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第219話

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 ふわわの刃は僅かだが届かず、逆にヨシナリの銃弾はコックピット部分を正確に撃ち抜き機体の息の根を止めていた。
 差はほとんどなく、勢いを失ったふわわの刃はホロスコープの胴体に触れはしたが刺さる事はなく、機体側からの制御を失った事により、刃が形状を失って弾ける。
 
 ――試合終了。

 二人はアバター状態に戻り、ユニオンホームへと戻る。
 いつも通りのふわわと明らかに消耗しているヨシナリ。 マルメルはその姿を見てどっちが勝ったんだよと少し思ったが、見ていた側としては凄まじい潰し合いだったと体を震わせる。

 前回もそうだったが、ヨシナリとふわわ。 
 仲は悪くなく、寧ろいいとさえ言えるのだがいざ戦うとなるとお互いを全力で殺しに行っている。
 その温度差に不思議な物を感じてはいたが、良好である以上は問題はないはずだ。

 「お疲れ。 練習試合とは思えない熱い勝負だったな」

 正直、見ていたマルメルは二人の動きが全く理解できなかった。
 精々がお互いがお互いの動きを高いレベルで読み合っていた程度だ。
 
 「いやー、やられちゃったわー。 強くなったねヨシナリ君」
 「はは、そりゃどうも。 でも、これは機体と装備の性能差があったからなんで、ソルジャータイプのままだったら確実に俺が負けてましたよ」
 「そう? ま、今回はやられたけど次はウチが勝つから覚悟しといてな?」
 「それはどうですかね? 一先ず、今日は疲れたんでちょっと落ちます。 お疲れです」
 「ほい、お疲れー」

 ヨシナリはふらふらした状態でログアウト。 アバターが消失する。
 少しの沈黙があったが、ややあってマルメルが何か喋らなきゃと思い口を開く。

 「やられちまいましたね」
 「だねー。 性能差だって言ってたけどヨシナリ君、今回もかなり仕上げてきてた」
 
 ふわわの言う通りだった。 戦闘時、ヨシナリの動きの精度は以前とは比べ物にならない。
 攻撃、反応――特にふわわを後退させた事実は何度も対戦しているマルメルからすれば少し信じがたいものだった。 前回のイベントからそう時間が経っていないにもかかわらずキマイラタイプのフレームを手に入れているのも驚きだったが、あの動きは一体なんだ?

 「多分だけどセンサー系、かなりいいの積んでるね」
 「そうなんですか?」
 「うん。 明らかにウチの動きが見えとった。 アレは感覚やなくて、普通に視えてる感じやったから間違いないと思う」

 マルメルはリプレイ映像でヨシナリの機体を確認するが、頭部パーツはカメラアイが多いだけでそこまで上等なパーツに視えなかった。 恐らくは頭部に完全に収まるタイプなのだろうが、ふわわが言うのなら間違いないだろう。 

 「俺としてはこの段階でキマイラタイプに乗り換えるとは思いませんでしたよ」
 「そうやね。 多分、ここ最近とウチらがお休みしている間に頑張ったんやろうなぁ」

 それを言われるとマルメルとして何も言えない。 約一か月。
 親からログインを禁止言い渡された期間だ。 直近のユニオン対抗イベントは勿論、その後にヨシナリが遭遇したであろう出来事に一切関われなかった。 これがその差だというのだろうか?

 前回のイベントでは機体が変わっていなかった事を考えるとフレームを購入する為に相当の苦労をした事は分かる。 ヨシナリは成果に見合った努力を積んだ結果、あの強さを手に入れた。
 理解も納得もしている。 だが、何故だろうか――

 「ちょっと――いや、かなり置いてかれた気分っすね」
 「だったらマルメル君も頑張らないとねー。 ウチも反省点がぎょうさんあるし、ちょっと練習に付きおうてよ」
 「はは、あの後だってのに元気っすね」
 「寧ろやる気が出てきちゃったよー」

 マルメルは苦笑して了解と頷くとふわわと練習用のフィールドへと移動した。


 ログアウト。 ヨシナリから嘉成へ。
 疲れた。 とにかく疲れた。 ふらふらとベッドに倒れ込む。
 ふわわとの戦闘は非常に神経が磨り減るので、終わった後にどっと疲労感が襲ってくる。

 枕に顔を埋めてしばらくの間、そうしていたがややあって体を震わせた。
 勝った。 あのふわわをついに倒した。 そう素直に喜べるかと思ったが、嘉成の胸中に渦巻くのは怒りだった。 

 「――何だあのクソみたいなプレイは? 性能に酔いすぎだ。 クソ、クソ――」

 強烈な自己嫌悪。 キマイラタイプとシックスセンスの性能に頼り切った雑な戦い方。
 勝てたのは単純に性能差だけだ。 しかもその性能差があったにもかかわらずギリギリの辛勝。
 性能差がなかったら確実に負けていた内容だった。 これでどう喜べというのだ。

 「あぁ、畜生。 勝った気がしねぇ……」

 前回は油断――というよりは焦りによる判断ミス。
 今回は機体性能と装備に酔った結果、つまり自身の慢心の結果だ。
 思い返せば返す程、反省点の多い戦いだった。 シックスセンスで観測するエネルギーの分布から次の挙動を予測するといった戦い方はふわわが相手であっても上手く機能していたので、彼女に通用するのであれば同ランク帯の相手であるならまず効果がある。 

 だが、嘉成自身の問題はその先読みできる事に胡坐をかいた事だ。
 相手にアクションを起こさせた上で潰すのは確かに有効だが、何をしても無駄と見せつけて自分が上だと誇示する意味合いもあるので傲慢さが鼻につく。 動きを潰す事に固執しすぎの思い出して自分で吐き気がするプレイだ。

 逆にやられたら徹底的に調べ上げてそいつをボコボコにするだろう。 
 相手の行動を潰すなら起点、その考え方に間違いはない。 折角、視えるのだから相手の動き自体を潰して選択肢を奪い、判断力を落とす事こそあの戦い方の真髄。 何をやっても対応されるのではといった疑念は相手を縛る大きな楔となるだろう。 

 その辺りを考えられなかったから腕に仕込んだグルーガンに対応できなかった。
 正直、完全に意表を突かれた形だ。 何か仕込んでいるのは分かっていた。
 当初の読みでは予備のブレードを格納しているか大型のニードルガンの発射機構、短射程の散弾銃のどれかだろうと思っていたのだが、完全に想定外だ。

 だが、グルーガンというのは選択肢としては面白い。
 軽く調べると正式名称は「グルーキャノン」機体内部に充填されているグルーを飛ばす装備なのだが、発射の際にノズル部分を操作する事で塊を飛ばすかホースのように吐き出すかを選択できる。

 つまり多少離れていても扱える点にある。 
 今回は目つぶしと拘束に使用されたが、やり方次第ではいくらでも応用できる便利な代物だった。
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