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第306話

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 唐突だがシックスセンスは非常に優秀なセンサーシステムだ。
 さっきのように根本的な部分で妨害されなければ大抵の物は探知できる非常に便利な眼といえる。
 その為、違和感や変化があれば誰よりも早く察知し、誰よりも早く備える事が可能だ。

 ――だから、その変化に気付いたのもヨシナリが最初だった。

 ポンポンもシックスセンスを使っているので彼女も同じタイミングで気付けるはずなのだが、ついさっきツェツィーリエを追って施設内へと突入していったのでそれは不可能だった。
 
 「……おいおいマジかよ」

 ヨシナリは思わず呟く。 シックスセンスがあるものを捉えたからだ。
 大暗斑。 この惑星に存在する巨大な嵐だ。 
 ただの嵐であったなら天候が悪化する程度の認識だが、幸か不幸かヨシナリはあの中に何が居るのかを知っている。 本音を言えば逃げ出したいが、そうも行かない。

 ――クソ、何でだ?
 
 可能性としてはこの施設自体が応援要請を送って呼び出したというのが自然だが、前回でそういった事例があった事は確認されていない。 
 違うとは言い切れないがそうとも限らなかった。 

 なら、何だと他の可能性を考え、大暗斑とこの施設の位置関係を確認して、愕然とする。
 別の可能性に思い至ったからだ。 それはなにか?
 大暗斑が向かってくる方角だ。 どう見てもヨシナリ達が来た方角――つまり拠点がある方向だった。

 つまり見つかったのはヨシナリ達ではなく――

 『だ、誰か応答してくれ! 拠点が例のメガロドン型に襲撃されて壊滅、我々も撤退を余儀なくされて――』

 そんな答え合わせのような通信が耳に飛び込んで来た。
 
 「あぁ、マジかよ。 よりにもよってこのタイミングでか……」

 Aランクは全員地下で、戻ってくるまで少しかかる。
 気づいてくれる事を期待したいが、シックスセンスで地下の様子を観測できない以上、向こうから地上の様子を知る事は難しいだろう。 つまり、ここにいる面子でどうにかしなければならないのだ。

 ヨシナリは咄嗟に話を聞いてくれそうな相手を探す。 
 知り合いで地上に留まっているのは『栄光』はツガル、『豹変』にはいない。
 後はヴルトムぐらいか。 まずは――

 「ツガルさん!」
 「――どうした? 何かあったか?」
 「例のメガロドン型がこっちに来ます」

 それを聞いて一瞬で事情を察したツガルの口調が一気に冷める。 
 
 「……マジか?」
 「マジです。 しかも俺達が来た方向からなんで拠点は壊滅したとみて間違いないでしょう」
 「なんでこっちに来た?」
 「拠点が落ちた以上、生き残ったプレイヤーは何処へ向かうと思います」
 「あー、畜生、そういう事かよ。 ――話は分かった。 つっても下手にここから戦力を動かすとボス達が後ろから襲われちまう。 ヨシナリ、何かプランはあるか?」
 「正直、Aランクを中心に戦い方を組み立ててたんで、撃破はあまり現実的ではありません」
 
 実際、カナタ達も他と組んでの撃破を狙っていたはずだ。 
 あのメガロドンを仕留めたいのなら最低でもAランクが二人は必要となる。
 具体的には防御を剥がす役と本体に攻撃する役。 正直、並のトルーパーの火力ではあの化け物エネミーのフィールドを突破できない。

 「『撃破』は現実的じゃないんだな?」
 
 ヨシナリの言葉から何かを察したツガルがそう返す。
 
 「はい、ただ足止めぐらいなら俺達でも可能でしょう」
 「了解だ。 俺は来てくれそうな奴に声をかける。 迎撃地点は――」
 「ここから十キロほど離れた所に何もない平原があります。 迎え撃つには手頃でしょう」
 「分かった。 ならそこでやるぞ!」
 「場所は地図にマーキングしておきますのでそこ集合で!」
  
 ヨシナリは機体を変形させながら他への連絡を済ませる。
 『星座盤』のメンバー全員とヴルトムに声をかけた。 全員、快く了承してくれたが、最悪全滅も視野に入れなければならない厳しさだ。 それも伝えたのだが、全員来てくれた事には感謝しかない。

 そして――


 「いやぁ、こうして見ると迫力凄げぇなぁ」

 マルメルはやや乾いた笑い声を出す。

 「前はまともに近寄れんかったから今回はリベンジ、決めさせてもらうわ」

 気負いもなく純粋に楽しそうなふわわ。
 無言で身を固くするグロウモス。

 「へ、お前といるといつも凄い場面に放り込まれるな!」
 
 仲間を十数名連れてきたヴルトム。

 「ボス達が戻ってくるまで粘りゃあ何とかなる。 気合入れるぞ!」

 自らを鼓舞するように気合を入れるツガル。
 戦力は『星座盤』四機。 『大渦』十五機。
 『栄光』十機の合計二十九機。 この戦力であの巨大な嵐に立ち向かう事になる。

 救援を求める通信を送って来た友軍の反応はない。 恐らくは全滅したのだろう。
 ヨシナリは深呼吸を一つ。 本音を言えば逃げ出したい気持ちでいっぱいだが、別の気持ちもあった。 ピンチは楽しむ物だという思考。 そう、真のICpwプレイヤーはピンチですら楽しむのだ。

 「――行くぞ」

 大暗斑が徐々に近づき――ヨシナリ達の機体は嵐に呑み込まれていった。
 

 「足の遅い機体は常に敵機の後方、可能であれば斜め後ろ! そこからひたすら銃撃。 攻撃範囲には絶対に入らないように! キマイラ、エンジェルタイプは飛び回って敵を攪乱。 狙いを分散させる意味合いもあるので可能な限り攻撃範囲に居座るように! 無理に攻撃せずに足止めを意識! 俺達の目的は足止めであって撃破ではありません!」

 メガロドンの姿を視認したと同時にヨシナリは全員に矢継ぎ早に指示を出して行動開始。
 こいつの情報に関しては一通り出揃っている。 
 全長七、八百メートルの要塞のような巨体にこれでもかと搭載されたレーザー、ガトリング砲、ミサイル発射管。 火力という点だけを見れば圧倒的だ。
 
 加えて重装甲に高出力のエネルギーフィールド。 
 分厚い装甲は並の攻撃を受け付けないどころか、EMP等の電子的な攻撃すら弾き返す。
 攻守ともに一切の隙が無い機動要塞――ではあるのだが、無敵という訳ではなかった。

 まずは攻撃範囲。 確かに火力は圧倒的だが、基本的に前方にしか攻撃できない。
 構造上、砲口や銃口が前面を向いているので頭の向いている方向にしか撃って来ないのだ。
 一応、機銃などはある程度の旋回は可能ではある上、ミサイルも装備しているので完全な死角という訳ではないが、正面以外の攻撃密度は非常に薄い。
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