Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第335話

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 空間の変動はセンサー系のリンクによって共有されているので、全員が攻撃範囲が見えていた。
 加えてヨシナリの警告も早く、全員が素早く攻撃範囲から逃れる事が出来たのだが――
 
 ――これやると次は直線攻撃が飛んでくるんだよなぁ……。

 次の攻撃に対する警告を行おうとしたが、それよりも早く壁があちこちで大きく陥没する。 
 ヨシナリはそれを見てさっと背筋が冷えた。 何故なら今の攻撃であちこちの壁が限界を迎えたようだ。 ここは地底で施設の周囲は水で覆われている。 つまり壁が壊れる事は外の水が中に入り込んで来る事と同義だ。 そして水中用の装備を全て放棄したヨシナリ達に水中戦は難しい。

 機動力が大きく落ちるので敵のサイコキネシスを躱せなくなる。
 そうなるとやる事は一つだ。 どちらにせよこんな限定された空間ではいつまでも逃げ切れない上、人数が減らされて火力が落ちるのは目に見えている。 可能であればここで決着を着けたいが仕方がない。
 
 「ここが保たない! 一度、外に出ましょう!」
 
 ヨシナリの言葉に真っ先に反応したのはユウヤだ。 
 凄まじい勢いで上がって来る水を見て即座に彼の機体は早々に来たゲートへ飛び込む。
 
 「賛成だ! ってか、下の方から水漏れしてんぞ!」

 マルメルがそれに続き、ふわわ、グロウモスが飛び込む。
 ヨシナリとポンポンはその間に味方の援護の為に銃撃。 肉塊が砲を撃とうとしていたので味方を射線に収めようとしている顔に喰らわせて発射を妨害する。

 ツェツィーリエがゲートに入った事を確認した後、互いに頷いてゲートへ。 僅かに遅れてあちこちが崩れる音がして水が流れ込む轟音。 発射された指向性を持った衝撃が四方八方に撒き散らされ、壁が限界を迎えたようだ。 背後から水が上がってくる気配。 

 「急げ! 水が来てるゾ!」
 「分かってますって!」

 ヨシナリは機体を変形させて加速。 
 全速で飛んでエレベーターシャフトへと突き当たった所で急上昇。
 上がっている途中に先行した面子に追いついた。 ユウヤの姿はなかったがふわわが全力でブースターを噴かして上昇し、ツェツィーリエがマルメルとグロウモスの機体を掴んで強引に引っ張っている。

 徐々に浸水から遠ざかり、地上が近づいてきたのか戦闘の音と思われる物が断続的に聞こえてきた。

 「そう言えば聞きそびれたんだが、上の様子ってどうなってるんだ?」
 「最悪だぞ。 お前らが突破した後、例のエネミーが無限湧き始めてな、控えめに言って地獄だった」
 「よく下まで来れたな」
 「――いきなりベリアルが現れて、敵の防衛線に穴を開けたんだ」
 
 マルメルの話ではベリアルが敵の猛攻を被弾しながらも突破して穴を開けたとの事。
 お陰で敵の防衛線が崩れてマルメル達も突破が比較的容易になったようだ。
 ヨシナリは小さく目を閉じる。 無理をしてでも助けに来てくれたベリアルには感謝しかなかった。
 
 恐らく彼はずっと近くに居たのだろう。 何かあれば助けに入る為に。
 思えばヨシナリ達が乗って来たシャトルが無傷だった事も彼の仕業かもしれない。
 少しだけ共闘した仲だったにもかかわらず、ここまでしてくれるのは素直に嬉しかった。

 エレベーターシャフトを登りきるとそこでは残りのメンバーが数を減らしながらも敵のエネミーをかなりの数撃破していたが、戦況は優勢――というよりはもう決着が着きそうだった。 

 何故なら敵のリポップが止まっていたからだ。
 ヴルトム達が最後の一機を集中砲火でハチの巣にして戦闘が終了した。

 「あ、戻って来た。 下はどうなってるんだ?」
 「一先ず外に出ましょう。 多分、ボスが地上に出てきます」
 「あ、あぁ、なんかヤバそうな感じだな」

 ヴルトムはちらりとエレベーターシャフトを見たが提案自体には賛成なのか移動には素直に同意した。 『豹変』のメンバーはツェツィーリエが指示を出したので更に話が早く、生き残ったメンバーはそのまま施設の外へと向かう。

 移動中にヨシナリはヴルトムにこれまでにあった事を簡潔に語った。
 反応炉がクリーチャー化し、水を変化させて襲い掛かって来た事、後は敵の攻撃パターン等。
 通常のセンサーに引っかからないので攻撃の兆候を見逃さない事などだ。

 ヨシナリがセンサーリンクでフォローできるのならいいが、リソースが無限ではないので全員はカバーできないのだ。 恩恵を受ける為にはヨシナリと一定の距離を維持しなければならない。
 その為、得意レンジが被らないプレイヤーは恩恵を受けられず、変にくっつこうとすれば隙を晒す結果になる。 少人数であるなら問題ないが、この乱戦となると難しい。
 
 「なるほど。 それにしても運営も手を変え品を変え、色々と出してきやがるな」
 「まったくですよ。 偶には楽に勝たせて欲しいものです」
 
 外に出ると分かり易く変化していた。 
 反応炉が地上に露出しているイカの胴体部分に移動しており、そこを中心に変異が始まっている。
 
 「うわ、マジかよ。 ってかキモいな。 何だよあれ……」
 
 水の塊がグロテスクな肉塊に変わっているのだ。 
 そんな感想が出てくるのも無理はない。 ヨシナリとしては見た目の醜悪さに気を取られたが、運営の意図に関しては概ね察していた。 水の状態では碌に攻撃が通らなかった事を考えるとあの状態のイカは仕留める事が出来ないが、あの肉塊には攻撃が通った事を考えると反応炉を移動させる事で敵も次のフェーズに進んだという事だろう。 

 恐らく敵の攻撃パターンも変わる。 
 水の状態では接近した機体を無差別に襲うだけだったが、変異する事によって積極的に殺しに行くスタイルに変わったはずだ。 つまり、現在進行形で増殖している顔という砲台をから放たれるサイコキネシスを捌きながら本体を処理するのがこの状況の攻略法。

 ――まぁ、見れば分かるか。

 その証拠にあちこちから無数のトルーパーが攻撃を仕掛け始めていた。
 僅かに遅れて無数の爆発が空を照らす。 

 「ちょっとでいいから休ませてくれよ……」

 ヨシナリは小さくそう呟く。 他も同意見だったようで、既に移動を開始した者達も多い。
 仕留めなければ終わらない上、変異はまだ途中だ。 例の水の触手はこの惑星全域に存在するのだ。
 それが全てあの気味の悪い顔で埋め尽くされる事を考えると急いだ方がいい。

 触手であるうちはまだ比較的、無害なのだ。
 つまり時間経過で敵は手数が増える。 それを何とかする意味でも早めに処理する事は正しい判断だ。 
 
 ――要はさっさと仕掛けないと手に負えなくなるって事なんだよなぁ……。
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