上 下
283 / 411

第283話

しおりを挟む
 「はい、では昨日の感想戦を行いたいと思います」

 翌日、ヨシナリは星座盤のメンバーを集めてそういった。
 引き摺っていないかと聞かれれば嘘になるが、努めて表に出さない。
 マルメル、ふわわ、グロウモス、ベリアルと全員が揃っており、特に何も言わずに同意する。

 準備ができたと判断したヨシナリはウインドウを可視化して全員に見えるように表示。
 星座盤の動きとしてはまずはベリアルとふわわが突出。 一気に前に出る。
 それに合わせてヨシナリがフィールドの中央――凍った湖の上へ移動。

 これはシックスセンスのセンサーリンクを行う上で必要な位置取りだった。
 味方機に観測したデータを送信する事でこの劣悪な視界の悪さを解消する事が可能ではあるが、ホロスコープを中心に一定の距離に居なければならない。 その為、ヨシナリは湖の上からは動けないのだ。

 グロウモスは湖に沿ってマップの南側から移動、ふわわをフォローする為のポジショニング。
 マルメルは全員で持ち込んだ狙撃銃を湖の西側に半包囲する形で配置。
 本来ならヨシナリが遠隔操作を行うのだが、ソルジャータイプならまだしも高速戦闘を行うキマイラタイプを操りながら狙撃銃の遠隔操作は無理だったのでマルメルに任せる事にしたのだ。

 残念ながらこの環境下でマルメルは実力を発揮しきれない。
 センサーシステムのリンクで見えなくはないのだが、相手はエンジェルタイプで固めている以上、この環境下ではまともな機動性を確保できずに沈むのは目に見えていた。 その為、マルメルには悪いがやや変則とも言える後方支援に徹して貰ったのだ。

 手順としては簡単で配置した狙撃銃に一から十までの番号を振ってヨシナリが指示した番号の銃をマルメルが撃つだけの簡単な仕事だ。 牽制程度にしか使えないが人数差があるので、相手の攻撃を制限できるのはかなり大きい。 

 「質問」
 「はい、マルメルどうぞ」
 「俺を狙って来るとは思わなかったのか?」

 ポンポン達は狙撃の精度の低さにヨシナリが操作しているとは思っていないだろう。
 なら消去法でマルメルだ。 位置も探せば見つかるので先に潰すという発想はなかったのだろうかと思ったのだが、ヨシナリは小さく首を振る。

 「なくはないけど可能性としては低いと思ってた」
 「何で?」
 「まず、このステージに於いて敵味方共に一番やられたら困る事って何だと思う?」
 「眼を潰される事だと、お、思う」

 意外な事に答えたのはグロウモスだった。

 「その通り、敵にとって最優先で撃破したいのはシックスセンスを持っている俺だ。 俺を潰せれば星座盤の索敵能力は大きくダウンするので情報でも優位を取れる」
 「まぁ、ポンポンちゃんが居るからヨシナリ君を狙うのは分かり切っとったな」
 「そういう意味でも俺があの位置に陣取るのは必要だったんですよ」

 ヨシナリ達が動くように敵も戦力を展開させる。 ポンポンが二機を引き連れてヨシナリの所へ向かい、ツェツィーリエは湖の中央でベリアルと一騎打ち。 
 残りは湖を渡り切ったふわわと回り込んでいるグロウモスの処理を優先して動きを止める。

 まずは問題のヨシナリの戦闘をフォーカス。 
 ポンポンは数の有利を活かして手数で圧倒していた。 前衛のニャーコが追いかけ回し、中衛を務めるおたまというプレイヤーが付かず離れずの距離を維持し、突撃銃やエネルギーライフルで行動を制限しつつ撃墜を狙い、ポンポン自身はやや後方に下がってエネルギーライフルを構え、ヨシナリの隙を窺う。 

 「あー、これは完璧に対策されとるねぇ……」

 ふわわがそう呟く。 彼女の見立ては正しい。
 ヨシナリはシックスセンスを使っている関係で情報処理にかなりのリソースを使っており、切れ目なく攻撃を繰り返して畳みかける事で思考する余裕を奪っているのだ。

 そうする事により強みである先読みを封じている。 
 実際、ヨシナリは回避に専念させられ、効果的な反撃が出来ていない。
 マルメルの支援こそあったが、最初の数発で弾道を見切られている様であまり効果が出ていなかった。

 「うわぁ、やっぱ俺には遠隔操作は無理だわ」
 
 碌に当たらない狙撃にマルメルは顔を覆う。

 「……遠隔操作は一つでも当てるのは難しい。 援護と割り切れば、いいと思う……」
 「はは、どうも」
 
 グロウモスのフォローにマルメルは苦笑。

 「グロウモスさんの言う通りだ。 普通の銃でもきついのに遠隔で複数、しかも発射のタイミングは俺の指示。 当たる訳がない。 牽制としては効果が出てたので問題ない」
 「そうかぁ?」
 「あぁ、お前は良くやってくれたよ」

 画面の向こうではヨシナリは状況の打開を図る為に勝負に出ている所だった。
 ニャーコがエネルギーブレードを一閃したタイミングで人型に変形して紙一重で回避しつつ仰向けの状態で股下を抜け、すれ違うタイミングで二挺拳銃でエネルギーウイング同時に破壊。

 「うわ、ヤバ。 なんだあの動き」

 思わずマルメルが声を漏らす。 ニャーコの動きを完璧な精度で回避。 
 すれ違うと同時にエネルギーウイングを破壊。 推進装置を失ったニャーコはそのまま墜落死。
 急な変調と味方の撃墜に動揺したのかおたまの動きが止まる。 ほんの一瞬だったが、ヨシナリには充分だった。 棒立ちになった機体にそのまま全弾打ち込んで撃墜。

 「ふわぁ、一機撃墜してほぼノータイムで二機目に仕掛けてるなぁ。 これは狙ったん?」
 「はい、あの三人の攻撃の組み立てはニャーコが前に出て俺が下がった所をおたまが仕掛けて行動を制限する形だったので来る位置は何となくですが読めてました。 牽制メインの装備構成で防御より回避に念頭を置いた機体構成だったのも助かりましたね。 棒立ちになってくれなければ仕留められたかは少し怪しかったですが」

 ヨシナリはそう答えた後、小さく溜息を吐く。 
 何故ならこの後は彼の失態が映される事になるからだ。 
 二機が落とされ前衛を失ったポンポンが急降下しながら距離を取り、ヨシナリは畳みかける為に追撃に入る。 こうして俯瞰してみれば明らかに逃げる位置を調整しているようだ。

 「あぁ……クソ。 焦り過ぎた」

 ヨシナリが頭を抱える。 画面の向こうではホロスコープがツェツィーリエの機体の前を横切り、足に仕込んだエネルギーブレードによる蹴撃によって両断されたところだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

私の召喚獣が、どう考えてもファンタジーじゃないんですけど? 〜もふもふ? いいえ……カッチカチです!〜

空クジラ
SF
 愛犬の死をキッカケに、最新VRMMOをはじめた女子高生 犬飼 鈴 (いぬかい すず)は、ゲーム内でも最弱お荷物と名高い不遇職『召喚士』を選んでしまった。  右も左も分からぬまま、始まるチュートリアル……だが戦いの最中、召喚スキルを使った鈴に奇跡が起こる。  ご主人様のピンチに、死んだはずの愛犬コタロウが召喚されたのだ! 「この声? まさかコタロウ! ……なの?」 「ワン」  召喚された愛犬は、明らかにファンタジーをぶっちぎる姿に変わり果てていた。  これはどこからどう見ても犬ではないが、ご主人様を守るために転生した犬(?)と、お荷物職業とバカにされながらも、いつの間にか世界を救っていた主人公との、愛と笑いとツッコミの……ほのぼの物語である。  注意:この物語にモフモフ要素はありません。カッチカチ要素満載です! 口に物を入れながらお読みにならないよう、ご注意ください。  この小説は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています。

処理中です...