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第263話

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 同時にカナタの機体から装甲が剥がれ落ちる。 
 剥き出しになった腰部から二基のエネルギーウイングが大きく展開し、連結した剣が発光。
 ベリアルはそれを見て笑う。

 「ふ、ふは、ふはははは! 素晴らしいぞ光の騎士よ! まだ力を隠していたか」
 「ぶっ潰す」

 エネルギーウイングが凄まじい光を吐き出し、急加速。
 ベリアルの間合いに入る直前に旋回。 背後へと回る。
 光を纏った斬撃にベリアルは棒立ちでそのまま両断されたが、切り裂いた手応えはない。
 
 空間転移だ。 カナタは敢えて背後に回って仕掛けた。
 ベリアルの性格上、こういう攻められ方をすれば意趣返しに――
 
 ――背後から来る。
 
 見ずに機体ごと回転するように一閃。 重たい手応え。
 ベリアルの生み出したエーテルブレードと干渉した事によるものだ。
 つまりは幻影の類ではなく本体。 斬撃の重さを比較するのなら実体の伴ったカナタの方が上だ。

 即座に体勢不利を悟ったベリアルは地を蹴って後退するが、カナタは逃がさないとばかりに追撃。
 基本的にベリアルというプレイヤーは自分のリズムを持っており、それを乱されるとやや脆さが出る。 戦いを有利に持って行きたいのなら彼から主導権を奪う事が近道と言える。

 加えてベリアルは正面から行くように見えるが、本質的には攪乱して刺すタイプだ。
 その為、小細工をする暇を与えない意味でも手数で圧倒するのは正しい対処法だった。
 外装をパージし攻撃の回転が大きく上がったカナタにベリアルは押され始める。

 彼の機体プセウドテイには特殊ジェネレーター『パンドラ』と転移システム『ファントム・シフト』の二つしか武装と呼べるものは存在しない。 パンドラによって闇色のエーテルを発生させ、それにより幻惑しつつ攻撃を行い、ファントム・シフトによる短距離転移によって相手の虚を突いて刺すというのが基本スタイルだ。

 そんな偏った性能故に防御面では貧弱なので受けに回ると簡単に崩れる脆さがあった。
 カナタの猛攻にこれだから何度も戦った相手だと侮る事が出来ないのだ。 ベリアルは苦戦に僅かな焦りを滲ませながらも面白いと笑って見せる。 

 カナタはベリアルに行きつく暇すら与えるつもりはないらしく、連結した剣を回転させるように振り回して連撃。 そのまま畳みかける。
 ベリアルは回避とエーテルブレードで受け流す事で凌いでいたが、かなり厳しい状況だった。

 装甲をパージし、エネルギーウイングを全開にしたヘレボルス・ニゲルの加速と旋回性能はベリアルのプセウドテイを大きく上回っており、押し返す事が出来なかったのだ。
 ファントム・シフトも使用するに当たって転移先の座標を確定させる必要があるので、僅かな隙が必要だった。 そしてそれを朧気ながら理解していたカナタはベリアルを一切休ませるつもりはないと言わんばかりに畳みかける。

 ベリアルは自身が苦戦している事を理解していたが、同時にカナタの戦い方を分析していた。
 彼女のこれまでの戦闘スタイルは大剣による斬撃。 両剣はこれまで使用している所を見た事がない。 裏で特訓していたであろう事は明らかだが、実戦での研磨はまだまだのはずだ。

 つまり動きとしては完成していない。 観察すれば攻撃のバリエーションは限られる。
 まず勢いを乗せる為、斬撃の前には必ず回転を経由。 繰り出されるのは上下左右と変幻自在に見えるが、下からの斬撃にやや偏っていおり、上からの頻度はやや少ない。

 足運び等の予備動作で精度を上げられないかと観察を続けたのだが、エネルギーウイングによる浮遊で足は使っていないが、回転後の体の傾きで上下は分かり辛いが左右のどちらから来るのかだけは徐々にだが読めるようになってきた。 

 ――研ぎ澄ませ。 相手の自覚すらしていない細かな挙動を見逃すな。

 狙うのは下からの斬撃。 滑らかな分、慣れがある所為か軌道が読み易い。
 上からの斬撃をいなし、再度回転を経由。 機体の傾きから繰り出されるのは左。
 上か下か。 僅かに引いた。 下だ! ここでカウンターを入れる。

 回避して懐に入り込み、刺突でコックピット部分を貫く。 
 勝負だとベリアルの集中は限界まで高まり、彼の予想通りカナタの斬撃は左下から来た。
 軌道も読み通り。 行ける。 そう判断したベリアルはそのまま一歩踏み込み――嫌な予感がして際どい所で刺突を止める。 

 「なん、だと――」
 「チッ、外した」

 何が起こったのかと言うとカナタは斬撃の瞬間に剣を蹴り飛ばして刃を加速させたのだ。
 直前で違和感を感じ咄嗟に回避行動を取ったお陰で即死は免れたが、機体に大きな傷が刻まれる。
 予備のジェネレーターが損傷し、出力が低下。 機体が重くなる。

 明らかに動きが鈍ったベリアルにカナタは勝機と判断してそのままとどめまで持って行こうとして――エネルギーウイングが撃ち抜かれた。 
 何が起こったと浮かんだ疑問は狙撃という結論に着地。 振り返ると森の奥、木々の向こうに黒いキマイラタイプが一機、地面に伏せる形で隠れていた。 その機体には見覚えはなかったが、ツガルからは聞いていた。 ヨシナリだ。

 「何であんたがここに――ぐ、クソッ」
 
 奇襲による動揺とエネルギーウイングを破壊された事による機動力の低下により大きな隙を晒したカナタの思考からほんの僅かな時間、ベリアルの存在が消えたのだ。
 そんな隙を晒せば反撃されるのは目に見ていた。 ベリアルのエーテルブレードがカナタのコックピット部分を貫いている。 

 「勝負自体は貴様の勝ちだ。 だが、予選を突破するのは諦めて貰う」
 「この――」
 「闇に呑まれよ!」

 カナタは何かを言おうとしていたが、それは形にならず機体は爆散。
 彼女は退場となった。 それにより『栄光』は全滅し脱落。
 この場での戦いは勝利となった。 ベリアルは小さく息を吐くとヨシナリの方へと視線を向ける。

 「魔弾の射手よ。 貴様が正しかった」
 
 彼がカナタとの戦闘に入る前にヨシナリとした約束は一つ。 
 負けそうになったら介入すると言ったもの。
 ベリアルがカナタを倒すのなら問題はないが、負けられると困るのでこうして助けに入ったのだ。
 
 「光の騎士は紛れもない強敵。 叶うのであれば俺が自分の力で屠りたかったが、契約は契約だ。 援護に感謝する」

 ヨシナリは無言でベリアルに近づき――

 「闇の王よ。 貴公の闇は深いがまだ底までは至っていない。 故に光によって照らされてしまったのだ」

 ――そう言った。
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