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第282話

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 そこから先は特に見るべき事、語るべき事がない試合展開だった。
 ヨシナリ、ベリアルを失った星座盤は強力な前衛とシックスセンスによる情報支援を失う。
 敵機は三機減ったが、それでも七機は健在でどうしようもなかった。

 最初に脱落したのはマルメルで、ヨシナリの仇を討とうとツェツィーリエに突っ込んでいき待ってましたとばかりに襲ってきた敵機をグロウモスの援護で一機道連れに撃破。 
 そのグロウモスも善戦はしたが、狙撃手にとって視界が利かない事は致命的で得意の距離に持ち込めずに敗北。 

 最後のふわわは目を潰されたにもかかわらず凄まじい戦いを見せ、ツェツィーリエが来るまでの間に三機を撃墜したが機体の損耗が激しく、ジェネシスフレームの相手は難しかったようだ。
 三回戦敗退。 それが星座盤の最終結果となった。


 沈黙。 星座盤のホームでは誰も喋らなかった。
 それはヨシナリが黙っていたからだ。 ベリアルは小さく俯いて拳を握り、マルメルは手で小さく顔を覆う。 グロウモスはオロオロと周囲を見回し、ふわわはいつも通り。

 「い、いやぁ、負けちゃいましたねぇ。 なんかすみません、あっさりやられちゃって」
 
 ややあってヨシナリがいつもの調子でそんな事を言い出したが、声がやや上ずっていた。
 気にしているのは明らかだ。 マルメルは無言でヨシナリと肩を組む。

 「ま、俺達にしちゃ、上出来じゃねぇか? Aランクが居るとはいえ人数半分、舐めプと思われても仕方がない戦力構成でここまで上がって来れたんだ。 ここはいいとこまで行けたぜって喜ぶところじゃね?」
 「いや、でも俺が――」
 「お前はいつも上手くやり過ぎなんだよ。 偶にはこうしてしくじってくれないと俺の精神衛生上よろしくない。 取り敢えず、今日はお疲れだ。 感想戦はまた明日にして今日はゆっくり休もうぜ」

 マルメルは気にするなとヨシナリの肩を何度も叩く。

 「皆もそれでいいよな?」
 「いいんと違う? いやぁ、今日は疲れたし、解散しとこ」

 ベリアルもグロウモスも異論はないようで小さく頷く。
 
 「――そう、ですね。 ではちょっと休みます。 お疲れでした」

 ヨシナリは小さな声でそう言ってログアウト。 アバターが姿を消した。
 少しの間、沈黙するが――

 「まぁ、気にするなっつう方が無理か」

 マルメルが小さく呟いた。 
 あの戦い――というよりは吹雪ステージは視界が非常に制限される厳しい場所だ。
 その不利を解消する為にヨシナリのセンサーシステムであるシックスセンスとリンクしていた。
 
 それにより敵の位置をかなり正確に知る事ができるようになっていたのだ。
 つまりあの戦闘に於いてヨシナリはチーム全体の眼の役割を持っており、絶対にやられてはいけないポジションだ。 それが真っ先にやられてしまった以上、気にはするだろうなというのがマルメルの感想だった。 

 「人数差があるとはいえ、ウチらもモタモタしすぎたなぁ。 反省会はヨシナリ君が元気になってからするとして今日の所は皆、お疲れさん」

 そう言ってふわわは踵を返した。 
 
 「ふわわさんはどうするんすか?」
 「ん? ウチ? ちょーっと不完全燃焼やからランク戦でもやってから帰るわ」

 ほなねとふわわは姿を消した。 
 マルメルは残りの二人に視線を向けるとベリアルは小さく頷くとログアウト。
 グロウモスはオロオロと周囲を見回しているだけだった。

 「じゃぁ俺もこれで、お疲れっす」

 マルメルもそう言ってログアウト。 
 一人残されたグロウモスはしばらくの間、オロオロと周囲を見回していたが落ち着いたのか動きが止まる。 考える事はヨシナリの事だ。

 落ち込んでいたのは明らかだったが、グロウモスに言わせれば負けて当たり前の勝負だった。
 寧ろ、この人数で勝てると思っているのは自惚れが強いのではとすら思っている。
 グロウモスのから見ればこれまでが上手く行き過ぎているだけで、この結果は当然だ。

 ――だがそれでも――

 「……ちょっと練習してから帰ろ」

 ――負けるのは面白くない。
 そう思ったグロウモスはトレーニングルームへと移動した。

 
 ログアウト。 ヨシナリから嘉成へ。
 フラフラとベッドに倒れ込み、枕へと顔を埋める。
 
 「あああああああああああああああああああああ!!! 畜生!畜生!!畜生!!!」

 そのまま感情を思いっきり吐き出す。
 音が外に漏れないように気を付けられたのは僅かではあるが理性が働いた結果だろう。
 あの敗北は自分の所為だ。 誰が何と言おうと自分の所為だった。
 
 シックスセンスを使えるのは自分だけでセンサーシステムをリンクさせれば味方の視界を明瞭にすることができるのは前回のイベントでヨシナリ自身が体験していた事もあって問題なく行けると確信しており、実際に上手く行った。 相手が同様の手段で対抗してくる事も想定はしており、勝ち筋に関してもある程度の想定は出来ていたのだ。

 唯一、想定していなかったのはポンポンの執念。 
 彼女はあんな様子だったが、どこかで借りを返そうと虎視眈々と機会を窺っていたのだ。
 そこを軽視したのが嘉成自身の最大の過ちだ。 もしかしたら一回勝っていたからと甘く見ていた?
 
 そんな訳はないと思いたいが、結果が出ている以上は否定できない。
 申し訳なさに死にたくなる。 マルメルには無理を言って慣れない遠隔操作をやらせた。
 ベリアルには不利な状態での戦いを強いてしまった。 グロウモスとふわわには六機の足止めという無茶をやらせた。 彼等、彼女等は与えられた仕事を十全に果たしたと言える。

 そんな仲間達の最高のプレイを自分のミスで台無しにしたのだ。 
 自身に対する怒りで頭がおかしくなりそうだった。 他人がミスするのはいい。
 特に自分が指示を出した結果なら猶更だ。 だが、自分がミスするのは、特に戦況を左右しかねない状態でのミスはとてもではないが許容できない。 

 ――最高のチームだったのに。 

 ようやく連携も形になって来た矢先だった。 ベリアルとグロウモスは暫定で入ったメンバーだ。
 この後には高い確率で離脱するだろう。 つまりあのチームで戦える機会はもう来ないかもしれないのだ。 それが悔しくてたまらず、台無しにしたのが自分である事が尚更許せなかった。

 「あぁ、畜生、畜生……」

 時間は戻らない。 そして確定した結果は覆らない。
 嘉成はしばらくの間、荒れ狂う感情を制御する為にそのままで居た。
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