上 下
237 / 411

第237話

しおりを挟む
 放たれたのは赤い光のような何か。
 範囲は機体を中心にドーム状。 範囲は――六十から七十メートル。
 連中が距離を取る訳だと納得しつつ、ヨシナリはシックスセンスから得た情報から今の攻撃の正体を分析。 恐らくは熱波のような物を短時間放射して敵機を焼く代物なのだろう。

 逃げ切れなかった機体を見る。 機体へのダメージ自体はそこまでではないが、内部に許容量を遥かに超える熱が溜まり、強制冷却の為に行動不能になっていた。
 要はオーバーヒートを起こしているので排熱が完了するまで動けないのだ。

 ――厄介な。
 
 敵機はまともに動けなくなった機体を狙って自前の武器を連射。
 ガトリング砲が味方のエンジェルタイプを粉々にし、エネルギー砲がキマイラタイプやソルジャータイプを消し飛ばす。 当然ながら「豹変」のメンバーも黙って見ている訳もなく、即座に反撃に転じる。

 敵機はフィールドを展開せずに後退したが、鈍重な動きで逃げ切れる訳もなく無数の銃弾やエネルギー弾が標的を捉える。
 ――が、展開されたフィールドに阻まれて届かない。
 そこから先はさっきと同じ展開だ。 相手の防御を貫けずにひたすらの削り合い。
 
 ――なるほど。

 「今の攻撃で何かわかったか?」
 
 近寄って来るポンポンに頷きで答える。

 「取り敢えず今の攻撃の正体は機体内部に溜め込んだ熱を放出して敵機の機体温度を急上昇させる代物みたいです。 まともに喰らうと強制冷却させられるので身動きが取れなくなりますね」

 トルーパーには安全装置が付いているので内部機構が破損するような挙動は取れないようになっている。 その為、強制冷却が始まると身動きが取れなくなるのだ。
 敵機の攻撃はそれを利用した物なのだろう。 トルーパーという存在の欠陥を突くような攻撃手段はなるほどと思わせる。 ただ、無敵かと聞かれるとそうでもない。

 「厄介だナ。 熱を吐き出すって事は排熱を兼ねてるのか?」
 「はい、それで間違いないと思います」
 「うーん、どうしたものか……」
 「そうでもないですよ」 

 ポンポンは小さく唸るがヨシナリは突破口があると口にする。

 「本当か?」
 「えぇ、初見だと割とヤバい代物ですが、こちとら最高級のセンサーシステムでばっちり見ましたからね。 弱点っぽいのも見えましたよ」
 「流石だナ! 覗きに関してはお前の右に出る奴はいねーナ!」
 「言い方」

 実際、弱点らしきものを二つも見つけたので派手な分、脇が甘い機体ではあると思った。
 
 「で? どうするんだ?」
 「一人じゃ厳しいんで何人か借りられません?」
 「いいぞ。 ここはお前が仕切れ」

 即答。 ヨシナリはポンポンの返答に少しだけ驚いたが、ややあって小さく笑う。

 「了解。 後悔はさせませんよ!」

 ヨシナリの指揮の下、戦場の動きが僅かに変化した。

 
 
 ――動きが変わった。

 ヨシナリ達の動きの変化を敏感に察知したアメリカのAランカー『アンドリュー』は自身の愛機である『フォーマルハウト』を操作し、攻撃を継続しつつ抜かりなく警戒する。
 超が付くこの重量系の機体を手足のように操る彼ではあったが、攻撃手段が面制圧に偏っているので命中精度自体はお世辞にも高くはない。 そんな彼の戦い方は『耐えて勝つ』だ。

 敵の攻撃を耐えて耐えて耐え抜き。 相手が力尽きた時にとどめの一発を喰らわせる。
 持久力と忍耐力には自信がある彼ならではの戦い方といえた。
 ジェネレーターの出力を確認しながらエネルギーフィールドを維持しつつ、攻撃を繰り返す。

 先述の通り、彼の戦い方は耐える事を主眼に置いている事もあって、攻撃をばら撒きこそするがそこまで本気で当てる気はなかった。 本命は彼の機体に搭載された切り札にある。
 特殊排熱ジェネレーター『ファム・アル・フート』ヨシナリは兵器と認識していたが、実際はジェネレーター兼冷却装置だ。 フォーマルハウトの燃費の悪さを補いつつ、機体内部の熱を吸収する役割を担っている。 そして溜め込んだ熱を攻撃に変換し、敵機の動きを封じるのだ。

 敵の攻撃をひたすらに耐えて溜め込んだ熱をファム・アル・フートで放出。
 敵機の動きを封じてとどめを刺す。 それがAランクプレイヤーアンドリューの戦い方。
 単純故に穴が少なく、単純故に突破が難しい。 だがらと言って弱点がない訳ではない。

 まずは排熱の瞬間。 
 排熱中はエネルギーフィールドの展開ができないので防御力が大きく低下する。
 彼が負ける時は大抵この瞬間を狙われて沈む。 当然ながら自分の弱点をよく理解しているアンドリューは対策を講じている。 フォーマルハウトには極限まで耐弾性能を上げた分厚い複合装甲に表面には対エネルギー兵器用のコーティング剤(最高級)を惜しみなく使用しているのでトルーパーの携行武器程度では早々貫通しないと自負していた。

 それでも何度も同じ個所に喰らえば危険ではあるが彼にとって戦いは我慢比べなので、勝ちに焦る相手がそこまで彼を追い込む事はないと確信している。
 今回も敵の数が多いだけでやる事は何ら変わらない。 熱を溜めて吐き出し、動けなくなった敵を仕留める。 だからと言って何も考えていない訳ではないが。

 弾丸をばら撒きながら敵機の動きを観察する。 最初は機動力の差を活かして死角から散発的に攻撃して削る事を目的としていたが、今は一点を狙って火力を集中している。
 明らかにフィールドの突破を狙っていたが無駄な事だ。 確かに喰らいすぎるとジェネレーターの出力を超過して貫通はされる。 しかし、その瞬間には排熱に必要なエネルギーが溜まっているので熱波でそのまま焼き尽くす。 

 ピンポイントで高火力を叩きこみたいと思っているのかもしれないが、フォーマルハウトは伊達に重量系の機体ではない。 ファム・アル・フートと通常のジェネレーター、大型コンデンサーによってスタミナはジェネシスフレームの中でもトップクラス。 そう簡単に突破できる代物ではない。

 突破できるとしたら実体弾だが、複合装甲を貫ける銃はそう多くない。
 仮に条件を満たしていたとしても一発では無理。 少なくとも数発は必要だ。
 つまり、フィールドの突破すらできない連中にこの鉄壁の守りを破る事は不可能。

 ステータスを確認すると排熱に必要なエネルギーが溜まった。
 敵を引き付けて――解放。 アンドリューにとって我慢が実るこの瞬間は爽快感もあって好きだった。 熱波が敵に襲い掛か――

 「what?」

 自身の機体に起こった出来事が信じられずに思わずそう呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

私の召喚獣が、どう考えてもファンタジーじゃないんですけど? 〜もふもふ? いいえ……カッチカチです!〜

空クジラ
SF
 愛犬の死をキッカケに、最新VRMMOをはじめた女子高生 犬飼 鈴 (いぬかい すず)は、ゲーム内でも最弱お荷物と名高い不遇職『召喚士』を選んでしまった。  右も左も分からぬまま、始まるチュートリアル……だが戦いの最中、召喚スキルを使った鈴に奇跡が起こる。  ご主人様のピンチに、死んだはずの愛犬コタロウが召喚されたのだ! 「この声? まさかコタロウ! ……なの?」 「ワン」  召喚された愛犬は、明らかにファンタジーをぶっちぎる姿に変わり果てていた。  これはどこからどう見ても犬ではないが、ご主人様を守るために転生した犬(?)と、お荷物職業とバカにされながらも、いつの間にか世界を救っていた主人公との、愛と笑いとツッコミの……ほのぼの物語である。  注意:この物語にモフモフ要素はありません。カッチカチ要素満載です! 口に物を入れながらお読みにならないよう、ご注意ください。  この小説は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています。

処理中です...