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第267話
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反射的に「はぁ、どうも」と言いかけたが、ヨシナリはふっと小さく息を吐く。
「……ふ、闇が戦場を覆っていたからこそ、我が一撃は死角からの必殺となる」
「成程、闇の住民からすれば闇は恐れるべきものではなく利用するべきものと言う事か」
「…………少し違うな。 俺にとって闇は波や風と同じ環境だ。 ――波には乗るものだろう?」
ベリアルはその回答に満足したのか「流石だ」と呟くと静かになった。
ふわわはややぽかんとしており、マルメルはプルプルと身を震わせていたが、ヨシナリは努めて気にせずに映像を切り替えた。
ツガルを含む四機のキマイラタイプとの空中戦。
機体は同格、数は四倍といった圧倒的な不利な状況での大立ち回り。 大人数が参戦している事を利用して他の敵を擦り付けるなど様々な手段で敵を攪乱していた。
ヨシナリは凄まじい挙動で飛びる事で敵機を振り回し、一機、また一機と撃墜していく。
「うは、凄ぇ。 敵を擦り付けて隙を作っての一撃か。 あれ、どうやったんだ?」
「あぁ、あのプレイヤーって左からの旋回があんまり上手くなくてな。 見てみろ、大きく膨らむだろ? その時だけ軌道が読み易くなる。 そこを一撃だ」
表示されたウインドウの中でキマイラタイプがヨシナリの狙撃を受けて撃墜されている映像が表示される。
「四対一は正面からやればまず勝てない戦力差だが、逃げる分には案外何とかなるんだ。 で、最初に敵をよく観察して崩しやすい奴を見極めて一つずつ潰していくって感じだな」
最後のツガルは厄介だったが、彼に関しては味方として何度も戦って来ていた事もあって癖は良く分かっていた。 後は無意識に慣れた行動を取るまで粘って隙を窺うだけだ。
これに関しては純粋な技量ではなく絡め手を使っての勝利なので、実力で勝っているとは素直に言えないのがやや不満だが、ヨシナリは自身の成長を感じてはいるので将来的には自力で勝ったと言えるだろうと思っていた。
「一先ずは予選はこんな物でいいだろう。 問題は次の本戦だ」
前回の経験から本戦はチームとしての連携が求められる。
「完全に敵と味方に分かれての戦いだ。 敵はまず十機の枠をフル活用してくる。 対してこちらは半分しか枠が埋まっていない以上、最初から不利を強いられる。 だが、これまでに高めてきた俺達の連携が上手く刺されば優勝は難しくてもそこそこの成績は残せると思っているから頑張っていこう!」
「おう! やってやろうぜ!」
「ウチも頑張るよ!」
グロウモスは同意するように無言で何度も頷く。
「ふ、この闇の王が居るのだ。 勝利は約束されたようなものだ」
「……あぁ、貴公の影ならば少々の不利は容易く埋められるだろう、な」
本戦は翌日なので各々英気を養う事とヨシナリが締めてこの日はお開きとなった。
ベリアルは早々に姿を消し、ふわわも用事があるとログアウト。
マルメルは学校の課題と試験対策で忙しいらしく、同様に帰っていった。
残されたのはヨシナリとグロウモスの二人だけ。
ヨシナリはもう少し練習していこうかなと思っていたが、グロウモスが残っている以上は無視できない。 正直、ヨシナリはグロウモスとどう接していいか測りかねている部分もあって少し苦手だったのだ。
「あ、あー、俺はこれからもう少し練習していくつもりなんですがグロウモスさんはどうしますかね?」
「――らない」
「はい?」
「さんは要らない、です」
「あ、そうですか? すぐには難しいと思いますが、徐々に直していきますね」
ヨシナリは無自覚ではあったが、彼が敬語を使う相手は目上と認識しているか距離を置きたい相手のどちらかだ。 その為、砕けた口調で話す事に強い抵抗があったのだが、彼女なりに歩み寄ろうとしているのかと納得して努めて意識する事にした。
「よ、ヨシナリは勝てると、思って、るの?」
「本戦って事で――事?」
頷く。
「まぁ、相手との相性もあるけど行っても三回戦ぐらいですかね。 それ以上となるとAランクを数人抱えているようなユニオンが相手になるだろうから十中八九負けると思います」
「負けるのが分かってていくの?」
ヨシナリはグロウモスの意図を汲み取るべく頭を回転させつつ、どう答えたものかと悩む。
「確かに負けるのは嫌だし、負けが続くとイラつく事もありますよ。 でも、勝負しないとそれ以前の問題ですからね」
グロウモスのスタイルから彼女が臆病な性格である事は何となくだが分かる。
人と接するのが怖い、恥をかくのが怖い、そして負けるのが怖い。
それでもこの勝負の場に出てきたのは勝ちたいという渇望があるからだろう。
誰だって負けるのは嫌だ。 常勝不敗はさぞかし気持ちがいいだろう。
ラーガストを見ていると羨ましいと思う時は何度もある。 だが、他人は他人、自分は自分なのだ。
ヨシナリはどう頑張ってもラーガストにはなれない。 だから自分なりのペースで自分のなりたい物、欲しい物、行きたい場所に向かうのだ。
その過程に無数の敗北が存在していたとしても、過程と考えれば一応は許容できる。
――まぁ、いつか潰すリストにしっかりと書き留めるが。
「だから俺にとって敗北は明日勝つ為の必要経費と考えるようにしています。 明日の本戦はもしかしたら一回戦で負けるかもしれない。 それでも僅かな参加報酬も出るし、敗因を分析すればステップアップに繋がるかもしれない。 だから、負けるからってやらない理由にはなりませんね」
エゴだとは思うがマルメルもふわわもその辺は形はどうあれ理解、または許容していると判断しているから何も言わずに付き合ってくれている。 ヨシナリはそう思っているからこそあの二人の事を信じているし、友人として非常に好ましく思っていた。
「別に俺の考えを押し付ける気もないし、理解を求めるつもりもありません。 ただ、俺みたいな考えが嫌いじゃないって言うんならもう少しだけ付き合ってくれると助かります」
「え? 付き合っ――」
少なくとも本戦の間だけはいて欲しかった。
あれ? グロウモスが何かを言いかけていたような――
――付き合って欲しい。
グロウモスの頭は真っ白になった。
何故なら彼女はヨシナリは自分の事が好きだと思っていたので、持論を熱く語っているのもアピール――要は自分に対する求愛行動だと思い込んでいたのだ。
その為、ヨシナリは割と真剣な話をしていたのだが、碌に頭に入っていなかった。
余計な事を考えてぼんやりとしていたグロウモスだったが、その意識をぶん殴るようなインパクトのある言葉が飛び込んで来たのだ。
――付き合って欲しい、と。
「……ふ、闇が戦場を覆っていたからこそ、我が一撃は死角からの必殺となる」
「成程、闇の住民からすれば闇は恐れるべきものではなく利用するべきものと言う事か」
「…………少し違うな。 俺にとって闇は波や風と同じ環境だ。 ――波には乗るものだろう?」
ベリアルはその回答に満足したのか「流石だ」と呟くと静かになった。
ふわわはややぽかんとしており、マルメルはプルプルと身を震わせていたが、ヨシナリは努めて気にせずに映像を切り替えた。
ツガルを含む四機のキマイラタイプとの空中戦。
機体は同格、数は四倍といった圧倒的な不利な状況での大立ち回り。 大人数が参戦している事を利用して他の敵を擦り付けるなど様々な手段で敵を攪乱していた。
ヨシナリは凄まじい挙動で飛びる事で敵機を振り回し、一機、また一機と撃墜していく。
「うは、凄ぇ。 敵を擦り付けて隙を作っての一撃か。 あれ、どうやったんだ?」
「あぁ、あのプレイヤーって左からの旋回があんまり上手くなくてな。 見てみろ、大きく膨らむだろ? その時だけ軌道が読み易くなる。 そこを一撃だ」
表示されたウインドウの中でキマイラタイプがヨシナリの狙撃を受けて撃墜されている映像が表示される。
「四対一は正面からやればまず勝てない戦力差だが、逃げる分には案外何とかなるんだ。 で、最初に敵をよく観察して崩しやすい奴を見極めて一つずつ潰していくって感じだな」
最後のツガルは厄介だったが、彼に関しては味方として何度も戦って来ていた事もあって癖は良く分かっていた。 後は無意識に慣れた行動を取るまで粘って隙を窺うだけだ。
これに関しては純粋な技量ではなく絡め手を使っての勝利なので、実力で勝っているとは素直に言えないのがやや不満だが、ヨシナリは自身の成長を感じてはいるので将来的には自力で勝ったと言えるだろうと思っていた。
「一先ずは予選はこんな物でいいだろう。 問題は次の本戦だ」
前回の経験から本戦はチームとしての連携が求められる。
「完全に敵と味方に分かれての戦いだ。 敵はまず十機の枠をフル活用してくる。 対してこちらは半分しか枠が埋まっていない以上、最初から不利を強いられる。 だが、これまでに高めてきた俺達の連携が上手く刺されば優勝は難しくてもそこそこの成績は残せると思っているから頑張っていこう!」
「おう! やってやろうぜ!」
「ウチも頑張るよ!」
グロウモスは同意するように無言で何度も頷く。
「ふ、この闇の王が居るのだ。 勝利は約束されたようなものだ」
「……あぁ、貴公の影ならば少々の不利は容易く埋められるだろう、な」
本戦は翌日なので各々英気を養う事とヨシナリが締めてこの日はお開きとなった。
ベリアルは早々に姿を消し、ふわわも用事があるとログアウト。
マルメルは学校の課題と試験対策で忙しいらしく、同様に帰っていった。
残されたのはヨシナリとグロウモスの二人だけ。
ヨシナリはもう少し練習していこうかなと思っていたが、グロウモスが残っている以上は無視できない。 正直、ヨシナリはグロウモスとどう接していいか測りかねている部分もあって少し苦手だったのだ。
「あ、あー、俺はこれからもう少し練習していくつもりなんですがグロウモスさんはどうしますかね?」
「――らない」
「はい?」
「さんは要らない、です」
「あ、そうですか? すぐには難しいと思いますが、徐々に直していきますね」
ヨシナリは無自覚ではあったが、彼が敬語を使う相手は目上と認識しているか距離を置きたい相手のどちらかだ。 その為、砕けた口調で話す事に強い抵抗があったのだが、彼女なりに歩み寄ろうとしているのかと納得して努めて意識する事にした。
「よ、ヨシナリは勝てると、思って、るの?」
「本戦って事で――事?」
頷く。
「まぁ、相手との相性もあるけど行っても三回戦ぐらいですかね。 それ以上となるとAランクを数人抱えているようなユニオンが相手になるだろうから十中八九負けると思います」
「負けるのが分かってていくの?」
ヨシナリはグロウモスの意図を汲み取るべく頭を回転させつつ、どう答えたものかと悩む。
「確かに負けるのは嫌だし、負けが続くとイラつく事もありますよ。 でも、勝負しないとそれ以前の問題ですからね」
グロウモスのスタイルから彼女が臆病な性格である事は何となくだが分かる。
人と接するのが怖い、恥をかくのが怖い、そして負けるのが怖い。
それでもこの勝負の場に出てきたのは勝ちたいという渇望があるからだろう。
誰だって負けるのは嫌だ。 常勝不敗はさぞかし気持ちがいいだろう。
ラーガストを見ていると羨ましいと思う時は何度もある。 だが、他人は他人、自分は自分なのだ。
ヨシナリはどう頑張ってもラーガストにはなれない。 だから自分なりのペースで自分のなりたい物、欲しい物、行きたい場所に向かうのだ。
その過程に無数の敗北が存在していたとしても、過程と考えれば一応は許容できる。
――まぁ、いつか潰すリストにしっかりと書き留めるが。
「だから俺にとって敗北は明日勝つ為の必要経費と考えるようにしています。 明日の本戦はもしかしたら一回戦で負けるかもしれない。 それでも僅かな参加報酬も出るし、敗因を分析すればステップアップに繋がるかもしれない。 だから、負けるからってやらない理由にはなりませんね」
エゴだとは思うがマルメルもふわわもその辺は形はどうあれ理解、または許容していると判断しているから何も言わずに付き合ってくれている。 ヨシナリはそう思っているからこそあの二人の事を信じているし、友人として非常に好ましく思っていた。
「別に俺の考えを押し付ける気もないし、理解を求めるつもりもありません。 ただ、俺みたいな考えが嫌いじゃないって言うんならもう少しだけ付き合ってくれると助かります」
「え? 付き合っ――」
少なくとも本戦の間だけはいて欲しかった。
あれ? グロウモスが何かを言いかけていたような――
――付き合って欲しい。
グロウモスの頭は真っ白になった。
何故なら彼女はヨシナリは自分の事が好きだと思っていたので、持論を熱く語っているのもアピール――要は自分に対する求愛行動だと思い込んでいたのだ。
その為、ヨシナリは割と真剣な話をしていたのだが、碌に頭に入っていなかった。
余計な事を考えてぼんやりとしていたグロウモスだったが、その意識をぶん殴るようなインパクトのある言葉が飛び込んで来たのだ。
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