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第309話

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 ヨシナリは今回のイベントを戦い抜く為に追加の戦力を求めた。
 仲間が多ければ多いほど生存率、対応力が上がり、戦いの幅が広がるからだ。
 だからと言っていい人材が簡単に見つかるかと言われればそうでもない。

 そんな状況ではあるが、高ランクプレイヤーでフリーのプレイヤーを二人知っているヨシナリはダメ元で声をかけたのだ。 最初に声をかけたベリアルは自分を追い込む事で見つめ直すらしく、今回は単独で戦い抜くと断られた。 前回のユニオン対抗戦に対して彼なりに思う所があったようだ。

 そう言う事ならと諦め、もう一人――ユウヤに声をかけた。
 正直、望み薄だと思っていたので、そこまでの期待はしていなかったのだが意外な事に条件次第では引き受けてもいいとの事。 この時点で嫌な予感がしていたので、あまり聞きたくなかったが話は進めなければならない。 直接会ってその条件とやらを尋ねたのだが――
 
 『星座盤』への限定加入。 要は所属だけさせろという事だ。
 探りを入れるまでもなく意図は明白で、カナタからの干渉を防ぐ為だろう。
 ヨシナリとしては名前だけの加入でもよかった。 所属している以上、イベントなどに誘いやすくなるので気が向いた時だけになるだろうが、Aランクプレイヤーの戦力が手に入るのは大きい。

 特にユウヤのプルガトリオとアルフレッドは一枠で二機分の戦力なのだ。 
 戦力不足で泣きを見る事の多い『星座盤』には特に必要な人材だった。
 ――だから、諸手を上げて歓迎したい所ではあったが、良い事ばかりではない。

 彼の事を喉から手が出るほどに欲しがっているカナタについてだ。
 ユウヤを引き入れるという事は彼女の心証を大きく下げる事を意味する。
 特にツガルやフカヤと仲良くしているヨシナリとしては、彼等の肩身を狭くするような行為はあまりしたくなかったのだ。 かといって断ればユウヤを手に入れるチャンスが永遠に失われる。

 ユウヤは性格上、一度突き放すと二度と戻ってこない可能性が高い。
 その為、引き入れるなら今を置いて他にないのだ。   
 ヨシナリは非常に悩んだ。 ユウヤとはイベントで世話になった事もあって可能な限り助けになってやりたい。 だが、ツガルにも世話になっているので彼の面子を潰すような真似もしたくない。
 
 正直、カナタだけに限ってはどうでもいいと思っていた。 
 理由としては彼女はヨシナリに対していい感情を抱いていないからだ。
 何故なのかも理解しているのでこれはどうにもならないと諦めている。
 
 ちらりとヨシナリはツガルを一瞥する。 彼は小さく顔を手で覆い、首を振った。
 気にするなという事だろう。 どちらにも不義理をしたくないヨシナリは思い切ってツガルに相談したのだ。 ユウヤが『星座盤』に入りたがっていると。
 
 それだけで全てを察したツガルは『お前の好きにしろと』口にした。
 ツガルとしても今の状態がいいとは思っていないので、少々の荒療治だが二人にはある程度の距離が必要ではないか? そんな考えがあっての事だった。
 
 ツガルはカナタの事が気に入っており、リーダーとして尊敬もしている。
 しかし、盲目的に従うイエスマンではない。 カナタとはいえ、間違っている事は間違っている。
 少なくとも嫌がるユウヤを支配下に置く事が正しいとは思えなかったのだ。

 それにカナタはいい加減にユウヤに依存する事から脱却するべきだ。 
 ツガルはそう言って肩を竦めた。 一応、フカヤにも同じ話をしたのだが、彼の意見も同様にユウヤを近くに置く事はカナタの、そして何よりユウヤの為にならない。
 
 だから、彼を仲間にできるならした方がいいと言い切ったのだ。
 後はあまり強い人が入ると自分の影が薄くなるからねと言ったのは彼なりに気負うなというメッセージだったのだろう。 二人に感謝しつつ、ヨシナリは覚悟を決めてユウヤの提案に頷いたのだった。

 ――で、今に至るのだが――

 覚悟はしてきたのだが、微妙に足りてなかったなと思ってしまう。
 理由はカナタがこちらに刺すような視線を向けてくるからだ。 機体越しだから分からないと思う者が多いだろうが、無機質なカメラアイにも関わらず凄まじい圧を感じるのだ。
 
 これがふわわの言う『殺気』とかそれに類するものなのだろうか?と現実逃避気味に考えるが、もう賽は投げられたのだ。 やり抜くしかない。

 「せ、説明が遅くなって申し訳ない。 実はユウヤさん――」
 「おいおい、俺達の仲だろ? 『さん付け』なんて水くせぇ事するなよ」

 ――煽ってんじゃねぇぞこの野郎!

 ヨシナリという盾が居るのでユウヤはいつになく強気だ。 
 発言の意図も明白なのでこの野郎と思いつつも意識してにこやかに続ける。
 
 「ユウヤからは以前から相談を受けていましてどうも最初から大きい所ではなく、ウチのような。 あー、アットホームなユニオンの方がいいらしく、えっと、まぁ、頑張っていこうという話になりました」
 「そうだな。 ここは最高のユニオンだ。 どっかと違ってなぁ?」
 
 カナタの機体がプルプルと震える。 

 「アンタ――」
 「はい、そこまで。 メガロドン型を片付けたのはいいけど、こっちも補給拠点を失ったのよ? 早い所、敵の生産工場を落としてメンテナンス施設を確保するのが先決」

 何か言いかけたカナタを遮ったのはツェツィーリエだ。 
 彼女はカナタを強引に引っ張って移動を促す。 

 「アンタが『栄光』のヒラメンバーなら何も言わない。 カナタ、今のアンタの立場は?」
 「……『栄光』のリーダー」
 「分かってるならいいわ。 ならすべき事は分かるわね?」

 カナタは何か言いかけていたが、ぐっと堪えて踵を返した。
 ツェツィーリエも一緒に行こうとしていたが、不意に足を止めて肩越しに振り返る。

 「ユウヤ、アンタとカナタの仲は何となく察してるけど、ここでそれを持ち込むのは止めてくれないかしら? アンタはイベントをクリアしにきたの? それともカナタを煽りに来たの? どっちもっぽいけど、邪魔しに来たのなら迷惑。 アンタもランカーならその辺は弁えなさいな」

 そう言ってツェツィーリエはカナタを追って移動。 
 ユウヤは小さく鼻を鳴らすだけで何も言わない。 それを見てヨシナリはほっと胸を撫で下ろした。

 ――はぁ、無事に……これは無事なのか? いや、誰も死ななかったし無事でいいよな? 

 ともあれ乗り切れた。 あぁ、マジで寿命が縮む。 
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