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第296話

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 ――機体のリミッター解放によるスペックの限界突破。

 防衛イベントを見る限り、この運営は段階的に難易度を上げていく傾向にあるので、十二分に有り得る話だった。 ラーガストも察している者は一定数いると判断して流した情報であると思われるが、ただでさえ強力なあの機体が更に強化されるのかと考えると頭が痛い。

 ラーガストが語った事はそう多くはないが、ヨシナリの方針を後押しする物だった。
 後は全体がどう動くかだ。 スタンドプレーに走って全体の足を引っ張るのは本意ではないのでそこだけは知っておきたかった。
 
 「今回のイベントはクリアの進捗で様々なギミックが発動する。 その為、そのギミックをいかに上手に躱し、クリアへと至るのかが重要と我々は考えています」
 
 タカミムスビの言っている事はもっともな話だった。 
 初回は情報不足もあったが闇雲に攻めた結果があれだ。 碌に考えずに攻めた所で全く同じ結果となるだろう。 重要なのは順番だ。 どこから落とすのか? それにより難易度が大きく変動する。

 「前回、我々が独自に集めた情報、プレイヤーの皆さんから提供して貰った情報を擦り合わせ、精査した結果。 最初に狙うのはここ――通信設備にするべきです」

 誰も口を挟まない。 前回の説明をまともに聞いていたなら口を挟む訳がない選択肢だ。
 通信施設は前回の時点で、他の基地が陥落した際にメガロドン型を派遣する役割を担っている可能性が高いと見られていた。 先々の事を考えると真っ先に潰す必要がある。 処理後に補給施設を攻めるといった流れだろう。

 「通信施設を潰した場合、どれだけの時間を稼げるかは不明ですが、その検証を兼ねて真っ先に狙いたいと思います」
 「仮に効果なしで来た場合はどうするの?」

 手を上げて発言したのはカナタだ。 

 「当然、効果がなかった事も考えてあります。 現状、はっきりしてるメガロドン型のスペックは非常に高く、我々Aランクプレイヤーでも単独では厳しいと言わざるを得ません。 ですが、単独で当たらなければ充分に撃破が可能と判断します」

 要は失敗した場合、Aランクプレイヤー複数で対処させる訳だ。
 タカミムスビは立体映像を操作。

 「初期配置されたメガロドン型で活動しているのは大暗斑を発生させている一体のみで、他は基地に駐屯しています。 つまり、連中に基地が陥落した事を知られなければどうにでもなると判断しております」

 バレないのなら陥落させた基地の維持はそう難しくない。
 なるほどとヨシナリは頷く。 カナタも納得したのか頷いて口を閉じた。

 「――続けます。 通信施設を陥落させた後は生産拠点を落とします。 この施設はあの惑星を攻略するに当たって非常に重要な橋頭保となるので、可能な限り迅速に手に入れれられればと思っています」

 実際、最も陥落させておきたい拠点でもあるので、いかに被害を抑えつつ手に入れられるかで変わってくるだろう。 地下の工場を使用可能にすれば装備の生産も可能となっているので、そこでセントリーガンなどの自動兵器を大量生産し、火力を大幅に増やす事ができる。

 個人戦などでは出番はないが、こういったイベント戦で有用と判断され、上位のモデルを買い込むプレイヤーも多いと聞く。 持ち込みに制限のある代物でもあの惑星であったなら生産すればいいので、所持さえしていれば製作は可能となる。 

 タカミムスビがウインドウを操作すると映像が切り替わり、トルーパーサイズではありえない大きさの兵器群の映像が現れる。 大型レールキャノン、荷電粒子砲、燃料気化弾頭装備のサーモバリックミサイル。

 ――うわ、何だこれ。

 どれも桁が違う威力の兵器群だ。 
 少なくともこのゲームの規模ではお目にかかれない代物ばかりだった。

 「うへ、買えるけど使えねー装備じゃねーか」

 隣のポンポンが小さく呟いた。 

 「買えるんですか?」
 「ん? 知らなかったか? バカみてーに高いけど普通に売ってるゾ」

 使用に複雑かつ面倒な手順が必要な上、威力が高すぎて自分まで巻き添えになるような代物ばかりなので当初はネタ武器と思われていたのだが、どうやらこういった時の為に用意されたもののようだ。
 あの工場は操作プレイヤーが所持している武器や兵器なら何でも製作可能なので、このイベントに限ってはその手の強力な兵器を間接的に持ち込む事が可能となっている。

 それを知った思金神は金に物を言わせて大量に購入したようだ。
 
 「確かにメガロドン型は強力で、拠点から無尽蔵に湧いてくる強力なエネミーです。 ですが、そんなもの拠点ごと焼き払えば良いのです」

 確かにと頷く者、テンションが上がったのか拳を振り上げる者もいる。
 どんな強力な防備でも戦略クラスの兵器を用いて盤面ごと焼き払えば解決。 
 だが―― 

 「ま、確実で楽そうな話ではあるが、なーんか胡散臭せーナ」
 「話が美味すぎます。 絶対とまでは言いませんが、何処かで破綻すると思いますよ」
 「ってかこいつ等はアホなのか? これまで運営のやり口は散々見てきただろうが、雑にやったら相応の何かが跳ね返って来るゾ」
 「俺もそう思います」

 ヨシナリはこのゲームの運営はプレイヤーに死力を尽くす事を強く求めていると認識している。
 そんな連中がこんな安易な解決策を用意しているだろうか? どうにも腑に落ちない。
 確かに効果的な手ではある。 あの全部乗せの一目見ただけで逃げ出したくなるような基地は燃料気化弾頭のミサイルを喰らわせて一撃で蒸発させてやればさぞかし痛快だろう。

 ――ただ、成功しないと否定しきれない気持ちもあった。

 根拠はある。 他のサーバーだ。
 どうやってかは不明だが、初見でクリアしている地区もあるらしい。
 つまり、一応は攻略できるようになっているのだ。 その為、大丈夫か?と思っているが、成功するかもしれないといった希望もあって否定もしきれない。 
 
 どうやらポンポンも似たような意見のようで否定の口調はやや弱い。 
 ヨシナリはタカミムスビの話を聞きながら自分はどう動くのかを考えていた。


 数日後、イベント開始まであと二日という所だ。
 星座盤のユニオンホームにはメンバーが全員揃っていた。
 集まった事を確認してヨシナリは確認作業に入る。 

 「まずは全員、イベントには出られる感じでいいですか?」
 「俺は大丈夫だ! テストの点も問題ない。 今回はアクセス禁止はない――はず!」
 
 ――大丈夫かよ。

 「ウチも大丈夫。 行けるよー」
 「私も大丈夫です」
 
 取り敢えず全員参加で問題なさそうだ。 
 さてと小さく息を吐いてヨシナリは当日の動きについて話し始めた。
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