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第291話
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宇宙の広さを脳裏で感じていた嘉成だったが、次のニュースに意識を移す。
武装集団によるテロ活動。 日本地区ではまず縁のない話なので今一つ現実感のない話だが、遠く離れたアフリカ地区ではゲームでもなんでもなく文字通りの殺し合いが行われているのだ。
――理解ができない。
武装集団の主張はこの統一国家アメイジアは歪な支配体制で人々を縛る暴君のような世界だと言っている。 初めてこの思想に触れた時、嘉成には今一つ理解できなかったので軽く調べたのだ。
さて、このテロリスト。 何が言いたいのかというと割と最近に義務化された出生と同時に施されるナノマシン処置に大層不満があるらしい。
彼等曰く、ナノマシンによって形成された脳内チップは国が国民を監視する為に用意して鎖との事。
我々は人間であって繋がれた獣ではない。 人間としての尊厳を守る為に戦うのだ!
――というのが彼等の主張だ。
改めて聞いても理解に苦しむ内容だった。
要は脳内チップは便利ツールに見せかけた国民を監視する為の装置で、チップ使用者は全て管理されているのだという話だ。 嘉成としてはまぁ、なくはないだろうというのが素直な感想だった。
特に法に触れる行動を取った覚えもない上、取る予定もないので理不尽な事をされない限りは好きにすればいいんじゃないかとすら思っている。 何故なら監視されているか確認する術がない上、今更脳内チップなしの生活なんて考えられないからだ。
その為、嘉成がこのテロリスト集団に思う事は特になかった。
一応、映像などは公開されているのだが、検閲がかかっているので限定的な物だ。
戦車や戦闘機が派手に撃ち合い小型のミサイルがドカドカとテロリストのアジトに直撃していく映像を見てもどこか他人事のように捉えてしまう。
――実際、他人事ではあるのだが。
嘉成は記事を一通り見た後、時間を確認し、少し寝るかと目を閉じた。
ログイン。 嘉成からヨシナリへ。
イベントまであまり日がないのでやれる事はやっておきべきだ。
まずは個人ランク。 あれからふわわとマルメルはFからEにランクアップした。
ヨシナリ、グロウモスも勝利数を稼ぐ事が出来たのでそろそろDランクが見えてくる。
連携に関してはほぼ完成しているので定期的に訓練して精度を高める程度でいいだろう。
目を閉じてイベント戦の事を考える。 何をするべきなのかを。
全体で見るなら施設の制圧だ。
例の全部盛りの重要拠点は後回しになるはずなので自然と他の施設の制圧となる。
――で、下手に制圧するとメガロドン型が急行してくると。
一体だけなら待ち構えるという手段も使えるが、問題は複数で来る事だ。
ユニオンホームは誰もおらず相談する相手もいない。
ログイン状態を確認すると、マルメル、ふわわはオフライン。
グロウモスはログインしているがランク戦の真っ最中だ。
イベント戦に備えて簡単な方針だけでも決めておきたい。
前と同じように『栄光』や『豹変』のような大型ユニオンにくっついていくだけというのもあまり芸がないので、自分がどう動くかぐらいは自分で決めておきたかった。
少しの間、悩んだが答えが出ない。 こういう時は誰かに相談するのがいいのだが――
フレンドリストをざっと眺める。 こういった相談をする相手として真っ先に上がるのがツガルとポンポンだが、何だかんだと密な付き合いをしているお陰で言いそうな事がぼんやりと予想できてしまうのだ。 できれば少し新鮮な意見が聞きたいなと贅沢な事を考えてしまう。
――なら普段絡まない相手に話を振ってみるか?
フレンドリストをスクロールさせ――ピタリとある名前で止まる。
ラーガスト。 ステータスはオンラインだ。
「まぁ、ダメ元で振ってみるか」
――本当に来ちゃったよ……。
次のイベント戦での立ち回りに迷っています。
できればご意見を頂ければ幸いですとやや硬めのメールを送ったのだが、返事は秒だった。
内容は「そっちに行く」との事。 その直後に入れろと言わんばかりに入場許可の申請が来たので許可を出すとラーガストのアバターが現れた。
テーブルを挟んで向かい合っている状態だが、凄まじく緊張する。
ラーガストは何を考えているのか無言。 意を決するに数秒の時間を要したが、早速本題に入る事にした。
「メールは読んで頂いたと思うんですが、次回の復刻イベント。 どう動くかで迷ってます。 ラーガストさんの意見を聞ければと思いまして……」
「――お前はどうしたい?」
やや間があってラーガストはそう尋ねる。
「どうしたい、ですか?」
抽象的な質問だったので答えられず思わず聞き返してしまう。
「どう動くかに迷う前に考える事があるだろうが。 お前は何をしたい? 気に入らないクソみたいなエネミーに借りを返したいか? ランカー共を出し抜いて誰よりも活躍したいか? それとも――」
僅かに間を空けて――
「――純粋に勝ちたいか?」
ラーガストの言葉はヨシナリにとって鋭く突き刺さる。
ヨシナリはラーガストに対して苦手意識に近い物があったが、何故だろうかと理由ははっきりしなかった。 だが、いまこの瞬間に正確に理解する。
ラーガストはヨシナリの――本人すら自覚していない本質を理解しており、そこを抉る言葉を投げかけてくるからだ。 彼は自分の最も欲しい言葉を最もストレートにぶつけてくる。
聞きたいという気持ちもあるが、深すぎる部分まで見透かされる事による恐怖もあったのだ。
好奇心と恐怖が混ざった複雑な感情。 それがSランクプレイヤー、ラーガストに抱く感情だった。
「…………勝ちたいです。 純粋に、そしてそれが俺の力で成し遂げられたのなら最高ですね」
心の底で思っている事だった。 できるとは思っていないが、本音を言えば全てのランカーを出し抜いて敵の急所をぶち抜き、俺の一撃で勝った、この戦いを勝利に導いたのは俺だと高らかに叫びたい。 そんな欲望は確かにあったのだ。
それを聞いたラーガストは無言だったが、ややあってウインドウを可視化。
映し出されたのはイベントの舞台となる惑星だ。
「ミッションのクリア条件はあの惑星に存在する施設の制圧、もしくは破壊。 そして反応炉の破壊。 ここは理解しているな」
「はい」
「この内容には穴がある」
分かるか?と尋ねられたのでヨシナリは少し考えると答えらしきものがふっと浮かぶ。
「――反応炉があの惑星の機能を維持するのに使用されているのなら施設が使い物にならなくなる? そうか、なら無理に施設を制圧する必要はないのか……」
武装集団によるテロ活動。 日本地区ではまず縁のない話なので今一つ現実感のない話だが、遠く離れたアフリカ地区ではゲームでもなんでもなく文字通りの殺し合いが行われているのだ。
――理解ができない。
武装集団の主張はこの統一国家アメイジアは歪な支配体制で人々を縛る暴君のような世界だと言っている。 初めてこの思想に触れた時、嘉成には今一つ理解できなかったので軽く調べたのだ。
さて、このテロリスト。 何が言いたいのかというと割と最近に義務化された出生と同時に施されるナノマシン処置に大層不満があるらしい。
彼等曰く、ナノマシンによって形成された脳内チップは国が国民を監視する為に用意して鎖との事。
我々は人間であって繋がれた獣ではない。 人間としての尊厳を守る為に戦うのだ!
――というのが彼等の主張だ。
改めて聞いても理解に苦しむ内容だった。
要は脳内チップは便利ツールに見せかけた国民を監視する為の装置で、チップ使用者は全て管理されているのだという話だ。 嘉成としてはまぁ、なくはないだろうというのが素直な感想だった。
特に法に触れる行動を取った覚えもない上、取る予定もないので理不尽な事をされない限りは好きにすればいいんじゃないかとすら思っている。 何故なら監視されているか確認する術がない上、今更脳内チップなしの生活なんて考えられないからだ。
その為、嘉成がこのテロリスト集団に思う事は特になかった。
一応、映像などは公開されているのだが、検閲がかかっているので限定的な物だ。
戦車や戦闘機が派手に撃ち合い小型のミサイルがドカドカとテロリストのアジトに直撃していく映像を見てもどこか他人事のように捉えてしまう。
――実際、他人事ではあるのだが。
嘉成は記事を一通り見た後、時間を確認し、少し寝るかと目を閉じた。
ログイン。 嘉成からヨシナリへ。
イベントまであまり日がないのでやれる事はやっておきべきだ。
まずは個人ランク。 あれからふわわとマルメルはFからEにランクアップした。
ヨシナリ、グロウモスも勝利数を稼ぐ事が出来たのでそろそろDランクが見えてくる。
連携に関してはほぼ完成しているので定期的に訓練して精度を高める程度でいいだろう。
目を閉じてイベント戦の事を考える。 何をするべきなのかを。
全体で見るなら施設の制圧だ。
例の全部盛りの重要拠点は後回しになるはずなので自然と他の施設の制圧となる。
――で、下手に制圧するとメガロドン型が急行してくると。
一体だけなら待ち構えるという手段も使えるが、問題は複数で来る事だ。
ユニオンホームは誰もおらず相談する相手もいない。
ログイン状態を確認すると、マルメル、ふわわはオフライン。
グロウモスはログインしているがランク戦の真っ最中だ。
イベント戦に備えて簡単な方針だけでも決めておきたい。
前と同じように『栄光』や『豹変』のような大型ユニオンにくっついていくだけというのもあまり芸がないので、自分がどう動くかぐらいは自分で決めておきたかった。
少しの間、悩んだが答えが出ない。 こういう時は誰かに相談するのがいいのだが――
フレンドリストをざっと眺める。 こういった相談をする相手として真っ先に上がるのがツガルとポンポンだが、何だかんだと密な付き合いをしているお陰で言いそうな事がぼんやりと予想できてしまうのだ。 できれば少し新鮮な意見が聞きたいなと贅沢な事を考えてしまう。
――なら普段絡まない相手に話を振ってみるか?
フレンドリストをスクロールさせ――ピタリとある名前で止まる。
ラーガスト。 ステータスはオンラインだ。
「まぁ、ダメ元で振ってみるか」
――本当に来ちゃったよ……。
次のイベント戦での立ち回りに迷っています。
できればご意見を頂ければ幸いですとやや硬めのメールを送ったのだが、返事は秒だった。
内容は「そっちに行く」との事。 その直後に入れろと言わんばかりに入場許可の申請が来たので許可を出すとラーガストのアバターが現れた。
テーブルを挟んで向かい合っている状態だが、凄まじく緊張する。
ラーガストは何を考えているのか無言。 意を決するに数秒の時間を要したが、早速本題に入る事にした。
「メールは読んで頂いたと思うんですが、次回の復刻イベント。 どう動くかで迷ってます。 ラーガストさんの意見を聞ければと思いまして……」
「――お前はどうしたい?」
やや間があってラーガストはそう尋ねる。
「どうしたい、ですか?」
抽象的な質問だったので答えられず思わず聞き返してしまう。
「どう動くかに迷う前に考える事があるだろうが。 お前は何をしたい? 気に入らないクソみたいなエネミーに借りを返したいか? ランカー共を出し抜いて誰よりも活躍したいか? それとも――」
僅かに間を空けて――
「――純粋に勝ちたいか?」
ラーガストの言葉はヨシナリにとって鋭く突き刺さる。
ヨシナリはラーガストに対して苦手意識に近い物があったが、何故だろうかと理由ははっきりしなかった。 だが、いまこの瞬間に正確に理解する。
ラーガストはヨシナリの――本人すら自覚していない本質を理解しており、そこを抉る言葉を投げかけてくるからだ。 彼は自分の最も欲しい言葉を最もストレートにぶつけてくる。
聞きたいという気持ちもあるが、深すぎる部分まで見透かされる事による恐怖もあったのだ。
好奇心と恐怖が混ざった複雑な感情。 それがSランクプレイヤー、ラーガストに抱く感情だった。
「…………勝ちたいです。 純粋に、そしてそれが俺の力で成し遂げられたのなら最高ですね」
心の底で思っている事だった。 できるとは思っていないが、本音を言えば全てのランカーを出し抜いて敵の急所をぶち抜き、俺の一撃で勝った、この戦いを勝利に導いたのは俺だと高らかに叫びたい。 そんな欲望は確かにあったのだ。
それを聞いたラーガストは無言だったが、ややあってウインドウを可視化。
映し出されたのはイベントの舞台となる惑星だ。
「ミッションのクリア条件はあの惑星に存在する施設の制圧、もしくは破壊。 そして反応炉の破壊。 ここは理解しているな」
「はい」
「この内容には穴がある」
分かるか?と尋ねられたのでヨシナリは少し考えると答えらしきものがふっと浮かぶ。
「――反応炉があの惑星の機能を維持するのに使用されているのなら施設が使い物にならなくなる? そうか、なら無理に施設を制圧する必要はないのか……」
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