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第284話

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 こんな間抜けな結果になった理由は分かっている。
 動きの精度を上げる為に集中しすぎた。 意識のフォーカス。
 普段のヨシナリは基本的に視野は広く持つようにしている。 それによりどの角度からの攻撃にも対応できるようにする為だ。 ただ、今回に関してはそのやり方では負けないだけで勝つ事が難しいと判断したヨシナリは切り替えた。 広く浅くから狭く深くへ。

 それにより、彼はあんな曲芸じみた動きを実現したのだが、視野が狭くなった事で周囲の警戒が疎かになってしまった。 こうして見ればポンポンはこうなる事を読んでいたのだろう。
 あの時の反応、明らかに想定内といった感じだった。 ヨシナリがポンポンを分析していたようにポンポンもまたヨシナリを分析していたのだ。

 ――敗因は分析不足、か。

 次にフォーカスされたのはベリアルの戦いだ。 彼の戦いは序盤から中盤にかけては終始安定していた。
 ヨシナリとのセンサーシステムのリンクがあったお陰で相手の位置が正確に分かっているからだろう。 
 ツェツィーリエとの戦いは対等以上の安定した立ち回りだった。 こうしてみるとベリアルとその機体であるプセウドテイは癖こそ強いが、使いこなせれば非常にバランスの良い機体だ。

 パンドラという独自のジェネレーターシステムによるエネルギー変換を行い、機体にエーテルという半物質化したエネルギーの鎧を身に纏う。 全てをパンドラに依存する代わりに機体を極限まで軽量化する事によって高い機動性と高火力の両立。 代償に武器を装備する事に適さない機体となったが、エーテル体の変化と射出によって武器を必要としない。 

 対するツェツィーリエはエネルギー式のレイピアと手足に仕込んだブレードでの接近戦特化型。
 ふわわやカナタとはまたベクトル違う戦い方でエネルギーウイングを器用に使用する事によって全身を使って斬撃を繰り出すややトリッキーな動きが特徴的だった。 特に蹴りを繰り出す際に噴かして緩急をつけている動きは見切るのが難しい。 

 ――いや、前兆自体は読み取れるか。

 シックスセンスを使えばエネルギーウイングへのエネルギー流動は読めるので加速のタイミング自体は取れる。 だが、そこに繋げるまでの動きで態勢を崩されるであろう事を考えると簡単に躱せるのかは非常に怪しかった。 

 ベリアルもそれは同様だったようでツェツィーリエの回転が上がる前に距離を取って中距離で削りに行っている。 これはお互いに何度も戦った事のある相手であるが故の行動だろう。
 元々、無理に撃破を狙わずに抑える事を念頭に行動するように頼んでいたのだが、ベリアルはヨシナリの指示を完璧に守ったと言えるだろう。

 ――当の本人がやられるまでは。 

 僅かに距離を取った二人の間をポンポンの機体が通り抜け、それを追う形でヨシナリのホロスコープがツェツィーリエの前に斬ってくださいと言わんばかりに現れる。 
 そしてそのまま両断。 ヨシナリは努めて平静を装っていたが、見れば見るほどに自分の間抜けさに死にたくなってくる。 
 
 ヨシナリが脱落した事で恩恵が消え失せ、この吹雪の中で相手を捉える為の眼を失ったベリアルは何をしたのか? ヨシナリは自分なら距離を取ると考えていたが、ベリアルは違った。
 彼は前に出たのだ。 見えない以上は相手の土俵で殴り合うしかない。

 その判断を無謀だと思ってしまう。 相手は一方的に見えており、ポンポンの援護もある。
 だが、ベリアルはその二つの不利を跳ね除けた。 ほぼ密着しているような至近距離で凄まじい攻防を繰り広げ、ツェツィーリエの得意距離で彼女を圧倒し始めたのだ。

 元々、反応速度自体が速く、攻撃の精度、回転と非常に高いレベルで安定していたベリアルだったが、ここに来て更にギアが上がった。 何せ、あのツェツィーリエが途中から完全に受けに回っていたからだ。 ポンポンも援護を試みようとしていたが、あの距離での高速戦闘に介入するのは彼女の技量を以ってしても不可能だった。 エーテル体の形状変化を利用した刺突、鉤爪のように変化させた手による薙ぎ払い、斬撃、短距離転移による分身とフェイント。 

 まるで嵐のようだった。 

 「うわ、すげ……」
 
 マルメルが思わずと言った様子でそんな言葉を漏らす。
 ふわわは口元を押さえて何かを考え込むように注視、グロウモスは圧倒されているのかやや呆然としている。 ヨシナリも同じ気持ちだった。

 強いとは思っていたが、映像のベリアルの戦いは明らかに普段とは段違いだ。
 実際、同格のツェツィーリエを圧倒している時点でそれは明らかで、徐々に防御が間に合わなくなってきていた。 ベリアルが僅かに動きに溜めを作る。

 ――決めに行く。

 ヨシナリの予感は正しく、ベリアルはこれまで一切見せなかった分身を二体生み出しての奇襲攻撃を使用。 ツェツィーリエには想定外だったのか見事に引っかかり、態勢を崩す。
 決まると誰しも思っていたが、ポンポンが我が身を犠牲にして割って入り、その動きを拘束。 

 ツェツィーリエは致命傷を負ったポンポン諸共ベリアルを貫いてその場は決着となった。

 「…………すまん」

 ベリアルは小さく目を伏せて謝罪を口にする。

 「ふ、闇の王よ。 貴公は死力を尽くして戦ってくれた。 責められるべきは早々に脱落して足を引っ張った俺にある。 気に病む必要はない」

 ヨシナリは努めて優しくそう言って流しながらも内心では悔しさでいっぱいで、あの最高のプレイに応えられなかった自分が何よりも許せなかった。 
 それほどまでにベリアルの戦いは手に汗握る素晴らしいものだったのだ。 叶うのであればそれを勝利という結果で讃えたかった。 

 ――あぁ、もっと強くなりてぇなぁ……。

 その後はヨシナリが外から見ていた展開であまり見るべき点はなかった。
 ポンポンを撃破した事で視界に関しては同じ条件にはなったがツェツィーリエが残っている以上、どうしようもなかった。 せめて一矢報いようと突っ込むマルメルとヨシナリがやられたと同時に敵を押さえる事から数を減らす事に行動を切り替えたグロウモスによってツェツィーリエの援護に入った一機を撃破しはしたが、技量以前に相性が致命的に悪くそのままあっさりと返り討ちにあった。

 そのグロウモスも居場所を捕捉された結果、残った敵機に追いかけ回されて粘りはしたが空中からの飽和攻撃の前に沈んだ。 
 ふわわは視界と援護を失った状態ではあったが凄まじい粘りを見せ三機を撃墜したが、消耗しきった所をツェツィーリエに狙われて脱落試合終了となった。
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