上 下
353 / 390

第353話

しおりを挟む
 決定方法は投票――つまり、過半数の支持でリーダーになれる。
 三人なので自分ともう一人の票を獲得できれば条件はクリアされるのだが、ヨシナリとしてはこいつの指揮下には入りたくないなと思ってしまう。

 明らかに人を引っ張る魅力を感じなかった。 

 「いや、だったらまんまるさんでいいんじゃないか? 彼女はBランクだ。 強い奴がいいって言うのなら彼女じゃないか?」
 「あ? ランク高いだけだろ? こいつからカリスマを感じねぇよ。 やっぱり俺だろ?」

 ホーコートは俺、俺と譲らない。 
 ヨシナリはもう面倒くさいからこいつでいいかなと思い始めていたが、まんまるの意見を聞いていないので「どうします?」と視線を向けると――

 「わ、わたしはヨシナリさんがリーダーやってくれると嬉しいですぅ……」
 「あぁ!? こんな奴のどこがいいんだよ? 節穴かぁ?」
 
 ホーコートは瞬間湯沸かし器みたいに即座に沸騰するが、まんまるは小さく首を傾げる。

 「お前みたいなゴミに指揮官は無理ですぅ。 実力も指揮能力もあるように見えない上、この中で最低ランク。 口だけの雑魚は大人しくイエスマンやってろですぅ」
 
 ――おいおい、思った以上に言うなぁ。

 ポンポンの陰に隠れて自己主張が薄い印象だったが、そうでもなかったようだ。

 「んだとてめぇ! 俺がこのコバンザメ野郎より下だってのかよ!?」
 「実力差も理解できない時点で上下以前に比べる価値もないですぅ。 イキりのゴミはすっこんでろですぅ」

 ヨシナリは逃げ出したくてたまらなかった。 
 何故ならこの事態を収拾する為に能動的に動かなければならないからだ。
 取り敢えず、ウインドウからはさっさと決めろと催促が来ているので、ヨシナリは無言で自分に投票した。 残りの二人にも警告音と共に投票を促すメッセージウインドウがポップアップ。

 ホーコートは舌打ちして操作。 まんまるはヨシナリを一瞥して投票。
 結果はヨシナリ二票、ホーコート一票でヨシナリに決定した。
 ホーコートは結果に納得がいかなかったようでブツブツと文句を言っているが、構ってられないので無視。 最初は三対三の集団戦。 

 機体は告知されていたようにⅠ型。 
 装備に関してはフィールドへ移動した時点で決定されるようだ。
 そして一度手に入れた武器は次回の戦闘に持ち越す事ができるらしく、戦闘毎に装備が増える仕組みらしい。 

 ――最悪、敵から装備を奪うのもありか。

 「まんまるさん。 Ⅰ型の扱いはどうです? 俺はここ一週間でキマイラの感覚は抜いてきましたが……」
 「わ、私もですぅ。 ここ最近はⅠ型で練習してました」

 よし、なら問題はないな。 そもそも彼女は『豹変』のメンバーでポンポンの仲間なのだ。
 対戦もしたし、共同ミッションで組んだ事もあるのである程度の実力は把握している。
 
 「武装はどうです? 俺は中~遠距離戦はそこそこ以上にやれますが、近接戦になるとややランクが落ちます」
 「私も中~遠距離戦ですぅ。 接近戦はニャーコちゃんに任せてたのであんまり自信ないですぅ」
 「了解。 後はどんな武器を引き当てるかか……」

 話している内にマッチングが決定し、フィールドへと移動。
 移動先は森林ステージ。 木々が深く、視界はあまりよろしくない。
 シックスセンスもないのでさっぱり見えない状態だ。 装備は――

 自動拳銃のみ。 
 他を確認するとまんまるはボルトアクションの狙撃銃、ホーコートはメイスだった。
 
 「まんまるさん。 扱う自信は?」 
 「何とか行けますぅ」

 まんまるは支給された弾と銃を確認しながら頷く。
 なら問題ないな。 問題は残りの一人だ。
 
 「で? そっちは協力する気があるのか? ないなら別行動しよう。 別に指図する気はないから、お互いに好きにやろうぜ」
 「は、言われなくてもそうさせて貰う。 精々、俺抜きで頑張るんだなコバンザメ野郎!」

 そう言ってホーコートはさっさといなくなった。 
 

 ――気に入らねぇ。

 何もかもが気に入らなかった。 ホーコートは肩を怒らせて森を進む。
 Ⅰ型を使わされるのも、まんまるとかいう奴に馬鹿にされた事も、そして何より、ヨシナリの存在自体が気に入らなかった。 ランクはE、自分と同じこのゲームでは知名度など得られる訳もないちっぽけな存在だ。 

 だが、ここ最近になってイベントなどで目立つようになってきた。 
 前回の侵攻イベントではボスにとどめを刺しており、ユニオン対抗戦では強力なAランクプレイヤーやSランクプレイヤーを擁して優秀な成績を収めている。

 気に入らなかった。 どうやったのかは不明だが、Aランクプレイヤーの力を背景に本戦出場。
 いなければ予選で死んでいるような雑魚がだ。 身の程を弁えろと思った。
 ホーコートの考えを肯定するように本戦では途中で脱落している。 恐らくは足を引っ張ったのだろう。

 侵攻イベントでも誰かに取り入って手柄を横取りしたに決まっている。
 そんな奴と組まされた時点でホーコートは今回のイベントをほぼ投げていた。
 だから、自分がリーダーになって負けても仕方がないと思えるようにしたいと思っていたのだが、それすらも思い通りに行かなかったので、彼の苛立ちは深い。

 少なくとも彼の目にはヨシナリは他人に小狡く取り入る卑怯者でしかなかった。
 そんなまんまるもヨシナリの手にやられた愚かな奴なので、組むに値しない。
 奴らが俺を見限ったんじゃない。 俺が奴らを見限ったのだ。
 
 そう言い聞かせて森を進むが、途中で道を塞ぐ巨木があったので苛立ちに任せてメイスを叩きつける。 メキメキと大きな音を立てて巨木が圧し折れた。
 この苛立ちをどうにかする為に敵を叩き潰したい。 ホーコートはそんな気持ちで進んでいたのだが――不意に突っ込んで来た敵機に思考が真っ白になる。

 「う、うおぉ」

 敵の装備はブレード。 横薙ぎの一撃を咄嗟にメイスで受ける。
 金属が接触し火花が散った。 驚きはしたが好都合だとホーコートは目の前の敵機を睨む。

 「上等だ、ぶっ潰してやらぁ!」

 武器の重量を利用して上手く押し返す。 メイスとブレードでの鍔迫り合いならこちらに分がある。
 そう判断したホーコートは強引に押し込もうとしたが、森の奥から現れたもう一機が短機関銃を構えていた。 

 ――ヤベぇ……。

 咄嗟に目の前の敵機に蹴りを入れて射線から離れようとしたが、そこも読まれていたようだ。
 更に現れたもう一機が水平二連の散弾銃を構えて待ち構えていた。
 ホーコートは咄嗟に身を捻って回避を試みるが、散弾が脇腹と足を抉り、直立が出来ずに転倒する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺は異端児生活を楽しめているのか(日常からの脱出)

SF
学園ラブコメ?異端児の物語です。書くの初めてですが頑張って書いていきます。SFとラブコメが混ざった感じの小説になっております。 主人公☆は人の気持ちが分かり、青春出来ない体質になってしまった、 それを治すために色々な人が関わって異能に目覚めたり青春を出来るのか?が醍醐味な小説です。

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

Infinite possibility online~ノット暗殺職だけど、気にせず依頼で暗殺中!

Ryo
SF
暗殺一家の長女の黒椏冥(くろあめい)は、ある日、黒椏家の大黒柱の父に、自分で仕事を探し出してこそ一流だと一人暮らしを強要される。 どうやって暗殺の依頼を受けたらいいのかと悩んでいたが、そんな中とあるゲームを見つける。 そのゲームは何もかもが自由自在に遊ぶことが出来るゲームだった。 例えば暗殺業なんかもできるほどに・・・ これはとあるゲームを見つけた黒椏家最強の暗殺者がそのゲーム内で、現実で鍛え上げた暗殺技術を振るいまくる物語である。 ※更新は不定期です。あらかじめご容赦ください

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

処理中です...