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第257話

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 不意に一機のキマイラタイプの足――推力偏向ノズルが撃ち抜かれた。
 ツガルと残りの二機は咄嗟に散開。 明らかに狙撃だったからだ。
 バランスを崩した一機はどうにか立て直そうとしていたが、そんな状態ではどうにもならない。

 ヨシナリのアノマリーによる一撃を胴体の中心に受けて爆散。
 一機やられたのも不味いがそれ以上に完全にノーマークだった位置に伏兵が居た事が問題だった。
 タイミング的に流れ弾はあり得ない。 明らかにヨシナリへの援護だ。

 「おいおい、いつの間にメンバーを補充したんだよ。 俺達の仲なんだから教えてくれても良かったんじゃないか?」
 「正式加入かは何とも言えないんでこのイベントが終わっても残ってくれるなら紹介しますよ」
 
 ツガルは機銃を連射しながらヨシナリの背後に着けようとするがひらひらと器用に躱される。
 軽口こそ叩いているが内心で不味いと思っていた。 星座盤のメンバーが増えている。
 問題はそれが何人か分からない点だ。 少なくとも狙撃手が一人いる。

 そして狙撃手が居るという事が更に問題だった。 お陰でセンドウがこちらの援護に回れない。
 加えて他にもいるかもしれないと警戒する必要が出てきたからだ。 
 
 「なぁ! 何人入れたんだ?」
 「さぁ、何人でしょうね?」

 ヨシナリは他のプレイヤーが戦っている戦闘空域に突っ込みながら軽い口調でそう返す。
 追いかけようとしたツガル達を横槍と判断した他のプレイヤーが攻撃を仕掛けてくる。
 
 ――うぜぇ!

 変形してエネルギーライフルを撃ち込んで撃墜。 
 邪魔を排除した所でヨシナリを探すが姿がない。 恐らくは急降下して森に入ったのだ。
 他の二機も見失って動きが一瞬止まる。 

 「待て! 動きを――」

 遅かった。 次の瞬間には二機のキマイラタイプがコックピット部分を撃ち抜かれて爆散。
 狙撃。 そう、ヨシナリの本領は狙撃手だ。 他の敵を擦り付けた後、自分の得意距離に持ち込み、見失って棒立ちになった機体を狙い撃ち。 

 ――どこまで見えてやがった。

 四対一で三機やられている時点で醜態だが、自分まで簡単にやられる訳には行かない。
 今の狙撃で位置は掴んだ。 ツガルは人型形態に変形し、ヨシナリの居るであろう場所にエネルギーライフルを連射。 応じるように無数の銃弾が返って来た。

 明らかに重機関銃や榴弾、ミサイルまで飛んできたのを見て、またかと表情を歪ませる。
 恐らくさっきと同様に他のプレイヤーの戦闘区域から仕掛け、ツガルに反撃させて反応させたのだ。
 プレイヤー達はツガルが奇襲をかけてきたと思い、反撃に移ると。

 このイベントの特性を最大限に活かした戦い方だった。 
 手玉に取られていると理解はしているが、突破の打開策が見えてこない。
 技量自体はまだ自分が上だと思っているが、総合力――こと咄嗟の判断力や周辺の物を利用する機転といったものでは既に上を行かれている。 凄まじい成長だ。

 この前まではちょっと見どころがあるだけの奴だったのにここまでとは……。
 
 「だからと言って簡単に負けてやるわけにはいかねぇなぁ!」
  
 ヨシナリはこちらの動きを読んでその上を行く戦い方。
 ならそれを打開するのならヨシナリの想定の外へと行かなければならない。
 どうすればそれができる? 考えたツガルは一つの結論に至った。

 道が見えたのなら後は行くだけだ。 機体を変形させて一気に離脱を図る。
 無理に探して時間を浪費する必要はない。 ここは下がって逆に引っ張り出してやる。
 流石のヨシナリも自身を無視して他へ行くとは思わないだろう。 

 追ってくるなら今度こそ一対一、そうでないならマルメル辺りから削って―― 
 
 「――っ!? 嘘だろ!?」

 咄嗟に躱せたのは彼の高い操縦技能による物だろう。 
 だが、背後ではなく真下から来た攻撃を躱すのは難しく、羽を撃ち抜かれてバランスを崩す。
 ツガルはどうにか立て直そうとしたが、それよりも早く付き抜けるように森から上がって来る機体。

 ヨシナリ。 恐らくはさっきの応酬の間に森の中を移動して先回りしていたのだ。
 ツガルは変形させて迎え撃とうしたが、僅かに遅れる。
 人型に変形したヨシナリのホロスコープがツガルの機体を捉え、胴体部分に蹴りを入れる。
 変形途中に喰らった事でフレームが歪み、半端な状態で固まった。

 「あぁ、マジかよ……」
 
 思わずそう呟くツガルの機体に向けてヨシナリは拳銃を抜くとそのまま連射。
 ジェネレーターを撃ち抜かれた機体は爆散。 ツガルは退場となった。

 
 ――これでいつかの三人に借りを返せたな。

 ツガルの行動パターンに関してはある程度把握していたので、追いつめられると思考と戦況のリセットを狙って離脱を図るのは読めていた。 喰らいつかなければマルメルを狙う釣りなのは目に見えていたので、向かう方角も視えている。 相手にペースを握らせまいとする考えは合理的だが、追いつめられた結果なので手としてはあまりよろしくない。 実際、離脱に意識を持って行かれて警戒が疎かになっていた。

 そんな分かり易い動きを読む事は非常に容易い。 
 後はいい位置に来たところで仕掛けて終わりだ。

 元々、予選での戦い方は事前に組み立てており、誰が出てきても対応できるようにしておいた。
 数が少ない以上はそれを埋める必要があるので他の敵を擦り付けて数的不利を補ったのだ。
 
 「ただ、これ予選でしか使えないんだよなぁ……」

 本戦ではこの手の小細工は通用しない。 一先ずはツガルは撃破。
 こちらのメンバーは今の所、損耗なし。 グロウモスはセンドウと牽制し合っていて動けないが、あの厄介な狙撃手を抑えてくれているだけでも充分な仕事をしてくれている。

 マルメルはフカヤの奇襲から逃れつつ敵を釘づけにしているが、徐々に追いつめられていた。
 ふわわは――ちらりと戦場の一角を見るとカナタの斬撃と思われる光が森を切り刻んでいるのが見えているので間違いなく無事だろう。 

 ――それにしても――

 「アレをひらひら躱すの本当に訳が分からねぇ……」

 光の斬撃は遠目で見ていても近くで喰らいたくないと思ってしまうが、ふわわならしばらくは無事だろう。 
 カナタに関しては既に手を打っているので何とかなるのかは微妙だが、しばらくは抑えられるはずだ。 まずは他のメンバーを助けに行かなければ。

 「マルメル! 無事か?」
 「お? おぉ、ヨシナリ。 通信して来たって事は四人仕留めて来たのかよ!?」
 「まぁな。 そっちの様子はどうだ?」
 「あんまりよくない。 フカヤがすっげー邪魔。 気配消すの上手すぎだろ! お陰で逃げ回る事しかできねぇ」 
 「分かった。 すぐにそっちに行く。 もう少し頑張ってくれ」
 「早めに頼む!」

 ――まずはマルメルだな。

 ヨシナリは機体を変形させると仲間達の下へと向かった。
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