上 下
339 / 390

第339話

しおりを挟む
 あれから丸一日が経過し、疲労も寝る事で回復したのだが、嘉成は震えていた。 
 目の前にある物が彼の想像を遥かに超えており、上手く息ができない。

 理由は表示されているウインドウだ。 そこにはICpwから受け取った報酬が表示されていた。
 10000P。 Pは限られた手段でしか入手できない特殊通貨で、主な入手方法は緊急ミッションとランク戦報酬(Cランク以上)の二つだ。 

 そしてこの特殊通貨の凄まじい点はクレジットに換金――要はリアルマネーに変換できる事だ。
 換金レートは1P約一万から一万五千クレジット。 社会人の平均月収は三十万から五十万クレジット。
 つまりこのPを金に換えると――

 「十万、百万、千万、一お――嘘だろ?」

 正直、換金に興味がなかった事もありできる事は知っていたが、レートを知らなかった。
 何の気なしに換金レートを見るとなるほどと納得してしまう。
 ランカーがPを売却して生計を立てているという話も頷ける。

 ――反応炉を潰しただけでこれだけくれるのか。 

 信じられない。 このゲームの運営は頭がおかしいのか?
 あまりの金額に思考が変な方向に行きかけたが、別に直ぐに判断しなければならない事でもない。
 それに戦力強化に使うのであんまり残らないだろうなとも思っていた。

 自室のベッドに横になって一つ深呼吸。 思考を切り替える。
 考えるのはイベント戦の反省会だ。 まず、立ち回り自体はいくつかのイレギュラーこそあったが、概ね想定内に収まったと言える。 いや、上手く行き過ぎたなとすら思っていた。

 ラーガストから得た情報を元に水中戦用の装備を揃え、他を無視して反応炉を直接叩きに行くやり方は理に適っており、無駄も少なく合理的だ。 
 熱核兵器があったとしても千じゃ利かない数の拠点をチマチマ潰すよりはよっぽど効率的とすら思っている。 加えて、他を出し抜きたいという嘉成の隠された欲望を満たされた。

 ――あぁ、本当にラーガストは酷い奴だな。

 自分でも意識していなかったエゴと呼べるような感情を掘り起こされた。
 アレが無かったらもう少し慎重に動いていただろう。 だが、そうはならなかったので、もしかするとラーガストはその辺を見透かしていたのかもしれない。

 小さく溜息を吐く。 自分の内面の事はどうでもいい。
 感情を排した純粋な問題点だ。 まず、機体の問題。 
 ホロスコープはジェネレーターと推進装置をエネルギー式に変えているのである程度の継戦能力は担保されていると思っていたのだが、全力での戦闘行為を何度も行う連戦であちこちにガタが来ていた。

 つまり、機体の消耗が思った以上に大きかったのだ。 
 あそこまでになると腕でカバーするのは無理なので、機体の強化は必須だろう。
 次に武器の問題だ。 基本的にアノマリーだけに頼った戦い方は喪失した際に大きな火力低下を齎す。 あそこまで酷使して動いてくれたのは上出来ではあるが、最後まで保たなかった事が問題だった。

 武装面での強化も必須だ。 
 マルメル達にも装備を揃える必要があるので、その辺の擦り合わせも行いたかった。
 
 「……取り敢えず、ログインするか」

 そう呟き、脳内チップを操作。 ICpwを呼び出し、ログイン。
 

 嘉成からヨシナリへ。 
 ユニオンホームにはまだ誰もおらず、フレンドリストを見ると誰もログインしていなかった。
 近くのソファーに腰掛け、ショップ画面を呼び出す。 幸いにも金はあるので、アノマリーよりもランクの高い武器を手に入れたいと思っていた。

 細かく条件を絞って候補を表示。 実弾、エネルギーの撃ち分けが出来て長射程。 
 
 「手頃なのはこれか?」

 多目的複合突撃銃『アシンメトリー』アノマリーより一回り大きくなるが、エネルギー、実弾の撃ち分けも可能で、内蔵ジェネレーターも大型化によりエネルギー弾の発射可能回数、チャージ時間、どの面でもアノマリーよりも上だった。 何よりも目を引いたのはアトルムとクルックス同様にオプションパーツを購入する事で自由にカスタムする事が可能な点だ。

 ロングマガジン、ドラムマガジン、ボックスマガジンといった様々なマガジンに対応しており、装弾数を大きく伸ばせるのも魅力だった。 その他、マガジンを挿入するスロットに小型のジェネレーターを差し込む事でエネルギー弾に特化した構成に可能といった状況に応じて偏らせる事も可能。

 マガジンの自動排出、レーザー誘導によるオートリロード。
 最も素晴らしいのが、銃身が特殊な素材で作られており、収縮、膨張させる事が可能となる。
 それが何を意味するのかというと、口径をある程度弄れるのだ。 それに加えてマガジンを挿入するスロットも複雑な形状をしており、大抵の規格の物は使用可能という凄まじさ。

 要は実弾が切れたらその辺に落ちているマガジンを拾って使う事も可能なのだ。
 
 「や、やべぇ、超欲しい……」

 当然、ホロスコープのアタッチメントにも対応しているので接続する事で機体側からトリガーを操作できる。 つまり戦闘機形態でも撃てるのだ。
 カタログスペック上はアノマリーと使用感も変わらない。 

 気が付けばヨシナリは次々とカートに商品を放り込んでいた。
 アシンメトリーとそのカスタムパーツ各種、大出力ジェネレーター、コンデンサー、推力偏向ノズル。 アトルムとクルックス用のカスタムパーツ、予備のジェネレーター――そしてキマイラ+フレームとエネルギーウイング。 金額がとんでもない事になったが、ヨシナリは何の躊躇もなく購入ボタンを押す。

 「か、金を一気に使うの気持ちいい~」
 
 そんな仄暗い快感を味わいながら機体をリビルド。 ホロスコープを一気に生まれ変わらせる。
 キマイラ+フレームは無印との最大の違いは若干の大型化と引き換えにジェネレーターの搭載スロットが増えているので二基も積める事だ。 お陰でスタミナが大きく向上する。 
 
 機体を買ったパーツで組みなおし、完成させる。
 カラーリングなどは特に変えなかったので見た目はそこまで変わっていないが、装甲もグレードを上げたので見た目は同じでも強度に優れ、ついでに軽い。 冷却装置など、機体にかかる負荷を軽減させる装置をあれこれと搭載した。 次に弄るのは武器だ。

 アシンメトリーとアトルム、クルックスのカスタムを開始。 
 楽しい。 楽しすぎる。 まさに至福の時間だった。 
 そして終わった後はトレーニングルームで死ぬほど乗り回すんだ。 

 組み上げるのも楽しく、その先に更なる楽しみが待っている。
 ヨシナリは心の底からの笑顔で機体と武器を弄繰り回した
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

Infinite possibility online~ノット暗殺職だけど、気にせず依頼で暗殺中!

Ryo
SF
暗殺一家の長女の黒椏冥(くろあめい)は、ある日、黒椏家の大黒柱の父に、自分で仕事を探し出してこそ一流だと一人暮らしを強要される。 どうやって暗殺の依頼を受けたらいいのかと悩んでいたが、そんな中とあるゲームを見つける。 そのゲームは何もかもが自由自在に遊ぶことが出来るゲームだった。 例えば暗殺業なんかもできるほどに・・・ これはとあるゲームを見つけた黒椏家最強の暗殺者がそのゲーム内で、現実で鍛え上げた暗殺技術を振るいまくる物語である。 ※更新は不定期です。あらかじめご容赦ください

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

処理中です...