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第253話
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當銘 華那子。
十八歳――高校中退。 将来の夢はプロゲーマー。
彼女は典型的なネット弁慶で、リアルでは非常に自己主張が弱いが電子の世界では非常に強気だった。
だが、中学生の頃、強気に振舞い続けた結果、周囲が敵だらけになり心がぽっきりと圧し折れる。
それによりネットでも強気になれず陰に潜むように生きていた。
ネットの世界では自分は無敵だと勘違いしていた彼女はそうでなかったと知りはしたが、自分らしく生きて行けると信じていたネットの世界から離れる事が出来なかったのだ。
だからと言って対人関係に対する恐怖心は拭いきれず、アバターで参加するタイプの授業にすら参加する事が出来ずに中退。
最終学歴は中卒となった。 一応は通信制度を利用して高校の卒業資格は取るつもりではいるので学歴は問題ない。 そんな事よりもゲームで生計を立てると言った彼女の夢を叶える為の行動をするべきだと考えていた。 心は折れたが、夢までは失っていなかったのだ。
その舞台として選んだのがこのICpw。
圧倒的なクオリティを誇る対戦型VRロボットアクションゲーム。
このゲームは金になるのか? そう聞かれれば彼女はイエスと即答する。
特殊通貨であるPは凄まじい額で換金できるので、安定して入手できる環境になればこのゲームが続く限り、生活は安泰だ。 相場は株のように変動するので正確な値段はその時になってみないと分からないが、徐々に上昇傾向にはあった。
今では1P、一万から一万五千クレジット。 緊急ミッションで得られるPが最低50。
緊急ミッションを受けるだけで結構な額の金銭が手に入るのだ。
このゲームの登録者が激増する理由の一つでもある。 心配そうに見つめてくる両親を安心させる為にも最低でも定期的にPが貰えるCランク以上の地位を維持できるなら金が手に入るのだ。
幸いにもこの手のゲームの心得はあったので、充分にやれると判断していた。
いざ始めてみると最初は割と上手く行っていたのだ。 彼女のステルスを見破れる相手はそういなかったので、大半の試合は一方的な展開で終わる。 上手く行き過ぎたと思わなくなかったが、このままBランクまで駆け上がってやる。 そんな彼女の思惑はFランクに上がった辺りで陰りが見え始めた。
これまでの戦い方が通用しなくなってきたのだ。 それでもギリギリで勝てはしていた。
だが、Eランクに上がった事で打ち止めとなった。 どんどん落ちていく勝率。
通用しない戦い方。 彼女は焦っていた。 上を目指す強さが欲しい。
そして手っ取り早く強くなるにはいい装備を揃える事が近道だ。
このゲームで資金を稼ぎたいのならイベント戦で好成績を残せばいい。
だが、ユニオン対抗戦は参加制限がある。 その為、報酬を得たいなら数の少ない弱小に一時的に所属する必要があった 大手であるならそもそも枠に入れてすら貰えないので、構成人数の少ない場所を狙うのは当然の流れだった。 元々、いくつかのユニオンに所属していたが、折り合いが付かずに脱退していた事もあって傭兵のように一時的に所属できればいい。 そんな考えで彼女は間借り先を探していたのだ。
ユニオン『星座盤』は彼女の条件を完璧に満たす場所だった。
Fランク二人、Eランク一人の超が付く弱小。 格下が多いという事もあって舐めていた彼女は模擬戦で実力を見せつけようとしたのだが、結果は全敗という惨憺たる有様だった。
格下に二連敗した事は少なからずショックだった事もあってこうして再挑戦したのだが、リーダーのヨシナリ相手には全く歯が立たない。 そもそもEでキマイラを使うなんてどんなイカサマを使ったのだとすら思っているが、いくら逃げてもあっさりと発見して撃ち抜いてくるので技量面では遥かに上を行っていると理解せざるを得なかった。 確かに自分は格下なのは認める。
それを自覚しているのかヨシナリは大胆に踏み込んで来た。
――あろう事か、言いたい事はしっかりと口にしろと上から目線で言い出したのだ。
屈辱感でいっぱいだったが、彼に歯が立たないのも事実。
彼女は自身のプライドと実利を天秤にかけ、彼に教えを受ける事になったのだが――
「ほら、また逃げる。 そこで逃げるから追撃を喰らうんですよ」
回避に入った所をあっさりと撃ち抜かれる。
ヨシナリは彼女に選択を強いた。 狙撃か暗殺、どちらに比重を置くのかを。
前者であるなら大口径の狙撃銃を、後者なら機動力を補う武装を持つべきだと。
基本的に他者には反発する彼女だったが、このままでは不味い事も自覚している彼女は狙撃を選択。
結果、ポジショニングに関しての動きを徹敵的に矯正される事となった。
やり方は簡単でお互いに地上を移動して先に相手を狙って当てれば勝ちと言った勝負形式。
ヨシナリは言った。 お前は攻撃よりも逃げる事を優先すると。
言外にだから負けるんだと言わんばかりの指摘に彼女は頭に血が上り、何度も挑んだのだが、そろそろ十連敗しそうだった。
「ポジショニング自体は問題ないので後は度胸です。 やられる前にやるぐらいの気持ちがあれば行けます」
ヨシナリは回数毎に色々と声をかけてくる。
「惜しい! でも、気持ちが前に出てきてますよ!」
「もう一息です。 一回でも成功させれば次回以降のハードルがかなり落ちます」
具体的なアドバイスの他にこんな事を言って励ましてくる。
――なんなのこいつ?
彼女には分からなかった。 どうでもいい赤の他人にここまで時間を割くなんてどうかしている。
明らかに面倒な上、実にもならない訓練にここまで真剣になるなんて何を考えているのだろうか?
対人経験の少ない彼女はヨシナリを気持ちがさっぱり分からなかったのだ。 ヨシナリは異性であるので猶更だった。 彼女が異性の感情や考えを推測する為の資料は愛読している少年漫画や少女漫画ぐらいの物だ。 その中からヨシナリの思考に近い物を掘り起こし照らし合わせる事で何とか想像を形にしようとして――
そこではっと気づく物があった。
――こ、こいつ、もしかして私に気があるんじゃ!?
當銘 華那子。
十八歳――高校中退。 将来の夢はプロゲーマー。
友達ゼロ。 そして恋愛経験もゼロだ。 だが思春期特有の勘違いが、ヨシナリの献身をそのように解釈させた。 見ず知らずの他人にここまで親身になるという事は気がある証拠。 ソースは少女漫画。
付け加えるなら彼女はどうでもいい相手にはここまでしないからだ。
つまりヨシナリは彼女の事をどうでもいいと思っておらず、気を引きたくてこんな事をしている。
そう結論付けると全てが繋がっていくのだ。
――そ、そっかー、ふーん。 そうなんだー?
全てを理解するとなんだかヨシナリの言う事を許せる気がしてきた。
もう少し真剣にやってみようかな? 私の方が年上っぽいし?
ここは余裕を見せつける場面じゃないかなー? いやー、困ったなー。
「段々良くなってきていますよ! もうちょっと頑張ってみましょう!」
そう励ますヨシナリを彼女は目を細めて見つめる。
――おいおい、よくよく見てみると中々にかわいい奴じゃないか……?
十八歳――高校中退。 将来の夢はプロゲーマー。
彼女は典型的なネット弁慶で、リアルでは非常に自己主張が弱いが電子の世界では非常に強気だった。
だが、中学生の頃、強気に振舞い続けた結果、周囲が敵だらけになり心がぽっきりと圧し折れる。
それによりネットでも強気になれず陰に潜むように生きていた。
ネットの世界では自分は無敵だと勘違いしていた彼女はそうでなかったと知りはしたが、自分らしく生きて行けると信じていたネットの世界から離れる事が出来なかったのだ。
だからと言って対人関係に対する恐怖心は拭いきれず、アバターで参加するタイプの授業にすら参加する事が出来ずに中退。
最終学歴は中卒となった。 一応は通信制度を利用して高校の卒業資格は取るつもりではいるので学歴は問題ない。 そんな事よりもゲームで生計を立てると言った彼女の夢を叶える為の行動をするべきだと考えていた。 心は折れたが、夢までは失っていなかったのだ。
その舞台として選んだのがこのICpw。
圧倒的なクオリティを誇る対戦型VRロボットアクションゲーム。
このゲームは金になるのか? そう聞かれれば彼女はイエスと即答する。
特殊通貨であるPは凄まじい額で換金できるので、安定して入手できる環境になればこのゲームが続く限り、生活は安泰だ。 相場は株のように変動するので正確な値段はその時になってみないと分からないが、徐々に上昇傾向にはあった。
今では1P、一万から一万五千クレジット。 緊急ミッションで得られるPが最低50。
緊急ミッションを受けるだけで結構な額の金銭が手に入るのだ。
このゲームの登録者が激増する理由の一つでもある。 心配そうに見つめてくる両親を安心させる為にも最低でも定期的にPが貰えるCランク以上の地位を維持できるなら金が手に入るのだ。
幸いにもこの手のゲームの心得はあったので、充分にやれると判断していた。
いざ始めてみると最初は割と上手く行っていたのだ。 彼女のステルスを見破れる相手はそういなかったので、大半の試合は一方的な展開で終わる。 上手く行き過ぎたと思わなくなかったが、このままBランクまで駆け上がってやる。 そんな彼女の思惑はFランクに上がった辺りで陰りが見え始めた。
これまでの戦い方が通用しなくなってきたのだ。 それでもギリギリで勝てはしていた。
だが、Eランクに上がった事で打ち止めとなった。 どんどん落ちていく勝率。
通用しない戦い方。 彼女は焦っていた。 上を目指す強さが欲しい。
そして手っ取り早く強くなるにはいい装備を揃える事が近道だ。
このゲームで資金を稼ぎたいのならイベント戦で好成績を残せばいい。
だが、ユニオン対抗戦は参加制限がある。 その為、報酬を得たいなら数の少ない弱小に一時的に所属する必要があった 大手であるならそもそも枠に入れてすら貰えないので、構成人数の少ない場所を狙うのは当然の流れだった。 元々、いくつかのユニオンに所属していたが、折り合いが付かずに脱退していた事もあって傭兵のように一時的に所属できればいい。 そんな考えで彼女は間借り先を探していたのだ。
ユニオン『星座盤』は彼女の条件を完璧に満たす場所だった。
Fランク二人、Eランク一人の超が付く弱小。 格下が多いという事もあって舐めていた彼女は模擬戦で実力を見せつけようとしたのだが、結果は全敗という惨憺たる有様だった。
格下に二連敗した事は少なからずショックだった事もあってこうして再挑戦したのだが、リーダーのヨシナリ相手には全く歯が立たない。 そもそもEでキマイラを使うなんてどんなイカサマを使ったのだとすら思っているが、いくら逃げてもあっさりと発見して撃ち抜いてくるので技量面では遥かに上を行っていると理解せざるを得なかった。 確かに自分は格下なのは認める。
それを自覚しているのかヨシナリは大胆に踏み込んで来た。
――あろう事か、言いたい事はしっかりと口にしろと上から目線で言い出したのだ。
屈辱感でいっぱいだったが、彼に歯が立たないのも事実。
彼女は自身のプライドと実利を天秤にかけ、彼に教えを受ける事になったのだが――
「ほら、また逃げる。 そこで逃げるから追撃を喰らうんですよ」
回避に入った所をあっさりと撃ち抜かれる。
ヨシナリは彼女に選択を強いた。 狙撃か暗殺、どちらに比重を置くのかを。
前者であるなら大口径の狙撃銃を、後者なら機動力を補う武装を持つべきだと。
基本的に他者には反発する彼女だったが、このままでは不味い事も自覚している彼女は狙撃を選択。
結果、ポジショニングに関しての動きを徹敵的に矯正される事となった。
やり方は簡単でお互いに地上を移動して先に相手を狙って当てれば勝ちと言った勝負形式。
ヨシナリは言った。 お前は攻撃よりも逃げる事を優先すると。
言外にだから負けるんだと言わんばかりの指摘に彼女は頭に血が上り、何度も挑んだのだが、そろそろ十連敗しそうだった。
「ポジショニング自体は問題ないので後は度胸です。 やられる前にやるぐらいの気持ちがあれば行けます」
ヨシナリは回数毎に色々と声をかけてくる。
「惜しい! でも、気持ちが前に出てきてますよ!」
「もう一息です。 一回でも成功させれば次回以降のハードルがかなり落ちます」
具体的なアドバイスの他にこんな事を言って励ましてくる。
――なんなのこいつ?
彼女には分からなかった。 どうでもいい赤の他人にここまで時間を割くなんてどうかしている。
明らかに面倒な上、実にもならない訓練にここまで真剣になるなんて何を考えているのだろうか?
対人経験の少ない彼女はヨシナリを気持ちがさっぱり分からなかったのだ。 ヨシナリは異性であるので猶更だった。 彼女が異性の感情や考えを推測する為の資料は愛読している少年漫画や少女漫画ぐらいの物だ。 その中からヨシナリの思考に近い物を掘り起こし照らし合わせる事で何とか想像を形にしようとして――
そこではっと気づく物があった。
――こ、こいつ、もしかして私に気があるんじゃ!?
當銘 華那子。
十八歳――高校中退。 将来の夢はプロゲーマー。
友達ゼロ。 そして恋愛経験もゼロだ。 だが思春期特有の勘違いが、ヨシナリの献身をそのように解釈させた。 見ず知らずの他人にここまで親身になるという事は気がある証拠。 ソースは少女漫画。
付け加えるなら彼女はどうでもいい相手にはここまでしないからだ。
つまりヨシナリは彼女の事をどうでもいいと思っておらず、気を引きたくてこんな事をしている。
そう結論付けると全てが繋がっていくのだ。
――そ、そっかー、ふーん。 そうなんだー?
全てを理解するとなんだかヨシナリの言う事を許せる気がしてきた。
もう少し真剣にやってみようかな? 私の方が年上っぽいし?
ここは余裕を見せつける場面じゃないかなー? いやー、困ったなー。
「段々良くなってきていますよ! もうちょっと頑張ってみましょう!」
そう励ますヨシナリを彼女は目を細めて見つめる。
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