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第322話

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 エレベーターシャフトを抜けた先は地上だった。
 開けているというよりはもはや更地と化している。 
 理由は考えるまでもなく、大量破壊兵器による大規模攻撃のお陰で基地が更地になったのだ。 
 
 「一先ず基地からは離れるぞ!」

 そう言って全機が全力で離脱。 
 少し離れた所でヨシナリ達が出てきたエレベーターシャフトから水が噴き出す。 
 地震で揺れる地上を進みながら全速でポンポン達の居る場所を目指す。

 「うわ、噴水みたいになってるなぁ」
 
 ヨシナリはあちこちから噴き出す水を見て眉を顰める。
 
 「ヨシナリ君、どうかしたん?」
 「いや、あの水、なんか怪しくて……」

 シックスセンスで視れば分かるのだが、水からエネルギー反応がある。
 感じから例のイカと似たような感じがするので、水から離れ、周りにも離れるように促したのだ。
 それに何が出てくるのか読めない所もあったのでセンサーの感度は最大にしてある。

 変化があればすぐに感じ取れるように――いや、違うとヨシナリは気付いた。
 変化ならもうすでに起こっているのだ。 水、大量の水があちこちから噴き出している。
 侵入可能なエレベーターシャフトを備えた全部乗せの拠点はかなりの数あった。

 それは脱出の際に見た扉の多さからも明らかだ。 
 ――にもかかわらず結構な水量が噴き出している。
 そこに不思議はない。 この惑星の中央は水で満たされているのだ。
 
 一部が地上に噴き出したと考えればそこまでの不自然さはない。
 問題は何故、噴き出している水からエネルギー反応がするのかだ。 そしてその反応と似た物をヨシナリは既に見た事があった。 あのイカ型エネミーだ。

 ――あのイカ型はボスのダウンスケール版だとしたら――

 「おいおい、マジかよ。 勘弁してくれ」

 思わず声が震えてしまう。 
 想像が正しければこれから自分達が何の相手をさせられるかを理解してしまったからだ。
 
 「ヨシナリ? どうかしたのか?」
 「ボスの正体が分かったかもしれん」
 「マジか? どんなのが――」

 マルメルが何か言いかけと同時に地面が激しく縦に揺れる。
 もう地震なんて言葉で括れるものではない振動で、まるで振り回された虫かごの中に居るような凄まじい縦揺れ。 その場に居た全員が咄嗟にブースターやスラスターを噴かして姿勢制御。

 「うひゃー、すっごい揺れだったねー」
 「いや、そんな事よりもアレ、なんっすかね……」

 ふわわはいつも通り、マルメルは振り返ってそれを見つけてしまったようで呆然としている。
 この惑星の大地を割ってそれが現れた。 この太陽光が届かない暗闇の惑星であってもその存在は非常に強く存在を見せつける。 何故ならそれ自体が光っているからだ。

 巨大なんてものではなかった。 恐らくこの惑星の中央部分が丸ごと地上に出てきたのだ。
 大きいなんて言葉では括れない圧倒的な存在感。 あちこちから地面を突き破って現れる水を固定化したであろう触手らしき物。 そして本体・・は成層圏まで届いてるのではないかと思うほどの巨体。 恐らくイカなのだろうが大きすぎて全容が全く分からない。

 全体が光っている事もあってぼんやりとした形状だけは分かる。
 そもそも全方位に見えるのであの触手はこの惑星の全域から噴き出しているのだろう。
 ここに来てヨシナリはようやくあの地下水路の意味を理解した。 あの水路はこの惑星を骨組みのように覆っており、あのボスの出現を助けるための存在だったのだ。

 形を成しているとはいえ、水である事には変わりはない。
 水は水路を通ってこの惑星全てに行き渡り、姿を現す時は一息に全てを覆いつくす。
 マルメルとグロウモスは呆然と硬直し、ふわわは驚いているのかいないのか「ほえー」と声を漏らす。 ユウヤは無言。 アルフレッドは周囲を警戒するようにキョロキョロと見回している。
 
 『ヨシナリ! どうなってる!?』

 通信。 ポンポンだ。
 想定外過ぎる状況に動揺が強いのかやや捲し立てるような口調だ。
 
 「恐らくボスが現れたと思われます。 まさかとは思いますが――」
 『地下から水が噴き出したと思ったら施設が基礎部分から引っこ抜かれた。 慌てて脱出したんだが、まさか地下の水の正体って……』
 「お察しの通りですよ。 反応炉がこの惑星の水を操って巨大なエネミーになりました」

 ヨシナリはちらりと本体らしき物へと視線を向ける。
 もうデカすぎて何が何だか分からないというのが本音だが、エネルギーの流動は見えるのでどうにもならなくはないはずだ。 眺めていると不意に光る何かが放物線を描いて本体へと飛んでいく。
 
 僅かに遅れて命中。 まるで太陽が現れたかのような巨大な光と爆発。
 かなりの距離があるはずなのにヨシナリ達の居る場所にまで衝撃が届いた。
 恐らくは基地を消し飛ばすのに使った大量破壊兵器の類だろう。 凄まじい威力だが、サイズ差がありすぎてほとんど効いていない。

 『どっちにしろ拠点としてはもう使えない。 お前達、今どこだ? 一度、合流するゾ!』
 「了解です。 手頃な場所に心当たりがあるのでそこで落ち合いましょう」

 ヨシナリは地図のある場所をマーキングするとポンポンに送信。
 
 「ここで突っ立っていてもしょうがないので移動しましょう」
 「なぁ、ヨシナリ。 さっき言ってた手頃な場所ってのは?」
 「あぁ、ここだ。 覚えてないか?」

 マルメルに地図を見せるがピンとこないのか首を傾げている。 

 「……私達が降下したポイント」

 正解を口にしたのがグロウモスだ。 

 「何でここ?」 
 「ほら、あそこにはアレが残ってるだろ?」
 
 マルメルは首を傾げたがややあってあぁと納得したように頷いた。



 「正直、助かったナ。 まだシャトルが残ってるとは思わなかったゾ」

 合流したポンポン達は順番に機体をシャトルでメンテナンスながら感心したように頷く。
 現在地はヨシナリ達『星座盤』が降下したポイント。 派手な地殻変動が起こったので心配ではあったが隠しておいたシャトルは無事だったようだ。 元々、持って行くつもりだったのが、敵の拠点が近かったので離れた所に隠しておいたのが結果的に良い方に作用した。

 ――いや、もしかしたら誰かが守ってくれたのかもしれない。

 使用した形跡と周囲にエネミーの残骸が無数に転がっていたので誰かが来た事だけは確かだった。
 シャトルは大規模破壊兵器などが撃ち込まれた際の余波に巻き込まれてあちこち壊れていたが、機体の整備は出来たので一応、回復は出来そうだ。 弾薬などはポンポン達がどうにか持ち出した物で補給を済ませた。
 そして少し離れた場所に連れ出されたヨシナリはこれからの方針を話し合う場に引っ張り出されたという訳だ。 

 参加者は『豹変』からはツェツィーリエ、ポンポンと他数名。 
 『栄光』からはカナタ、センドウ、ツガル。
 『星座盤』からはヨシナリとユウヤだ。 他は順番に機体のメンテナンスを行っている。
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