上 下
371 / 390

第371話

しおりを挟む
 ホーコートはシニフィエが視界から消えたと同時に最大加速。
 矢のように弧を描きながら雲へと入る。 
 観戦モードだと雲を透過できるので何が起こっているのかは見えていた。

 シニフィエは下を見るような姿勢で、ホーコートはその背後に回る。
 有効射程ギリギリまで接近し、散弾銃を構えるがホーコートが動きを止めたと同時に機体を捻りながら加速。 ホーコートの機体に組み付く。

 『つーかーまーえーたっ!』

 頭部を抱えるようにしてコックピット部分に膝を叩きこむ。 
 ホーコートは咄嗟に散弾銃を投げ捨ててマチェットを抜こうとするが、それよりも早くシニフィエがその腕に全身で絡みつく。 両足で上腕を挟み、捻り上げる。

 バキリと嫌な音がしてホーコートの機体の腕が破壊された。 
 残った腕で拳銃を抜こうとするが、それよりも早くシニフィエはその背にしがみつく。
 もう一本の腕を破壊しに行くのかと思ったが狙いはエネルギーウイングだったようだ。

 強引に掴んで引き千切った。 

 「うわ、マジかよ」

 思わずマルメルは声を上げる。 ヨシナリもこれには声を漏らした。
 推進装置を狙うのは有効だが、組み付いた状態でやるのは想定外だ。
 片腕のホーコートは背負う形になったシニフィエに対して何もできず、推進装置を破壊された事により飛行が不可能になった。 

 ――そうなると後の展開はもう読める。

 シニフィエは拘束を解くとホーコートの機体は重力に引かれて落下。
 僅かな落下時間を経てぐしゃりと音がして爆発。 試合終了となった。
 

 「あー、やられちまったぁ。 マジで初心者? 自信なくすなぁ……」

 ホーコートはやられたーと言いながら悔しそうにしていた。
 シニフィエは何故か首を傾げ、ややあって口を開く。

 「ホーコートさんは何を意識して戦い方を組み立てていますか?」
 「意識? あー、何だろう。 何となくかなぁ。 雰囲気でやってる感じ?」
 「……なるほど、参考になりました」
 
 ホーコートははぁと小さく首を捻る。 

 「その機体だったら俺ともやれそうだな! 今度は俺と戦ろうぜ!」
 「お、いいっすね。 やりましょうか!」
 「じゃあヨシナリ! ちょっとこいつ借りてくぜ!」

 マルメルはホーコートと肩を組んで引っ張っていく。
 ウインドウを操作してそのままトレーニングルームへと移動した。
 完全に居なくなった事を確認し、ヨシナリはちらりとシニフィエへ振り返る。

 「――で? どう思う?」 
 「ぶっちゃけるとあの人、なんかズルしてません?」
 
 即答。 正直、ヨシナリも疑っている部分だったので否定はしない。
 
 「何でそう思った?」 
 「動きが機械的すぎです。 NPCと戦ってるのかと思いましたよ。 あ、という事はお義兄さんも疑ってたんですね」

 ヨシナリはまぁなと言って小さく息を吐く。
 シニフィエの認識は正しい。 ホーコートの動きは一つ一つの動きは優れていたが、決められたパターンをなぞっているだけにしか見えなかった。

 「実際、動きに違和感しかなかったからな」
 「でもこのゲームってチート厳禁じゃないんですかね?」
 「そのはずだけど、何にも言ってこないって事はチートじゃないか、お目こぼしして貰ってるかのどっちかだな」
 
 このゲームに置いてチートは即座にアカウント削除+賠償の対象となる。
 その辺を理解できていない訳がないので、知っていてやっている?
 まさかとは思うが使っている自覚がない? もしかして運営がモニターとして雇っているプレイヤーとか? 様々な疑問が浮かぶが、どれも確証にまでは至らない。

 ――つまり、今の所は考えても無駄なのだ。

 「どうします? 戦力としては居ないよりはマシだと思うので、お義兄さんが上手に手綱を握れば動きの固さはある程度取れるんじゃないですか? 彼、お義兄さんには従順っぽいし、私は歓迎しますよ? ――仲良くは出来なさそうですけど」
 「どういう事?」
 「私、自分がない人って見ててもつまんないんであんまり好きじゃないんですよ」

 それはどういう意味だと聞きかけた所で二人が戻ってきたので話は中断となった。
 

 「――そういやイベント戦ってどんな感じだったんだ? 観戦不可だったから教えてくれよ!」

 感想戦を済ませ、一段落付いた所でマルメルがそんな事を言い出した。
 ヨシナリはあぁと小さく頷く。

 「最初の三戦はお前も知っての通り三対三のチーム戦。 武器はランダム支給だから自分と味方の装備を上手く組み合わせて戦い方を組み立てないといけないからその辺が腕の見せ所だな」
 「だな! 俺もセンドウさんと組んで色々あれこれやって楽しかったぜ! ――負けたけどな。 その後は何があったんだ?」
 
 言われてヨシナリは記憶を探る。 
 確か、三回戦が終わって――最終戦は随分と毛色が違うなと思った事が印象に残っていた。
 
 「えーっと、確か普段やっているチュートリアルの延長みたいな内容だったな」

 的のようなエネミーが大量に現れて四チームでそれを潰してスコアを競い、最終的に一番多いチームの勝ちとなる。 ヨシナリのチームが最高得点を取って勝利となった。
 確かホーコートも頑張ってくれたので、終わった後にユニオンホームに誘ったのだ。

 ――何か違う気がするんだよなぁ……。
 
 違和感が凄まじいが、いくら記憶を探ってもその正体を発見できなかった。
 
 「いやぁ、先輩の射撃精度とか凄かったっすよ! 元々、星座盤の活躍は知ってたんでマジリスペクトっす!」

 ホーコートはやや興奮気味にそんな事を言っているのだが、ヨシナリは苦笑して曖昧に頷く事しかできなかった。 
 
 「うーん? ――お、ヨシナリ君達も終わったみたいやね。 お疲れー!」

 不意にふわわが戻って来た。 どうやら彼女も終わったようだ。
 僅かに遅れてグロウモスのアバターも出現する。 これで全員がイベントを終了したようだ。

 「お疲れです。 何だか浮かない感じですが何かありました?」
 「――最終戦って的当てやったよね?」
 「そうでしたが何か?」
 
 ふわわは何か釈然としない様子だったので、ヨシナリはグロウモスに視線を向ける。

 「うん。 的当てだった」

 ――だよなぁ……。

 頷くグロウモスにヨシナリもはっきりしない気持ち悪さを抱えながらも間違いないと確信を深める。
 考えても仕方がないとやや強引に割り切り、ホーコートの紹介をするべく話を切り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺は異端児生活を楽しめているのか(日常からの脱出)

SF
学園ラブコメ?異端児の物語です。書くの初めてですが頑張って書いていきます。SFとラブコメが混ざった感じの小説になっております。 主人公☆は人の気持ちが分かり、青春出来ない体質になってしまった、 それを治すために色々な人が関わって異能に目覚めたり青春を出来るのか?が醍醐味な小説です。

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

Infinite possibility online~ノット暗殺職だけど、気にせず依頼で暗殺中!

Ryo
SF
暗殺一家の長女の黒椏冥(くろあめい)は、ある日、黒椏家の大黒柱の父に、自分で仕事を探し出してこそ一流だと一人暮らしを強要される。 どうやって暗殺の依頼を受けたらいいのかと悩んでいたが、そんな中とあるゲームを見つける。 そのゲームは何もかもが自由自在に遊ぶことが出来るゲームだった。 例えば暗殺業なんかもできるほどに・・・ これはとあるゲームを見つけた黒椏家最強の暗殺者がそのゲーム内で、現実で鍛え上げた暗殺技術を振るいまくる物語である。 ※更新は不定期です。あらかじめご容赦ください

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...