の用意したトレーニングルームへと来ていた。
 目の前にはタヂカラオが率いる思金神のメンバーが並んでいる。

 案の定、連れて来た全員がBランクだったが、タヂカラオのステータスを見てヨシナリは内心で眉を顰めた。
 
 「やぁ、来てくれて嬉しいよ。 ちょっとした交流戦だ。 気楽に行こう」
 「はは、そうですね。 胸を借りるつもりでやらせて貰いますよ」

 そう言って互いに握手。 不意にタヂカラオは小さく笑って見せる。
 ヨシナリはその笑みに少しだけ嫌な物を感じた。

 「――まぁ、お遊びみたいな物ではあるが、少しは緊張感は欲しいと思わないかな?」
 「緊張感?」
 「あぁ、ちょっとした賭けをしないかな?」
 「賭けですか? 吹っ掛けるからには何を賭けるかは考えているんですよね?」
 
 イベントで負けた腹いせが主目的だと思っていたが、本命はこっちか。
 
 「勿論、もしも我々が勝ったら君が思金神に入るというのはどうかな?」
 「嫌に決まってるじゃないですか。 小さいとはいえ、他のユニオンのリーダー引き抜こうなんてふざけてます?」

 即答。 同時にタヂカラオの目的を考える。
 彼がヨシナリを気に入った? 考え難い。 
 基本的に彼は頭も回るし、リーダーシップもあるが、それ以上に傲慢さが鼻に付く。
 
 プライドが高いと言い換えてもいい。 
 そんな相手が一度断った相手に再度勧誘するというのはなくはないが、可能性としては低いと思われる。 

 ――にもかかわらずそんな条件を出してきたという事はこいつ以外の思惑が働いている?

 腑に落ちる理由としてはこれだが、わざわざこんな真似をするだろうか?
 疑問は尽きないが、論ずる価値もない話だ。 断る事へのデメリットもないので突っぱねて終わりでいい。 

 「はは、冗談だよ。 なら、一時所属というのはどうだい? ウチのトップが君に興味があるらしくて、一度連れてきて欲しいと言われているんだ」
 「だったら普通に話すだけでいいでしょう。 悪いですけど興味ないですね」
 「君達が勝てば1000P払うと言ってもかな?」
 「…………はい。 俺は星座盤のリーダーなんで無駄なリスクは負えません」

 金額に一瞬、心が動いたが自制心を働かせて断った。
 
 「分かった。 ならこうしよう。 こちらが勝てば君は一日、思金神に来てくれ。 所属もしなくていい。 ただ、タカミムスビさんと一日過ごしてくれればいい」
 「こちらが勝ったら?」
 「100P支払おう」

 随分とハードルを落としてきたな。 
 どうやらヨシナリに興味があるのはタカミムスビと言う事のようだ。
 ヨシナリが小さく振り返ると、マルメルは小さく肩を竦め、ふわわは「いいんと違う?」と一言。

 グロウモスは小さく頷き、残りの二人も同様だ。
 
 「――まぁ、それぐらいなら構いませんよ」
 「オーケー、成立だ。 お手柔らかに頼む」

 そう言ってタヂカラオ達は移動。 ヨシナリ達も指定された初期位置へと移動した。

 「なんだあいつ? ヨシナリを狙ってるみたいだったけど何かあったのか?」
 「前のイベントで俺に負けたのが悔しかったみたいだ」
 
 マルメルの質問にヨシナリは肩を竦めて見せる。
 その間に全員がトルーパーを呼び出して搭乗。 ヨシナリとマルメルも機体を呼び出して配置に付く。

 「ふーん? ヨシナリ君、大人気やね」
 「俺は慎ましくこのゲームを楽しんでるだけなのに困った物ですよ。 ――さて、念の為、フォーメーションを確認します。 前衛はふわわさんとシニフィエ、相手は大半がエンジェルタイプと思われますのでふわわさんはともかく、シニフィエは機動性では勝負にならないので射線を切る事を意識」
 「大丈夫やよー。 ウチはいつも通りいくわー」
 「これに勝ったらご褒美欲しいなー。 具体的には新しいパーツを買って欲しいなー?」
 
 ヨシナリは少し悩んだが、まぁいいかと頷いた。

 「あぁ、ほぼ最初からⅡ型はあんまりよくないんだけど、活躍したらいいよ」
 「了解です。 ではお義兄さんの為に頑張りますね!」

 ふわわとシニフィエは特に緊張もしておらず平常心といった様子だ。
 
 「マルメルとホーコートは中衛。 マルメルはいつも通り、ホーコートはそのフォロー。 具体的にどう動くかは頭に入ってるな?」
 「俺は問題ない。 後輩はどうだ?」
 「問題ないっす。 基本的にマルメルさんの狙ってない敵に仕掛ける感じで、得意の機動はギリギリまで隠すので使わない」
 
 ヨシナリは頷いて見せる。 
 ホーコートのチート機動はギリギリまで取っておいてここぞという時に使った方がいい。
 可能であれば撃墜してくれればありがたいが、足止めしてくれれば上出来だ。

 「グロウモスさんは――」
 「大丈夫。 分かってる」

 なら言う事はない。 敵の構成はほぼ想定内だが、一点だけ想定を超えた物はあった。 
 タヂカラオだ。 個人ランクがAに変わっていた。
 あれだけ自信満々な理由にも納得がいく、相手にジェネシスフレームが一機居るのだ。

 厄介とは思うが先々のイベント等で嫌でもぶつかるカテゴリーの機体なのだ。 ここで叩き潰して自分達の力と機体性能がランカーにも通用すると見せつけるチャンスとヨシナリは捉えていた。 なりたてとはいえ、ランカーを叩き潰せる機会は滅多にない。

 ここで勝てれば箔も付く上、メンバーに自信が生まれ、ついでに100Pも貰えるといい事しかない。
 ヨシナリはここに来ても負けるつもりが一切なかった。 
 彼が考える事はたった一つ。 

 ――ぶっ潰す。

 それだけだ。 カウントダウンが始まり、瞬く間にゼロになり――試合が開始された。
 敵の機体構成は砲戦主体のプリンシパリティが一機、上位のエンジェルタイプであるアークエンジェルが二機、走破性に優れたキマイラループスが二機。 そしてタヂカラオのジェネシスフレーム。

 まずはタヂカラオの機体特性を把握しておきたい。 
 ヨシナリは開始と同時に変形して急上昇。 ふわわ、シニフィエは真っ直ぐに突っ込んでいく。
 それを追うようにマルメルとホーコート。 グロウモスは光学迷彩を使用して姿を消した。

 ――さぁ、どう動く?
 
 これ見よがしに上空に陣取ったヨシナリは敵の出方を――咄嗟に機体をバレルロール。
 リング状のエネルギー弾が一瞬前までヨシナリが位置を通り過ぎる。
 ゆっくりと機体が上がって来た。 茶色を基調としたカラーリング。

 形状は人型。 武装らしきものは腕と足に通している浮遊リング。
 装着ではなく、手足に合わせて浮かんでいる。 恐らくエネルギー弾を放ったのはあのリングだろう。
 推進装置の類は見当たらないので随分とすっきりした印象を受けるデザインだった。
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